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エセブンディア.4

「さて、王様。私は、黒龍アールヴァルの元に行きます」

「そうか、いよいよ時が来たか」

「王様の願いは聞きました。とりあえず、まずは黒龍の場所を突き止めてきます」

「ああ、頼んだよ」

相変わらず、金の髪の王子は不在だ、どこに行ったんだろう。

そうして私は、黒龍アールヴァルの本拠地へと乗り込むことにしたのだった。

「役に立てるか分からないが、俺も一緒に行く」

「デニー、ありがとう」

エセブンディアの中心地、セブンデイズ周辺でレベルを上げた。私のレベルが54、デニーのレベルが51になった頃、本拠地へと乗り込むことになったのだった。

LV 54

HP 3827

MP 370

攻撃力 474

防御力 444

魔法攻撃力 479

魔法防御力 528

その頃には、デニーの初期ジョブ「シーフ」が最大レベルになり、1つ上のジョブ「ローグ」にジョブチェンジしたのだった。あまりにインスタントにレベルを上げたために、ジョブはシーフしか覚えていないのだが…。

「まあ、役に立てるとは思わないが、何らかのサポートくらいは出来るだろうよ」

「そんな、デニーが一緒にいてくれるだけで心強いのに」

「戦いでは逃げることくらいしか役に立たないよ」

黒龍の本拠地、セブンブリッジには、ゲームでは結界を解かないと行けなかった。結界を解くために必要なアイテムは、街の人が言っていた。

「この国で一番清らかな水と、清められた水晶が必要だ」

と。その場所は、今は洞窟が崩れていて、取りに行くことが出来なくなっている…が。

「まさか、こんな形でこれが役立つなんて」

エスリールで大神官に取りついた魔物を消滅させるために使った水晶と、清めの水。魔物を消滅させて交換した水と水晶。それは、ずっとアイテムポーチの中にあった。

「結界、消去」

きらきら輝く水晶と、清らかな水で結界の一部に、人が通れるくらいの穴が開く。本拠地を守る結界は、人間を拒絶するためのもの、魔物は平気で通る。そうは言っても魔物も、城の邪気に当てられて、弱い魔物ほど城を、邪気を恐れて遠くへ行く。城に近い、もしくは城内にいると言うことは、それだけ魔物が強いと言うことだ。

城に足を踏み入れる。襲い掛かってくる魔物たち。それらを倒して、少しずつ城を進んでいく。長い通路が1つあり、通路の左右には小部屋だけがある。左右の小部屋にアールヴァルはいないだろう。小部屋は無視して先に進む。通路を進んでいくと、1つの大きな扉があった。

「なんだ、ここは」

「気を付けて行かないとね」

扉のノブをひねると、ドアは簡単に開いた。そっと中を伺うと、そこに広がるのは広くて美しく整えられた、屋内庭園だった。

「わ…」

「すごいな、これは。きれいに整えられているな。きっと腕のいい庭師でも居るんだろうな」

「お褒めにあずかり、光栄です」

「!」

声に驚き、そちらを見る。すると、庭園の真ん中、噴水のそばに立つ一人の男性の姿があった。冷たい目をして、その背には翼があった。翼が無かったらただ人間の男性がそこに立っているだけに見えるが、その目と翼が、異質さを醸し出していた。

「あなたは、誰」

「私の名前はオリバー…先代のアールヴァル様より仕えさせていただいている者ですよ」

「先代の?」

「ええ。もう、知っているのでしょう?この国の守護のために、人間のために産まれた場所を捨てて、この地を選んだ竜たちの事を。その竜が、何度も転生を重ねていることを」

「…知って、いるわ」

「そうでしょうね、宿命の姫。この地に呼ばれた哀れな娘」

「それも知って」

「私はこの地にいるどの人間よりも長く生きています。それに元々、私は城に仕えていた賢者でしたからね、情報などいくらでも」

「え」

「ん?」

「待って、あなたは竜が宝石とかから作り出した存在ではないの?」

「違いますよ、先代の黒龍が、人間を核にして魔物を作り出した…それが私です」

「人間を核に!?」

「ええ、あまりに大量の魔力を必要とする事と、金と黒の竜の両方から魔力をもらわないとならないこと、本人の同意、それに人間としての全てを捨てなければならない覚悟…それらすべてを飲み込んででも、私は黒龍のそばにいることを選んだのですよ」

