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フォルワン.2

そうして、私はそのゲームの世界に転生したのだろう。冷静に言っているようだが、内心はもう荒れに荒れている。なんで!?ゲームの世界に転生って何!?しかもこの子って、何だかゲームに出てきたかも定かじゃない、出ていたとしても、すごいモブじゃないの!?村の少女Aみたいなもんだよ!?と。

そのモブ少女、「アリサ」…4歳の少女である彼女は、私、「有紗」の中で深い眠りについていた。私、「有紗」は「アリサ」を乗っ取ってしまったのである…。アリサの記憶はある。だが今の感情とか考え、大部分の記憶は「有紗」なのである。目の前の男性、「お父さん」…前世の私と、そう大して年齢差は無いかもしれないな、とぼんやり思う。自分の手を見ると、とても小さかった。こうして自分で自分を見ても、ただのモブ少女だなと思う。

だが、そんなモブ少女Aが4歳でファイヤーボールを発した。それは、この剣と魔法と魔物とドラゴンの世界のRPGな世界であっても、異常なこと。魔法が発動するようになるのは、最初のジョブが与えられる10歳になって神殿で洗礼を受けて、魔法ジョブを割り振られてからだ。ここで戦闘ジョブを与えられると、魔法ジョブにジョブチェンジするまで魔法を使う事は出来ないとされる。ジョブチェンジするには、授けられたジョブを、まずジョブレベルMAXにしないといけない。一度選んだジョブを途中で変える事は出来ないのだ。

魔法ジョブを割り振られてもいない人間は、どんなに頑張っても、覚えてもいない魔法を使う事など出来ない…。そして、必ずしもジョブを割り振られる訳では無い。実際、両親はジョブを割り振られていない。ジョブを授かる人間は、3割程度なんだそうだ。ジョブを与えられるのに貴賤は関係なく、貴族でもジョブが無い人、庶民でもジョブを持つ人が居る。ジョブを授けられたからと言って、そのジョブに沿った仕事をしなければならないと言う訳でも無くて、授かったジョブを放置する人も、結構多いのだそうだ。

魔法ジョブを得て、ジョブのレベルや基本レベルを上げる事で魔法を使えるようになる。

魔法。そう、覚えていない魔法は使えない。


でも、覚えていたら?


意識を取り戻した私が真っ先に確認したのは、ステータスだった。

「ステータス、オープン!」

これが、あの「守護竜の導き」の世界なら…自分のステータスは戦闘中でなければいつでも確認出来たから、これで見られるんじゃないだろうか。そして、それは正しかった。

「ああ、これ…」

転生前にやり込んだゲームのスキル。それは全てゲームのまま引き継がれていた。伝説の魔法と呼ばれるような最強魔法も、究極の剣技なんて言われる技も。

「アルヴィース」も…。

ただ、引き継がれていたのはスキルだけだった。しかも、ほとんどのスキルは文字は読めるが暗転している。覚えてはいるけれど、使えないって事かな。レベルのせいかな?と思ってレベルを見ると…基本レベルは…何と1。

99まで、MAXまで上げたレベルは継がれなかった。

そのため、カンストだったHPも、MPも、あまりに微々たるものになっていた。

比べると、こんな感じだろうか。

LV 1(カッコ内99の数値)

HP 12(9999)

MP 4(999)

攻撃力 3(927)

防御力 2(894)

魔法攻撃力 2(908)

魔法防御力 2(978)

…微々すぎない?

魔法はもちろん、戦闘スキルもMPを使うものは多い。魔法はもちろん、序盤に覚える戦闘スキルを除けばほぼ全てMPを使うと言ってもいい。その為…せっかくスキルを覚えても、使えない。ファイヤーボールは消費MP3なので使えたが…今のままでは1回使ったらMP回復するまで使えない。MPが回復するのに一晩かかるから、今のままでは、実質、1日1回?

