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スフォーファンド.3

「え?」

「アールヴァルは、元は…この国の第一王子だったのだ」

「え」

「そこに居る、王子…あやつの、双子の兄であった」

「!」

「王妃から…子が産まれたと聞いた時は、どれほどまでに嬉しかったか。だが、産まれたばかりの子の元に向かった私が見たのは…その背に翼を、その腰に長い尾を持った黒髪の子供と、金の髪の子供」

「あ…」

「私は、その姿を見た時に、瞬時に悟った。当代のアールヴァルが、この子だと。そう確信した瞬間…唐突に、魔物が部屋に現れた」

「魔物…」

「その魔物は、傍目には人間と同じ姿をしていた。だが、その氷のような目と、背に生えた翼が、人間ではないと告げていた…。『お迎えに参りました、我らが主アールヴァル様』そう呟いて…あの子を連れ去った。まだ名も付けていなかったあの子を、仕方なく我らもアールヴァルと呼んでいる」

「…」

転生、だろうか。スツートの巫女姫、エリネーゼのように。何代も、何代も…。絶望は、そこまで深かったのだろうか。信じていたはずの人間の、裏切りは。

「我らは、竜を知らな過ぎた。一度、人と共に生きることを決めた竜は、決して元の世界には帰れない。人と魂を結ぶ契約をしてしまうからな。だが、それ故に、人からの裏切りは重いもの。居場所を失うも同義」

「それで、王様。私に何をお望みですか」

「…うむ。…アールヴァルとなってしまった我が子の呪いを解く方法が、見つかったのだ…。それを解呪したい。その為には…アールヴァルの元に行かねばならない」

「…そうですね」

「アールヴァルの事を知っている冒険者は、そなた一人。本来であればきつく封印されていた神殿の地下に立ち入れないのだからな。だから、そなたにしか頼めない。国としても援助をする。どうか、アールヴァルの元に辿り着けるようになったら…知らせてくれないか」

「つまりは、アールヴァルを」

「うむ、決して…倒す事など、しないでほしい」

「…分かりました」

そうして、王との謁見は終了する。王子はこちらをじろりとにらんでいた。「庶民風情が」とつぶやいていたのも聞こえていた。…何で私は、この王子の事を好きだったんだろう…?画面の向こうに居た時には、素敵に見えていたんだろうか。少なくとも現状では、素敵に見えないのだが…。

「アリサ、殿」

「…侯爵」

ぎこちなく他人行儀に呼び合いながら、空を飛ぶ乗り物の店に向かった。不愛想な店主が私をギロリとにらんだが、その後ろに立つ侯爵を見て、急にヘコヘコしだした。何て現金な。

「店主。この店に空を飛んで移動できる乗り物があると聞いたが」

「はい、こちらでございます」

…見た目はいわゆるセグ○ェイだ。タイヤが無いが、乗る足場があり、つかまるスティック部分があって。それと違うのは足場の部分に簡単な椅子が付いていること。座って移動も出来るようで、立ちっぱなしにならないので、楽っぽい。

スティック部分は伸縮して、4歳でもちゃんと身体に合った状態で乗れる。とても楽。

「お代は、こちら9万です」

「あ、はい」

9万を支払う。この世界の通貨、1ジェムが日本での10円くらいに該当するようだ。露店のジュースが10ジェム、ランチを食べると100ジェムくらい。なので、以前に購入したフローティアは1万ジェムなので…10万くらいか。それを4歳児が持っていたら驚かれるだろう、そりゃ。

9万ジェムを払ったら、ちょっと驚いた眼をされた。にらまれるような庶民だから仕方ないが…。前世のゲームで貯金しておいて良かった…。ただ、後ろで侯爵も驚いていた。ひょっとしたら、「冒険者稼業はそんなに儲かるのか?」とか思ってるかもね。正直、違うけど。

さて。侯爵の馬車に乗せてもらって、貴族街から出る。そこで、侯爵とはお別れ。また、いつか会えるといいな。いつか、正面からまた、「お父さん」て呼べたらいいな…でも、そうすると、お父さんが再び侯爵家を捨てることになるのかな。私が侯爵家の養子になるとか?ありえないな。


