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歌奏和伝  作者: 自由のメガネ
変貌の秋
65/65

ー伍拾漆ー「梧桐 其の弐」

やっっっと、投稿できた


時間の流れ早い


次、いつできるかな


前々話の一部を改変しました。基本的に大枠だけ頭で考えて、行き当たりばったりで書き出して、前の話を見ながら筋を合わせるという感じでやっているのですが、長く色々考えていたのもあって物語筋に思うところがありました。変えずに如何にか、とも思ったのですが変えた方が妥当な気がした。変えたのは一セリフです。

生きる為に死ぬ事と、死ぬ為に生きる事は果たして同義であるのか。


儂の歌は、強くもないのに使うだけで己を殺すと、仲間内でも馬鹿にされた。

使うに値しない。

大きな図体から人の大きさに成ってなお、この体には強い力が残っていた。


その体を奮えばいい、と。歌は使わずに戦えばいいのだ、と。

何度も、何度も、言われた。


だが、儂に宿る歌が此の歌で良かったと思う。

身の丈以上の力を手にするのに代償を支払わぬというのは、儂の方から願い下げだ。

元より、空っぽの鬼の意志は、歌に依って形成されたもの。

歌を拒絶する事は、儂を殺す事に違いない。



儂は、死んだ様に生きたくはなかった。



たった一度でいい。たった一度、十全に歌を使い、全力で戦いたい。


その先に死が在ろうと、儂は胸を張って生を叫ぶのだ。



                  ※      ※


唖然とした表情を浮かべて、でも優しい白夜は、反射的にだろう、頭に巡った其れを言葉にした。


「歌を解いてくれ。………俺も歌を解く。其れで良いだろうがよ、歌無しで戦えば。じゃなきゃ、テメェは…」


白夜はたとえ生死の関わる相手であろうが、其の自壊によって勝つことを良しとしない男だった。


白夜は歌を《解こう》と、再度口を開いた。


喉の奥から音となる前に、遮ったのは梧桐だ。


「言っただろ。鬼は、歌と共にある」


口から出た血液を拭い、四股踏みの如く地面を踏みしめる。

既に砕けていた地面は更に砕け、土埃が舞う。

思いっ切り地面を踏みしめるのも、体に響くだろうに。梧桐は例の如く、体の至る所が腫れ、口元に血の跡が見えようとも、其の体は痛みを知らないように感じられた。


「少しばかり足を引っ張る部分があろうと、儂自身が否定なんぞ出来るものか。儂の全てを十全に使う事を決めた此の戦い。骨が折れる事がなんだ。其れも十全の内よ」


梧桐は、しっかりと地面を踏みしめる。

踏みしめた上で、真剣な眼差しで、


「頼む。此の儘、続けさせてくれ」


梧桐は、白夜に言う。


「儂は此の戦いを、生きたいんだ」


今もまた、立っているだけの彼から、パキリと、罅の入る音が聞こえる。

其れでも真摯に、願う梧桐の姿に。


「…あぁ………あぁ!分かったぜ、梧桐。テメェの全力に、俺の全てで答えてやる!!」


白夜は噛み締めて、答えた。

其れは敵と呼べる相手にする顔なのか、とても頼もしい表情である白夜に、梧桐は満足気に笑った。



                   ※     ※



白夜 サイド


夏と秋の切り替わる何時かの日に、話していた夜明は言っていた。


「結局さ、歌の此れがやり難いとか、何でこんな仕様なんだよ!…って嘆いたって仕方無いんだよね。歌は気が付いたら此の世界で使えるようになっていて、そういうものであって、何言ったって変わる事は無いんだから」


