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フィルファイブ.5

「小娘…せっかくここに来たのだから、お前は生贄になりなさい」

「え」

夫人は台の上にある黄色の宝玉を指差した。

「それに魔力を注ぎなさい、ありったけ」

「え」

「母上、それは!」

「…私も、夫も、ヘルマンも。命をかけてそれに魔力を注いでいる…この地の結界と繋がっている、その玉に」

「命を」

「そう…毎日、注げるだけの魔力を」

「…」

私は、こそっと夫人のステータスを覗いてみた。敵のステータスを見る呪文を使ったのだ。夫人が私に対して強い敵対心を持っているために、どうやら夫人は「敵」との認識になってしまった。敵のステータスはせいぜいレベル、HP、MPくらいしか見られないが。

エディア・リュシター

LV.5

HP 45/60

MP 48/48

…名前、エディアって言うんだ…。

強い憎しみの感情を夫人に向けられながらも、私はそっとその黄色の宝玉に触れてみた。

「!……」

宝玉から小さな画面が立ち上がる。

『魔力を持つ者よ、一度に250の魔力を与えよ』

うーん、ゲームだとあるよね、こんな光景。調べると立ち上がるメッセージ画面。

しかし250の魔力ね。そんなに今現在、MPあったかな。私は自分のステータスを振り返ってみた。

LV 38

HP 1699

MP 274

攻撃力 330

防御力 284

魔法攻撃力 335

魔法防御力 368

…ぎりぎり注げるね。よし、やってみよう。

両手を宝玉に触れさせて、魔力を注ぐ。自分のMPを宝玉に移動させるイメージで。ごっそりとMPを持っていかれたけれども、無事に250のMPを移動させることが出来た。

ふう、と一つため息をつくと、目の前の宝玉が強い光を発した。

「な、なに!?」

「…これは」

「…まさか…」

強い光が収まると、目の前の宝玉は変化していた。単なる黄色い玉だったのに、表面に白いレリーフが施されている。それは、夫人の部屋の扉のモチーフに似ていた。きっと、この宝玉の模様を扉にしたのだろう。

「何てこと…私が産まれる前から、この宝玉のレリーフは消えていて、真実では無いと思っていたのに」

「産まれる前から」

「私はこのリュシター家の直系ですもの。婚姻すれば一族として結界をくぐれるようになるのよ。それよりも…美しいわ。伝承は嘘ではなかったのね」

夫人がふらふらと宝玉に近寄る。そっと触れようとすると、パチン、と小さな火花が弾ける。夫人を拒否するかのように。それに驚き、夫人は手を引く。

「小娘…お前、どれくらいの魔力を注いだと言うの」

「…250です…そう、宝玉に言われたから」

「言われた…ですって?」

「宝玉に触れたらメッセージが出て」

「嘘を言うな、私が触れてた時にも、ヘルマンが触れてた時も…夫が触れていた時も。そんな話は聞いた事が無い」

「魔力を持つ者よ、と出ていましたから…魔力が足りなかったのではないかと…」

ふらふらと後ずさり、夫人は力なく座り込む。

「けれど250…250ですって?そんな魔力を持つ者は一族の誰にも…」

「あの…。何故、リュシター家の人でないと駄目なんですか?」

「え」

「例えば…冒険者ギルドに依頼を出すとか…高い魔力を持つ人を侯爵家に雇うとか…。報酬を渡して魔力を貰えばいいのではないのですか?この玉は小さくて軽いので、持って運ぶ事が出来るはずですし…この結界の外に持ち出せないとかなら話は別ですが」

