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エセブンディア.3

「陛下が目の前でこれを…そうか…」

「昔に失われた呪法が復活したなら目の前で見たいと」

「まあ、そうだよな…」

「?」

「…ちょっと、人がいないところに行こうか」

ここでもそんなに人はいないが、全然いないところ?

「ところで君は」

「ああ、失礼しました。私はデニー、有紗が最初に入ったパーティのメンバーです」

「その最初のパーティの彼が何故ここに?」

「デニーは絶対視覚のスキルの持ち主で、分割後の私のことを見てくれるんだって」

「ああ、なるほど。私の眼鏡でも多少は見れても絶対ではないからな…。それなら君も聞いてくれ」

そう言えば、エドさんの眼鏡って色々薬品をかぶっておかしな反応をして、見えないはずの物も見えるようになってたんだったね。最初に会った時のいかにもサイエンティスト感のある恰好からは変わって、ごく普通の清潔感ある、シャツにスラックスにベスト姿だけれど、その眼鏡だけは変わってなかったな。

そうして、一室を借り、お茶の用意をしてから、エドさんが結界をアイテムで張った。音が周囲に聞こえないように。

まず最初に、デニーにエドさんが王弟であることを説明した。びっくりされたが、それはそうだろう。最初に知ったとき、私もびっくりしたものだ。

「陛下が魂の分割に興味を持っていたのは知っていた」

「そうなんですか?」

「ああ。私が王室を離れ研究者になると言った際に、研究してほしいと願ったものが魂の分割だったから」

「何故?」

「アリサは、黒龍の正体を知っているか?」

「あ!」

「その様子だと知っているな。そこの君、デニー」

「はい」

「これは決して口外しないように頼む、口外したら君の命は無いと思え」

「…はい」

黒龍の正体。それは、王の息子。金の髪の王子の、双子の兄。

「王様は…息子を取り戻したいんですね」

「ああ、そうだ。あの子は今は亡き王妃の色を継いだ子だったから、余計にそうなんだろう」

確かに王妃様は見かけた記憶がない。どうやら、奪われた我が子のことで憔悴して亡くなってしまったのだそうだ。黒い髪の美しい女性だったそうだ。

「陛下はどうにかして奪われた息子を取り戻したいと願っている。そのために、黒龍から息子の魂を抜きだそうとしている。その方法を見つけた…それが、あの本だ」

「そういえば王宮にいた時に本を開いて見ていたって言ってましたね」

「そうなんだ、まだ兄が王位を継ぐ直前くらいの話だな…」

…そう言えば。

「エドさん、最初に会った時って、もっと「いかにも研究者」って口調じゃなかったですか?」

「…王弟であることを隠すためのキャラ付けだよ、もう元王族ってことがばれてるんだから、必要以上に取り繕う必要ないだろう」

「あ、なるほど」

そう言えば最初に会ったときはススまみれで見た目もいかにも研究者って感じだった。王弟である雰囲気を出さないためだったんだろうな、王族が下町にいるなんて、なかなかあってはならないもの。そう思いながら見ていたら、ふう、と一つため息をつくエドさん。

「以前、陛下から聞いたことがある。幼い少女の見た目をした冒険者に会った、その少女は神殿の地下で黒龍の話を聞いていると」

「はい…」

「その時に、陛下は君に、黒龍を倒さないでほしいと。呪いの解呪の方法が見つかったと、そう話したと私は聞いたよ」

「はい」

「その方法こそが、魂の分割だ。黒龍を捕らえて、研究が完了するまでどこかに閉じ込めておくつもりだったんだろうな、私の研究が終わるまで」

「黒龍を捕らえておくなんて…出来るんでしょうか」

「難しいだろうな、本体も暴れるだろうけれども、部下が取り返しに来るだろうからな」

「ああ…」

「確か、あの子が産まれたその日に、部下を名乗るものが迎えに来たと聞く。戦争になってしまうだろうよ」

「いくら王妃様の面影を残す子を取り戻したいと言っても…無理があるでしょうね」

「まったくだ」

黒龍に会う前に、術が完成して良かったとエドさんはつぶやいた。

「君を実験台にするみたいで、気は引けるけれどもな」

「気にしないでください」

ふるふると頭を振ったところで、1つ気になったことがあったので、聞いてみた。

「黒龍と王子様の魂を分割したところで、呪いって解けるんでしょうか」

「…それは…」

「それは?」

「分からない、何せ前例が無い。昔に、あの絵本になるような話が実際に合った時も、竜に対して試していないしな…。ただ、少なくとも、息子を取り戻せたら、国王はそれでいいんだろう、当代はこれでいい、次の事は次世代に任すと」

