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フィルファイブ.3

「…チャンス、かな」

しばらく様子を窺ってみたものの、誰も来ない。動くなら今、だろうな。そう思っていたけれども、静かにドアが開かれる。入ってきたのはメイドさんのようだ。

「アリサ様」

「!」

「アリサ様…こちらに、いらっしゃいませんか」

慌てて、石ころのピアスを外し、メイドさんの前に現れる。

「はい、私がアリサです」

「…侯爵様からのご伝言です、第二食堂までいらしてくださいと」

「第二食堂ですか?」

「はい。貴族の食事会の場に、貴女様が来られても、きっと萎縮してしまうだろうとのご配慮との事です」

…まあ、否定はしないな…。王子に侯爵様、その母親…そんな場所で、落ち着いてごはんなんて食べられない。

「第二食堂での食事は、貴女様お一人との事です」

ああ、お父さんに感謝。正直、お腹も空いていたのは事実だから。

そうして、メイドさんの案内で、食堂まで移動となった。

廊下を静々と歩く。廊下にさりげなく置かれている花を生ける花瓶も、小さい絵画も、きっと庶民の手に届かない高額なものなんだろう。ふと、一つ珍しいドアがあった。

「お花のドア?」

ドアに花のレリーフが施された、これまた重厚そうなドアがあった。

「こちらは、侯爵家の女主人…すなわち、侯爵様の奥方様の部屋になります」

「だから、お花のドア?」

「そうですね。華やかさの演出です。ですが、現在、当代の侯爵様に奥様はいらっしゃいませんから」

「…」

いる…いや、居たよ。奥さん。この家に殺されたけれど…。

「現在は先代侯爵夫人…すなわち、侯爵様のお母様にあたる方のお部屋になります」

「…そうなんですか」

あの紫のドレスの女性か…厳しそうなあの人の。

そうしてメイドさんが歩き出したので、後を追いかけた。

第二食堂に用意されたごはん。それは、とてもとても美味しかった。今世ではもちろん食べた事が無い美味しさだが、前世でもこんなに美味しいものは、なかなか無いレベルだった。一度だけ職場の人の結婚式…職場全員が招待されたので行ったのだが、そこで出たコース料理の美味しさくらい、美味しい。来客用と言えども、貴族の食事って美味しいのね…。しみじみと味わった。4歳の身体だから、たくさん食べられないのが悔しい。

デザートまで頂いたところで、ちょこっと前から気になっていたものがあった。

「あの。あの窓の外の塔…なんですか?」

この家は作りが変わっている。筒状に作られた家の筒の中に、池が張られ、その真ん中に一本の塔が立っている。闘技場の真ん中に塔があるイメージとでも言えばいいか。

「あの塔は…侯爵家の大事な場所で、祈りの塔と言われています。私たち、使用人はあの塔に入る事が出来ません」

「出来ない、ですか」

「はい、鍵がかかっているだけでなく結界もあるとか…ですので、この塔のある家の中央の池には侯爵家の方しか入れないのです」

「侯爵家の方…」

あの塔に何か秘密があるのかもしれない。そして…私は、もしかしたら近寄れるんじゃなかろうか。

「アリサ様。侯爵様方の歓談が終わるまで、こちらの部屋でお待ちくださいと、奥様からの指示です」

食事が終わった私は、どうやら応接室らしい部屋に閉じ込められた。最初に通されたのとは違う部屋で、第二食堂や侯爵夫人の部屋から近い。しっかりドアに鍵までかけられているのだ。しかも4歳の身体ではドアノブに手が届かない上に、中から鍵を開錠出来ないようになっているのだ…どういう事?何故か部屋の中から鍵をかけられず、外からだけ鍵をかけられる部屋になっている。変わっているなあ…。

「…ソファとテーブル以外は…何も無い部屋ね」

広いはずの部屋は、何も無いに等しかった。壁に何かかかっていた形跡なんかはあるし、じゅうたんにもくぼみが見られる。何か置かれていたんだろう。

「…まあ、そんな事はいいか…」

部屋を出ていくメイドがしっかりと鍵をかけていった音がしたので、廊下に出る事は出来ないのだろうが…ベランダから外に出る事は可能だ。

「…よし」

アイテムポーチに戻しておいたスティートを取り出す。これなら、この高さ…3階のベランダから地面に降りることは可能だろう。正直、スティートが浮かび上がれるぎりぎりの高さだ。森の木々がちょうど足元に来るくらいの高さだから。

