エンディング.1
「貴様…!」
王様が顔を真っ赤にして、私に詰め寄った。突然胸倉をつかまれると、頬を平手打ちにされた。
「!」
「有紗!」
「貴様、何故、私の息子を…ヴァルを消し去った!」
「え…」
ヴァル。ヴァティル。金の竜。守護竜と思われていた本当は破壊神の竜。兄を異常なまでに大切にするこの国の王子。
そう、王子だ。黒髪の双子の王子は攫われたから、長い事、この国の王子はヴァル一人だった。王様は黒髪のお妃さまを深く愛していて、側室もいないらしい。
と言う事は…。
「後継者が…」
「そうだ、次代の王が、貴様のせいで居なくなったんだ、どうしてくれる!」
「…それは…」
だったら、どうすれば良かったの?もう、アールヴァルは限界だった。これ以上、生きていたくないと泣くあの人を、他にどうすれば救えたのだ。泣くあの人を必死で何とかしようとするヴァティルを止める方法が、他にあったのか。そして何より、苦しむアールヴァルを、あの人が…ヴァティルが一人になんて、するはずがない。そして、人間をあれほど憎むヴァティルが、アールヴァルを連れて王子として国に戻る未来なんて、どうしたら存在したのか。
私には分からない。
「おやおや」
「え…」
振り向くとそこには先代黒龍が人間を核にして作った魔物…いや、魔物化した元人間、オリバーさんが居た。
「…あ、お前は…」
「お久しぶりですねえ、王様」
「黒髪の王子を連れ去った魔法使い!」
「ええ、まあ、そうですよ」
「あの子はどうした、どこに隠した!」
「どこに隠したも、さっき目の前に居たでしょうが。銀の髪の男の子、あの子がそうですが?」
「いいや、あの子は黒髪だった!黒髪でない私の息子はヴァルしかいない!」
何でこんなに話が通じないのだろうな。ひりひりする頬を押さえていたら、デニーがそっと肩を支えてくれた。
「大丈夫か?」
「ん、大丈夫…痛いけどね」
「人間相手にはレベルマックスでも効果無いんだな」
「う~ん、モンスター相手のレベルって感じっぽい」
「それよりも」
「…うん」
王様とオリバーさんの口論は続いていた。
「人間の髪の色が、あんなに変わるものか!」
「見ていたでしょうが。あの二人は純粋な人間じゃない、竜ですよ」
「嘘だ、あれはお前が見せた魔法か何かだろう魔法使い!」
全く話がかみ合わない。王様はとにかく現実を認めない。
「ああもう、これだから王族は。昔から人の話なんて聞きやしない。自分の認めたいものしか認めない」
オリバーさんは手にしていた棒を一振りする。王様の周りにとても小さい結界が出現した。王様は結界を叩いて喚いているが、結界から出る事は出来ないようだ。
「ああ、やっぱり、こんなただの棒じゃあ結界小さいな」
「杖のランクで結界の結果とか変わるんです?」
「変わるよ。効率の問題でね」
「は~。何となくわかるような」
「そんな事はどうでもいい、儂を出さないか!」
王様が喚いている。私にはどうにも出来ないし、オリバーさんがどうするやら。
「王様。私は、黒龍…あなたの言う黒髪の王子の正体であるアールヴァルの側近でした。歴代の黒龍が、どのような運命を辿ったか、ご存じで?」
「…?」
ああ、歴代の黒龍は迫害されて、牢屋に閉じ込められて、傷つききったところで魔物が迎えに来る事になっていたね。
「儂は知らない」
「そうですか」
この王様は、そう言えば先代の王から王座を簒奪したんだったかな?だいたい黒龍が生まれ変わるくらいのタイミングで王座の争奪がかかるって言われてた気がする。
だから、先代の事なんて、知らないか。
「ねえ王様。あなたは前の王様から王座を奪ったんですよね」
「それがどうした魔法使い」
「なら、自分の身に同じ事が起きたって不思議はないでしょう?」
「な」
「!」
…オリバーさんが、王座を奪うの?
「私じゃありませんね」
「へ」
じゃあ、誰?