「…何だかいい加減」

「そう言ってくれるな」


そうして王城、王の目の前。王様、私とエドさん、デニー。そして、リュシター侯爵…「お父さん」が、何故か居た。

「何故、リュシター侯爵が?」

「…お主が術を試すことを聞きつけてな、どうしてもと聞かなかったのだよ」

「…侯爵…」

お父さんとして、娘が心配なんだろう。お父さん、ごめんなさい。今まであなたの目の前にいた娘は魂が偽物。うまくいけば、あなたに本物の娘を渡せる…かもしれないね。

「さあ、試そうではないか。アリサよ、アイテムをここに」

「はい」

目の前に机が置かれていて、私はそこに天使のアイソレート、マジカルスクエア、ガラテイアの涙を置いた。少し離れたところに石像を設置する。いよいよ始まる。

「デニー」

「アリサ、いよいよだな」

「うん、見ていて」

「ああ」

すう、とひとつ大きく息をする。まずはマジカルスクエアを手に取った。それを発動させると、きらきら輝きながら宙に浮き、くるくる回転すると魔法陣を作ってふわりと地面に降りた。次に、ガラテイアの涙を手に取り、発動させる。薄青く輝く宝石は、ふわふわと、マジカルスクエアの魔法陣の上に浮いた。そして私は天使のアイソレートの瓶を取り、蓋を開けた。

「…ふう」

緊張と共に、魔法陣の上に立つ。王様も、エドさんも、お父さんも、みんな息をのみながら見ていた。私はデニーをちらりと見て、こくりと一つ頷いてくれたのを見て、一気に瓶の中身をあおった。

「…っ、あっ!」

思わず瓶を取り落とす。目の前があっという間に暗くなる。

「ぐ…ううっ」

やがて意識が暗い闇に落ちていった。

闇の中、私は大人の…川岸有紗の姿になっていた。きょろきょろと周囲を見渡すと、何やら小岩が積み上げられた塚のようなものがあった。

「何、あれ?」

駆け寄ると、その塚の下に、小さな手が見えた。

「えっ…」

手は、ぴくぴくと動いていたものの、その小さな手の主は、自分の力で上の岩はどかせないようだ。

「どうしよう、これ…動かせるかな」

岩の1つに触れてみた。すると、ふっと消えて、何かが体に吸い込まれるような感触があった。すると、今まで何度も聞いてきたファンファーレ…レベルアップの音がした。

「え?」

ステータスを見てみた。すると…私のレベルは2。と言うことは、さっきまで1だったんだ。すると、まさか、この岩の正体は…

「…経験値?それとも、レベル…力そのもの?」

岩に次々と触れる。どんどん上がっていくレベル。使えなくなっていたスキルも解放されていく。そして、最後の1つの岩を吸い込んだら、アリサで冒険者をしていたレベル、51になっていた。そう、塚の下敷きになっていたのは、アリサだった。

「アリサ…」

そうか、どうして急激にアリサが力尽きようとしていたのかが、分かった。ごく一般の少女、冒険者でもなんでもないアリサにとって、こんな膨大な力など受け入れられる訳がない。本当のアリサは、強大な力に押しつぶされていたのだ。エセブンディアの地で冒険者をするには力が要る。どうしてもレベルアップは必須だ。だが、そうして経験値を蓄えれば蓄えるほどに、それを受け入れられない本当のアリサは、押しつぶされていたんだ。きっと、ずっと前から…。

