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LOSERは遠吠えしない。  作者: 高瀬涼
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孤独な赤ずきん-04

先ほどの人狼に撃ちこんだ弾は二発。

リタたち、赤ずきん≪レッドフード≫に支給されている猟銃は、弾を手動で装填する単発式、弾倉が内部にあり、七発込めることができた。

あと五発。仮に接近戦になった場合のことを考えていた方がいい。

彼らは普通の獣ではないからだ。


森の凸凹道をリタは身軽に駆けていく。

他の者はいつも遅い。

赤い衣を翻し、リタは黒い獣に追いついた。

まだ、陽は高い。

獣は黒色ではなく、灰色であることがわかった。 


「リタ、お前は引っ込んでいろ!」


父の声に動きを止める。右を見ると父と幾人かのハンターが走ってきていた。

リタは父もこの森にいることを知らなかった。

予定にない追跡。

灰色の人狼だから、父は必ず仕留めるために自ら赴いたのだ。


「リタ、母さんを殺した人狼はどんな風だった?」


――あの日。

父は、幼いリタにすぐさま人狼の特徴を細かく尋ねた。

リタは混乱する頭で、黒くて大きな人狼、目は赤く、言葉を話したことを伝えた。

そして、その人狼を別の人狼が攻撃して自分が助かったことも。

でも、父からしたら人狼全て悪しきものだった。

リタだってもちろん、嫌悪している。

けれど、灰色の人狼が来なかったら自分も食われていたかもしれないと思うと、灰色の人狼だけは憎めないでいた。

命の恩人だからだ。


「私の獲物だ! ようやく見つけた! 必ず仕留めてやる!」


父は銃を構えて発射した。

響く銃声。

そして、連発する父。木々が多いため、狙いは定めにくい。


「どこ行った!?」


前方を走る父らとハンターらは見失ったらしい。

リタは耳を澄ませた。

人狼は、賢い。ただの狼とは違う。まだ遠くへ行ってはいないはずだ。

リタは、ふいに後ろを見た。

すると、木々の合間を行く灰色の背中が見えた。そこまで大きくはない。

この距離なら、当たる。

咄嗟に銃を構える。レバーをひき、ハンマーは起こされた。

あとは、引き金を引くだけだ。


「リタ、撃て!」


父の指示が飛んだ。私なら心臓を狙って一発で仕留められる。

銀の弾丸は灰色を赤く染めることができる。

けれど、別の思考が邪魔をした。


……灰色の人狼は今まで滅多に現れなかった。

とすると、あの人狼はきっと私を助けてくれたやつに違いない。

それとも、あの日既に黒い人狼に殺されてしまったのだろうか……?


――迷った。

手が震えて動かない。

すると、一瞬にして射程距離から外れる。

灰色の人狼は森の闇へと消えて行ってしまった。


父が速足でやってきて、無言で私の頬を強くひっぱたいた。

怒りを押し殺した声でリタに言う。


「お前には失望した……っ」

「…………」

じんじんと痛む頬。私は結局、それでも泣くことはできなかった。

あの日からずっとリタは泣けないでいる。

泣き方、恐怖を忘れてしまったのかもしれない。


父と、行動を共にしていたハンターたちはその場を去っていく。

残されたリタの顔をみて、ラインハルトが大げさに騒いだがリタは、痛みよりもこれからの自分の処遇について考えていた。

父の直属である先鋭部隊からはきっと外される。

 

仇を討てなかった私に用はない。







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