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歌奏和伝  作者: 自由のメガネ
始まりの初夏
13/65

ー玖ー「城へ」

慣れてきたからか長いの普通になってきましたね。

 翌日、白菊さんは普通に起床し、白夜が来てからの記憶が全くない彼女に其の後起こった事は一切言わないで、白夜が昨日怪我をした、とだけ伝えた。


布団を返し、店の準備を手伝って、泊めてもらった事働かせてもらった事のお礼をし、手伝いのお礼とお金、小母ちゃんの抱擁を受け取って店を出た。

とはいえ昨夜に優男さんから約束を取り付けられたので、店の前の僕が寝ていた長椅子を陣取って待っている。

約束といっても、僕は応じていない。口に出す前に彼は背を向けてしまったのだ。

夜明も「待つ義理は無いんじゃないかな?」と言うが、白夜が向こうにいる事を再度伝えると「体の良い人質だよね」と溜息混じりに従う事を決めていた。


 城の方角から大きなものが移動してくる音、牛の声が聞こえてきた。

見れば音の正体は一目で分かった。僕達は驚かないわけにはいかず、ゆっくりとした動きで目の届く範囲を陣取られるまで口を閉じる事は無かった。


「リム…ジン…」


お金持ちが友人と移動中でもゆったりとワインの一本でも飲みながら交流をする映像の中でしか見た事の無い胴の無駄に長い車、リムジン。

僕達の前にあるのは其の牛車バージョンである。


牛車の前方の横引きの戸が開き、中から顔を見せたのは昨夜会った優男さんで、僕達を目で捉えた瞬間安心を浮かべた目を綻ばせて僕達に手を振った。


「良かった。待っていてくれたんだね。正直、あんな一方的なもの、呆れられた末になかった事にされるんじゃないかと思って帰り道後悔さえしていたんだよ。

ありがとう。さぁ乗って欲しい」


 彼は一度中に引っ込んだが、一歩も動く事が無かったら当然誰も乗り込まないため、また顔を出して首を傾げた。


「如何したの?」


「えっと……此れは…?」


さりげなく差した指の先を優男さんは辿り、着いた先で「ああ」と納得の声を出す。


「珍しかったかな?人数もそれなりだから大きめの牛車を用意したんだ」


夜の出来事も差し置いて、僕は異なる世界にいるんだなと実感しました。まる。



              ※        ※



 戸惑いを隠せずして、無言で全員が乗り込み戸を静か閉めた。

中は牛車よりも馬車を連想する。畳やら御座ではなく椅子であったからだろう。

牛車の側面から迫り出す木製の長椅子、戸側の前側から順にさえちゃん、白菊さん。

入って真向かいの前側から優男さん、僕、夜明が座る。

前に後ろに視線を動かしていると、


スパコンッ


激しく戸が開く音。

入った戸は動いていない。開いたのは前方に御者と連絡を取る用の小窓で、覗いた口が唾が出る事構わずに大きく開いた。


「おっし!乗るもん全員乗ったか!

おうおう…四人増えたか。こりゃあ気合い入れねぇとな!!」


元気さが声で分かる男に呼応するように、男の後ろから牛の鳴き声が幾つも聞こえる。


「行くぜ俺っちの愛しの牛ちゃん達ぃっ!!

