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エセブンディア.1

最終地域であるエセブンディア。今までとは比べ物にならないくらいに、魔物が強い。最初の町に着くまでに、結構な疲労困憊である、回復アイテムがそれなりに減った。

「うう、疲れた…。早く宿に泊まろう…」

毎度のお約束、「こんな小さいお嬢ちゃんが」を経て、部屋に案内される。ふかふかのベッドに倒れたら、晩御飯すら忘れて寝入ってしまった。

その夜、夢を見た。竜が2体並んでいる夢。それは、エルナさんの見た夢と同じようなものだろう。ただ、違いは、エルナさんはそれを傍観しているのに対し、私が当事者として見ている事だろう。空からゆっくり落ちる私。光る球体に包まれている。そのまま私は、黄金の竜の手に降りた。竜が何かを言っていたが、やがて私を口の中に放り込んで一噛みした。口の中で包まれていた球体が割れる。それと同時に、私は3つに分かれた。私の身体と、赤く光る精神体と、そして金色に光る球体。肉体に宿っていた「力」なのだろう。竜にとって、私の肉体なんて不要なものなのだろう。気が付くと、身体が消えていた。どこに行ったのだろう。もしかして、前世の…日本に返されたんだろうか。そして日本で私は不審死扱いされたりするのだろうか。行方不明ではなく。

そして金色に光る球体も、全部が金色なのではなく、一部…ほんのわずかな部分に色の違う部分があった。これはきっと、私の「人間」の力。そして金色の部分が「ゲームキャラクターとしての力」…。ゲームでは私はレベルマックス、スキルコンプリートのとても強いキャラだったが、現実の私は力も弱く、何も持たないただの人だった。だから力のバランスなんて、こんなもんだろう。

そして、その大部分が金色の力は竜の身体に吸い込まれて無くなっていく。竜に食べられたのだろう。口の中に残るのは、赤く輝く精神体。こちらも、赤い光の一部が少し薄かった。これも、力と同じで、何も持たない現実の私はゲーム中の私より価値の無いものなのだろう。

そうして、金の竜の手に吐き出された私の精神体は、黒い竜の手に優しく潰されてこの世界に開放されていく。世界をゆらゆら彷徨った私の精神は、やがて産まれる直前の赤ん坊の中に入り込んだ。赤ん坊の中で眠りに落ちた私が目覚めたのは、それから4年後だったのだった。


薄く明けていく夜、宿のベッドの中、目を覚ました私は、そんな夢の事を全部は覚えていなかった。ただ、出会った金の竜の、こちらを憎むような感情だけは、強く覚えていたのだった。

それと、感じた1つの絶望。そう。求められているのは、ゲームの中のプレイヤーである私。「川岸有紗」ではないのだ。薄々勘付いていて、でも見ないふりをしていた。

力…レベルは金の竜に奪われてしまったものの、ゲームの中の私の力は価値のあるもの。一方、おまけのようにくっついていた、現実の私の力は微々たるものすぎて、まとめて飲み込んだところで気付かれないくらいのもので。また、スキルの方もそう。ゲーム中のコンプリートされたスキル、山のようなアイテムに大金。ゲームの中のものが反映されても、現実の私のもので反映されているものなんて、記憶とゲームの知識くらいしかない。現実の「川岸有紗」は、何も必要とされない。

宿命の娘としてこの世界に呼ばれはしたが、その反面、現実の私は世界から、親から、そっぽを向かれていた。この世界にのめり込むようにと。現実の私は…何を得られたのだろう。誰か…教えてほしい。現実世界でも、こちらの世界でも、「川岸有紗」は必要とされていない。必要とされているのは、ただ、ゲームのプレーヤーだけなのだ。こんなのって…こんな事って無い!


非常に精神的な疲れを感じつつ、重い体を引きずって、エセブンディアの中心地、セブンデイズに到着した。そこで、毎度同じ、依頼を受けつつ、必要なアイテムの採取を行った。無事にすべてのアイテムを集める事が出来た私は、スフォーファンドのエドさん…王弟の研究者の元に飛ぶ。

「エドさん!」

「うわ!」

また手にしていたビーカーを落として、床に焦げを作っていた。毎回こうだなあ…。

「そうか、全部そろったのか」

「うん、石像以外は」

「そうか。アイテムはそろったか。後は作り方だな」

「え、アイテム揃えばいいんじゃないんだ」

「もちろん。本に書いてあっただろう?」

「う、必要な材料しか見ていなかった」

「…本当に、お前は」

仕方ないので、本のあるアセシックスルの砦に一緒にトランスファーで飛んだ。初めてトランスファーで移動したエドさんは大変興奮し、喜んでいた。興奮するエドさんをなだめすかし、そこで研究室に二人で入る。最初は警備員に止められたが、エドの顔を見て、警備員が驚いた顔をして背筋を伸ばした。何で、王弟の顔まで知っているんだろう?と思ったが、どうやら、その警備員は、かつて近衛の末席に居たそうで、王城内で勤務していた。その際に王弟とも何度か顔を合わせていたのだそうだ。何でそんな近衛していた人がこんな所で警備員しているんだろうと思ったが、怪我で引退したのだそうだ。

