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歌奏和伝  作者: 自由のメガネ
始まりの初夏
9/65

ー伍ー「食えぬ少年の企み」

長めです。

途中、違う人の目線になります。

 僕達のいた広場から見えた街並み…街までの道のりは迷う分かれ道も殆どなく、程無くして着く事が出来た。

上から見た時から人の多さには目がいったが、降りてみると活気のある様が肌身で感じられる。


圧倒される僕とは別に、どんどん進んでいく人もいたりする。


「あっちの方行ってみようよ!」


「あ…」


道中の交流で、僕も含めて(重要)五人の心の壁はより薄くなり気軽に話せるようになった(多分)。

其の最もたる例として物珍しい物を見つけ、もっと近くで見たかったらしい白菊さんが連れて行かれながらも其処まで拒んでいる様子の無いさえちゃんと一緒に行ってしまうのを男子三人勢で見送って、


「…僕らも行こうか」


「取り敢えず真っ直ぐ歩いてりゃあ、あいつらも見つけ易いだろ」


「そ、そうだね」


心中スタートダッシュで躓いている事に気づきながら、彼女達と逸れ過ぎないように街の散策をする事になった。


              

                 ※         ※



「やっぱ、変だな」


 しばらく自由に眺めながら並んで歩いていると白夜が口を開いた。


「分かった。白夜が言ってるのは此の街に入る時に通った門の見張りだね」


 当たってる?と夜明が白夜に伺うと、白夜は「ああ」と短く肯定した。

僕は直ぐにはピンと来なくて、門の前に刀を持った人がいたのを知っているかという言葉で誰を指すかを理解した。

街に入る際、入り口になるだろう場所には大きな木製の門があり、其れ以外の場所は二メートル近い塀で囲まれ、門以外に入り口は無かった。

僕達は牛に作物やらを乗せた荷台を引かせる農民らしき人達に交ざって堂々と入ったわけだけど、門の端と端に二人ずつ、計四人刀を腰に差して通る人通る人を観察する人達がいた。

彼らが二人の言う見張りさんなんだろう。


「穴が開きそうなくらい見られてて、怖かった…よ」


「僕らの場合、学生服だからね。見る限り和装しかいないのに、止められなかった事に驚いたなぁ」


「あいつら、人よりも人の足元に注目していた。大方、人とは別のものを見張ってんだろうよ」


「足元…かぁ」


 白夜の言葉から其の正体を予想してみる。

人の足元程度だとすると、大きさは限られる。小さな動物だと思うけど、刀を持つような人が怖いと思うのだろうか?

腕を組んで顎摩ったところで分かるもんじゃない。


「鼠とかなら少し前に疫病が流行ったとかあるかもしれないよ」


「な、成るほど」


「まぁそんな答えが後々分かるか分からないかな問いは隣に置かしてもらって…結構歩いたね。僕としてはそろそろ現代は勿論、タイムスリップの線もなくなってきたんだけど…」


 夜明の言う通り、僕も僕なりの歴史の知識で可笑しいと思う部分を様々見つけた。

例えば、隣り合って門を通っていた人達、僕は見張りのみ散々刀を差しているとしたけど、実は彼ら、刀を持つ事を許されなさそうな立場の人達も刀を持って街に入った。

文字の通り持っていた。差しているのではなく、牛を連れた、または自分で大荷物を背負った二~三人の組で一人が両腕で抱きかかえるようにして。

農民に刀を持たせると一揆等の種になりそうで許される事ではないんじゃないかと勝手に思っているけど、彼らは白昼堂々と其れを許されているらしかった。


 ちなみに、街の人々は刀を所持していなかった。

何度か見た刀を所持していた人は、頭こそちょんまげではないものの服装は時代劇で見るザ・武士…侍と思われる人のみ。

此れがまた不思議で、時代が分からないにしろ明治以前なら侍は農民・町民から「ははー」と頭を下げられる偉い存在であるイメージがあったが、目の前にあるのは侍の隣を普通に街の人が素通りする風景。

身分の差は見たところあまり感じられない。

そういえば、一緒に入った人の服装も汚れは目立っていなかった。


「んな事、あれを見りゃあ一発で分かる事じゃねぇか」


 白夜は呆れたとため息を吐いた。

白夜の言うあれとは嫌でも目に入る、見える風景の大部分を占めるお城の事、其の大きさは生活に影響が出そうな日陰を常時作るぐらいの大きさとでも言えばいいのか。

ひたすらに大きすぎる。鯱の様な目立つ飾りは一切ないけど、そんなもの必要ないぐらいの主張をしていた。


「いやいや、一つの可能性として歴史に残っていないとも言い難いじゃないか。僕も公家の文化と武家の文化が交わるのか深く考えたいところだけど、確固たる確信があって欲しいのもあって…」