『ゆきなやむ 牛のあゆみに たつ塵の 風さへあつき 夏の小車』っっっ!!!」


小窓からは短く適当に結んだ黒髪を揺らして、男は激しくしかし丁寧にある言葉の羅列を口にする。

すると、牛達の声に変化があった。


〈モ゛ウ゛ォォォオ゛〉


低い音程の攻撃的な声。見えてはいない牛の雰囲気が荒だったのが伝わった。


タイヤではない車輪の回る音をもって、牛車が動き出す。

比べようのないものの、やってきた時よりも引っ張りが強そうだ。

牛が荒立つ前、御者の男は特徴的な言葉を言っていた。五七五七七…短歌だ。松の木の下でも聞いたから答えが出るのは早かった。


短歌といえば、昨日も……。

夜中の静けさに響いて直ぐ、羽が舞い落ちて爆発した。

冷静に考えるとおかしいね。羽が爆発するなんて。


優男さんは用の済んだ小窓を閉め、外の音を遮断する。


「此れから牛車は城…〈風香城(ふうかじょう)〉の方へ向かうよ。私は初雁 玉梓(はつかり たまづさ)。よろしくね。要件は藤姫様が言うようだから私からはとくに。

でも、そうだね。皆さんの疑問に思っている事を着くまでの間、一つずつ紐解いていこうか」


 此の街…都は〈春の都(はるのみやこ)〉というそうだ。

僕の知識で都は国の中心地だった記憶があるが、此の国…〈和国(わのくに)〉では各地に都なるものが点在し、それぞれの地域の管理を任されている…んだと。


「都同士の繋がりは無いにも等しいかな。近くの都なら遣いの一人や二人のやり取りはした事があるけども、遠くなってくると私も噂くらいしか聞かないね」


都の周りには中規模の集落や小規模の村が数十存在し、他は森か原っぱ、山だけで地域は構成されている。

一見すると昔の日本と同じだが、地域の造りには昨夜見た化け物…鬼が関係する。


「鬼は何だろうが食べる悪食でね、とりわけ人間を好んで食べるんだ。困った事に。

昼でも夜でも関係なく一人で森の中に入れば、十歩で一匹、都の周辺なら十匹に襲われるよ。

ただし、鬼にも勝てる試合をする習慣でもあるのか、複数人…二人三人ではなく、十数人であれば鬼も襲おうとしない。袋叩きにでも会うって思っているのかな?

だからなるべく集まって生活するのさ。

そういう訳で、村や集落の住人、都の住人も一切外を見ずに一生を終える人が殆ど。私も都の外にはあまり出た事が無い。勿体無い…とは思うけどね。

もちろん山の恵みを頂かないといけない場合も他の村に行かないといけない場合もある。集落によっては都に作物を売ってお金にしてる処もある。

そういう時には刀を持つようにしてもらっているよ。鬼は殴っても意味がないけど、身体を縦に切るか横に切るかすれば死ぬからね」


 付け加えると、おかしな話だが鬼は餌の多いところ、つまり人の多く集まる都の周りに多く出没する。

複数人は襲わないのに、高確率で複数人いる都に。

だから都には地域の生活を管理する他に役割を持つ。

鬼が集落や村を襲わないようにする誘蛾灯ならぬ誘鬼灯になる事だ。


よって、都を囲む山々には都を除いた地域の倍以上の鬼が潜んでいるそうだ。

都は其の地域の中心地であり、村等に比べたら豊かに生活が出来る。しかし、知ってか知らずか住民は鬼の脅威が近い生活を受け入れている事になる。


「とはいえ、鬼同士で協力する事はある理由を除いて有りえない。大抵は一匹が殆ど、本能に従って来る鬼しかいないから都に入る前に基本夜番だけで対応出来るよ。だから都の住人も気にしていないと思う。

