アセシックスル.1
「お父さん」の住む地域から次の地へとやってきた。そこは一見、何の変哲もない地域だ。しかし、黒龍アールヴァルが住む地域の隣なのだ、何も無い訳がない。出現する魔物のレベルも高く、こちらのレベルが38でもなかなか苦労する。敵のレベルを見たら40超えがごろごろ居る。しばらくは戦いが厳しいかもしれないな。
そう思いながら街道を進むと、街道沿いの小さい町に辿り着いた。宿を取り、一息つくことが出来た。町で買い物をして少なくなってきた回復アイテムなんかを補充して、宿に戻って食事を頼んだ。見た目4歳の私を相手に、女将さんが目を丸くしていたが、まあ、仕方ないだろう。食事の量は4歳に相応しい感じの少量の盛り合わせが出てきた。ご飯美味しい。
そうして、ご飯を食べていたら、突然声をかけてきた人が居た。
「お嬢ちゃん、冒険者、だよな?」
顔に傷のある、見た目荒くれものっぽい男の人が声をかけてきた。
「はい、そうですよ」
「信じられないなあ…どう見ても子供だし」
「でも本当ですよ、ほら」
そう言って冒険者カードを取り出す。いつしか冒険者カードのレベルは3級になっていた。
「3級か、なかなか大したものだな」
男の人は、ふむ、と一つ考えて言ってきた。
「お嬢ちゃん、向かう先が一緒なら、一緒に行かないか」
「へ」
「お嬢ちゃんはフィルファイブから来たんだろう?さっき受付でそう言っていた。見た目は幼いが、受け答えとかは見た目通りでは無いようだし、他に仲間らしき奴が居ないところを見ると、ソロでなかなか冒険できていると見た」
「え、ええと、まあ…今までほとんど一人でしたけど」
「なら…良かったら、一緒に行ってくれないか」
「何でまた…他にいくらでも一緒に行ってくれそうな人、居るのでは」
「いやまあ、その…俺の見た目、山賊っぽいって言われてなあ…裏切りそうとか、怖そうとか、まあ…言われてな」
「…う~ん」
否定できないところはある…。
「そこで。お嬢ちゃん…いや、お前さんみたいな、(見た目)子供と一緒に居ても、その子、大丈夫だったら…まあ、信じてもらえたりしないかなと」
「…捨て猫拾うヤンキーじゃあるまいに」
「ん?なんか言ったか」
「いいえ~」
特に断る理由も無かったので、しばらく一緒に行くことにした。
男の人の名前は、ルディと言う。
「ねえ、ルディさん」
「さん、はいらねえよ。さん、なんて呼ばれたら痒いわい」
「じゃあ、ルディ。ルディは、戦士系かな」
「ああ、まあ、見た目通りだよ。物理攻撃一辺倒で、魔法は全然使えないや」
「は~」
そうして、魔物を倒しつつ、進む。ルディは確かに強く、私が全体攻撃魔法で攻撃し、敵が弱ったところを一掃してくれる。なかなかいいコンビネーションなんではないだろうかと思う。
最初、移動には困った。スティートを使えれば良いが、スティートのスピードではルディが全力で走らないといけない。かと言って徒歩では私が全力で走らないといけない。どうしたらいいのかと悩んだが、いい方法を思いついたのだ。
「じゃん!」
「何だ?杖と、指輪?」
「杖は、風の魔法を秘めた「ウインドロッド」で、指輪は身体を浮かせる魔法「レビテーション」の魔法が込められた「浮雲の指輪」だよ」
「それをどうするんだよ」
「こうする」
杖に指輪を差し込む。下の細い方から指輪を入れると杖の下から1/3くらいのところに装着された。
「これにまたがる」
杖を地面と平行にして、指輪の魔法を解放する。すると杖が地面から1mくらいのところでふわふわと浮いた。私を乗せたまま。
「ほおお」
「で、杖の魔法を解放する」
すると、予想通り。するすると宙に浮いた杖と私が移動する。正直、杖に込められた魔法は強くない。序盤の非力な冒険者のお助けアイテムなのだ。進むスピードは大人の歩くくらいのスピードだ。
