プロローグ
「はぁ……、はぁ……、くそ!」
夜の街、一人の青年が怒りを滲ませ、唇を噛みしめて血が吹き出ている腹を右手で抱えて暗い路地を走る。
「これさえ……、これさえなければ……!」
青年は怨嗟に満ちた目付きで左手に持ったスマホを見る。
スマホの画面には『BATTLE!!』と可愛らしいフォントで書かれた文字と共に少しずつ減っていく数字、そして『シュウVSアリス』と書かれていた。
「くそっ!」
シュウは怒りを滲ませ、顔を怒りで歪ませながら適当な場所にあったゴミ箱の影に隠れてスマホの画面を操作し始める。
(あいつらには『これ』を知って貰わないと……!)
シュウが要件を手短にスマホの画面に打っていく。
「よし、これで―――――
「みーつっけた。」
「ひっ!!」
送信した瞬間、シュウは上を見上げて怒りで歪ませながら赤くして顔が一気に恐怖がへばりついき蒼白な顔になってしまった。
見上げた先に居たのはシュウと同年代くらいの少女だった。
黒いゴシックロリータのドレスを着込み、肌は病的なまでに白い。爛々と輝く朱色の左目と藍色の瞳がぞっとする程の魔性の気配を醸し出し、腰まで届くほど伸ばした白髪が風に靡き、小柄な体が華奢な印象を与える。
だが、その両手に抱えて持っていたのはその小柄な体と華奢な雰囲気には到底見合わない……軽機関銃『ミニガン』だった。そして、それに付随するように弾丸のベルトを体に巻き付けていた。
ミニガンはアメリカ軍が採用した本来は単身が持つのではなくヘリコプターに銃架をつけて使用するものである。断じて少女が身軽そうに持っている物ではない。
「た、助け……!」
「それじゃあ……死んでね。」
少女は優しい笑みを浮かべた瞬間……
バババババババババババババババババババババババババッ!!
ミニガンから火が吹き、シュウの体を蜂の巣にしていく。
(何があっても……『これ』には巻き込まれるんじゃねぇぞ……!)
シュウは最後の瞬間、自分のスマホの画面を見た。
画面には髪を赤く染め、子供のように笑う青年とボサボサな黒い髪を後ろで束ね、肩を組むシュウと赤髪の青年と一緒に笑う青年だった。
そして、雷のような音とともにシュウの意識はブラックアウトして二度と明るくなることはなかった。
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「Cランク……。最近成長株と言われていたけど、やっぱりこの程度だったのね。フフフ、笑わせてもらいます。」
肉塊となった対戦者の血溜まりの中で少女――――アリスは邪笑とも言える表情で笑っていた。
アリスにとって人の死は日常。
自分が殺した相手には執着を見せず、ただ無意味に、残酷に、無情に殺していく。惰性と退廃とも言える生活で、彼女の周りには血と数多の屍が積み上がっていくのだ。
「にしても……やっぱり重い。」
つまらなさそうにミニガンを片手で投げる。
ミニガンは重い地面に触れた瞬間、無音で地面に落ち、急激にに融けていく。
「やっぱりミニガンみたいな軽機関銃じゃなくて、UZIやスコーピオンの方がいいかな?」
まるで次の日の食事を言うかのように独り言を呟きながら対戦者のスマホを手に取る。
「さあって……新しくこの世界に入れましょうか。」