エセブンディア.2
「…なんだこりゃああああ、さっきまでサウスシックルに居たのに、何でエルデロクに居るんだよ!」
うん、いい反応。ルディは周囲をきょろきょろと見渡し、太陽の位置で時間が経っていないことに気付いた。本当に一瞬で移動したのだと理解したようだ。
「びっくりした?」
「したよ、すっげえなああ!」
興奮して周囲をぐるぐる見ていたが、エルナさんがやってきて、ルディをどつく。
「もう、うるさいなあ。てか、ルディ、あんた昨日帰ったばっかりだったってのに」
「お、おう。たまたまアリサとギルドで会ってな、手紙の件を伝えたら、今日ここに来るって言って」
「今日?まだ朝じゃないの。深夜にでも出発したの?」
「それが違うんだよ、アリサの魔法、すっげえんだ」
「…アリサの魔法?瞬間移動?一瞬でサウスシックルからここ?」
「嘘じゃないですよ」
「疑っていないよ、私は魔法は使えないけど、魔法使えれば色々出来るだろうなあ、って思っていたから」
エルナさんは元気そうだった。やっと石像作りが一段落して、ゆっくり眠ったからだそうだ。
「あの石像は、どうしても作りたかったの。でも、仕事じゃないから、他を優先しない訳にはいかなかった。でも、あなたのおかげで仕事になったからね」
そうしてエルナさんの工房に着く。扉を開けると、そこに石像はあった。私だ。ああ、私だ。身長もこんな感じだし、髪の長さまで、こんな感じだった。本当に、竜に取り込まれる私を見たんだろう。
「では、エルナさん、この石像をいただきます」
「うん、是非受け取って。あなた、こんなだった?」
「はい、こんなでした!」
「そっか。なら良かった。じゃあ、村の男たちに頼んで運ばせるよ」
「あ、それには及ばないかと」
「え」
私は石像に手を触れて、アイテムポーチにしまうように考えた。石像はシュッと消えて、ポーチに収納される。
――「大事なもの」有紗の石像を手に入れた。
「え、石像、どこに行ったの!?」
「ああ、大丈夫です、私の空間魔法で異空間に取り込んでます」
「そんな事まで魔法って出来るんだねえ、便利だなあ…。私も覚えたいなあ」
「えっと」
「ふふ、冗談だよ。この村、魔法には疎いからね。あんたの魔法がすごいってことは分かるよ、きっと誰もが出来る魔法じゃないんだろうね」
「あ、う~ん、そうですね」
何せ、ゲームのアイテムポーチなのだ。この世界の人、他に出来る人なんて居るんだろうか?
「さて、私は行きますね」
「え、もう?来たばっかりじゃないの」
「そうだぞアリサ、こんな10分で終わらせるなよ」
「何よルディ、エルナさんと会う口実出来たから?」
「ち、違う!」
「違うの?ルディ」
「…違わない、かな、エルナ」
「ふふ」
だから、いちいちラブラブな雰囲気を出さないで欲しいのだが。
「じゃあ、ちょっとゆっくりしていきます」
「そうしてよ。せっかくなんだし」
「おう、せっかくだし」
そうして1日目の日程が終了した。あと2日で薬が出来るね。
そして、その夜に夢を見た。真っ暗な周囲の中、一つだけ光が刺している場所があった。近寄ると、倒れている幼い少女。…アリサだ。
「アリサ?」
声をかけても反応が無い。抱き上げてもぐったりしている。
「アリサ!」
目が開かないが、消え入りそうなか細い声で、何かを言っている。耳を当ててみると、何とか聞き取れた。
『あんたのせいで』
「!」
何も言えず、何も出来ず。ただ茫然とするしか無かった。私のせいで、アリサはこんなに弱っていると言うの?