「よっと」

スティートに乗って、ベランダから飛び出した。無事に空中に浮かぶ事は出来たので、静かの腕輪と石ころのピアスを装備した。3階の屋根は超えられそうにないので、屋内からアタックしようと思う、あの塔に。


こっそりと人目に付かなそうな場所に降り、屋内に侵入出来そうな場所を探す。従業員入り口みたいなドアがあったので、そこからこっそり侵入する。いくら石ころのピアスをしていても、これは「存在感を薄くする」アイテムであって、「見えなくなる」ものではない。気配に聡い人なんかには気付かれるし、「そこに居る」と思われると、そこに普通に見えてしまうのだ。姿を消すアイテムは、さすがに無い…と言うかゲーム中で、そんな必要が無かったから、アイテムが存在しないのだ、仕方ないね。

1階の廊下を人目を気にしながらこそこそ歩く。筒状になっている家だから、1周すればどこかに塔へつながる部屋なりドアなりがあるのではないかと思う。が、目印にこっそり廊下に置いておいたポーションがそのままの場所に置いてあった。見つけられずに1周してしまったようだ。

「…どういう事…かな」

廊下をトコトコと歩いてみる。塔へつながる道は1階には無いのだろうか…。そう思っていたら、ふと気付いた。今立っている場所の壁に、小さなエンブレムがある。侯爵家の紋章なのだが、それが何故に、こんな小さく壁に?

思い切って、そのエンブレムに触れてみた。

「!」

壁が開いた。その先には石で出来た階段とレンガで出来ている薄暗い廊下があり、どこかへつながっている。

「どこかって、そりゃ…」

中心地の池の中の塔の場所しかないよね。



薄暗い廊下を歩く。階段を何度か上がり下がりすると、廊下の真ん中だけが飛び石のように盛り上がり、周りが水で満ちた廊下が現れた。その向こうは明るくなっており、どうやら出口のようだ。

「ああ、そうか、水があふれてもある程度大丈夫なように、何度もアップダウンしてため池みたいな構造にしていたのか…」

大人でも面倒なんじゃないかと思うような何度も階段を上り下りする道、この小さい体ではますます面倒だった。でも仕方ないか、本当に…。

慎重に飛び石を踏んで外に出る。目にもはっきり分かるくらいの、厚いバリアが張られている。そのバリアの向こうに塔が立っている。池の中央に立つ塔は、思ったより大きくない。それこそ取り囲むお屋敷と同じ3階建てくらいだろう。

まずは、そっとバリアに指先で触れてみる。跳ね返されることも、痛みを感じたりする事も無かった。

「…?」

何かあるかと思ったら何も無くて、拍子抜けする。しかし、ふと思って、アイテムポーチを漁る。これに入れておくと劣化しないので便利なので、何個か弁当や食料を入れてあるのだが、その中にあった鶏肉を一切れ、ポイっと放ってみた。すると案の定。バリバリと音を立てて、鶏肉が燃える。本当に、「侯爵家に連なる者」しか入れない空間のようだ。お父さんの娘で良かったと…正直、思った。

「さて」

池の真ん中に立つ塔までは、やはり飛び石が続いている。それを慎重に渡ると、塔の入り口だ。

「…まあ、そうだよね」

塔には立派な扉が設けられていて、頑丈そうな鍵が付いていた。金色の南京錠で、小さな赤い宝石が1つ付いている。こんな南京錠まで宝石付けるとは…。金持ちの考えることは分からんな、と思いながら、一旦来た道を戻ってバリアの外に出た。

「ん~…。鍵を入手しなければならないか…。一旦あの部屋に戻るか」

階段をアップダウンは面倒なので、そこはスティートに乗って飛び抜ける。エンブレムの壁を元通り閉じて、建物の外へ出た。そこでスティートに乗って窓の外から元の部屋に戻ろうとしたのだが、弾かれてしまった。

「何で?」

と思ったが、単純に防犯なんだろう…。正式に扉から入ってこないような者は不審者として扱われるだけなのだろうな。とすると、スティート使って元の部屋に戻るのは出来ない。中から出る事は出来ても外からは入れないなんて、一方通行だったか…困ったな。

