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ネコ科シリーズ

にゃん子先生のにゃいすセーブ =俺はこうやって『ざまあ』を被りました=

作者: ゅべ

 貴方はこれをフィクションだと思いますか?

 某県内にある最大級のスポーツグラウンド、今日はここでサッカーのインターハイ県予選決勝が開催されていた。


 俺は県立所属のサッカー選手で全国の舞台を夢見て直向きに走ってきた高校三年生。


 今日負けたら県立勢にとっての悲願が遠のく。相手は全国でも名の通った同県で絶対王者と呼ばれる満金私立。



 絶対に負けられねえ……。



 県立は勉学を両立したいと考えた生徒が集まる傾向があった。だから毎年私立への推薦が得られなかった選手ばかりが入部してくる。


 言ってみればそこそこにサッカーが上手い選手が集まってくる。だから毎年県予選でもベスト8は望めるがそれ以上は全て私立の独壇場。




 それでも今年は運が良かった。




 俺を含めて全てのポジションのレギュラーが私立と渡り合えるだけの実力者が揃った。本当に運が良い。俺は仲間に恵まれた、皆んな良い奴で俺はこの仲間と絶対に全国へ行くと誓い合った。




 試合は2−1、勿論……、そんな負け犬根性ではダメか。俺たち県立が1点ビハインドを負う展開。既に後半40分が過ぎようとしていた。



 それでもチームメイトは諦めない、王者に攻め込まれる俺たちは必死になって守備の陣形を維持していた。そしてやっと勝利の女神が俺たち県立に微笑んでくれた。



 ディフェンスのボールカット、俺の最大の親友である左サイドバックが威勢良く敵からボールをカットしたのだ。



 俺たちは一瞬の視線で会話を終えた。



『反撃だ!!』



 親友が逆サイドに展開していた中盤の俺へ向かって大きくボールを振ってきた。俺はこのチームの心臓、右サイドの中盤からセンタリングや切り込みなどで突破を図る攻撃の土台。



 俺は威勢良く親友からボールと檄を受けて丁寧にボールを受け取った。



「いっけえ!! まずは同点、一気に逆転を狙うぞ!!」

「任せとけよ!!」



 私立は俺をどう見ていたいのか分からない。だが今回に限ってはどう言うわけか私立は俺から距離を取ってきた。俺のドリブルを警戒して距離を置いたのか、それとも単純に自信があったのか。



 はたまたは延長戦狙いか?



 俺たち県立はレギュラーこそ私立と渡り合えるが、リサーブは実力がガクンと落ちる。だからレギュラーはフル試合フル稼働で疲弊した状態で決勝に臨んだ。



 対する私立は選手層が厚い。



 この野郎、県立をバカにするんじゃねえよ!!


 俺はそんな無意味な敵意を胸に抱いて足をテイクバックした。俺の決断がセンタリングと判断したのか、私立の守備陣は咄嗟に動いて俺たちのフォワード連中に張り付く動きを見せる。



 言い様だ、俺は内心でほくそ笑んだ。



 それは俺が決勝の舞台で私立に泡を吹かせてやろうとずっと温めてきた策があったから。この予選で俺が披露してきた得点パターンはずっとドリブル突破からのゴールキーパーとの一対一。


 私立に俺がずっと磨いてきたミドルシュートは知られていない。寧ろ守備陣形を開いてくれて有難いと思うくらいだ。



 俺は足を振り抜いてボールを強く蹴った。インパクトの瞬間、実感できた。




 コレは絶対に決まる。



 俺だけじゃない、全チームメイトも監督も、応援してくれる父兄も学校の同級生も同じ言葉を叫んでくれた。




「「「「「いっけええええええええええ!!」」」」」




 俺は密かに小さくガッツポーズをして同点ゴールを喜んだ、まだゴールが決まっていないのに不用意に喜んでしまった。


 だからかも知れない、そんな風に不用意に喜んだから一度は微笑んでくれた女神が俺を見捨てたのかもだろうか?


 そんな場面で思いもよらぬ出来事が起こる




「にゃおーん」




 なんとピッチの中に野良猫が入り込んでしまったのだ。そして猫は俺の渾身のミドルシュートをその身を犠牲にしてブロックしてしまったのだ。



「にゃギア!?」



 猫は鳴き声だったのか、悲鳴だったのか。なんとも言い難い声を上げてピッチに倒れ込んで行った。俺の蹴ったボールを抱き抱えるようにガックリと項垂れピッチに突っ伏した。



 俺は愕然とするも、それでもまだ諦めない。俺は咄嗟にフォワード陣に大声で声をかけていた。



「こぼれ球を押し込め、それで同点だ!!」

「「おお!!」」



 威勢の声で俺に呼応してくれたフォワードたちが一気にボールに詰め寄って行った。俺の思い過ごしだった、女神はまだ俺に微笑んでくれている。


 私立のディフェンスよりも一瞬だけ早く右フォワードがボールに追いついて足をテイクバックした。このシュートで同点だ!! 俺は再び歓喜に震えた。



 そんな時だった。



 右フォワードの足がピクリと止まる。そして困ったような表情を浮かばせてどうすれば良いんだ? と言わんばかりにピクリとも動かなくなってしまった。


 それは右フォワードの周囲にいたゴールキーパーやディフェンスも同様で、どう言うわけかピッチ内にレフェリーの笛が鳴り響き。




 何があった?