「私は、前からある特定の人物と、コンタクトを取っていました」
「特定の?」
「そう。その人をお呼びします。…もしお持ちでしたら、何か良い杖を貸してくれませんか」
そう言われたので、魔法使い・賢者のジョブで装備できる一番いい杖「世界樹のロッド」を貸してあげた。
「おお、とんでもなくいい杖ですね、欲しいくらいだ」
「使い道も無いので欲しかったらどうぞ」
「あんまり安易に与えてはいけませんよ、悪用したらどうするんです」
そう言いながら、杖を一振りする。
目の前に、ひどく細かく書き込まれた魔法陣が展開する。使う魔法が強いものであればあるほど、魔法陣を展開する場合、大きくするか、書き込みを細かくする必要がある。この魔法陣を見る限り、相当難しい呪法のようだ。
「人を召喚するのは結構難しいのでね」
「人を召喚?」
魔法陣は発動し、目の前に一人の人間が召喚された。その人物は…
「うわ、びっしょりだ」
頭から液体をかぶっていた…。王弟・エドさんだった。
「エドさん」
「あれ、君は…ああ、有紗」
「また何か失敗したんですか?」
「そんな、毎回失敗しているみたいに言わないでくれないか」
「いや、私が見る限り、結構な頻度で失敗してます」
「そうだったか?」
「今回は何をしていたんです」
「いや…単に茶を飲もうとして、鍋に水を汲んでいたのだが」
「つまづきました?」
「…そうだ」
「やっぱり」
「…放っておいてくれ」
「儂を無視するな!」
結界をガンガンと王様は叩く。
「ああ、王様、ゴメンナサイ」
「…兄上、何をしているんですか」
「ああ、実は」
かいつまんでエドさんに状況を説明する。
「…あんなに言っておいたのに…本当に」
キッ、とエドさんは王様をにらむ。
「あんなに言っておいたじゃないですか、兄上。まだ私が王城に居た時に書物で読んだ事を。黒龍は「人間の愛情」に飢えている、最低限、産まれた黒龍に親として接してくれと!」
「親として」
「そう。黒龍の力を恐れて歴代の王族は黒龍を牢屋に閉じ込めて、力を奪うべく食事すら満足に与えていなかったけれど…親としての愛情、恩愛は持っていた。毎日、牢屋に向かい、涙を流して謝っていたと聞いています」
「そうだったの…」
少なくとも、「親」には歪な形でも愛されていたから、今までの黒龍はうろこ1枚、銀色が残っていたのね。
「そこを、あなたが…有紗嬢、あなたが黒龍に「友」と言う愛情…友愛を与えてくれた。黒龍が最も望んでいたものを」
「…そうですね」
「だからこそ彼は、悲しみから解放されることが出来た…けれども」
「けれども…そうですね」
「ああ、最後に…彼は縋っていた「肉親の愛情」から切り捨てられてしまった。それは、この世界に残る楔を解き放ってしまったと同意」
「王様は『息子ではない』って言っちゃったからね…」
「ああ、そうだ」
「…!」
王様が、顔を真っ青にする。だけども、後悔しても遅いのだ。
「王様…知っていますか。この国を守護していたのは…本当はアールヴァル。世界を壊そうとするヴァティル…金の竜を、あなたの金の髪の息子を、止めていたのはアールヴァルだったって」
「な」
「金の竜がこの世界からいなくなったのは…竜の世界に帰ったのは、むしろこの世界にとっては助かったのです。あのままでは、いくら友愛を手に入れて救われても黒龍を傷つけ見捨てたこの世界を、『親から見捨てられたのなら、こちらが世界を見捨てても構わない』と、世界の破壊に入っていたかもしれないのです」
「そんな…つもりは」
「金の竜を竜の世界に帰してくれた有紗嬢は、勇者とも救い主とも言えるような存在。その彼女を傷つけた、守護竜を傷つけ追い込んだ兄上…いや、貴様はもはや大罪人」
「え」
「そのまま、結界に包んだまま、王城に運ぶ。貴様はもはや王ではない」
「エドさん!」
思わずエドさんにすがり、止めようとした。単に1回、平手打ちされただけだ、そこまでする必要なんて無いだろうに。
「…宿命の姫」
そんな私の肩に、そっと手を置く人が居た。…オリバーさんだ。
「今はこのまま…王が退室したら説明しますよ」
「オリバーさん…」