けれど、昨夜は違った。量が多かったのもあったけど、一波にやってくる鬼が多かった。

其れで零れた鬼にあなた方に遭遇した。本当に申し訳ないと思うよ。

理由も大方予想はつくけど照らし合わせも兼ねて、今は城に向かってる」


 日々、鬼が人に害を成そうとするのなら、鬼を退治する人々も生まれる。

彼等は総じて、城の城主の下で働く〈武官〉であり、其れ以上の名前は無い。しかし誰が言ったか彼等はこうも呼ばれる、〈侍〉と。


其の役割は武器を以て鬼を殺す事、人の住む場所に鬼を入れぬ事、人の営みを守る事。


争い事を全般的に任されているイメージを持てれば、其れが侍だと優男さん改め初雁さんは自分で言って笑っている。


「侍は十五の隊あり、それぞれ役割によって分かれている。

私は其の内の七の隊に所属していて、主に鬼退治の後方支援を担当しているんだ。

けど此れは追々知っておくといいだろうね。

んー、後は何だろう…。

皆さんから質問はあるかい?」


 全員が全員挙げたもんだから、「私、説明下手だったかな…」と初雁さんは肩を落とす。

だがしかし、挙がる手は一、二、三、四、…五。

此処には初雁さんを抜いて四人、両手を上げる馬鹿がいなければ最高四つしか手は挙がらない。

みんなして五つ目の手を見る。

手は気づかない内に開いていた小窓から伸びたものだった。


無言で初雁さんは其の手を巻き込む事厭わずに閉めた。


「いでっ」


「痛いと思うのなら早く手を退かして。ほら早く」


「んな事言ったってよぉ~こちとら喋る相手もいないってのに、中では団欒かましてんだぜ?羨ましくもなるだろ~」


初雁さんが閉めようとする小窓を向こうは開こうとして、力が拮抗する。


「そういや、玉ちゃんや。お宅、其処の別嬪さん方の名前聞いてないな?俺っちとしちゃぁ三人もめんけぇ嬢ちゃん達に俺っちの車(※牛車)に乗ってこられたんなら、名前の一つは聞かないと夜に寝ようにも寝らんねぇわけよ」


「む…」


力の抜けた手を退かして小窓が全開に開く。

小窓からは牛車が動く前に覗いた顔が再び此方を覗いてきた。

関係ない話だけど、御者の真後ろにある小窓を覗きながら牛に指示を出しているのなら、凄い体勢な気がする。


「そーいう事で、俺っちは帆風 篤紀(ほかぜ あつき)。此の都で一御者として贔屓してもらってるもんだ。玉ちゃん共々、よろしくな。俺っちは堅っ苦しいのが苦手なもんだから、敬語とかやめてくれよ。

んでもって、別嬪さん方と小僧一匹、お宅等の名前は何だ?」


分かりやすい男女差別が今目の前に…。

横からは「あ、僕やっぱり女性換算なんだ…」という夜明の呟きを拾いつつ、白菊さんから回して順に名前だけ(夜明は訂正を含めて)の簡単な自己紹介をする。

対して、帆風さんは白菊さん達に息を荒くし、夜明には「女じゃない…だと…?!」と絶望の表情で返した。僕は興味無さ気だった。

小窓を全開に開けられた初雁さんは自己紹介に耳を傾ける傍ら、何処か落ち着かない様子で目線を何度も帆風さんに移した。帆風さんの何かが気がかりのようだ。


「篤紀…分かっていると思うけど、皆さんはあなたと初対面だからね。く(・)れ(・)ぐ(・)れ(・)も普段通りには…」


「分かってるって!」視線を寄越さずそう言った帆風さんの次の言動が此方。


「俺っちだって、俺っちを好いてくれる女じゃねぇと〈ピ―――〉なんてしねぇよ。まっ其処の嬢ちゃん達がまんざらでもないってんなら〈ピ―――〉ぐらいはヤりたいね。小僧共は〈ピ―――〉した事ねぇのか?青臭ぇなぁ。〈ピ―――〉とか〈ピ―――〉とかすげぇ良いから今度試してみろよ。あ、今から花街行って〈ピ―――〉するか?俺っちの行きつけ紹介してやんよ。男は俺っちもヤった事ねぇけど、男ながらの別嬪さんなら俺も〈ピ―――〉する位ならお

