スツート.3
そうして、残りの3つの依頼も無事にこなした。ディオマ山…スツートからフローティアで1日かかる距離にある、スツート領のはずれにある活火山で採取される、金色に輝く溶岩。それから、そのディオマ山のごく一部の、風が吹き荒れるがけにわずかに咲く、エリスリアの花を採取し、スツート領の洞窟の奥深くに咲く真珠草と呼ばれる、白く輝く丸い花を咲かせる花の実も採取した。そうして、イベントを全てこなす事が出来た。基本レベルは14まで上がり、戦いもだいぶ楽になっていた。
「エリネーゼさん、これで全部ですよね」
「…ええ、これで…頼んだものは全て」
相変わらず、11歳と思えない表情を浮かべる少女。
「これで、やっと…願いが叶う」
「願い?」
「そう…私の運命に巻き込んでしまった、あの子たちも…やっと…」
「??」
そう言うと、彼女は4つの収集アイテムを持つと、部屋の隅にあった本棚に置かれていた水晶玉にそっと手を添えた。水晶玉が淡く光ると、本棚の横の壁がポカリと開いた。
「隠し部屋?」
「…そうよ。ここで儀式をするの。ずうっと…願っていた儀式をね」
振り向いた彼女の瞳には、何故か一抹の寂しさが宿っていた。それは、やはり11歳の子供が浮かべるものではなかった。
執事とメイド長、私とエリネーゼ。4人は隠し部屋の階段を降りていた。何故執事とメイド長が居るのかと言うと、エリネーゼが呼んだからだ。
「時は来たわ」
と、それだけを。その言葉を聞いた二人の表情は引き締まり、淡い寂しさを浮かべる。何故、そんな表情をするのか。私にはまだ分からない。
「えーと、門番のカイさんは、いいんですか?」
「…カイは、関係ないもの」
「下手に儀式に参加させてしまうと…巻き込んでしまうので」
巻き込んでしまう?何の事か。
カツン、カツンと階段を降りると、やがて一番下に着いたようだ。扉がある。エリネーゼが金の鍵で扉を開ける。部屋の中は6畳くらいの広さだろうか。ものは何も置かれていないが、部屋の中は淡く青く光り、暗くはないが、落ち着かない。
床には魔法陣が書かれ、魔法陣の中央にはランプのような何かが置かれていた。
「デルタ…イータ…。やっと、今日で何もかもが終わるわ」
「…はい、お嬢様…。いえ…エリネーゼ様」
「?」
何故、わざわざ名前を?
「代々、エリネーゼの名を継がせるようにしていたわ…。何度も何度も転生してきた」
「…え?」
転生?
「もう、何度目の『エリネーゼ』か、思い出せない…。デルタとイータも、元々の名前が違っていた事は覚えていても、最初の名前が何なのか、思い出せない」
ふわり、とエリネーゼの髪が柔らかく揺れる。
「この地…スツートの最初の巫女姫エリネーゼ…この地にはびこっていた魔物を追いやり、結界を張ったのは私」
「!」
「もう400年は前になるわね。その時は、ディオマ山に魔王が住んでいたの…それを追い出し、遠い地へ封印したのよ。その封印したのが今の王都の3つ向こうにある、エセブンディア」
ゲームでは7番目の地とされていて、ラストボスと戦う拠点だった。この2番目の地からは、はるか向こうのはず。そんな土地にまで飛ばして封印するなんて、エリネーゼの力ってすごいのね。
「魔王はとても強かった。私は瀕死になった。一緒に来てくれた二人の従者はかろうじて魔王を封印した時には息絶えていた…。こんな結末が許せなくて、私は転生の魔法を使ってしまった。新しい人生を送り、納得できる結末で逝きたいと…。でも、転生をするには、条件があった」
「条件?」
「私は、自分の血族の娘にしか転生出来ないの。そして、転生の魔法を使った際に、魔法陣を作った。その魔法陣は、息絶えていた二人の従者に少しかかってしまって、その二人も巻き込んでしまった」
「まさか、その二人って」
「…そう。デルタとイータよ」
エリネーゼの後ろで痛ましそうな顔を、二人はしていた。
「巻き込むつもりは無かった。そして、こんなに何度も転生を重ねるつもりも無かったのよ…。だけど、転生して、その命が尽きようとする時。勝手に魔法陣が発動したのよ」
「勝手に?」