 縛りの多い夜明の歌。俺には到底使えそうに無い。

日頃から其の話題はこっちが聞いてようがいまいが口にしていて、今日も同じく部屋でまったりとしていた俺に対して言っているらしい其れを流しで聞いていた。


「歌と歌い手の繋がりというものを僕は理解しきっていないけど、此の歌が僕の下にあるのは、きっと僕に使い熟せるものだからなんだろう。なら、使い熟してみせるさ。


不満のあるところだって全て抱き合わせて、「だからどうした」って鼻で笑って」


あいつは、不満を常々と口にしていたが、決して目を背けず、暇な時には藤姫様の作った空間で歌意の使い方を探し続けた。


 其れから少しして、慧鬼の集めた鬼の群れや唱鬼に対して夜明は歌意を使った。其の歌の、彼にとってやりにくい部分を全て考慮して、作戦を立てて。

時には、二度は通じない場面で自分の歌意を態々、ブラフに使用した。

あいつは俺達の中じゃ、戦える方じゃないし、何方かというなら守られる側だったけど、あいつは、あいつの出来る事をやったのだ。





 梧桐の言う通りだ。俺は怖がり過ぎていたのだ。歌意を相手の反応からしか判別できないから。確実に通用するように、慎重に、相手の思考の合間を縫って、歌意を潜ませた。其れで俺は、俺の歌意が問題無いと思ったのだ。思おうとしたのだ。

其れは、さながら鳥を鳥籠の中に閉じ込めて、鳥が其処にいると安心するようなもの。


だが違った。歌という鳥が欲していたのは、鳥籠の外の自由だった・


幻なのか、はたまた精神の何処かなのか。

俺は一つの木製の橋の前に立っていた。殿の庭で、池の上に掛かる橋の作りをしている。

其の下を水の代わりにきらきらと輝く粒が流れ、川を構成する。粒は星で、其れは天の川を表すものだと直感的に理解した。

木の茶色に白を振り掛けたような橋の手摺りの上に、小さな鳥が一羽。

影を固めたような形の見えない其れが橋と川以外は暗い中で目立ったのは、小鳥の周りが白く縁取られていたからだ。

小鳥は俺を見ていた。だが俺が小鳥に気が付いてからは、小鳥はそっぽを向いて、飛び立った。


其の飛び方は、とても自由で、楽しそうだった。


あぁテメェは、そうやって飛びたかったのか。


白夜サイド エンド



                 ※        ※



 それからの二人の攻防は……そう、泥臭いという言葉が似合うだろう。


 今も白夜は、梧桐は、互いの顔面目掛けて己の拳を奮った。

白夜は、避ける事に意識を置き、頬を掠めた。しかし、避けてなお、拳の重さは変わらず、白夜の頭を揺らした。

梧桐は避けようとせず、思いっ切り頬にめり込んだ。されど、白夜とはいえ、人間の素の力程度だ。車に跳ね飛ばされる程じゃない。

結果からいえば、入ったダメージはどっこいどっこいというところだ。


白夜は頭を揺らされようが構わず、白夜は次の行動に移った。

足を一歩前に踏み込み、梧桐の左方向に移動…白夜の歌意に影響を受けていればそういう風に判断しただろう。

彼は、タイミングを少々ずらして、左方向に移動した。


梧桐は少し目を動かして、息を吸い、()()()()()()()()()()()()()手を伸ばし、襟を掴もうとする。


白夜は、()()()()()()()()()、ひらりと躱して、()()()()()()()()()()()叫び、詠う。


「『鵲の 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける』っ!!!」


 僕からも、白夜の中で何かが変わったのが分かった。目に見えてはっきりしているのは、彼の戦い方だ。彼はずっと、歌意が対象としているものをバレないように、丁寧に丁寧に扱っていた。そうしなければ、歌意の影響が何時消えたか分からないからだ。