「篤紀ぃぃぃぃ!??」」


幾つかの言葉を僕の脳が拒否した。まだ人と触れ合い初心者の僕には早かった。

白菊さんが顔を真っ赤にして耳を塞いでいた。夜明がドン引きしていた。さえちゃんが首を傾げていた。

初雁さんは顔を青くして絶叫し、小窓を閉めようとするも、悲しきかな全開の小窓は帆風さんの手でがっしり掴まれて閉じられそうにない。


「あなたの口からは何故そういう言葉しか出ないかな!?そういうのはもっと心の内に仕舞っておいてくれよ!」


「そんなに叫ぶなんて、玉ちゃん実は溜まってんな?駄目だよ~発散しなきゃ~。どうせだし、城で働く嬢ちゃんの一人でも其の場で押し倒して

〈ピ―――――――〉でも…」


「ほんと黙っていて欲しいなぁ!!!」


帆風さんが喋る事を止まらず。

初雁さんがどんなにに彼を咎めても、良い子が聞いてはいけない言葉は増えるばかりで。

着いた頃には、僕が受け入れられる言葉は一音も無かった。



               ※          ※



???サイド


 牛車であいつ等を連れてくると言われ、門の前で牛車を待った。

やってきた牛車がそうだと気付くが、御者が後ろ向きな事に危なさを感じる。が、牛は普通に歩いているし、余程信頼関係を築けている良い御者なのだろうと当たりをつける。

牛車が止まり、中から出てきたのはやはりあいつ等だったが、様子がおかしい。

さえはそうでもないが、他三人がげっそりとしている。

心配させてしまったか、力不足だった自分を責めたい自分を持ち直して、俺はあいつ等に駆け寄った。


???サイド エンド


               ※          ※



 目的の場所に到着し、僕達は牛車を降りた。


「座ってただけなのに…話聞いてただけなのに…もう疲れたよぅ」


ぐったりとする白菊さんの言葉に夜明と二人同意する。

最後に降りた初雁さんも僕達よりは平気そうだけども、何処か疲れが見える。


「あれさえ無ければ、篤紀は良い御者なんだよ。慣れれば…………慣れて貰っても困る」


遠い目の初雁さんを尻目に、満足気に帰っていく帆風さんを見送った僕達は此方に向かって駆けて来る足音を聞いた。


「お前等っ!!」


聞いた事のある声に振り向けば、まず目に入ったのは一日で既に見慣れた白髪の人房を混ぜた黒髪。

僕が最後に見たのは地面で血を流して倒れる彼で、臙脂の着物の前をひろげて右腕を突っ込んでいるために走りづらそうに走ってくる其の姿は、牛車で溜まった精神的疲労の全てを吹き飛ばすには十分だった。