「…どうして、そんなに」

どうして、そんなにしてまで、黒龍のそばにいることを選んだのか。

「なに、単純な話ですよ、私は人間というものに、ほとほと嫌気がさしていただけです」

「えっ…」

「あなたも感じているでしょう、この国の王族の事を。自分たちが蒔いた種を他人に刈り取らせようとする、上から目線の考え方を。他人の心を操って、自分の世界を捨てさせてまで、自分たちに仕えることを当然と思っている傲慢さ、自分で問題を解決しようとしない他人任せな怠慢さ、自分の子供がさらわれたのだって、自分は嘆き悲しむだけで、他人に子供を取り返させようとさせているんですよ、場所も分かっているくせに」

「ああ~…」

「何とでも手段はあったんですよ、書簡を送るとかでも、面談を申し入れるでも。でも、それらをしようともしない」

「そうですね…」

「何よりも、彼らが見つけた手段って、単に自分の子供を取り戻すだけで、黒龍の事なんて一つも考えていませんよね」

「あ、魂の分割についても知っていましたか」

「まあ、そこら辺は。王城に勤めていた時の知識を動員すれば何とでも」

「ああ…」

「先代の時代も同じだったんですよ」

「え」

「先代の時も、時代としては200年前ですが…その時も、黒龍は王家の子供として産まれました。自分で動けるようになったその子供は、この城に自力でやってきたのです」

「子供が、自力で?」

「王家に産まれた黒龍のたどる道は大体毎回同じです。黒龍の子供は、産まれてすぐに城の地下に閉じ込められて、そこで生き延びます。黒龍の力をその身に秘めた子供は、飲まず食わずでも数年生きられます。その後、その地下を壊して子供は逃げ出して、この地にやってくるのです…。200年に一度、竜は転生して…4回、同じ事を繰り返して…今回は、閉じ込められる前に私がさらってきたのですよ」

「そうだったの」

「人を愛して自分の世界を捨てたのに、人に捨てられて絶望して、…年々、その体は黒く染まり続けている。今や、銀色のうろこなんて、1枚しか無い」

「どうすれば、黒龍を救えるの」

「分かりません…元々は、この国が黒龍を愛して大事にして敬えば良かったのに、それを迫害したから起きた事。今更、黒龍を大事にしたところで、虐げられた恨みが消えるわけではありませんからね」

「う~ん…」

日本に居た頃、私は周囲に馴染めず、いじめられていた。それも今にして思えば、友達や恋人が出来たら、こちらの世界の事よりも地球や日本での生活を大事にしてしまうからこそなんだろうと、思うけれど。とにかく、私は、いじめられっ子だった。いじめてきた人間が今更謝ってきたところで、許せるものではないだろう。いじめられることで失われた時間や、自信や、感覚や。そういったものが取り戻せる訳ではない。そして、謝られたから、じゃあ許して、今から仲良くなりましょう…なんて無理。私には出来ない。表面上できたとしても、澱のように残り続ける、決して消えない。そして、自分からこの世界に来た黒龍と、強制的に連れてこられた私の立場の違いはあるけれど、この国を大事にしようとして、結果的には国が、世界がこちらを大事にしていないのは同じだ、少しだけわかる気がする。

