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エスリール.3

「わあ、きれい…洞窟の中なのに、明るい…泉そのものが光っているみたい」

泉の中にある透き通った水晶を1つだけ頂く。神聖な雰囲気を醸し出しているそれを、大事にアイテムポーチに仕舞う。

――大事な物、封魔の水晶を手に入れた。

「これを使えば、きっと」

ただ、大神官から、取り付いた魔物を剥がさねばならないだろう。大神官の肉体が死なないレベルで、でもダメージを与えないといけない。加減が難しいな…。ぎりぎりまでダメージを与えないと、定着が揺らがないと本人が言っていたのだから。

何か効果的なアイテムとか武器とか無いだろうか…。アイテムポーチを泉の前でゴソゴソ漁っていたら、何かがポチャンと泉に落ちた。

「あ…」

泉に落ちたのは、銀のナイフだった。落ちたナイフを拾おうと手を伸ばしたら、不意にナイフがきらきらと輝き、強い光を放った。

「!」

やがて光がナイフに吸い込まれ、水の中、ナイフは小さな光を放っていた。

それに手を伸ばし、水から掬い上げる。ケースからナイフを抜いてみると、銀色だった刀身は虹色になっていた。アイテムの説明文を見て、驚いた。

『魔が厭う銀が聖なる泉の力を得て、ランクアップした』

ナイフの名称が『神聖銀のナイフ』になり、攻撃力が上がり、聖属性までついた。これは、聖なる力を苦手としている、あの大神官の憑依魔に効果があるだろう。…きっと。


そして神殿に戻り、再びこっそり侵入する。目的は大神官だけで、それ以外の神官は大神官に従っているだけだ。中には大神官同様、魔物が乗り移っている人もいるかもしれないが、全員ではないだろう。

そうして、そっと大神官の部屋をのぞいてみた。

「ああ、違う、違う、違う!」

大神官は荒れていた。大神官の前には倒れている男性。前と同じように、ジョブレベルを吸い取ったのだろう。

「あんな極上の獲物を知ってしまったら…こんな小物では満足できない」

足元に倒れる男性を、汚い物でも見るような顔をしていた。赤く光る眼が悍ましい。やがて、いらいらとした顔で、部屋から去って行った。倒れた男性は隣室の神官が運び出して行った。

こっそりと、大神官の後を付いていく。大神官は、どんどん神殿の地下に向かっていく。はて、ゲーム中にこんな場所、あっただろうか?

神殿の地下深い場所、大きな鍵がかけられた扉を大神官が開くと、何とも言えない湿った空気が漏れてきた。

「おお…」

大神官は、目の前にある銅像に駆け寄った。それは大きな黒い竜の像で、目に赤い宝石が嵌められている。どうやら、これがラスボス…アールヴァルの像なんだろう。

「アールヴァル様…、ああ、貴方様が力を得て輝く姿を、夢見ておりましたのに…」

像の前に大神官は跪く。

「貴方様の元に、最上の供物を捧げます。あの娘を探し出します。貴方様が力をまた一つ得て、美しく闇の輝きを放てますように…」

「…」

それを後ろから静かに見ていた私だが、静かに装備を整えた。神聖銀のナイフの他にも、遠距離可能な武器、銀のハーフプレート、破邪の石言葉を持つマラカイトのサークレットを装備して、大神官の前に姿を現した。

「お前は」

「私の力をあなたになんて渡さない。大神官の身体から、あなたを追い出してやるわ」

チャ、とナイフを構えた。

「…生意気な」

大神官も杖を構えた。


戦いは壮絶だった。互いに魔法を打ち合い、距離を取って矢を放ち、距離を詰めてはナイフを振るう。相手も杖を振り、打ち据えてくる。やがて、大神官の鳩尾に、私の放った魔法が深く当たった。

「ぐう、おお…」

大神官は倒れ伏し、ゆらゆらと身体から黒い靄が上がる。

「くう、定着が…」

私は急いで駆け寄り、大神官の身体と靄の間に細く糸のようにつながる部分にナイフを振るった。ぷつ、と音を立てて、大神官と靄のつながりが切れた。

「ぐあ、ああ…貴様…」

靄が赤い目を光らせている。

「そうか、もう大神官に用は無い、お前に取り付いてやる!」

「いいえ、そんな事させない」

私は封魔の水晶を取り出し、かざした。

「!それは!」

「さあ、忌まわしの魔物よ、封印されなさい!」

白く清浄な光が周囲に満ち、黒い靄は水晶に吸い込まれていく。

「やめろ、やめ、ああ…」

靄はやがて跡形もなく消え去り、透き通っていた水晶は、どんよりとした色に変わった。

「さて、後はこれを」

水晶の洞窟の管理者に話を聞いていた。あの泉の水をきれいな瓶に汲んでおいた。その水の入った瓶の中に、その淀んだ水晶を入れる。そのまま一昼夜置いておくと、水晶の中の魔物は浄化されて、魔物は死滅するのだそうだ。