「ああ、これならいいな。お前さん、ちっこいからどうしようかと思ってたんだよな。最悪、担ぐかとか思ってた」
「担ぐ…」
俵みたいに運ばれるのは嫌だ、いくら4歳の身体でも。
「せ、せめておんぶとか肩車とか…」
「やってほしいのか?」
「違います…」
段々と大きい街…このアセシックスルの中心地に近付いてきた。あと少しで中心地に着くが、夜に移動を控えるために夕方には街道沿いの小さい宿場町に宿を取る。町に着いた頃にはレベルも上がっていた。明日には中心地に着くだろう。
「アリサ、これ食うか」
「うん!」
差し出された、屋台で売っていたドーナツを遠慮なく食べる。甘くて美味しい。
「傍目には、親子とかに見えたりしてね」
「まあ、それならいいがな。誘拐犯とかに見えたらたまらん」
「強面だもんねルディ」
「気にしていることを…」
ふふ、とお互いに笑う。
「ああ、何だかな…こんな物理攻撃一辺倒じゃなくて、魔法とか覚えて知的な感じとかを出せたら、もう少し人に恐れられなかったかな」
「魔法…どうして魔法を覚えるジョブにならなかったの」
「単純に魔法ってもんが良く分からなかったんだよな。俺、戦士を多く輩出する村の出身で、周囲に魔法を使える奴が全然居なかったんだ。だから俺も当然のように戦士を目指した。素質もあったしな。神殿で見てもらった素質は、もう思いっきり戦士に傾いてた」
「ははあ」
「だけど、お前さんの戦い方を見ていると、魔法を使えたらもっと良い戦い方出来るんじゃないかと思ったわけだ。物理で多数を相手するのは結構大変なんだが、魔法だと一斉に弱体化出来るだろう」
「まあ、そうだね」
「だから、素質が無くても、ちょっとくらい魔法使えたらって思うんだ」
「気持ちは分かる」
「ああ、俺を2つに分けられたらな。そしたら、1人を魔法を使えるジョブに就けて、魔法覚えさせるのに」
「そんな無茶な」
「いや、まあ聞く話なんだが…人を2つに分ける呪法はあるらしいんだ」
「え」
「何でも昔に、不老不死を求めて呪法を開発した人が居たらしいんだ」
「不老不死…」
「若いうちに本人を分けて、一人を封印して歳を取ってから封印を解除して二人を1つに戻す実験をしたらしい」
「でも、それ、不老にはならないんじゃ」
「今より若かったらそれでいいって事じゃないのか」
「分かるような分からないような…」
「だが、どうも封印が甘かったらしく、完全に時を止めるなんて真似は出来なかったらしく…ゆるやかに時が流れている間に、閉じ込められた恨みがあったのか…1つに戻った時に、本体の方にとんでもない精神的負荷がかかったらしくな、おかしくなってしまったそうだ」
「うわあ…」
「1週間だけ人を分けて元に戻す実験をした際も、別々に過ごした時間を処理しようとして精神がオーバーロードしたらしくて、2週間意識不明だったらしい」
「怖いねえ」
「だな」
「…と言うか、ルディ、詳しいね」
「まあ、この話、アセシックスルの児童書になっているからな。こんな事をしようとするんじゃない、って戒めかな」
「なるほど…」
だが、私は別の事を考えていた。この方法を使えば、「有紗」と「アリサ」を分けられるんじゃないか?と。
ただ、一つ疑問がある。この場合、「アリサ」の身体は現在の身体で良いだろう。だが、「有紗」の身体は?魂を分割するような感じの呪法のようなので、身体を別に1つ用意しなければならないのではないだろうか。
だとしたら、どうやって?亡くなった直後の人を連れてくるとか?人造人間でも連れてくるとか?どちらも何だか倫理観を疑うような気がする。
ブツブツ呟きながら考えてるとルディに頭を掴まれた。
「何するのルディ」
「馬車が通ったんだよ、危ないだろうが」
「え、あ」
気付けば、馬車の通る道に出ていた。
「ありがとう…」
「おまえな、魔法が使えて頭がイイかもしれんが、気を付けろ」
「はぁい」