其れが、今は逆だ。()()()()()()()()()()()()()()()()。上手くいけば御の字、バレてしまえば堂々と詠い直す。

其の行動が相手に見られていても良いのだと。


其れ故か、白夜の動きから一つ、固さと呼べたものが消えていた。


僕は彼を見て、何となく、こう思ってしまった。







まるで、鳥が自由に飛び始めたようだ。










                 ※          ※



ノーサイド


ゴロッ


 其れは、音にすればそういう表現をするような、小さな小さな石が、足の下を転がっただけだった。

しかし其れは、特に白夜にとって、大きな転換となった。


素早く動き、梧桐を惑わせていたのも束の間、白夜の意図しない形で身体が動かされる。

たかが小石一つ。時間は秒にもならない。

されど、相手にチャンスを与える時間ができてしまった事も事実。


梧桐は其れを見逃さなかった。

白夜の顔に、影が差す。大きな拳が太陽の光を遮る。

顔に当たったならば…寧ろ、痛みを感じる前にあの世に辿り着くだろう。


ドゴォッ


鈍い、音がした。

音がする前から最悪を見たくない心境から目を閉じていた友が目を開くと、幸いな事に白夜の顔面は形を保っていた。


其の代わりに犠牲になったのは、何時かと同じく腕だった。

拳が届く前に、顔の前に手を翳し、拳に触れ、其の方向をずらした。


もろに受けた腕は、外側こそ腕の原型を保っているが、じわりじわりと内側から赤に染まっていく。筋肉も骨もたった一撃でズタズタになった。

だが、白夜は其の腕に力を入れ、受け止めた拳を握りしめ、自分側に引っ張る。

使い物にならなそうな見た目からは想像のできない力で引っ張られた梧桐はまんまと引き寄せられ、白夜は梧桐の頬を逆の手でぶん殴った。


反動で、二歩下がる梧桐。


「くはっ」


しかし梧桐は吐き出すように笑う。

ダメージにはならないが、予想外の反撃に、零れてしまったようだ。


「……ははっ」


白夜も抑えられないように笑い声を漏らす。

其の腕は、痛い所か、気絶したっておかしくないものであったが、興奮しきった感情が精神を繋ぎ止めていた。







 梧桐は思う。

其れは友と同じく、白夜の動きが変わったという事。


ただ、何処を騙すのではない。


あからさまに騙しを入れる事もあれば、騙しているように見える手法も使い始めた。と思えば、騙しているようで本当に騙している事もある。


そして、彼は拳を奮いながらも堂々と歌い直す。


梧桐は今、白夜の歌に黒い小鳥のようなものを幻視した。


目には見えない鳥は儂の中を飛び回る。頭の中で、儂は鳥を捕まえようと追い掛け回す。現実では殴り合いをしながら。ああ、忙しい。

其れは白夜も同じか?否。

彼は歌を自由にした。故に、歌は小鳥の姿を得た。

儂が小鳥に必死になるだけ、白夜は自由になる。だが其の儘にして置くのは足を掬われる事に繋がる。

白夜が丁寧に動かしていた最初の歌に比べれば幾分か捕まえ易い。されど、白夜は既に其れを許容している為に堂々と躊躇無く歌を詠い直す。

白夜と歌が互いに自由を与え、そして昇華する。


認めよう。白夜は今、歌と共に戦っている。


とても良い関係だ。厄介だ。


切っ掛けは何があっただろうか。


梧桐は手を休めず、口を開いた。


「何か…考えでも変わったのか?」


「……さぁな」


白夜の回答が非常に曖昧なものだった事に、梧桐は苦笑する。

梧桐はまた白夜の術中で、辛うじて拳を避ける。


「さぁなって、御前は…」


「変わったなんて、大層なもんじゃねぇよ。……俺は怖がってた。怖いから、安全な鳥籠の中にいた。いようとした。……だが、目の前で、立つ地面が崩れて、其の先の地獄に落ちかけても、自分らしく笑ってる奴を見ちまったんだ。…そしたら、馬鹿らしくなっちまった」