「「「白夜っ!」」」


「おう」


白夜の返事は元気である事を示してくれた。が、


タタタッ      ガシッ


「いだだだだだだっ」


昨夜僕にした、無言でのさえちゃんのホールドは声を出したい程に痛かったようだ。

着物の袖からは包帯の巻かれた素肌が見える。

服の下も包帯で覆われているのは想像のついた。


「喜んでくれてるとこ悪いんだが、ちっと離れてくれねぇか?まだ痛みが…」


「…あ、ごめん………でも…あったかかっ……た…」


「そりゃあ、生きてるからな」


離れたさえちゃんの頭に白夜は左手を乗せ、軽く掻き混ぜるように撫でる。

さえちゃんは其の左手を見上げ、柔らかい目で静かに笑った。


 二人もさえちゃんに続き、声を掛ける。

それぞれ思う事はあるのだろう。声を掛けた二人の表情は硬かった。だけど、何を言ったのか白菊さんは怒りマークを浮かべて白夜の(痛みの走る事確実な)腹を一発殴った。

崩れ落ちる白夜に追撃を加えようとする白菊さん。不味いと思った夜明が羽交い締めして抑える。

状況は全然違うのに、落ちた広場で初めて見た二人の言い合いを思い出して、ちょっと笑った。


「痛って~白菊の奴、少しは怪我人に優しく「びゃ…白夜もあまり揶揄わない方が…」わーってるよ。俺だってこんな状態でまたあんなんくらったら溜まったもんじゃねぇよ」


 数秒して立ち上がり、腹を擦って僕の所にのろのろと来た白夜は僕の肩を叩き、一方向を指差す。

…?そっちを向けというのだろうか。

他の人には背を向けて、白夜は僕以外聞き取れない小声で言った。


「友、右手の事は言ってないのか?」


「う…うん、い言って、ない。言った方が…良かった?」


「いや…知らないなら知らないままで良い。余計な心配掛けたくないしな…」


白夜は着物の内側に入れていた右腕をより深く内側に潜らせた。


「右手は?」


「切った」


「え…えぇ!?」


「声がデカい。骨は全部砕けきって、辛うじて皮一枚でぶら下がっているだけだったんだ。揺れるだけで痛みが走るなら、無い方がましだろ」


「其の、切った手は?…ま、まさか、捨てた…とか?」


「捨てちゃぁいねぇよ。ちゃんと保管してもらってる。……………………ただ、其の保管方法が…なぁ……なぁ友、”コトリバコ”って知ってるか?」


尋ねられた言葉を疑問符付きで送り返せば、白夜は「…何でもない。忘れてくれ」と、顔を背け何も言わなかった。

背けられた顔は青く、気分悪げで追求しようとも思わなかった。




「貴方様方が例の客人ですか」


 白夜が来た門の方から声が、聞き覚えの無い声が聞こえ僕も白夜も顔を向ける。

歩いてきたのは、跳ねた毛の無いストレートの黒髪を後ろで括ったインテリ風味の男、掛けてないけれど眼鏡が似合いそうだ。


「あ、豊国さん」


白夜が其の男の名前を口に出した。顔合わせは済ませた後のようだ。


「あなたがこんな所まで出て来るなんて、珍しい事もあるもんだね」


「初雁殿。自分も好きで外に出ないわけでは無いのですよ。一度、先に客人の顔を拝見しておきたいと思いまして。…自分は豊国 理知(とよくに よしちか)、此の都にて文官の長、及び城主の傍付きをしております。以後、お見知りおきを」


豊国さんのお辞儀は、思わず感嘆の声を漏らしそうな程に綺麗だった。

顔を上げた彼は、無言だった。じっと僕達を見る黒目は観察されてるようで居心地が悪い。


「豊国さん…?」


補足すると、豊国さんに一番近い所にいるのは白菊さんだったりする。

何でそんな補足が必要なのかって?次に起きた事に関係するからだ。

豊国さんは僕の声に反応せず、フラッと白菊さんの方へ。


そして、白菊さんの前に立った彼は



顎クイなるものを知っているだろうか。僕はテレビ知識、盗み聞きでしか知ったものではないけど、女の子が憧れるシチュエーションの一つ…らしい。





あれをやった。



「!?!?!!?」


白菊さんは、言葉にもならないで、驚いている。


「…ゆ…、…きと……、…み…。み…なら…、…け――」


「理知さんっ」


「白菊っっ!……なんか僕、白菊を抑えたり引っ張ったりで今回忙しいんだけどっ!!」


物凄く近い距離で聞き取れない言葉を言う豊国さんと唐突の出来事に顔をリンゴにする白菊さんを初雁さんと夜明が引っ張る。

引き離された豊国さんは白菊さんから離れた後に目を大きく見開き、目を閉じて咳をする。


「すみません。取り乱しました」


「あなたの事だから、何で其れをしようと思ったのかは分かるよ。けど許可っていうものをねぇ…」


「分かってますよ。次はちゃんとします。話を戻しますが、皆様の身衣はだいぶ汚れているようで。城にて数名の藤姫様付きの女中をお借りしております。部屋は玉梓が案内しますため、其処で着替えると良いでしょう」


