フィルファイブ.4
「ど、どうして」
「どうせここに来ると思っていたのよ。だから塔の入り口の陰に隠れて様子を見ていたら、案の定、お前が私の部屋に隠していたはずの鍵を持ってやってくるではありませんか」
呆れたと言わんばかりの目をして、侯爵夫人が告げる。
「まったく。あの女の子供ですわね、図々しく忌々しい…」
「…お母さんを悪く言わないでください」
「仮にもお前は平民なのです、息子の血を引いていようとも。私に対して口答えなど、お前の母親の教育はどうなっている」
「…」
きっと睨むけれど、侯爵夫人の目はあくまでも憎悪に満ちていて、私の睨み付けなど、まったく効果が無い。
「その写真は…お前が産まれた時に、コンラートが撮らせたもの。その際に2枚写真を撮ったのです」
コツン、と一歩写真に夫人が近付く。
「その写真を見ていると…自分の魔力が一か所に集まるから、それを利用して魔力を注いでいた。私の魔力は、あまり強くないの」
感情の行き場を一か所に持って行って、集中していたと言う事なのだろうか。その感情が憎しみとかでも…。
「何故…。コンラートが出奔しなければならないの。何故、ヘルマンが早逝しなければならないの。何故、夫が急逝しなければならないの」
写真にギリリと爪を立てる。それは私とお母さんの写っている場所。
「みんなみんな、お前と母親のせいよ」
「母上、やめてくれ!」
部屋のドアの向こうに、お父さんが姿を現した。その横に立っていた人には、見覚えがあった。
「…あなたは…」
ライル村の、村長だった…。
「何で、なんでライル村の村長さんがここに」
思わず、村長に駆け寄ってしまった。その眼差しは苦渋に満ちていた。
そして思った、さっき感じた、この家の従業員に感じた違和感を。そうだ。ライル村の人だ。あの人たち…。
「…見張られていたんだよ。ずっと…。ライル村なんて、最初から無かったんだ」
「え」
「ライル村は、俺が出奔してから、母上が雇い入れた人間で作られた村…俺を監視するために」
「当然でしょう、コンラート。お前はこのリュシター侯爵家の長男なのだから。たとえヘルマンが後を継いだとしても、だからと言ってお前を自由にするなど、本気で思ったの」
「…そうだな、母上はそういう人だ」
「5年。お前を自由にしてやるのは5年と決めていたのよ。例えヘルマンが存命でも、最初からそう決めていたわ。領民には、お前が平民の暮らしを学習すると言い聞かせてね。自由は楽しんだでしょう、今後の人生は全てリュシター家に捧げなさい」
「母上…」
「お前をあの地に縛り付ける楔は切り倒してきたのだから」
「…楔、だと」
「そうよ、あの女。かよわいふりをして、お前にすり寄り、堕落させた悪魔。あの女は、もう居ないわ」
「やめてくれ!」
「本来なら、小娘…お前も、きちんとこの家に連れてくるつもりだった。コンラートがあの女に操を立てて、妻を娶らないなどと言い出したら…仮にも侯爵家の血を、お前は継いでいる。子を産める年齢になったら、貴族と子を作らせ、その子をコンラートの後継にと思ってね」
「…なんと…悍ましい事を考えるのですか母上」
「その小娘を、私の孫などと認める気はありませんからね。貴族の血で平民の血は薄めないと。それなのに、何を義憤にでもかられたのかしらね、あの兵士は」
「…」
「ライル村の者も、何故、この小娘をわざわざ逃がしたのか…理解に苦しむわね」
「…」
村長が小さな声で…夫人に聞こえないような小さな声で、ぽつりとつぶやいた。
『あの夫人の元に居て閉じ込められて生活するよりも…命の危険があっても冒険者の方が、まだ人間らしい日々を送れるのではないかと、そう思ったのだ』
冒険者になれず、浮浪児になったり、奴隷商人に捕まる危険があっても、そう言えたのだろうか…。たまたま25歳の人間がこの身体の中に居て、魔法やスキルを使えて、たまたまここまで何とか乗り越えられてきたから良かったものの、ほんの少し間違っていたら…。ぞっとする。
この辺は最初から考えていた設定です。
・最初から侯爵夫人は主人公の父を見張っていた
・ライル村はその為に作られた(顔を知られないように、村長は元々家で働いていたが父とあまり接点が無い人物、他はこの為に雇い入れた設定)
・最初から5年で主人公の父を取り戻すつもりでいた
・主人公の母は殺し、主人公は家に連れてきて監禁する、父が侯爵夫人の決めた相手と結婚し子供が出来たなら主人公は殺されていた
・5年の自由だったので結婚してすぐに子供が出来ても主人公の年齢は逆算したら4歳
・4歳が生き延びるためには中身も4歳では、まず無理
・なので転生者にして中身は25歳、この世界の人間にしては不自然なほどのスキル持ち・アイテムもお金も持っている
…と言う設定でした。なので色々不自然でも4歳になってしまいました。元が無理な設定だとは自覚しています…。