「黒龍を救えたらいいのに」

「そう思ってくれる宿命の姫が居ることはうれしいですよ…でもね」

不意に、彼が、オリバーさんが、手にした杖を構えた。

「恐らく、黒龍が最後の絶望の瞬間を迎えるのは難くない。いっそ壊してしまいましょうよ、こんな世界」

「オリバーさん!」

「どうせ、あなたからしたら、物語が1つ壊れるだけでしょう?」

タン、と地面を蹴って杖を振り下ろされる。それを抜いた剣で受ける。

「物語が途中で終わるのは気持ち悪いかもしれませんが、そうしたら次の物語に行けばいい」

「だけど!」

地面を蹴って距離を取ったオリバーさんの杖から火の玉が放たれる。それを剣で切る。左右に火の玉が分かれ、片方は噴水の中に、片方はレンガで出来た床に落ちて火が消える。

「それか、物語から覚めて、現実に戻ればいいんですよ」

「え…」

ガアン、と脇腹に杖の攻撃が入る。衝撃にくらくらする。

「ぐう…」

思わず脇腹を抑えてしゃがみ込んでしまう。かろうじて剣は握っているが、体に力が入らない。

「あなたにとって、この世界は物語に入り込んだだけの仮想世界なんですよ、そんなに必死になる必要、ありますか?」

「有紗!」

デニーが駆け寄って私の背中をさする。回復魔法の使えないデニーには、私に回復薬を飲ませるのが精々だ。

「あなたをそうして支えようとする彼も…どうせ、あなたが見てる物語の1ピースなんですよ」

デニーに飲まされた回復薬を飲み込み、じわじわと痛みが薄れていく。よろよろ立ち上がる私をデニーは心配そうに見ているが、シーフやローグのスキルで、今出来ることはあまり無い。

「そうかも、しれない」

ゆっくり立ち上がった私は、オリバーさんをじっと見据える。

「でも、今の私にとっては、今が現実…。あの世界には、私が帰りたいと思える何かは無かったの」

無関心な両親、冷たいクラスメイト、職場の人もあまり私と接しようとしなくて、毎日をただ無為に過ごしていたからこそ、この世界にのめりこんだ。結果的にこの世界にはまるきっかけをくれたゲームを教えてくれた友達は居たが、かと言って彼女がいるから、あの世界に帰ると思う程の楔とはなっていない。

「この世界に何もかもがある訳じゃないけれど…この世界が私を大事にしてくれるわけじゃないけれど…」

チャ、と剣を構える。

「冷たい前の世界よりも、こちらの世界の方が温かいの」

ギン、と剣を振るう。

「だから帰らない、壊させない」

カン、と音がする。オリバーさんの手から杖が弾かれ、転がっていく。それをデニーが回収してくれた。

「あなたが大事なのは、この世界を壊す事であって、黒龍ではないのよね」

「は」

「黒龍が大事と言うより、自分を裏切り傷つけた世界を壊すことに重点を置いてる、そのついでに傷ついてる黒龍をとりあえず回収したようにしか聞こえない」

「それは…」

「違うの?」

「違わない…ですね」

だらりと落ちた手。

「私が黒龍を救えないと言ってたけど、それはあなたも同じじゃないの。むしろ、人としての生き方を捨ててまで黒龍を選んだように見せかけて、実際は世界を壊す準備をしていただけなんでしょう?」

「…そう、かも、しれない」

「きっと、あなたを倒すことは、出来なくはないけれど」

拘束の魔法リストレイント。3ターン、動きを封じる呪文。デニーがこっそり、麻痺蜂の針をオリバーさんに刺して、麻痺したところに拘束の魔法を使った。これで、しばらく動くことは出来ない。

「だけど…地下に閉じ込められて飲まず食わずの生活を送らなければならない生き方から、救ってくれたあなたのことを黒龍は大事にしていると思うの」

「!」

「だから、どうか…このまま…私たちが先に進むのを邪魔しないでいて」

「…ああ」

拘束の呪文が、こうしてゲームではない、現実の世界でどれくらいの効力があるのかは私には分からないが、少なくとも、ここを突破することは出来る。

「さよならオリバーさん」

「お元気で、宿命の姫」

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