目が開いた時に感じたのは、ただひたすらに申し訳ない気持ちだった。
そうして翌朝。エルナさんにごちそうになり、家にも泊めてもらった。
「じゃあ、ルディ送っていきます」
「また来てね」
「はい」
そうしてルディと共にサウスシックルまで戻った。そこでルディと解散して、気になっていた事を解決しようと思った。
「フォルワンへ…トランスファー!」
見てもらおうと思ったのだ。アリサの様子を…。
「と言う訳でして」
「…そうか」
デニーに様子を見てもらうことにした。あの夢が本当なのかどうなのか。前回、エセブンディアに行く前に見てもらってから、3ヶ月なんて経っていないのに、アリサはあんなに弱っているのか。
「…確かに、かなり弱っている…正直、あと数日だ」
「へ」
「前回の見立てでは3ヶ月と言ったが、何故、こんなに弱るスピードが速まったのだろうな」
「そんな…」
明日には、アイテムが出来上がる予定だ。だが、材料は多めに集めたと言えども、アイテム作成に失敗したら、アリサは下手したら死んでしまう。それに伴って、私…有紗も。
ぶるりと身体を震わせる。
戦いの中で命を落とすのとは、また違う恐怖だ。
「デニー…」
「明日には、アイテムが出来て、魂を移転するんだったよな」
「うん…」
「一応、魂がちゃんと石像に融着するのか、あと残ったアリサが大丈夫なのか、見る必要、あるよな」
「そ、そうだけど…」
「みんなに言ってくる。一時的にストラーダ抜けて、有紗に同行する」
「デニー…」
心強い。正直、夢を見てから、不安でたまらなかった。一人パーティ自体には不満は無いのだけれど、こうした不安を抱えた時に相談できる人が一緒に居てくれるのは、きっととても有り難いことなんだろうな…。
「一時的にパーティを抜けてきた。有紗に同行する」
「ありがとう、デニー。すごく…心強いよ」
自分自身の身体を抱きしめて震える。デニーがそっと肩に手をかけ、抱き寄せてくれた。それだけで、なんて心強いんだろう。この人が居てくれて良かった。本当にそう思う。完全に、この世界に心惹かれていた原因の王子が頭から消えてしまう程に。
「なあ有紗、王様の認めた冒険者…なんだったよな」
「うん…一応」
「王様にも、一言言っておいた方がいいんじゃないのか?今後は姿が変わることになるって」
「ああ、うん、そうだね」
デニーの手を取って、スフォーファンドに飛ぶ。城門で王様に面会の許可を取る。さすがに今日、会うことは叶わず、明日に会うことになった。なので今日はデニーとギルドに宿泊した。二日目終了。明日だ、明日には。
「魔法って本当にすごいんだな」
「え、何、突然」
「いや、こんな一瞬で移動できるなんて、すごいなと思って」
「さすがに、一度行った場所でないと行けないけどね」
「そっか、でもな」
「?」
「こんな一瞬で、いつでも移動できるのに、なかなかストラーダに…俺らに、会いに来れないくらいだったんだな」
「デニー…」
正直、行こうと思えばいつでも行けた。実際、フォルワンにも行ったことはある。でも、会ってしまえば甘えてしまいそうで、甘えたら色々崩れそうで。口実でもなければ、会いに行くなんて出来なかった。
「ま、いいさ。アイテムは明日出来るのか?」
「多分」
「成功しているといいな」
「うん」
翌朝、王様に面会が出来た。王様は、私が「魂の分割」を行うことに、大変驚いていた。
「あの呪法を復活させたと言うのか」
「はい、王様の弟のエドワード様にも助力いただきました」
「エドとも会っていたのか、そうか…」
「実際、今現在、エドワード様がアイテムを作ってくださっています」
「なんと」
「予定では、今日、出来上がるはずです」
「そうか…、なあ、アリサよ」
「はい」
「儂の目の前で、その分割を行ってはくれないか」
「え」
「魂の分割は、古代語の本こそあれど、だれも解読までには至らず、復活させることが出来なかった呪法。是非とも、目の前で見たい」
「…分かりました」
明日、王城の一室を借りて行うことが決まり、私は研究所に飛んだ。
「…出来た!」
部屋の中から弾んだ声がする。部屋の中のカチャカチャと言う音が静まったのを聞き、そっとドアをノックした。そうでもしないと、せっかく出来たアイテムを落としそうな気がしたから。
「はい」
「アリサです、良いですか?」
「ああ、アリサ!入って!」
そわそわした表情のエドさん、疲れた顔をしているが、きらきらと輝く清々しい表情もしていた。
「成功したんですね」
「ああ、見てくれ!」
さっと差し出された手。その先には、3つのアイテムが置かれていた。小瓶に入った飲み薬「天使のアイソレート」、小さな星形の板の形をしている「マジカルスクエア」、透き通った水色の宝石のような「ガラテイアの涙」の3つだ。
「何だかきれいですね…」
「ああ、本にも実物の絵とか載っていないから、完成品がこんな感じなんて知らなかったよ」
私はそっとアイテムに触れて、それをアイテムポーチに入れた。
「で、エドさん、これなんですけども」
「ああ、石像があるならすぐにでも」
「いえ、実は王様が」
「え」