「あ」

そこで思った。

建物の中に入り、あの部屋をイメージして唱えたのだ。

「トランスファー」

自分自身が光の粒子になって、鍵穴さえも通り抜けて、部屋の真ん中に着地した。

「…成功」

不意に、ドアが開けられた。

「?」

振り返ると、メイドと、先ほどの女性…お父さんの母親の侯爵夫人が居た。

「…居る、わね」

「はい、この部屋の前に居ましたが、鍵は開けていませんし、この扉からお客様は出していません」

「なのに結界に揺らぎがあったわ…命知らずの水鳥でも突入してきたのかしら」

メイドに鍵をかけさせると、侯爵夫人は去って行ったようだ。しばらく扉に耳をつけて様子を窺うが、戻ってくる気配はないようだ。

鍵を探す事を考えるが、そんな場所は1つしか無いだろう。

「侯爵夫人の部屋、よね」

あの花のレリーフのドア。あのドアを思い浮かべて、再び唱える。

「トランスファー」

自身が光の粒子となって鍵穴を通り抜けて、あのドアの前に立った。

「う~ん、どうしよう」

この4歳の身体では、背伸びしてもかろうじてドアノブに触れられるくらいで、掴んでひねって扉を開けるには難しい。

「そうね…確か、ちょっと浮くって呪文があった」

それはゲーム中でダメージ床を回避する呪文。

「…レビテーション」

ふわり、と地面から30cmくらい浮かび上がった。ドアノブを掴んでひねる事が出来た。鍵がかかっていなかったのが幸いだった。

こっそりと部屋に侵入する。さて、この部屋のどこに鍵があるのか。あんまり不要な場所を探して、いろいろ疑われたくはない。

「そう言えば、確かシーフのスキルにあったね」

落ちていたり隠れていたりするものを発見する魔法。

「アサーテイン」

本棚の本が1冊、きらりと光ったのだった。本棚の出っ張りやらレビテーションやらを駆使して、本棚の目的の本を手に取る。大人の身長なら、少し背伸びすれば届くだろう高さが4歳の身体では届かない。かつて25歳の身体だったものだから、いろいろ不便に思ってしまう。塔へ続く通路みたいに、誰も来ることが無い通路のような場所なら屋内でもフローティアを使えるものの、広いとは言えども室内ではフローティアは使いにくい。なのでこんな手段でないと、本棚の本すら手に取れないのは厄介だと思う。早く大きくなりたいな~…。

そうして、手に取った本。それは軽く、開いてみれば箱になっていて、箱の中に赤い宝石のついた金の鍵が入っていた。南京錠についていた宝石と同じものに見える。色で区別つけていたとか…?まあ、何でもいいかと箱になっていた本を戻して、再びトランスファーで部屋に戻り、そこからフローティアで飛び降りた。塔に近付くには、きっとあの通路を通った方が良い気がする。トランスファーで塔の入り口に行くことも出来るのだろうが、何となくだが、あの通路を使うのが一番いい気がした。下手な行動をしたら、侯爵夫人に見つかってしまう。それは少し厄介な気がした。

こそこそとエンブレムを押して通路を開き、フローティアで通路を駆け抜けて、塔の入口へたどり着く。エンブレムの通路に着くまでに何人かすれ違う人が居たが、石ころのピアスを装備しているおかげで気付かれる事は無かった。しかし、そのすれ違う人に何だか違和感を感じた、何だろう。

そうして辿り着いた塔に鍵を使って侵入する。塔の中はらせん状の階段になっていて、階段を上っていくと途中に小部屋があった。そっと覗いてみると、小部屋の中は物置で、どうやら古い肖像画がいくつも置かれているようだった。おそらく歴代の侯爵家の人なのだろう。その中で一枚だけ新しい絵があった。お父さんが連れていかれる際に、家を継いだ弟さんが亡くなったと言われていたから、これが弟さんなのだろうか。

小部屋を出て、塔をさらに上る。最上階にはまた部屋があり、その部屋に入る。思っていたより雑然とした部屋の真ん中には黄色の宝玉が置かれた台があり、その前には小さい机、さらにその上には小さい写真立てが置かれていた。

「写真…」

それを覗き込んで驚いた。そこに写っていたのは、私たちだった。あの写真。家の食卓に飾られていた写真。お父さんと、お母さんと、まだ生まれたばかりのアリサと。ただ、お母さんと私の顔は何度も爪を立てられていたようで、もはや顔は残っていなかった。

「でも…何で…この写真が」

これを撮った技師が侯爵家に出入りしていたのだろうか。

「それは、その写真を撮った者が侯爵家の従業員だからよ」

声に驚き振り向くと、そこには侯爵夫人が立っていた。

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