二人が不可解な点について話す横で僕は平安の建物に江戸の風俗画を思わせる店の様子を当て嵌めた大通りの日常風景を飽きず観光していた。






              

                




 段々と騒がしい、飛び交う強い声が聞こえると思ったのは、僕寄りの斜め前方に一際大きな人だかりを見つけてからだった。声もあそこからだと分かる。

声質は片や野太い男性の声で、片や年配の女性の声。

内容は分からないが、声の尖り具合から言い合いをしてるようだ。


「何があったんだろ…?」


「さぁな」


独り言に帰る言葉があって、来た方向を振り向くと白夜、そして夜明も話を止めて同じ方向を見ていた。

白夜は僕と同じ様な目で見ていたのに対して、夜明が人だかりを見て思案し、のち目を輝かして口角を上げた辺り考え着く事があったんだろう。

顔にイイ笑顔を当て嵌めた夜明は両手で白夜の片手を掴んだ。


「白夜クン、ちょ~っとだけ僕に付いて来てくれないかな。友は此処で待っててね」


言われた白夜は口の端を引き攣らせ、「ちょ、よあ」其れ以上の言葉を言わせて貰えなかった。

夜明は白夜の手を引いたまま人だかりに近づき、人と人の合間を簡単そうに縫って、白夜諸共中に入って行ってしまい、僕は二人の姿が見えなくなるまで呆然と見送るだけだった。



                 ※        ※



白夜サイド


 人混みの中で当たるなというのは難題であり、人に当たっては謝る事を繰り返しながら、俺は夜明に手を引かれるまま何処かへ連れて行かれていた。

何処かといっても、此の様子からは人混みの中心に違いない。

夜明は動ける範囲もあまりない間をすいすいと通り抜け、鼻歌は歌い何も言わず突き進む。

何を言っても聞く耳を持たない夜明に仕方がないから身を任せ、俺は聞こえてきた神妙な会話に耳を傾けた。


「またやってんのか、あいつ等」


「ああ、どうもあの店に目をつけたらしく、ここ最近は無い事を騒ぎ立てて店に悪評を立てているそうだ」


「そりゃぁ…お気の毒に。メシも美味しい良い店だから助けてやりたいのも山々なんだが…」


「腕っぷしだけは大層強い奴らだ。おいもお前も立ち向かったって息を吹かれて終わりよ」


曰く、大量に注文しては一切食べずにいちゃもんをつけて台無しにするとか。

曰く、いちゃもんを利用してお金を払ったところを見た事が無いとか。

曰く、店の人が口を出すと、外にまで聞こえるように「不味い」だの「居心地が悪い」だの「他のとこの方が良い」だのと騒ぎ立てるとか。

曰く、他にも色々やっていたものの店の損で収まっているからと店を仕切るおばちゃんは何も言わなかったが、本日店の人を自分達で転ばした拍子にお山の大将を張ってるやつに運んでいた飲食物を放り投げ、汚れた事に腹を立て殴って、遂におばちゃんの堪忍袋の緒が切れて始まったのが此の騒動だとか。


…全面的に男どもがクソだな、うん。

詳しく話を聞こうと意識を他の会話にも向けようとすると、身体にかかっていた圧迫感がなくなる。

人混みを抜けたようだ。

ついでに俺の片手をぎゅっと握って放そうとしなかった両手もなくなり、其の両手の持ち主もいないと気づき周囲を見渡すが、後ろまでは見ずにいた。

そんな俺に忍び寄る奴がたった一人。


「ドーン♪」


俺を此処まで連れてきてくれやがった両手の主、夜明である。

不意に押されバランスを崩し、俺は前のめりに倒れそうになる。

一歩二歩、三歩とバランスを保とうと足を動かし、何かにぶつかった御陰で転びはしなかった。

俺は後ろを振り向き怒鳴る。


「夜明!テメェなんのつも「おい、兄ちゃん」…あ゛?」


 振り向いたところに夜明は居らず、代わりに俺が後ろから話しかけられた。

顔を向ければ、見た目からして近寄りたくないタイプの大柄な男。大柄だが、目測百九十三センチで俺(百九十八センチ)に身長が負けてるから迫力が足りない、残念。

左右には男に負けない、但し男よりはチンピラ寄りの人相の悪い男達がずらり、俺を睨んでいる。

此方も普段から慣れているから迫力を感じない、残念。

身体を向き直してからは男の背後で男を怒った顔で見ている飲食店のイメージのままの恰幅の良いおばちゃんが見え、俺にガンをつける目の前の男が話に出ていたお山の大将なのだと気づいた。