『あんたのせいで』

夢の中でアリサに言われた言葉。

『あんたのせいで、私は死にかけている!』

これだけの重たいものを幼い身で負わされたら、押しつぶされて息も絶え絶え。レベルを上げれば上げるほど、アリサは押しつぶされていく。デニーの言っていた事がよく分かった。なぜ、見てもらった時よりもアリサの命が消えようとしているのが早くなったのかが。レベルが上がれば上がるほど、経験値を稼げば稼ぐほど、重たいものが積み上げられるのだから。

「ごめんね、アリサ…苦しめていた」

「……」

上に乗っていた重たいものが全て取り除かれて、アリサは回復したようて、立ち上がった。

「出てって」

「!」

「あたしの中から出て行って、今すぐ、早く!」

ドン、とアリサが私を突き飛ばす。

「気持ち悪い、ずっとあたしの中にいて!あの時、体まで!大嫌い!大嫌いなんだから!」

あの時…おそらく、初めて魔法を使ったときだ、あの時に初めて、アリサの中にいた有紗は目覚めた。

「アリサ」

「出て行って!あんたなんて!」

ぼろぼろ泣きながら、アリサは私を突き飛ばす。その感情がただ嫌悪だけなのかは分からないけれど、言われた通りにしよう。

「今までありがとうアリサ…元気でね」

ぷい、っと後ろを向いてしまう。最後は笑って別れたかったが、そうもいくまい。アリサにとって私は自分を奪ってきた嫌な人なのだから。

私もアリサに背中を向けた。きらきら輝く水色の光が、私を迎えに来ていた。そっと光に触れた。光はまるで鳥かごのような形を作る。きっとこれが、ガラテイアの涙。これに包まれて、これに乗って、私はあの石像の中へ向かうのだ。

「…さよなら、アリサ」

水色の光はきらきら輝きながら、暗闇を引き裂いていった。白く輝く世界に飛び込んだと思ったら、灰色の世界へと飛び込んでいった。きっと外の世界に飛び出して、そのまま石像へ入ったのだろう。


「おお、ガラテイアの涙が」

倒れ伏すアリサをそっと優しく抱きかかえるのは、リュシター侯爵。一方、そのガラテイアの涙を、王とエド、デニーが見ていた。倒れていた幼いアリサの胸の上にそっと降りたガラテイアの涙がふわりと浮き上がる。それが一瞬強く輝くと、石像の中に飛び込んでいった。

石像が強く金色に輝く。頭頂部からゆっくりと、色が変わっていく。固く石だった髪は黒くつややかな柔らかい髪へ。石の肌は象牙色の肌へ。閉じられた目が開くと、濃い茶色の瞳が覗いた。

「有紗…」

デニーが小さくつぶやき、そっと有紗の肩に触れる。すると、突然、有紗が叫びだした。

「あああああ!」

目が大きく見開かれ、苦しい息に喘ぐ。自身の体をきつく抱きしめて、がたがたと震える。

「あが、あああ!」

デニーは有紗を抱きしめる。有紗は、震える手で1つのアイテムを使った。

「…麻痺蜂の…針…!」

有紗は、麻痺の効果のある「麻痺蜂の針」を自分に突き刺すと同時に、意識を失ったのだった。


丸2日、城の一室で、有紗は眠り続けた。別室に部屋を借りたリュシター侯爵とアリサも、時々様子を伺ってくるが、なかなか目覚めなかった。デニーはずっと、有紗についていた。やがて小さく有紗が身動ぎすると、目を覚ました。

「有紗、起きたか」

「…デニー…」

有紗の首には、冒険者カードの入った、王にもらったペンダントが光っている。アリサが目覚める前、有紗が意識を失ったとき。アリサの首から勝手に離れ、有紗に飛んで行ったのだ。冒険者カードは失っても、本人の元に戻る。冒険者が有紗だった証拠が、王の目の前で繰り広げられたのだった。ペンダント以外はシンプルなワンピース…いわゆる寝間着をまとうだけなので、デニーの前で寝間着姿なのは、有紗は少し恥ずかしかった。