「おやぁ、小さいおきゃくさんだぁ~、久しぶりぃ~」

相変わらずの間延びした話し方をする所長さんと再会した。所長さんはエドの顔を知っていた。王の傍に仕えていたのだから、まあ当然だろう。

「…エドワード様、ではないですかぁ…」

「やめてくれ、ヘルベルト…。もう私は王弟ではない、ただの研究者だよ、エドと呼んでくれ」

「エド様ぁ…」

「様、もいらないんだけどな」

と言うか所長さんの名前、ヘルベルトって言うのか。知らなかった。

「で、小さいお方ぁ。あれ、やるんだねぇ?」

「やります」

「そっかぁ、でも、君が作れるのかなぁ?」

「そこは私が作るよ、ヘルベルト」

「エドワ…エド様が、これをぉ?」

「ああ、私は色々な事を研究して、実際に効果も出しているよ」

「そ、そうです。エドさんは、私にトランスファーの魔法を付与してくれました!」

「ええぇ、あの魔法をぉ?」

所長さんはかなりびっくりしていた。確かに難しいアイテムは多かった。時間制限あるアイテムとか。しかも、エドさんのおっちょこちょいで、1つアイテム足りなくて、危うく時間制限がアウトになるところだったよ。たまたま持っていたから良かったものの…。

「で、作り方かぁぁ…本、いつものところだよぉ」

「あ、はい。ありがとうございます」

本の鍵をいつものようにペンダントで開ける。MPを毎度ごっそり持っていかれるので、とても疲れる…。あの時よりもレベルが上がっているとは言えど。

LV 51

HP 3428

MP 352

攻撃力 447

防御力 414

魔法攻撃力 452

魔法防御力 498

うん、上がっている。MP300無くしても、50以上残っているから、この間よりはまだいいな。

で。開いた本の後半に、アイテムの作り方が載っている。それを口頭でエドさんに伝える。それを丁寧にメモしながら、うんうんとエドさんは頷いていた。古代語で書かれている本を訳せるのは、研究者にとって大変ありがたい機能なんだろうな。

「ありがとう、おかげで、魂の分割について、やっと色々分かったよ。古代語の研究は今一つ進んでいなくて、読むのも苦労していたから…助かるよ」

「こっちこそ、全部作ってもらうことになってしまって…」

「いいんだよ、この研究所ならば、道具とか色々揃っているから作りやすいんだ」

「そう言ってもらえると助かります…」

「本当に、君は…見た目が幼い子供だから、その言葉遣い違和感あるよ、もちろん見た目通りの中身じゃないことは知っているんだけど」

MPをごそっと持っていかれているので、感じる疲労感の中、エドさんに言われる。もうじき、中身に相応しい見た目を取り戻せる…はず。

「では、ここでアイテムを作成するよ。3日で出来上がるよ」

「分かりました。じゃあ、私…ギルドで宿を取って休んでます」

「ああ、またな」

うきうきしながらアイテムを抱え、エドさんは研究室に向かっていく。アイテムを作れるのが嬉しくてたまらないみたいだ。私はギルドに向かって宿を取った。すると、受付嬢から声をかけられた。

「あの、アリサさん、ですよね」

「はい」

「お手紙を預かっています」

「お手紙」

受け取ると、それはエルデロク村のエルナさん…石像屋さんだった。

「あ、アリサ」

「はい?あれ、ルディ」

「ちょうど、その手紙、今日届けたところだったんだ」

「…て、ことは、ルディ、それまであの村に?」

「…うん、まあ、な」

ルディは頭をポリポリ掻きつつ、顔を赤くして照れ笑いしていた。

「そっか、エルナさんとうまくいったんだ」

「おま、それ、あの、うう、まあな」

どうやら、お互いに村でつまはじきにされていた二人は、お互いが村から弾かれなくなったことで、心に余裕が出来たらしい。そして、何となく昔から互いを気にしていたところで、ルディ隠し子疑惑(誤解)で爆発したものの、あるべき所に収まったらしい。

「良かったねぇ」

「う、うるさいな、まったくもう」

ぷいっと顔をそむけるルディ。強面がやっても可愛くないぞ。

「それにしても、そうなんだ…石像、出来たんだね」

「ああ。あれからエルナ、ものすごく頑張って作っていたよ。鬼気迫るって、ああいう感じだな」

そんな状態で、良くもまあ、ルディとの関係性が上手くいったものだ…。

「じゃあ、私、今夜は休んで明日にでも村に行くわ」

「そうなのか?俺も一緒に行くぞ」

「う~ん、そうだね…じゃあ、一緒に行こうか」

一晩、じっくり休んで翌朝。宿の前で、ルディが待っていた。

「村までは、まあ半日だが…気を引き締めていくぞ」

「あ、待って。エルデロク村、一回行ったから…」

ルディの腕に触れて唱えた。

「トランスファー!」

二人は光の粒子になって、あっと言う間に村に到着した。

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