「何邪魔してくれちゃってんの?今俺達の虫の居所が悪いの分かって邪魔しに来たってか、え゛?」


一向に怖がる素振りを見せない俺に男は怒りのボルテージを上げたらしく、態々胸倉を掴んで俺を自分に寄せた。俺の方が大きいから、足はついたままだ。

寄ると、こめかみに浮かべた血管がよく見える。

如何でもいい事を考えていると、男の頭の後ろに男を握り拳を掲げているのも見えた。


「無視してんじゃねぇぞゴラァッッッ!!」


男が握り拳を俺に向かって振り下ろす。何もしなければ、俺は殴られる。








 けどさぁ…こいつ、どんだけ非効率な殴り方をしているんだか…見ていて呆れしかない(男、こぶし振り下ろし中)。

こうやって相手の胸倉掴んでいる時は、見えない下方面から振り被らないで的確に溝内を狙うのが一番だと思うんだけどなぁ…。


あ、俺はやった事ないから、其れが本当は正しいのか知らないぞ。

見た目不良って言われて一般人から遠巻きにされて不良に喧嘩振られる事が日常で、自分が不良のつもりはないのに人を殴ったら、余計に不良扱いされるのは分かりきっているから今迄人を殴った事は一度もない。

知人が無類の喧嘩好きで、偶にそういう手を使うから一番効率的だと思っただけだ。


だからって、反撃しないわけでも無い。

俺は向かってきた腕を掴み、勢いを殺さず背中に乗せて地面に叩きつけられた…一本背負いされた男に一言。


「一発くれてやったんだ。正当防衛成立って事にしといてくれよ?」


夜明、後で覚えてろ。



白夜サイド エンド



                   ※        ※



 中に入っていった夜明達が心配で、人だかりの中に入ろうにも、二人がスルッと入ったのが噓のように入れそうにない。


「二人共…此の中に何しに行ったんだろ…?」


主に夜明だけど。

少し前から騒めきに紛れて地面に何かぶつかる音、地面を擦れる音も聞こえるようになった。

言い合いが手の出る争いに変わったのだとしたら余計に心配だ。

僕に出来る事は無いけれど、二人が無事だというのは目に収めたい。

中に入る努力をする僕に声を掛ける人がいた。


「友じゃない。何してんの?」


「…人だかり…すっごい……」


二人で行動していた白菊さんとさえちゃんが口をもぐもぐと動かしながら僕に近寄る。

手に持っているのは…イカゲソ?


「如何したの?そ、其れ」


「貰ったの!変わった格好してるけど可愛い嬢ちゃん達だから一本ずつどうだい?って。

ふっふ~ん、いいでしょ~」


「………うまうま…」


嬉しそうに答える白菊さん。さえちゃんも表情には出ていないが幸せそうなのが見てとれる。

ずっと食べ物を見ていなかったから忘れていた。寝る前に食べた夕食から今に至る迄、食べ物を口にしていない。

山を下るのもそれなりの労力を使い、漂うイカゲソの良い匂いも相まってお腹の空き具合を自覚した。


「で、友は?白夜と夜明は一緒じゃないの?」


「え、っと…」


 白菊さんが話を戻す。

お腹を擦りながら、もう片手で人だかりの中心を指差して状況を説明しようとすると、タイミングを合わせた風に差した先から夜明が出てきた。


「夜明っ!!」


「あ、やっほー」


僕が彼の名前を呼ぶと、夜明は僕達がいる事に気づき、手を振って傍にやってくる。

連れて行った白夜は一緒にはいなかった。


「けけ結局っ何しに行って…!」


 変わらずの笑顔、よりもハリボテチックに上を見る夜明に釣られ視線を上に移す。二人も上を見る。

騒めきが大きくなるのは分かった。人の声の波は僕達の方に直ぐやってきて、人だかりの端で途切れた時、遮るものがなく眩しく光が差していた所に一瞬影が差す。

遮ったものは直ぐ通り抜け、そう離れていない場所に落下する。

声を失って驚く僕達を前に夜明は淡々と言葉を並べた。


「僕らには此の場所で使えるお金は無いし、頼れる当ても無い。

でも、長く生活するには必ず必要。

着てる制服を売るのは最後の手段として、じゃあ如何しよっか?簡単だよね」


飛んできて、僕達の真上を通り過ぎたのは男性平均身長程度の悪そうな人相の男。



「売れるものが無いなら、恩を売れば良いじゃないか。

噂通りの腕前なら彼はきっとやり遂げてくれると信じてたよ」



男は地面にぶつかった衝撃によるものか、白目をむいて気絶していた。


男に目もくれず、中心にいるらしい白夜を見えない筈なのに見ている目は、あくまで楽しそうだった。

昔の生活状況や口調が現代っぽくなっている気がしないでもないですが、気にせずファンタジーにいきましょう。


誤字脱字、可笑しな点は無いでしょうか?

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