「…考えた事も無かったわ」

侯爵家の者で何とかする事だけを考えていたのだろう、夫人は。昔にこの塔の結界を組んだ者…多分、リュシター侯爵家の先祖は、子孫の魔力がこんなに低減するなんて思っていなかったのだろう。玉のメッセージは「リュシター侯爵家の者に限定する」なんて書いてなかったし。そうしてイライラしながら、命を必死で注ぎながらだったから、このフィルファイブの地を囲う結界に作用して重苦しい空気が結界内に蔓延していたのだろう。お父さんの弟のヘルマンさんが魔力を注いでいた頃、一時、穏やかだったのは…単純に本人の性格が穏やかだったのではないだろうか。突然失踪した兄を恨むでもなく、突然押し付けられた次期公爵の地位を受け入れるくらいには、何でも受け入れる性格だったとでも言うか。

どうやら、一度に50以上のMPを注がなければこの玉はMPを…魔力を受け取らない。しかし満たされる250のMPを一度に注がれなければ満足しなくて、毎日求めるのだろう。250のMPを受けて満足したらしい玉は、1年は効果が持つらしい…手に持っているので、アイテムを調べるスキル…と言うかアイテムの説明文を読んでみたのだ。そしたら、そう書いてあった。

こう言っては何だが…夫人の夫も、息子も、他者に…MPを持つ者に頼る事が出来ていたのなら、きっと急逝も早逝も無かったのではないだろうか…。侯爵夫人の夫である前侯爵は落馬が原因で落命したものの、日々の魔力注ぎによる疲れや精神力の欠如が無かったら、もっと集中出来ていただろう。弟のヘルマンさんも、日々詰め込まれる侯爵家の跡取りとしての勉強と魔力注ぎによる心身の困憊が原因にしか思えない。せめて魔力注ぎだけでも他者に代わってもらえていたら良かったのに。

その可能性に、侯爵夫人も気付いてしまったのだろう。パニックに陥り、倒れてしまったのだった。

お父さんと村長さんが二人がかりで夫人を運び、お父さんが結界に穴をあけて村長さんを通していた。後で聞いたら、侯爵家の当主の地位を授かった経験のある者は、この結界に穴を開ける方法を授かるのだそうだ。だから、侯爵家でない村長さんが、あの場にいたのだと納得した。最初は村長さんも侯爵家に連なる者なのかと思っていたが、違っていたらしい。じゃあ、玉を外に持ち出さなくても、結界に穴を開けて塔に連れてくればいいんだから、なおさら、そうしていれば良かったのにと思う。

それ以来、ショックを受けて倒れたまま立ち上がれなくなった侯爵夫人を放置して、「お父さん」である現侯爵は、今、応接室で私と向かい合って座っていた。目の前には高級な紅茶。とても美味しい。一緒に出されたケーキも、めちゃめちゃ美味しい。前世でも食べた事ないよ、こんな美味しいケーキ。

「…ここには誰も居ない。給仕も侍女も下がらせた。魔道具で防音結界も張ってある。何を話しても大丈夫だ」

「じゃあ…お父さん」

「ん、何だ?アリサ」

にっこり笑うその顔は、間違いなく、あの日のお父さんのままだった。

「この玉…持ってきちゃったけど、いいの?」

手の中にあるのは、例の黄色い宝玉だ。

「ああ。現在、侯爵家に連なる者でその玉に力を注げるのはアリサだけだし、良かったら持っていてほしい。その玉は、この地の結界と直接に繋がっている、どこに居ても、この玉さえあれば、この地域の結界に力は注がれる。魔力が薄れてきたら注いでやって欲しい」

1年は大丈夫だし、魔力を注ぐには250以上のMPさえ持っていたら誰でもいいのだけれども。

「そして…その玉の様子を、たまにはこの家に見せに来ておくれ」

「!」

それは、口実。傍目にはただの庶民の小娘である私が、侯爵家を訪れるための。

「うん、分かった」

「…よろしくな」

にっこり笑うお父さんは。とても、優しい顔をしていた。

そして、大事な物「イエローオーブ」を手に入れた。


しばらくお父さんと話していたが、不意に私は思い出した。アイテムポーチの「大事な物」に入っているものを。

「お父さん…これ」

私は家から持ち出した、お父さんの万年筆とお母さんのペンダントを差し出した。

「これは…」

お父さんは懐かしそうに、それらを手に取った。あれから、それなりの時間が流れてはいるが、私がまだ5歳にもなっていないのだから、1年よりは短い時間だ。だけど、お父さんはもう何十年も昔の宝物を見つけたような目をしていた。