「良かった、目を覚まさないかと思って心配だったんだ」

「…心配かけちゃったね…ごめんね」

「…いや、いいんだ」

デニーが有紗の髪にそっと触れる。

「絶対視覚で見ていた姿、そのものだ…」

「デニーには、私がこう見えていたのね」

「ああ。もう、誰かと姿が重なってこう、じゃない。有紗が一人の人間になったんだな」

「小さいアリサは…大丈夫だったの?」

「ああ、有紗が抜け出た瞬間…ガラテイアの涙が強く光った瞬間には、もう、あの小さい女の子だけの姿になっていた。魂も問題ない、ちゃんとあの小さい女の子に定着している。生命力も戻ったよ」

「そっか、良かった…」

「それにしても。あの悲鳴は…」

「石から…人間になるのって、大変だね…。あの石像の中で、急激に、人間の体が作られていくの…」

「え」

「おとぎ話の魔法とは違うね。もう、ものすごい痛みだった…自分自身に麻痺の効果のあるアイテムを使って痛みを和らげても、まだ…全身の骨を折られてるような、体がバラバラになりそうな痛みだった」

「そうか…」

「麻痺のアイテムがなかったら、どうなっていたか。呪文を唱える余裕なんて無かったよ。もしも、こんな感じで石像から人間になった時に、体がギシギシしたり痛かったりしたら嫌だなと思って石像に麻痺蜂の針を持たせてたけど…」

「お、おう…」

手をぐっぱっと、握ったり開いたりしてみた。何の問題もなく動く。石の体が人間の体になったのがわかる。ふと、ナイフを取り出して、指先を小さく切ってみる。ぷつりと小さい血の玉が出来る。ちゃんと血も流れているようだ。ヒールの魔法で治したら、ぐうとお腹が鳴った。

「ありゃ、恥ずかしい」

「まあ、胃の中は空っぽだろうからな…流動食から慣らしていったほうがいいだろうな」

そうして、お城で作ってもらった、具のない薄いコンソメスープみたいなものから、胃腸の様子を見ながら食べ物を取り込んでいった。4日くらいかけて、少しずつ具を増やしていったり、食感が固めのものになっていったりして、最終的にはごく普通の食事を摂った。ちゃんと内臓も動いていることが分かり、石像が本当に人間になったんだなあと密かに感心したのだった。

「この身体で戦ったりも出来るのか、少しリハビリしたほうがいいかもしれない」

「ああ、そうだな」

「…ここはお城だからスフォーファンドか…。魔物のレベルも30くらいよね」

「…30…」

「少し付き合ってくれる?」

そうしてデニーを連れて、城の周囲の魔物と戦ってみた。デニーには、自分が攻撃出来ない代わりに周囲からも攻撃されないアイテム「戦いの鳥かご」を装備させた。鳥かごなので隙間は空いているから、アイテムの使用は可能だと言う、レベルが低いパーティメンバーを連れているときに使われるアイテムだった。実はレアアイテムで、ゲーム中で2つしか入手できない代物だ。そうは言っても、基本はソロパーティ、パーティ入りしてもNPCで装備が出来ないキャラを使うことが多かったから、私は使うことは無かったのだが。何せデニーは最初の町、フォルワンの冒険者なので、レベルが20にも達していない。それでも私が何か致命的なダメージを負った場合は逃げるかアイテムを使うかしかない、デニーはシーフで、回復魔法は使えないのだ。例え司祭の家に産まれていたとしても、そこは生まれつきのスキルの問題だから。

そんなこんなで、城の周囲で魔物と戦ってみた。武器の扱いも問題なくて、4歳の身体で戦っていたのと全く同じように戦えた。武器も、4歳に合う大きさだったものが、25歳の身体に合うようになっているのは驚いた。何度か戦っているうちに、デニーのレベルも上がっていた。フォルワンに居たままでは超えられなかったレベル20を、いとも簡単に超えてしまった。

「何だか随分と、インスタントにレベルが上がってしまった気がする」

「あは…」

エセブンディアに連れて行って戦ったら、もっと急激にレベルが上がったんだろうな、とか考えるが…まあ、とりあえず深く考えるのは辞めておこう。

こうして大人の身体を取り戻しました。これでタイトルの「見た目幼女」でなくなったので、タイトルと内容が今後合わなくなりますね…。

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