しかも、覚えたスキルは、どうやら使用できるようになる基本レベルが設定されているようで、魔法系レベル1のファイヤーボールと、戦闘系レベル1の砂目つぶし以外は、文字は読めても字が暗くなっている。覚えてはいるが、レベルが低くてスキルが使えない。

レベル上げが必要だなあ…。

気絶して目を覚ました翌日、両親はすぐさま私を神殿に連れて行き、ステータスを見てもらった。しかし、他人のステータスは神殿の神官だとしても、レベルやHP、MP、攻撃力に防御力、そして現在使えるスキル程度しか見ることは出来ない。もし全部見えてたら、気絶しただろう。

「アリサ、良く聞きなさい」

「なあに、お父さん」

「アリサは4歳にして、魔法と戦闘の両方のスキルを持っている…例えそれが初期のものでも。それが、どんなにすごいことか…さすがにアリサには分からないだろう」

いや、分かります。4歳ですが実際は+25歳ですから。

しかし、そうか…まずいな。

普通、ジョブが割り振られて初めて、スキルを覚える。ジョブを割り振られていない4歳の幼子がスキルを持っているのは、そうでなくても異常。しかも、魔法と戦闘、どっちも持っているって事は、どっちも同時に覚えられる才能を持っていると判断されてしまう訳で…。いやレベル上がれば多分使えますが。全部の魔法もスキルも。

「神官様にはお願いして、上に知らせないようにしてもらったが…それでも、神官様が本当に黙ってくれる保証は無い。つまりは」

ぐっと目を合わせて父が言う。

「アリサ…スキルや魔法は使わないで生活するんだ。もしももっと上の立場…貴族なんかに知られたら、強引にアリサを自分の子供とか言って連れて行ってしまうかもしれない、父さんや母さんから離されてしまう、嫌だろう」

産まれてからずっと優しい父、可愛がってくれる母、その二人から引き離される。

「嫌だよ!」

「だよな。いい子だから、分かってくれるよね」

「うん」

魔法やジョブは使わない。ごく普通の子供として生きよう。

上手くいかないものなんだけれどもね…これが。

それからしばらくは、平穏な日が続いた。魔法を発動させてしまってから、私は普通の子供ではなく、ゲームの要素を持つ子供になってしまった。具体的には魔法、スキル、ステータスウィンドウ、そして…アイテムポーチ。気が付いたら、ウエストポーチ状の小さいバッグが腰に付いていた。どの服を着ても、何なら下着姿になっても、腰にある。触れるが、取ることは出来ない。全裸になれば消えるが、念じれば全裸の状態でも腰にくっついている。お風呂(と言う名のお湯を張ったタライ)に入った時に確認したが、水の中に入っても、薄い空気の膜があるみたいで、濡れない。中のものを取り出したりしても、取り出したものも濡れたりしていない。お父さんもお母さんも何も言わない様子を見ると、他人には見えていない。そして何より…前世のゲームのアイテムポーチの中身が、全て入っていた。そう。全て。

私は基本的にコレクター魂があるから、武器防具は使わなくなったからと言って、売ったり捨てたりはしていない。パワーアップアイテムも、ナンダカンダでもったいないから、使わないでそのままにしておいた。回復アイテムも、魔法で回復しちゃう事の方が多くて、使わず残っているアイテムがたくさんあった。

それらが、アイテムポーチの中にずらずらと…。

あの最強防具、「ウェディングドレス」は入っていなかったが、最強の武器は入っていた。良く見ると、いくつかのイベントアイテムが無かったので、ウェディングドレスはイベントアイテム扱いなんだろう。換金専用のアイテムも、確かあった気がする。お金には困るまい。

ステータスの確認をして、「あれ?」と思った事があった。経験値だ。経験値は、敵を倒す事で上がる。RPGの鉄則だ。そして、現在の経験値は「0」だ。敵を倒していないのだから当然だろう?いや、私は襲い掛かってきた野犬を倒している。あれが敵でないのなら、何が敵になるのだろう?と思い、考えた。ゲーム中に出てきた敵は、「邪悪な意思=魔王」「エンカウントする敵=魔王のしもべ、または影響を受けたもの」だ。つまり、単なる野犬はゲームにおいて「敵」にはならない、と言う事か。考えてみたらそうかもしれない。何かジョブを授けられたけど農家している人とか、畑に現れた害虫を駆除していたら、ガンガンレベルが上がることになるもんね…歳をとる頃には相当なレベルになりかねないものね、虫とかまで敵として経験値稼げるとしたら。

だとしたら。魔王のしもべや影響を受けたものを倒すことで、レベルが上がってスキルが解放される、って事。…どこにいるんだろう、そんな奴ら。

「そんな奴ら」との出会いも、早かった。

神殿でステータスを見てもらってから、2週間ほど過ぎたある日。私は家の近くにある森に、どんぐりを拾いに来ていた。どんぐりをあく抜きして潰し、クッキーにして食べるのだ。だから、たくさん拾って帰ると、お母さんが喜んでくれる。いつも一人で拾いに行くから、一人で外出は怒られるけどね。けれども、どんぐりクッキーはそう豊かでない我が家では数少ないおやつ。それを見逃す手はないのだ!