其の代わりとばかりに、向けられた拳を白夜が弾く。梧桐の力を宿した拳は弾いてもなお白夜の肩に当たる。其れを白夜は外面に流れる様に受け流す。

其れでも骨に、肉に痛みは響く。


白夜は其れを物ともせず叫んだ。


「分かっちまったんだ。俺も…こいつも!やっぱ自由に飛びてぇんだっ!」


白夜はお返しとばかりに、一切偽りの無い蹴りをぶちかました。









梧桐は、考える。

儂の思考も、行動も、全て人に影響を与えようとしたわけではない。あれは、ただ自分を貫き続けただけだ。

だが、白夜の言葉が向けられたのは儂で、彼がそう叫ぼうと思った理由に儂の言葉があったならば。


「儂も、今の御前の方が良いと思う」


………もっと儂らしさ、というものを誇っても、良いのかもしれない。


「そして、儂も負けてはおれんな」


梧桐の目測としては真正面を貫いていたが、小鳥に逸らされた梧桐の拳はちりりと白夜の頬を掠める。


梧桐にとって、既に体から響く音も、痛みも、知った事では無い。


骨をも代償に湧き上がる此の歌意で、御前を圧倒してみせよう。

最期迄、楽しもうじゃないか。



ノーサイド エンド



                   ※       ※



??? サイド


円の中で二人が、笑いながら、鈍い音を響かせながら、泥臭い戦いを興じる。


はらはらとした様子で見る、少し頼りなさげなこいつは、如何だろうか。

此の戦いに交ざりたいと、飛び込みたいと思うだろうか。

多分だが、目の前の戦いに圧倒されて其の思考にも辿りついてなさそうだ。


あそこにいるのが…俺だったなら。


思えど、其れを手放したのは俺で。

そう思う資格も、ないのだ。


これは、俺からした約束だったのだから。







 数日前の事を思い返す。


〈ギャァァァアア〉


自分より大きな鬼が、目の前にいる。大鬼と呼ばれるものだ。

普通の鬼に比べれば大鬼と呼ばれる存在は少ないが、いるにはいる。

其れを溢さず、逃さない為に散歩と称して森を歩く。


自身の所属する隊の隊長であり、互いに対等を認めた男からは呆れられている俺の仕事の仕方だった。


「『そめ河に 宿かる浪の 早ければ なき名立つとも 今は怨みじ』」


目の前に向かってくる大鬼にはあまり、気持ちが高まらなかった。他の侍が持つような焦りや恐怖は元よりない。

歌を詠ってしまえば、後は簡単。


振り下ろされた、叩き潰そうとした大きな掌を適当に避け、胸の辺りをトン、と触れる。其れだけで。


大鬼は触れた胸の辺りから崩壊し、爪の先迄粉になって、俺の目の前から跡形も無く消えた。


「……帰るか」


作業にならない心の燃える様な戦いが欲しくなって、久しぶりに都に帰ろうかと野山を歩いていた俺は、其の男に出会った。


男は、手で地面を掘り、其処に細い枝を埋めていた。


真昼間とはいえ、何時鬼が出てきて喰われるかもしれない野山に暢気に一人(俺も一人だったが)で、謎の行動をしている男に興味を持ち、離れたところで見ていた。


そして、一本の枝を埋めた後、少し離れたところにもう一本同じ長さ、同じ太さの枝を埋め込み、やり切ったというように男は高々に声を上げる。


「よっし!此れで〈すもー〉とやらができるぞ!!」


其の言葉に、俺は耐え切れず、噴き出してしまい、笑い声は男の所まで届き、初めて男に俺の存在が気付かれた。


こちらを向いた男は、俺のしている人の姿とは異なる部分があった。

額から伸びる角。人ならざる牙。


成程。こいつは……


「鬼か」


「矢張り分かるものなのだな!前の姿からすれば、大分人間らしくなったもんだと思うが」


あっさりと白状して大口開けて笑う鬼。

白状はすれど、知っている鬼の像とは一致せず、ちょっとばかし「鬼か?」と疑念を持ってしまう。

警戒する方が馬鹿らしいと、肩の力を抜いてしまった。


此れは唯の鬼じゃない。常識が崩される感じに俺は楽しさを覚えてつつ、そいつを観察する。


「此処で何してんだ?」


「うむ…相撲だ」


「は……相撲だ?」


聞いて、足元を見た。

鬼の手で埋められた枝が二本。

距離を開けて埋められちゃいるが、其れだけで。若干斜めってるし、細いし、何なら其の細いのから枝分かれした更に細いのが天に向かって伸びている。

更に気付いた。二つの枝を中心に離れたところで溝が掘られて、枝を囲っていた。


四角く。


そうか、相撲か。


……相撲か?