セグ○ェイもどきの乗り物、スティックフロート略してスティート。それに乗って、残りの材料を採りに行った。スティートの移動スピードは、フローティアより確実に早い。フローティアが大人の早歩きくらいだとしたら、スティートは自動車くらいの早さがある。この世界は貴族は馬車を使うような生活なのだが、それは優雅さとか、おおらかさとかの演出なんだそうだ。実際に、戦になったりすると、スティートも使われたりするそうだ。普段は貴族の大きな家の庭を移動したりする時に使うとか…。色々あるね。

しかしながら、スティートを使っても片道が半日かかる日程。出現する敵を倒したりしているうちにレベルがとうとう30に到達した。

LV 30

HP 983

MP 226

攻撃力 258

防御力 204

魔法攻撃力 263

魔法防御力 288

思えば随分、攻撃力とかHPとか増えたものだ。レベル1の時のHPなんて12だったのに、1000目前だ。

そうこうして、研究者に頼まれたアイテム、月虹の雫とセレスティアの葉を手に入れた。月虹の雫は、満月の夜、夜中の3時ちょうどにセレスティアの花にたまる夜露だ。セレスティアの花には魔力を与える力があり、満月の夜はセレスティアの花の魔力が一番強くなるのだそう。そして、そのチューリップのように器型に咲く花の中に、満月の夜にだけ、夜露が溜まる。その夜露はセレスティアの花の「魔力を与える」効果を一身に受けて、とても高級な魔法薬の材料として珍重される。しかも、その機会は年に2回、先月と今月の満月の夜だけしか無い。良いタイミングでスフォーファンドに来て依頼を受けたんだね、私。ただし、夜中の3時の一瞬だけ夜露がたまり、5分と経たずに露が消えてしまうのだとか。なので、露が消える前に小瓶に採取しなければならない。また、夜露の魔力は24時間経つと消えてしまう。何とかして、その前に街に戻らないといけないな…。葉は、花とは逆に、魔力を集める性質があるのだそう。不思議な植物。葉で魔力を集め、花から与えると言う事なのだろう、多分。

片道が半日かかる距離なので、こんな夜中の3時ではあるが、出発しないといけないかもしれない。もしも遅くなって届けられなかったら、これを入手できるのは11ヶ月後だから、研究者も待てないだろう。眠いけど仕方なく、アイテムを手に出発した。スティートは高さも自由に操れるので、森の木々より高く浮かび上がり、スティートからうっかり落ちないように体をひもで縛りつけて、スフォーファンドの方を向いて出発した。うっかり眠くなっても進んでくれるだろう、多分。4歳の身体に悪い事を重々承知で、アイテムポーチの中に入っていたアイテム「栄養ドリンク(睡眠から回復)」を飲みつつ進む。この栄養ドリンク、ゲーム中は一人旅では使えないんだよね。誰でもいいから一緒にパーティ組んでくれる人が居ないと、攻撃受けて眠ってしまっても、誰も回復させてくれないからねぇ…。なので、私のプレイスタイルでは、あまり使う事無かったな。あのゲーム、NPC以外パーティに入れなかったから…。2人までパーティに入れる事が出来たんだけども、前世の私は入れなかったんだよね。深い理由は無かったけども、どうせなら何らかの事情を持ってる人をパーティに入れたかった…のかもしれない。だからNPCばかりだったのかな、パーティに居たメンバーは。

そんな事を考えながら、ウトウトしつつも街には近付いていた。夜はとっくに明けていて、眩しかった朝日はいつの間にか真昼の日差しを注いでいた。ふらふらになりながらも大きなスフォーファンドの街が見えてきて、心の底から安堵した。このスフォーファンド地区に、空を飛ぶ魔物がほとんど出現しなかったのは幸いだった。

無事に、月虹の雫とセレスティアの葉を渡した頃には私はフラフラで、そのまま研究所の片隅で居眠りしてしまった。月虹の雫の効果が切れるには十分な時間があって、これなら大丈夫だろうと。しかし、こっくりこっくり眠っていた私は、突然ユサユサと揺すられて起こされた。

