表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

アーカイブ作品

我思うゆえ萌あり

作者: 山本大介

 ほぼ、同時期にこんなん書いてました。

 

 ボクの名前は田中龍三、周りの皆からは萌龍(もえりゅう)と呼ばれている。

 何故って、それはボクが萌えに突出して生きる男だからなのだろう。

 そう、二次元の漫画アニメにすべてを捧げている。

 一口にヲタとかアニヲタとくくられるのは本意ではない。

 だって、そうだろう。

 萌を重んじるボクには、譲れない思いとプライドがある。

 止まらない夢を信じている。

 なんだか、そんな歌を聞いたことある?

 じゃ、君もボクの仲間かも知れないな。


 萌龍たる所以、絶対領域と呼べる萌の世界では、ボクはチート級の力を誇る。

 言わばムテ〇ングだ・・・古い?そうか・・・そうだな。

 現実の三次元は、声優様に限っては大丈夫だ。

 萌キャラに命を吹き込む声優様は神だと思う。

 

 でも、最近の作品は、アニメ、エロゲーにしかり、萌が画一化されて、冒険していないように感じる。

 それともボクが求めるハードルが高すぎるのか、もしくはボクが萌えの高みへと到達してしまったのか・・・いや、萌道はそんなに甘いものではない。

 ボクは己の慢心を消し去る為、激しく首を振った。


 ・・・しかし、だ。

 現状、ボクが満足させる萌作品が出て来ないなら自分で作るしかない。

 ボクは友人の萌えの絵描かせたら、最高に上手い萌春(もえしゅん)こと、鈴木春樹とコンビを組んで萌界に革命を起こそうと考えた。

 そう、ボクの原作と萌春の作画で、マンネリ化した萌世界に風穴を開けるのだ。


 萌えはキャラが命。

 まず妹、14歳、低身長、童顔(ロリカワユス)、髪はロングで色はピンク。瞳はくりっと笑顔は最高にきゃわいいのだ。

 それに特殊な喋り方「おにいたま」「ですわ」「ですう」「てへっ」等々。

 

 ・・・・・・。


 ボクは主人公のキャラをそうイメージしている段階で手が止まった。

(これって・・・ありがち)

 斜線をひいて、断腸の思いでこの設定は消した。

 そして、真逆に書いてみる。

 姉、15歳、長身長、ヤンギャル、髪の毛はショートでオレンジ色、瞳は細く、常にしかめっ面、彼女が笑うと周りの人間が凍りつく。

 姉御口調で「お前」「でよう」「けっ」「ダセえ」等々。


「ぶへっ!だめだこりゃ!」

 ボクは即座に消した。

 ありえない。

 なんてものを書こうとしているのだ。

 こんなキャラは萌えに絶対あってはいけない。

 いたとしても、サブキャラか、敵キャラだろう。

 ボクは何を血迷ってしまったのだろう。

 ボクは萌に対して許し難い冒涜を犯してしまった。

 耐えがたい虚無感が襲う。

 もう、出来ない・・・ボク・・・出来ないよ。

 萌えを創造するという崇高な責務は、ボクごときがやってはいけなかったんだ。

 そう悟ってしまってから、ピタリ、ボクのペンの動きが止まってしまった。


 だけど、だけど諦めたくない。

 (萌龍よ、お前の萌魂はそんなものなのか!)

 しかし、主人公のキャラに打つ手が無くなってしまった。

 より、自分の思う最高の萌キャラを作るには、定番という王道を避けては通れないのだ。

 ボクは腕組みをしながら瞑想し萌えを思う。

 我思うゆえに萌ありだっ!

 そして、ボクは一つの結論へと至った。


 そうだったのか、萌えの先達たちは、そのことをあえて知ったうえで、その萌えの黄金比率を守っていたのか。

 血の滲むような、熱い思いと血と涙の結晶により生まれた萌え。

 ボクは今更ながらに、その奥深さに感じ入り、雷に打たれたような衝撃をうけた。

 そして自分の思慮の浅はかさに憤りを覚えた。

「このひょっこが!」

 思わずボクはボク自身に叫んだ。


 萌えの頂きは遙か遠い。

 今までは手に届きそうな所にあったかのように思えたのだが、そうではなかった。

 萌えはボクの考えをはるかに凌駕していた。

 ボクはひとりで勘違いし、勝手に至高の極みにいたと思っていたのだ。


 ボクはそっと携帯を取り出し、萌春へ電話する。

「萌春、もうボクは書けないよ」

「どうした?萌龍」

「萌えの本当の凄さを知ってしまったんだ」

「・・・お前なら出来るよ」

「気休めはよしてくれ」

「お前の決意は・・・逃げるのか」

 ずしりと重い萌春の一言。

 だが、ボクは知ってしまったんだ。

「見ちまったんだよ。萌えの真実を」

「お前・・・」

「いや、だけど逃げない。ボクはいち鑑賞者となって、これからも萌えを見守る・・・」

 ボクは涙をこらえ嗚咽混じりに話す。

「・・・・・・」

 萌春は言葉を失った。

 

 電話が終わった後、ボクは胸がしめつけられ、しばし呆然となった。

 ボクの萌えへの挑戦は呆気なく終わってしまった。

 壁に貼られた萌えキャラポスター「萌っ!魔法少女もえ♡」の萌えちゃんが心なしか、寂しそうに笑っているようだった。

                                   完



 脱力っ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おもしろかったですよ。はい。 これほどまでに萌えに対する熱い思いを持っていらっしゃったとは、ふむふむ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