「……う、む?なんか違ったか?」


 声にはしなかったが、困りを含んだ反応には気付かれてしまったんだろう。

自信を其れなりに持っていた鬼の顔が段々と曇っていった。


「人の童達がやってるのを見ていたんだがなぁ。いざ、教えてもらおうともろうたんだが…逃げられてしまってな………鬼なのが悪いのか?」


 眉を垂らし気味に笑う鬼を相手に、其の時俺は外面とは違い、動揺していたのだと思う。

簡単に言ってしまえば、自分の常識が破られたからだ。



鬼が、自分が鬼である事に困っている。

そんなものは今迄見た事がなかった。

此れが、こんな奴が鬼なのか。


ふと、だから思う。

自分の中に根付くものが、常に正しいわけじゃないって事を。


「ま、良いんじゃねぇの。そういう相撲もあるって事で」


そもそも俺だって、相撲を良く知っているわけでもないし。

若干投げやりに考えることにした。






「そうだ、完成したのだから相撲の相手をしてはくれんか?」


「おいおい、偶然居合わせた俺でいいのか?」


「偶然居合わせたからだろう。其れに御前は、強い…だろう?」


確信をもって問いかける鬼に俺は得意気な顔だけで返し、細枝の前に移動する。鬼は鼻歌を歌いそうな程嬉しそうにしながら四股踏みのような事をしていた。


「相撲だよな。なら、はっけよいのこった、が合図で大丈夫か?」


「ふむ。〈すもー〉はそうやって始めるのか。では其れで頼む」


「知らなかったのかよ」


色々怪しかったので、〈すもー〉について幾らか決め事をした。まんま相撲に矯正しなかったのは御愛嬌だ。此奴が知り得た相撲の知識には興味が有った。其れを潰すのは勿体無い。