「思い出一つ、持ち出せなかったからな…あの家から。ありがとうアリサ、この万年筆は…弟からもらった大事な物だったんだ。そして…これは…」

万年筆をテーブルに置き、ペンダントをそっと撫でる。お母さんは、アクセサリーはそのペンダントだけしか持っていなかった。ブラッドオレンジジュースみたいな色のそれは、カーネリアンで出来ているのだそうだ。

「お母さんは、これを大事にしていた。いつかアリサが大きくなって、お嫁に行くときにはこれをプレゼントするんだって…言っていたよ」

「お母さんが…」

不意に、応接室の扉が開いた。

「!」

そこに立っていたのは、侯爵夫人だ。ネグリジェの上にガウンを纏った姿は、さっきまでベッドに居た事を物語っているが、何故ここに?

「…コンラート…それは…」

「え」

「お見せなさい…」

震え、細くなった手を、夫人は差し出す。お父さんはしぶしぶと、その手の上にペンダントを乗せた。

「ああ、これは…見覚えがある…。隣国の王宮魔導士が作り出した、魔力の石のペンダント…。この金具の所にさりげなく刻印されている字は、間違いない…あの方の名。コンラート、何故、これがここに?不思議な力が突然屋内に現れたから何事かと思って来てみたら…」

「え、これ、妻…いえ、アリサの母の持ち物です」

「何ですって!?あの女の…いえ、あの方の」

「?」

「…隣国の王宮魔導士は一代で貴族になるほどの高名な方、その魔法の力は一人で軍勢を相手に出来るほどの…それ、すなわち、膨大な魔力を有していたと言う事」

「…はい」

「その膨大な魔力を、黒龍アールヴァルが狙ったと…。実際、その方はその身を裂かれて見つかり、魔法の守りをその方にすっかり頼り切っていた隣国は疲弊し、その方の家族は離散してしまったと言われている」

「まさか…」

「娘が一人居たと言う…その娘に自身の魔力を…目いっぱいの護りを込めたペンダントを託し、魔力の限り遠くへ飛ばしたとしても不思議はない」

「ならば、何故…何故、私に何も…」

「当時、黒龍に襲われた時、娘は幼かったと言う話。様々なショックのあまり詳しい記憶を失ってしまったとしても…無くはないでしょう」

くるりと私の方を向く、侯爵夫人。

「お前の魔力は母方から来たのかしらね」

そう言いながらも、その視線が冷たいのは、例えお母さんが元貴族だったとしても、勝手な結婚をしたのは事実なのだから、そこを許せない…のかもしれない。

「何にしても、私はお前を認めない。好きに生きるがいい。だが、お前も、お前の子孫もリュシター家を名乗ることは許さないから」

そう言うとガウンを翻して去って行った。

「…。母は、どうしても…私が勝手をしたことを許せないんだ。アリサが悪いのではないよ」

私は「お父さん」の罪の象徴。侯爵夫人にとっては、お母さんがお父さんを誑かして身分を捨てさせたとしか思っていないのだろう。いつか…和解出来れば良いが、そんな日が来ることは、多分…無いのだろう。


そうして、侯爵家を後にした私。いつしか立ち去っていた王子一行とは挨拶もしなかった。私の事は、本当にどうでもいいのだろう。

やがて、次の地への入り口までやってきた。次の地域には、何があるのだろうか。

第6の地域…アセシックスルへ。

最初、アリサの母親の親である魔導士は、隣国の王弟の予定でした。亡国の王族の血を引いているから、侯爵夫人も認めざるをえなかった…みたいな。でも、さすがにそれはやりすぎかと思って、貴族に認められた親を持つものの、訳あって庶民だった、に変更しました。

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