「そう。それは、遠くに封じたはずの魔王の呪い。何度も人生をやり直させられて、死ぬことが出来ないの。死んだと思っても目が覚め、その姿は赤子。私は私の孫として産まれた。孫が産まれる直前に生を終えて、すぐさま孫として産まれてくる…。そうして、何度も何度も、自分の孫として産まれてきた。そして私の近くにいつも、デルタとイータも居た。時に友人として、時に兵士として、時に教師として、隣人として。何度も転生に巻き込んでしまった。
そして、私の魂はすり減って行って、魔力も転生を重ねるごとに枯れて行って…もう転生したくないのに、それを止める手段がなかなか見つからなかった」
カツン、と床に足音を響かせる。
「研究に研究を重ねた。何代にもわたって。そしてやっと、この4つの媒体を使う事で、転生を重ねる呪いを解除出来るようになるのを突き止めた」
風の力、エリスリアの花。水の力、海コハク。地の力、真珠草の実。火の力、ディオマ山の溶岩。
4つの力を秘めた媒体を使うことで、足元に展開する魔法陣に力を足し、発動するようになるのだそう。
「転生を重ねるうちに、魂に重く鎖で縛られる感覚が出来て。私はこの屋敷が建つ丘から出られなくなってしまった。自分で探しに行く事も出来なくて、歯がゆかった。冒険者ギルドに依頼を出したのだって、今のエリネーゼの祖母の時代の話よ。それだけ前では、依頼料が安いって言われても仕方ないわね」
「依頼料を変更したりとかは、しなかったの?」
「出来なかったのよね。デルタとイータは私から離れることは出来ないし、先代の…今のエリネーゼの祖母の時代は身体が弱くて、依頼を出した後に倒れて、半身不随になってしまって…それどころじゃなかった。今のエリネーゼに転生しても、幼い子供が『祖母の依頼の代金を変更したい』とか言いに行っても、『いたずらしちゃいけないよ』って追い払われるだけだったから」
もう、やっていたのか。
「だから、こうしてあなたが依頼を受けてくれて、本当に助かったの…。この丘から離れる事すら出来なくて、ただ、今世も何も出来ずに過ぎていくだけなのかと思ってた」
ふ、とエリネーゼは魔法陣の中央のランプに手をかざす。ランプがポ、と光ると、四方に置かれた4つのアイテムも呼応するように光った。やがて4つのアイテムの光は中央のランプに集まり、地面に書かれた魔法陣が、一段と強く光ったのだった。
「エリネーゼ…!」
声をかけると、顔だけこちらに向けた。その顔は、寂しそうであり、でもまた…嬉しそうでもあった。
「ありがとう…アリサ。あなたのおかげで…長い長い生を…終わらせられる」
す、と、デルタとイータも、エリネーゼに寄り添った。
「ずっと一緒でした。お嬢様」
「これからも一緒です…私たちのお嬢様」
やがて強い光が部屋を包むと…光は消えた。そこには、ただ真っ暗な空間だけが広がっていた。
「…えーと…あ、そうだ、『ナイトランプ』」
それは、光の球を作り出して、辺りを照らす魔法。ゲーム内では、夜限定でエンカウント率を下げる魔法だった。
光の球に照らされる部屋は、ガランとして何も無かった。魔法陣も消え、ランプも無かった。ぼんやり光っていた壁も、もう光らない。そんな中、光の球で部屋を照らしていたら、キラリと光る何かがあった。
「ん…?これは…」
それは、私が最初に見つけた4アイテムの中の一つ、海コハクだった。しかし、海コハクに模様なんて無かったはずだ。
青い球体には、金色のラインが引かれ、そのラインに沿って白く輝く小さな珠と、白い花びらのモチーフが彫られていた。そう、真珠草の実と、エリスリアの花の花びらみたいな。金色のラインはディオマ山の溶岩の色に似ていた。
「…貰っていくわね」
――大事な物、青い宝玉を手に入れた。
隠し部屋から出ると、エリネーゼの部屋の中央に、門番のカイが立っていた。
「カイさん」
「エリネーゼ様の気配が、消えました。ずっとずっと、傍にあった気配が」
「カイさん…?」
「行ってしまったんですね…エリネーゼ様…そして、デルタさん、イータさん」
手にしていた槍が、手から離れて床に落ちる。
「僕を残して」
「…え…?」