「冒険者のキミ、大変だ!」

「…え~…?」

「材料が1つ足りなかった!これでは完成しない!」

「え?」

眠かった目がバッチリ覚めた。

「何て言う事だ…浮遊の黄石が無い!」

「浮遊の…黄石?」

「ああ、この世にいくつもある訳でない、宙に浮く力を秘めた黄色く光る石だ」

「ええ?」

「確か…スツートの技師が持っていると噂で聞いたことがある」

「スツート!?」

「今からスツートに行って戻るまで…何日もかかる…。その間に、月虹の雫の効果は切れてしまう。ああ、もうおしまいだ…」

スツート…技師…浮く石…黄色…?

黄色?

…ひょっとして?

「あの、これ…」

私は壊れたフローティアを取り出した。壊れた時に割れて穴の空いたハンドルの下から黄色くて丸いものが見えていたのを覚えていたのだ。ちょうど、魔石を入れるケースの底の部分に当たる。ほのかに光ってたような気がしていた、そう言えば。

「こ、これは!まさに浮遊の黄石!そうか、この石に魔石や魔力を帯びた物質をを至近距離ぐらいに近付けて魔力を移し、浮遊の魔力にしていたのか。なかなか良いしかけだな…うむ、この術式は…」

壊れたフローティアを片手にブツブツ何かを言い出した。

「あの、これで良いんですよね?フローティアの解析は後にして、どうか研究進めてください!」

「あ、ああ、すまん」

そして無事に月虹の雫の効果が切れる前に、全ての工程が終わり、研究が完成したのだった。虹色に光る液体が小瓶に入って揺れている。

「あの、この研究って…?材料集めした後に聞くのも何ですが」

「ああ、これはな…『過去に戻れる』術式だ」

「過去に?」

「文献にはそう書いてある、それを見て…術式を完成させたくなってな」

「戻りたい過去があるんですか」

「いや、別に無い」

「…は?」

「別に術式を完成させたかったと言ったって、自分自身がそれを使いたいためと言う事も無いだろう?」

「それは…まあ…そうですけど~」

何だか…納得いかないのは何故だろう…。

「そうだ、君。この術式の試験者になってくれんか」

「は!?」

「ちょうどいいところに立っているしな」

「え!?」

足元を見ると、何やら魔法陣が書かれていた。不用心にも、そんなところに立っていたのだ。

「魔法陣に、この液体を注ぐ事で術式は完成する、いくぞ」

「ちょ、ちょっと待って!」

研究者はためらいなく、その小瓶の中身を垂らそう…として、中身を全部魔法陣にこぼしてしまった。そう言えば薬品落としたり爆発させたりしてる人だった…ドジっ子か。年齢40前後だろうに。

「ああ、しまった!」

「しまったって…え?」

小瓶の中身が魔法陣にこぼれて魔法陣が光り輝くと同時に、頭の中に突然浮かんだ、一つの言葉。それはゲーム中にも出てきた、割と良く使われた呪文。ゲーム中ではいつの間にか覚えてたけれど、確かにこれが誰しもが使えたら、色々不都合かもしれないな…。

「…トランスファー」

そっと呟いた言葉は、いわゆる、「一度行ったところに戻れるワープの呪文」だった。

「過去」に訪れた場所に「戻れる」呪文…確かにね。

きらきらと光の粒になって光速移動した自分が目的地で再形成される。そんな呪文みたいだ。毎回自分が細かい粒子になって再形成って、違和感がすごい。

目の前にあるのは、ライル村だった。誰も居ない、がらんとした村。少しだけ自分の家を見て、結界の揺らぎが無い事と、お墓が掘り起こされたりしていない事を確認した。畑は枯れて雑草が茂り、家はコケが少し生えたりつる草が絡んだりしてきている。それだけの時間が過ぎたのだろう。そう言えば、私もあと2ヶ月くらいで5歳になる。ううむ、時間が流れたものだ。

このままフォルワンの町に顔を出して、ストラーダのみんなに会ってこようかとも思ったが…会ったら甘えてしまいそうだから…。

だから、唱えた。

「トランスファー」

スフォーファンドに戻るために。

私はRPGでは一人旅はしないタイプです。

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