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スフォーファンド.4

「おお!」

光の粒になって戻ってくると研究者が驚いた顔をしていた。

「どうだった?…え、過去に行った場所に戻れる呪文?なんだ…実際に過去に戻れる訳じゃないのか、拍子抜けだな」

「いや、すごい呪文だと思いますけど…。一度行った事がある場所なら魔法使って移動できるって事は、その気になれば犯罪に悪用だって可能でしょう、訪れた事のある家に魔法使って侵入したり出来るじゃないですか」

「そうか、そう言われればそうだな…うむむ。しかし、うっかり小瓶の中身を全部こぼしてしまったからな、君以外にはこれ、付与できん」

「そうなんですか?」

「そもそも君以外、誰も自分の研究を手伝って材料採取なんてしてくれなかったからな。まあ、結果的には君だけに付与で良かったんだろう」

「あなたは、良かったんですか」

「言っただろう、過去に興味なんか無い。このスフォーファンド以外に行く事は無いし、以前訪れた場所にも、然程の興味は無いんだよ」

「…そうなんですか?」

「そうなんだよ」

に、と笑うその顔は、ススにまみれていたが、すがすがしそうだった。

その後、一度王城に呼び出された私は、王様から一つのペンダントを受け取った。それは銀のチェーンと金の竜に抱かれた赤い宝石のヘッドのペンダントだった。どうやら、冒険者カードを入れられるらしく、カードのデータをそのペンダントに移した。王様の話によると、竜が宝石を抱くそのモチーフは、王様が許可した人しか使えないもので、ある種の身分証明書になるのだそうだ。

それと、緑色の宝玉のついた杖を渡された。王様によると、アールヴァルの攻撃を緩和してくれる防御の膜を張れるのだそうだ。回数制限があるそうで、この杖を手に持ってみても、何の説明も出てこない。ゲーム中には出てこなかったアイテムなんだろうか。

「どうか、小さな冒険者殿。アールヴァルの元に辿り着いてくれ…」

「…頑張ります」

王様の横で冷たい目で私を見ている王子。宝石のような目をしながら、温度は段違いに冷たいな…。ゲームに夢中になっていた頃の私は、王子のこんな目線の冷たさを知らなかった。画面の向こうの表情は見えなかったから。

あれほど夢中になっていた理由が、今は見つけられない。

ただ、ゲーム中でも王子が話してくれるようになったのは一度エンディングを迎えてからだったから、少なくともアールヴァルの元に辿り着けるくらいでないと、話すらしてくれないのかもしれない。今度会う機会が有ったら、少しは話が出来たらいいと思う。

名前も思い出せない、好きだった王子様…。

次に向かうは、5番目の町、フィルファイブ。そこは、「お父さん」の住む町である。

スフォーファンドとフィルファイブの関所の手前にある宿にその日は宿泊した。何の変哲もない宿屋なんだけど、こういう「市街地の宿屋じゃない宿屋」に泊まると、割と何かあったりした気がするのは気のせいだろうか?

そう思いながらチェックインして、食事して、特に何事もなく休むことになった。月も無い、静かな夜。穏やかな眠りに落ちた。



『この世界を救う娘は、どこに居ても、どの世界に居ても、必ずこの世界に導かれます』

…誰…?知らない人の声がする。

「そうか…どの世界に居ても、か?ここではない異世界でもか?」

「左様でございます。その宿命の娘は、必ずやこの世界を見つけ出し、この世界のために心を砕き、この世界に出現してくださることでしょう」

「預言者よ…。何故、その娘はこの世界の事をそこまで?」

「それが、宿命だからです。娘の宿命に与えられるのは、ただこの世界の事のみ…故に、元の世界では望むものが得られぬ人生となりましょう。それ故に、この世界の事を知った暁には、さぞやこの世界に心酔する事でしょうぞ」

「そうか…。だが預言者よ、そなたの予言では、この世界の事を思ってくれはするが…救ってはくれぬのか?」

「いかにも、そこより先は、その娘次第。何の努力もせずに救えるほど、守護竜の怒りが生易しい訳ではございませぬ故に」

「そうか…」

片方は知らない声だけど、もう片方は知っている。つい最近話した人だ、そう、王様。

ただ、二人の会話を聞いていて…腹が立った。

どうやら、宿命の娘とは…私だ。

この世界のために産まれたから、私は前世、誰にも、親からも、大事にしてもらえない人生だったのだと、二人は語っているのだ。

何が宿命だ。

何が心酔だ。

まんまと、王子に惚れこんでいたよ。あんな冷たい人に。

ねえ、もしも、守護竜を…あの金と黒の竜を救えたら、私は宿命から解放されるかな。

そうしたら…まだ4歳なんだもの、自分の人生を歩きたいな。

ねえ、誰か…。

ぼんやりした視界の先に、そっと微笑む誰かが見えた気がした。

目を開けた私は、大粒の涙を流していた。差し込む光は明るく、夜が明けていた。


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