 俺はそれが知りたくて右フォワードに全速力で走り寄って行った。そして俺は近くに行ってレフェリーが試合を止めた理由を目の当たりにする。




 なんとにゃん子先生がボールを抱え込んでるからフォワードはボールを蹴るに蹴れなかったのだ。俺は憤慨して右フォワードに詰め寄っていた。



「おい!! 振り上げた足を止めんなよ、俺たちは全国を目指してんだぞ!?」

「なんだと!? 俺はなー、猫好きなんだよ!! それくらいてめえだって知ってんだろうが!!」

「知ってるよ、それくらい!! だから昨日死んだお前んちの猫ために点を取るって決めたよなあ!?」

「っ!! テメエ……、クッソおおおおおおお!!」



 ピッチ内が騒然とする。レフェリーも俺たちを止めに入って困ったように慌て出す。


 俺と右フォワードはチームメイトによって制止されて、それでも互いに威嚇しあった。だが、コレは演技だった。


 今日だって朝にコイツの家に寄ってにゃん子と戯れました。


 俺と右フォワードは幼馴染、小学校からの腐れ縁で思考パターンはほぼ一緒。互いに何がやりたいかなど口にしなくとも分かっている。



 俺たちは内心でほくそ笑んだ。俺たちはカードが提示されないギリギリの喧嘩をして私立を煽り、レフェリーの同情を誘った。



 そして次の瞬間、私立のディフェンスが不用意な呟きをする。そしてその瞬間、ピッチに笛が鳴り響いていった。


「なんだよ、猫くらいで喧嘩してさ。猫のために点を取る? バカみてえ、猫が顔面ブロックするとかちょーウケるんですけど」



 ピピーーーーーーーーーー!!



「はあ!? なんで俺がレッドカードなんだよ!!」


 このタイミングを逃す手はない、俺と右フォワードは知ってたんだよ。このレフェリーは猫好きだ!! さっきレフェリーが汗を拭くときに猫がらのハンカチを使っていたのをしっかりと目撃してたんだよ!!



 そんなレフェリーの前で猫の暴言なんて愚の骨頂、俺と右フォワードはニヤリと誰も見ていないところで笑い合った。



 レフェリーとレッドカードを提示された私立の選手が喧嘩を始めた、それを見て俺たちは更に笑いが止まらなくなる。もう一枚くらいレッドカードが提示されるかもな?


 そう悪い考えで悶々としていた俺たちだったが、そんな時だからだろうか?


 応援席には当然ながら家族も駆けつけてくれている。それは右フォワードも同様でコイツなんて家族総出で駆けつけていた。



 それがマズかった。



 『家族総出』だから、右フォワードの家は猫も家族としてカウントする一家だった。


 今度はあの鳴き声がピッチの外から響いてくる、俺たちの耳に届く。




「にゃおーん」

「お兄ちゃーん!! 頑張ってーーーーーーーー、私もシュレディンガーも応援してるよーーーーーー!!」




 シュレディンガー、右フォワードが命名した飼い猫の名前だ。


 俺と右フォワードは汗が止まらなくなっていた、それはそうだ。レフェリーたちが俺たちにジーッと視線を送ってくるのだから。


 右フォワードの妹の声に反応して俺たちの演技が嘘だと知ってしまったのだ。




 やっべ、完全にやらかした。




 この後、俺たちは二人ともイエローカードを提示されてしまい、前半で他にもイエローカードを提示されていた右フォワードは累計警告で退場処分となってしまったのだ。


 そして試合はサラッと開始されることとなり、結局負けました。



 やはりスポーツと言うものは真摯に向き合ってナンボだったようです。今度からは小細工なんてしないでひたすらに頑張りました。




 さーせん、にゃおーん。

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― 新着の感想 ―
[一言] 事実は小説より奇なりと申しまして。 これをフィクションとは思えませんで。 にゃんこをダシにしなければ勝っていたかもしれないとすると、泣くに泣けませんね。
[一言] お猫様の闖入は、ドラマを生むのです。 それがスポーツの場であれば、なおさら。
[良い点] シュレディンガーは……拙いっすねぇ……この場合……(^-^; [一言] タイミングって、ありますよね。なんか、どう論じたらいいんだろ……(^-^;
2021/11/03 14:44 退会済み
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