我思うゆえ萌あり
ほぼ、同時期にこんなん書いてました。
ボクの名前は田中龍三、周りの皆からは萌龍と呼ばれている。
何故って、それはボクが萌えに突出して生きる男だからなのだろう。
そう、二次元の漫画アニメにすべてを捧げている。
一口にヲタとかアニヲタとくくられるのは本意ではない。
だって、そうだろう。
萌を重んじるボクには、譲れない思いとプライドがある。
止まらない夢を信じている。
なんだか、そんな歌を聞いたことある?
じゃ、君もボクの仲間かも知れないな。
萌龍たる所以、絶対領域と呼べる萌の世界では、ボクはチート級の力を誇る。
言わばムテ〇ングだ・・・古い?そうか・・・そうだな。
現実の三次元は、声優様に限っては大丈夫だ。
萌キャラに命を吹き込む声優様は神だと思う。
でも、最近の作品は、アニメ、エロゲーにしかり、萌が画一化されて、冒険していないように感じる。
それともボクが求めるハードルが高すぎるのか、もしくはボクが萌えの高みへと到達してしまったのか・・・いや、萌道はそんなに甘いものではない。
ボクは己の慢心を消し去る為、激しく首を振った。
・・・しかし、だ。
現状、ボクが満足させる萌作品が出て来ないなら自分で作るしかない。
ボクは友人の萌えの絵描かせたら、最高に上手い萌春こと、鈴木春樹とコンビを組んで萌界に革命を起こそうと考えた。
そう、ボクの原作と萌春の作画で、マンネリ化した萌世界に風穴を開けるのだ。
萌えはキャラが命。
まず妹、14歳、低身長、童顔、髪はロングで色はピンク。瞳はくりっと笑顔は最高にきゃわいいのだ。
それに特殊な喋り方「おにいたま」「ですわ」「ですう」「てへっ」等々。
・・・・・・。
ボクは主人公のキャラをそうイメージしている段階で手が止まった。
(これって・・・ありがち)
斜線をひいて、断腸の思いでこの設定は消した。
そして、真逆に書いてみる。
姉、15歳、長身長、ヤンギャル、髪の毛はショートでオレンジ色、瞳は細く、常にしかめっ面、彼女が笑うと周りの人間が凍りつく。
姉御口調で「お前」「でよう」「けっ」「ダセえ」等々。
「ぶへっ!だめだこりゃ!」
ボクは即座に消した。
ありえない。
なんてものを書こうとしているのだ。
こんなキャラは萌えに絶対あってはいけない。
いたとしても、サブキャラか、敵キャラだろう。
ボクは何を血迷ってしまったのだろう。
ボクは萌に対して許し難い冒涜を犯してしまった。
耐えがたい虚無感が襲う。
もう、出来ない・・・ボク・・・出来ないよ。
萌えを創造するという崇高な責務は、ボクごときがやってはいけなかったんだ。
そう悟ってしまってから、ピタリ、ボクのペンの動きが止まってしまった。
だけど、だけど諦めたくない。
(萌龍よ、お前の萌魂はそんなものなのか!)
しかし、主人公のキャラに打つ手が無くなってしまった。
より、自分の思う最高の萌キャラを作るには、定番という王道を避けては通れないのだ。
ボクは腕組みをしながら瞑想し萌えを思う。
我思うゆえに萌ありだっ!
そして、ボクは一つの結論へと至った。
そうだったのか、萌えの先達たちは、そのことをあえて知ったうえで、その萌えの黄金比率を守っていたのか。
血の滲むような、熱い思いと血と涙の結晶により生まれた萌え。
ボクは今更ながらに、その奥深さに感じ入り、雷に打たれたような衝撃をうけた。
そして自分の思慮の浅はかさに憤りを覚えた。
「このひょっこが!」
思わずボクはボク自身に叫んだ。
萌えの頂きは遙か遠い。
今までは手に届きそうな所にあったかのように思えたのだが、そうではなかった。
萌えはボクの考えをはるかに凌駕していた。
ボクはひとりで勘違いし、勝手に至高の極みにいたと思っていたのだ。
ボクはそっと携帯を取り出し、萌春へ電話する。
「萌春、もうボクは書けないよ」
「どうした?萌龍」
「萌えの本当の凄さを知ってしまったんだ」
「・・・お前なら出来るよ」
「気休めはよしてくれ」
「お前の決意は・・・逃げるのか」
ずしりと重い萌春の一言。
だが、ボクは知ってしまったんだ。
「見ちまったんだよ。萌えの真実を」
「お前・・・」
「いや、だけど逃げない。ボクはいち鑑賞者となって、これからも萌えを見守る・・・」
ボクは涙をこらえ嗚咽混じりに話す。
「・・・・・・」
萌春は言葉を失った。
電話が終わった後、ボクは胸がしめつけられ、しばし呆然となった。
ボクの萌えへの挑戦は呆気なく終わってしまった。
壁に貼られた萌えキャラポスター「萌っ!魔法少女もえ♡」の萌えちゃんが心なしか、寂しそうに笑っているようだった。
完
脱力っ。