エンディング.3
そして…私は今、あの家の前に立っていた。「アリサ」の家だ。もう今は存在していない、ライル村の家だ。結界を解除して、家に入る。結界で封じていたから、汚れは無い。草も伸びていない。完全に時が止まっていたのだ。
私は、「お母さん」のお墓の前に立つ。侯爵に頼まれたのだ、もし出来るのならばお母さんのお墓をリュシター侯爵家の近くの墓地に移動させることは出来ないかと。私は、ずっと時を止めていたこの家の事を考えていた。時が止まっていたのなら、「お母さん」が亡くなってすぐにお墓を作って埋めたから、そしてずっと時を止めていたから、ひょっとしたらまだ…亡くなってすぐの姿をしているかもしれない。アリサにも…会わせてあげられるかもしれない。あの時、私の奥に閉じ込められてしまっていたアリサは自分の意志でお母さんに触れられなかった。
私はアイテムボックスから、用意してもらった棺を取り出す。気を付けながら土を掘り返す。すると、予想通り、まだ亡くなってすぐの姿の「お母さん」を掘り起こせた。その棺にそっと納め、風魔法と水魔法を使って出来るだけその姿を清めた。大急ぎで侯爵家に飛び、お父さんとアリサに「お母さん」を渡してきた。
お母さんのお墓を移動させることが出来たなら、あの家は私に差し上げると言ってくれた。家族「三人」で、ゆっくり別れを惜しんでほしい。私は余所者なのだから。
そしてそれから2か月が過ぎた頃、王城から招待状が届いた。
エドさんが王に即位するための式典が開かれ、そこに私とデニーが出席することになったのだ。
城で衣装を借りることになっていたのだが、衣装と共に何故か髪の色まで一時的に変えられてしまった。何でだろう?
「エドさん」
「あ、有紗殿。明るい茶色の髪も似合いますね」
紅茶を飲んでいたエドさんが立ち上がりそうになったので、私は引き留めた。
「そのまま座っててください!」
「え、どうして」
「紅茶こぼして衣装汚れたらどうするんですか!」
「…何も言えない」
私は、紅茶を遠くに下げてもらってから、エドさんにペンダントを渡した。金の竜がスタールビーを抱く、あのペンダントだ。
「…これは」
「お返しします。このペンダント。本当は大事なものなのでしょう?あの本のカギがこれでしたけど、あの本だけじゃないでしょう?これで開くの」
「ああ、まあそうだね」
「冒険者カードは抜いて他に移動させてますので、ペンダントは空です。お返ししますね」
「…ありがとう」
その後、式典に参加した私たち。冠をかぶったエドさんは、突然私を呼んだ。
「有紗殿、こちらへ」
「えっ」
エドさんは、雫型のダイヤモンドのヘッドの、プラチナのペンダントを運ばせてきた。
「これは?」
「…」
エドさんは参列者に向かうと言った。
「彼女は先代の国王からも認められたペンダントを携えた冒険者。また、魂の分割の秘法を解読した、偉大なる存在でもある」
「!」
驚いて声が出ない。
「また、彼女は、この国を脅かしていた竜を、竜の国に帰す方法で国を守った勇者でもある」
「…」
「よって…彼女をS級冒険者と認定すると共に、その多大なる功績を称え、聖女の雫の首飾りを授与し、彼女を大聖女として認めるものとする」
「!!!」
大聖女!?何それ!
「受けてくれるな、有紗殿」
「いえ、あの」
「別に大聖女になったからと言って何かしなければならない訳じゃない。国が君の生活を支援するために、何か役職があった方がいいだけだ」
「…う~ん」
「支援も受けたくなかったら断ってくれていいんだよ」
「分かりました」
きっと断ることなんて出来ない。だから受けるしかない。
王の前に跪くと、そっと首にペンダントが掛けられた。留め金がカチリとはまった瞬間、ぱあっと青い光が会場を満たした。
「まあ…」
「これは…」
会場がざわざわする。
「これは、神もまた、彼女を認めた証」
本当かな?と思ったら、微かな声が聞こえた気がした。
「有紗…僕の友達」
神ではないが、優しい竜には認められたようだ。
大聖女の称号を得たとしても、城から遠いフォルワンでは、詳しい噂は伝わっていない。髪の色を変えた理由は、「大聖女の髪は明るい茶色」と伝わっているので、黒髪の私とは結び付かせないためかなと思う。
エドさんや、侯爵、アリサ。髪の色を変えても私と分かる人にだけ分かればいい。
聖女の雫の首飾りはアイテムポーチの奥底に大事にしまい込んだ。普段の冒険者カードを入れているのは、デニーと一緒に選んだもっとシンプルなペンダントだ。そしてS級冒険者の称号は、「アリサ」のものにした。「川岸有紗」は、1級冒険者。それでいいのだ。だって「アリサ」として冒険していた時間のほうがずっと長いし、魂の分割を解読したのも「幼い少女アリサ」なのだから。
今更「アリサ」が冒険者をすることは無いだろう。だから、私はアリサの名前を借りている。もちろん本人と侯爵も了承済みだ。
その後、私とデニーはアリサの住んでいた家に住むこととなり、一緒に暮らして1年後に、結婚した。
結婚前も、結婚後も、私たちは「ストラーダ」の一員として元気に冒険者をしている。
たまにフォルワンの奥地に行って魔獣の肉や皮を狩っては高額な報酬を得たりしながら、基本はフォルワンの身近な採集や討伐をしながら暮らしている。
デニーとの穏やかな毎日を過ごすたびに、私は思う。
地球に、日本に、帰る気持ちが全く沸かないのだ、私は。
物にあふれ豊かな国でも、私の心は冷たかった。ひどく寂しかった。
だから、今は温かく居心地のいいこの世界で、私は生きていく。
この世界は日本より生きるのは厳しいかもしれない。
でも私の心は、あの世界で生きることは、もう出来なかったのだと。
見た目幼女(本当に見た目だけだったけど)の転生者は聖女の道をひた走って、大聖女の称号得たけれども、結局は聖女の称号なんて、もう私には不要だった。
完結しました。
アリサも有紗も、とにかく自分で動こうとしない娘たちで苦労しました。
実際、竜たちが自分の世界に帰ったら、ピタリと動かなくなってしまって…エンディングは「有紗とデニーが最初のアリサの家で静かに暮らす」が決まっていたのに、そこになかなか持って行けなくて。そしたらエドさんが「じゃあ自分が王様になる」と言ってくれたことで、やっと話が進みました。
長年お付き合いくださり、ありがとうございました!