そうして、どんぐりを拾っていった。今日は随分、どんぐりが落ちている。落ちているどんぐりに釣られ、今まで足を踏み入れたことの無い森の奥の方へ、足を踏み込んでしまったのだった。

森の奥の方は、光が差しにくいのか、暗く湿って重い感じがする。辺りを見渡すと、どんぐりもあまり落ちていない。

「帰ろうかな…」

来た道を戻ろうとした際、背後から気配がした。野犬に遭遇した時の、倍は悍ましい気配。

「!?」

思わず振り返る。そこには、目を赤く光らせて、こちらを睨み付ける、魔物がいた。


「守護竜の導き」の世界の敵に共通点がある。全員、目が赤く光っているのだ。そして、目の前にいる魔物は確か、グリーンキャタピラー。要は巨大なイモムシ。…気持ち悪いーーー!

アイテムポーチから使いやすそうな武器を取り出す。少し離れた場所から攻撃出来るように、ブーメランを装備。これなら、普通の子供が持っていても、おかしくないし。ゲームの中では、最序盤とまではいかなくても、序盤寄りの武器。あんまり仰々しい武器を持っていたら、村人にうっかり見られて、何か言われてしまう。それは避けたい。

足をわらわら動かしながら威嚇してくる様は、実に気持ち悪い。ゲームの中では単なる敵だったのだけど、こうして直接相対すると、悍ましい…。

先手必勝でブーメランを投げる。いつも思うのだが、ゲームのキャラは、何故初見の武器を簡単に扱えるのだろう。投げるのが難しいと思うのだけど、ブーメランとか。そう思いながらも投げればキャタピラーに当たり、ブーメランは手元に見事に戻ってくる。二度、三度と投げても同じだった。そうして、じわじわと体力を削り、グリーンキャタピラーは倒れた。「おおお」と声を上げながら仰け反ると、その身体はまるで灰のように、粒子状になり、やがて風に吹かれ消えて行った。

「うわ…何?」

キャタピラーの居た場所に近寄ってみると、何かが落ちていた。それをそっと摘み上げてみると、

「コイン?」

この国で普通に流通している少しだけ古い銅貨だった。

思えばゲームの中で、何やら説明があった気がする。「邪悪な意思は、欲望を核にして魔物を産み出す」と。お金は、人の色々な感情を吸ってきているから、欲望が溜まりやすい媒体なんだろう。そこに悪意や邪気とかを注いでやったら、魔物が出来る…って事なんだろうな。多分。邪気を断ち切ったことで、コインは普通のコインに戻ったと言う事。再び邪気をコインにそそいだりしなければ、魔物化する事は無いと思う。と言うか、普通、人間が魔物を産み出すなんて無理だから。どんなに邪気にまみれた人間でも、その邪気を放出とか特定の物質に注ぎ込むとか出来ないだろう…出来たら人間じゃない。

そう思いながら、ブーメランをポーチに仕舞い、手にしたコインもポーチに仕舞う。実は所持金そこそこあったんだよね…150万くらい。ゲームのデータの引継ぎの一つだ。これが今の物価で、どれくらいなのか分からないけれど。

ステータスを見て…あれ?レベルが上がっている。

LV 2

HP 25

MP 18

攻撃力 10

防御力 8

魔法攻撃力 11

魔法防御力 13

うん、LV99には、まだ微々たるもの。でも、LV2になると、回復魔法ヒールLv.1と、戦闘スキル投石が使えるようになる。投石はさておき、回復魔法はありがたい。…回復魔法って、こんなに覚えるの早かったかな?…確か、「ジョブ・僧侶」…魔法ジョブの1つ、回復系の下級ジョブだけど、ジョブを取得出来るようになるのは中盤に差し掛かるくらいで、到達レベルは13。そこで僧侶を取得すると、スキル取得する際には確実に使えるレベルに到達しているから良いと言うことかな。

ゲーム頑張っていたのが懐かしいな。あの時、ゲームを頑張っていたおかげで、こうしてレベルを上げるだけでスキルが使えるようになる。どれだけ経験積まないといけないか分からないけれど、頑張ろう。

拾ったどんぐりを小さな袋に入れて、私は家路を急いだ。

物語が、ここから静かに始まっていた事を、この時は知ることもなく。


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