非日常な日常
子供の頃はいつかこんなことが自分にも起こったらなんて思いながら漫画やアニメを見ていました。
こんな世の中でも、少しくらい不思議な事があってもいいんじゃないか。
それは僕が昔から思っていることだ。
世の中にはまだまだ解明されていない謎が沢山あるという人もいるだろうけど、僕が言いたいのはそういうことじゃない。
自分のパートナーのようなモンスターを連れて異世界を旅するとか、勇者になって魔王と戦うとか、妖精が現れて魔法使いに変身するとかそういった類いのあれだ。
子供の頃はいつモンスターが僕の前に現れてもいいよう、仲良くなれるためにお気に入りのお菓子を持ち歩いていたり、いつ勇者になってもいいように強くなろうと木の枝を振り回したりしたものだけどその願いは大人になっても叶わなかった。
将来の夢は勇者か魔法使いだった僕は気付いたら普通の会社に入って、毎日代わり映えしない業務を淡々とこなしていくだけのつまらない日々を過ごしていた。
「はぁ…、今日も終電ぎりぎり…」
好きでもない仕事を毎日日付が変わるギリギリまでやって疲れきって帰宅。
そんな毎日に嫌気がさしていた。
「なんか不思議な事が起こって異世界にでも連れてってくれないかな…」
そう呟いた瞬間だった。
ポトリ
目の前に鍵が落ちてきた。
それは僕の拳くらいの大きさで、立派な装飾がされている。
金持ちの屋敷の鍵とか、金庫の鍵とか…?
僕には縁のないところの鍵なんだろうな、とか考えながら一応人として落とし物を交番に届けようと鍵を拾った瞬間。
すっとどこからともなく大きな扉が現れた。
「えっ!?なんだ?」
つい叫んでしまった僕を周りの通行人は不思議そうな顔をして見ている。
他の人には見えていない…?
道を塞ぐほど大きな扉があるにも関わらず、僕以外の人は驚くこともなく避けて通ることもせずなにもないように真っ直ぐ歩き続けている。
「この鍵を拾ったからか…?」
自分にしか見えない扉、不思議な鍵。
自分はこの鍵に選ばれたんだと思うと気持ちが昂る。
ついにこの時がきた。
長年の夢が叶う瞬間だ。
僕は鍵を扉の鍵穴に差し込んだ。
ガチャリ
開いた!
さらば平凡でつまらない人生!
扉を開けると向こう側は光に包まれていて何があるのか見えない。
だけど今いるこの世界よりきっと素晴らしいところに違いない。
僕は扉をくぐった。
「おい、いつまでぼーっとしてるんだ!出勤したんだったらさっさと仕事をしろ!」
「え…?」
あれだけ眩しかった光がいつの間にか見慣れた蛍光灯にかわっていて、目の前にいたのはパートナーになってくれるモンスターでも、魔法使いに変身させてくれる妖精でもなく、唾を飛ばしながら怒鳴ってくる会社の上司だった。
「そんなだからお前は他のやつより仕事ができないんだ、まったく」
「…すみません」
僕はいつものように自分の机に座った。
やっぱりこの世界に不思議な出来事なんて起こらない。
あるのは代わり映えしない日常だけだ。