そして、其の中で歌を使う事も問題無しとした事で、鬼である男が歌を持っている事も秘かに判明した。


「御前は、名前を何というんだ?」


「言ってなかったな。石破だよ。おめぇにも、名前はあんのか?」


「しっかりあるぞ。儂の名前は梧桐だ」


梧桐。梧桐か…と口の中で反芻させる。

此れもまた、初めてだった。鬼が、個人を生じるものを持っている。彼だけのものを持っている。

そして其れは、俺にとって其の鬼の印象を深めるものだった。


「なぁ石破よ」


「んあ?」


「儂は心の底から満足出来る戦いを望む。其の為に、儂の出来る限りの全力を出させてもらうぞ」


其の言葉は、始めはそんな深く考えなかった。


「はっけよーい…」


しかし、其の言葉の意味はふつふつと俺の頭の中で大きくなっていった。

此の短い間で感じた男の性格は。俺に求めている事は。


其の結果は。


「のこっ「やめだ」」


全てに思い至って、始める直前に俺は梧桐の言葉を遮った。


「石破、何を唐突に…」


「なぁ梧桐。おめぇは…」


 遮った俺に驚く梧桐だったが、其の意図を理解したのか、少し残念そうな顔をしながら微笑みを浮かべた。


「石破は、凄い奴だな」


其れを聞いて、自分の予想が正しい事が分かった。

だから、俺は奥歯を噛み締めた。


「なら、こんなのは駄目だ。俺じゃ駄目だ。おめぇを満足に戦わせる事は出来ない」


もし仮に、今から唯の相撲、若しくは歌を用いない〈すもー〉をしたとしても、梧桐は満足に戦う事は出来ないだろう。

じゃあ俺が手を抜けば、という話になるが、其れこそ梧桐は望んじゃいないだろう。

そして俺も、俺が歌を十全に使用した先にある結末は望んでいない。


だから、提案した。


「俺が探してくるよ。おめぇの相手。おめぇが満足に戦える奴を」


返答は聞かなかった。俺が勝手に決めた事だからだ。

俺は梧桐の隣を通り過ぎて、都のある方へ歩く。


少し歩いて、視線を感じて、足を止める。


「…梧桐、俺が此の儘逃げるつもりだとは思わないのか?」


「儂は信じた。其れで御前が逃げたのなら、儂の見る目がなかっただけだな」


「………ほんと惜しい奴だな」


歯を見せて明るく笑う梧桐の眩しさに目を細める。


前を向いて数歩歩くが、直ぐ立ち止まってしまう。

もう一度振り返ると、梧桐はまだ俺の方を見ていて、再び見た俺に気付いて笑った。


…黙って、離れる事は出来なかった。


「地面に埋める木を埋めて目印にすんなら太い木を綺麗に向かい合うように並べて埋めた方が良い。其の方が対等な条件になる。あと枝は飛び出ない方が良い。其れで勝負に影響が出て欲しくないだろ?

土俵の形は四角より丸の方が良いぜ。場所による差がなくなる。周りの線は…此の辺の背の高い草を束ねて埋めておけ、地面を掘ったくらいじゃ激しく動いたら消えちまうかもしれねぇ。


…其れだけだ。またな」


「おう!待っとるぞ」


 俺は〈すもー〉を相撲らしくしたいような、余計な助言を長々と。此処を離れるのを惜しんでいるのかと俺は思った。

梧桐は、手を頭より上に挙げて大きく振る。少し歩いて振り返っても、まだ振っていた。














 梧桐のいた手作りの土俵を去って、また森の中、都に向かって進む。

道中、立ち止まって、自分の横に聳え立っていた木の幹を拳を殴りつける。

歌は解いていなかったから、木は殴りつけたところから崩れ去り、先端迄跡形も無く消え去った。


俺は、あの一言で、梧桐が正しく只一度の戦いに全てを賭けている事に気が付いてしまったのだ。

そうせざる得ない歌を、真っ向から受け止めて。


応えられるなら、応えたかった。でも、駄目なのだ。

俺の全力を出す通りに、俺が此の歌を使ったのなら、梧桐は一瞬の内に消し飛ぶ。其れだけの事が俺には出来て、其れだけの差が俺と梧桐にはあった。


なら歌を使わなければ。

其れは、梧桐の信じる事を真っ向から馬鹿にしている事でしかない。


梧桐は其れを許すだろうが、他ならぬ俺が許せなかった。


今は、今だけは、此の歌意である事が憎い。







侍としては、きっと間違えた判断だろう。

歌だってなんだって使って、鬼を倒せば其れで良い、筈なんだ。

なのに、俺は其の選択肢をもう捨て去った。

あれが新しい鬼の在り方だというのなら、なんと、なんと策士的な進化をしたものだろうか。


だから、俺は用意する。あいつが満足に戦える相手を。






気の合う奴だと思った。

御馳走を囲んで、肩を組んで酒飲んで馬鹿笑いだって出来ただろう。








されど、俺は人間で都を守る侍だ。

其の役割を忘れるつもりは無い。





梧桐に満足のいく戦いはさせるつもりだ。

だが、其の行く先は……。



自分らしくない自己嫌悪を振り払うために、足早に都に足を進めた。






























ノーサイド


 コフ、と白夜、そして梧桐の両者の口から血が溢れる。

白夜は受け流してはいたものの、少しずつ蓄積した諸々に体に限界を示したのだろう。

一方の梧桐は白夜の攻撃は殆んどくらっていたものの、其れよりも丁度今肋骨が肺に突き刺さったからだ。

理由はそれぞれだが、同じタイミングで同じ行動をした事がつぼに入り、戦っていた筈の二人が腹を抱え、指を差し合って笑っていた。


暫く、笑い声が響いていた。

傍から見ていた友は、少し引いた。


満足に笑いきって、息を整え、白夜は梧桐を真っ直ぐに見た。

梧桐もまた、同じく。考えている事は一緒だ。


「次で、終わりだ」

最初は石破視点も回想も無かった筈なんだけどなぁ…

闘いの描写のネタもボキャのなかった…


白夜も石破も、口調やら考え方やら似ているのはきっと似た者同士だから。作者のキャラ設定が甘いのは前提として。


続きは一応考えてあります。



またゆっっっくり作ります。



誤字脱字、文章的におかしな点はないでしょうか?

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