ポチャ、と水晶を水に沈めて、少し横に置くと、倒れ伏した大神官に駆け寄った。

「大丈夫ですか?」

「うう…」

息はある。慌てて回復魔法をかける。今はレベル2に上がったヒールを、何度かかける。やがて傷はふさがり、大神官は目を覚ました。

「ここは…私は…一体…?」

「良かった、気が付かれたのですね」

「お嬢ちゃん…いや、貴女は?」

そこで、今までの一連を話した。大神官は深く頭を抱えていた。それはそうだろう。操られていたと言えども、傍からすれば、大神官が力を奪ったりしていたのだから。

「ああ、この杖か」

大神官は赤い宝玉の杖を手に持つと、周囲を見渡した。

「この部屋は…かつて、この国は…二体の竜を信仰していた」

「二体の竜?」

「その名はヴァティルとアールヴァル…一般的には金の竜と黒い竜の姿とされている」

「!」

「だが、いつしか…黒い竜を人は厭うようになった。黒は闇の象徴とされて。金の輝きを光とみなして。光だけを求めるようになっていった」

「…そんな」

「そして黒竜アールヴァルは願ったのだ。人の心を得られぬのなら、人以外の心を。厭われ、寂しさのあまり…自らの力で魔を産み出してしまったのだ」

「…なんて」

「しかし、アールヴァルの寂しさ…そして怒りは、産み出した魔物にも受け継がれてしまった。それ故に、魔物は人を憎み、人を襲い、奪う。私に取り付いていた魔物も、そうして人から力を奪っていたのだろう。自らの主…いや、親をいじめる奴らなど、要らないとばかりに」

「何だか…誰も幸せじゃない話です」

そうして、そのアールヴァルの像を置いた部屋は、再び大きな鍵で部屋を閉ざしたのだった。大神官はこの部屋の意義だとか意味を知っていても、一般の民にとってはアールヴァルは敵で、魔物を産み出す存在で、恐れるモノなのだ。

大神官は、地上の、美しく整えられた祭壇の前で、赤い宝玉の中に奪われていたスキルレベルを解放したのだった。元の人の中にスキルレベルは戻り、全ては元通りになったのだった。今後、スキルレベルを奪われていた人への説明はあるだろうが、きっと元に戻るだろう。

「冒険者アリサ殿」

「はい」

「この宝玉を…持って行ってくださらないか」

「え?」

「この宝玉は、この地に、大神官の手元にある事で…災いを生んでしまった。代々の大神官の力を得た玉でしたから、この玉を手にしていれば、人々へのスキルの与奪も可能でした。魔物はそこに目をつけ、人々の努力の証を、満ちたスキルの力を奪っていたのでしょう。この玉の力を持ってすれば、たとえ魔物でも、大神官の身体を例え乗っ取らなくても大神官のふりをすることも可能でしたでしょう。今回は自身が実体を持たないタイプの魔物であった故に、私の身体を乗っ取ったのでしょうが…。今後は玉に甘える事なく、再び修行をして、自らの力だけで与えられるようになります…今後、私の跡を継ぐ者にも、そうしてもらいましょう。これも、弛んでいた私へ、神が与えた試練として」

――大事な物、赤い宝玉を手に入れた。


その後、疲れ果てた私は大神官の厚意で神殿に泊まらせてもらった。清らかな水に満たされた、瓶の中の封魔の水晶は翌朝には淀みがほとんど消えていて、昼には完全に淀みが消えていた。その水晶をエスリールの町の冒険者ギルドに持っていく。残っている魔力を取り出し冒険者カードに移したら、冒険者レベルが6になったのだった。

魔物が浄化され死滅し、残された魔力も吸い出されて空っぽになった水晶を返しに行ったら、水だけ交換してもらい、そのまま水晶を持っている事を薦められた。

「貴女は冒険者です、今後もこういった事が無いとは言えないでしょうから」

「ありがとうございます」

一端の冒険者と認められたようで、嬉しかった。

「さあ、行こう」

いよいよ、私は王城のある町、スフォーファンドに向かう。もし、あの王子に会えたら…何て言おうか。いや、声をかけて許される雰囲気なのかな?ゲーム中でも一度ラスボス倒すまでピリピリ…と言うか全く受け付けてくれなかったもんな…あの王子。

あの王子…名前は何だったかな。

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