何食わぬ顔で背を向け、豊国さんは門の向こう、城へ帰っていった。

背後では、夜明が昨日とも違う理由で気が飛んでる白菊さんに声を掛けていた。


「きゅ~~~~~……」


「白菊しっかりして!此処で気絶したら絶対面倒臭そうな階段(エレベーターなし)を背負って上がらないといけない羽目になるんだよ!友が!!」




「僕っ!?昨日持ち上げられなかったから無理だよ!?」



                ※         ※



「こんなもので、如何でしょう?」


「だ、だだ大丈夫です」


「そう。良かった」


「あ、の…」


「?」


「こっ此れを入、れる場所ってあります…か…?」


「其れでしたら、此の場所をこう……」








 みんながいるという部屋の襖を開ける。

土や血で汚れた制服から着替え、僕の今の格好は短いズボンに萌黄色の袖無しの着物に上から藍色の羽織を腕を捲って羽織った、祭りに行きそうな忍者みたいな姿だ。

制服に比べて身軽で動きやすい格好になったと思う。


中では、着替えていない白夜と着替え終えたらしい白菊さんとさえちゃんがいた。


「白菊さんもさえちゃんも、はっ早かったね」


「友は遅かったわね。見て見て、結構可愛いと思わない?」


白菊さんが其の場でくるっと回る。

明るい赤の着物の袖は回るの一緒に舞い上がる。丈は短めで現代にありそうなデザインだ。下はスカートみたいなゆったりとしたズボンだ。


「(…ふっ)馬子にもいしょ」


    シュッ  ガシッ


「待って、俺怪我人」


「人を怒らせない怪我人なら労わるわよ」


揶揄わないと言ったのは誰だったか。

白菊さんの右手を左手で対応し力の比べ合いをする白夜は放っておく。


「さえ、ちゃんのは…初雁さんと同じ、狩衣みたいな服…だね。お…男物の、イメージ…があるけど」


「……男物…だよ……」


さえちゃんが着ているのは水色の初雁さんや豊国さんと同じ狩衣のような着物。

似合っているけど、なんで態々男物を?


「……えっと…ね…」


             ガコンッ


 さえちゃんが言葉を続けようとした時、襖が荒だたしく開いた。

入ってきた彼は走って白夜の元に行き、裏に回る。


「お、おい…?夜明……?」


白夜は後ろに首を回して戸惑い気味に名前を呼ぶ。だけど、夜明は白夜の後ろから出てこようとしない。

部屋の全員が白夜の後ろに注目するなか、開いた襖の方からまた駆ける音が聞こえてきたので襖の方を見る。

来たのは、僕達の着替えの手伝いもしてくれてた女性の方々だった。


「日暮様!何で逃げるんですの!?」


やってきた女性の内の一人がそう叫ぶと、夜明は白夜の後ろから顔を出さずに言い返した。


「嫌だっ!誰がそんなもん着るもんかっっ!!」


「何を言います!御用意した着物は日暮様を引き立てるには十分な代物でございましょう!!」


そう言う女性達が持つ着物は明らかに女性物…日常使いに向かない丈の長いお姫様の着そうな着物だ。

量も結構なもので、十二単をやるつもりかと訊きたい数はある。


「僕は男なんだ!女って間違う奴を揶揄うのは好きだけど、女性扱いされたくないし…増してや女装なんて以ての外だ!!」


女性達は「そう言わずに!」、夜明は「絶対嫌だ!!」。此れは長くなりそうだ、と思ったけど事態は呆気なく終わりを迎えた。


白夜が横にずれ、夜明を前に押す。「へ?」夜明は呆けた。


「綺麗に着飾ってやってくれ」


「えっちょ、…え?」


夜明が言葉を見つける前に、女性達は夜明を囲み瞬く間に引きずり去っていった。

遠くからは「白夜の裏切り者~!」という声が響いたような、無かったような。


達成感に満ちた顔をする白夜を見ているとさえちゃんがぼそっと。


「…此れ……夜明が…選んだもの……らしいん…だけど………女中さん達…着て欲しくない……からって……奪って…だから………代わりに着た……………」

説明回は苦手なのでうまく説明できませんでした。服装も詳しく説明出来ず、すみません。

また文章を変更するかもしれません。


話を書いていて、「絶対女の方が着替え遅そうだよな~」と思いました。文字を打つ手が止まって自滅しましたね。


【初出の歌】

ゆきなやむ 牛のあゆみに たつ塵の 風さへあつき 夏の小車


              『玉葉集』 夏歌 藤原 定家


『玉葉集』は家に本が無かったため、ネット調べです。


〈参考〉 検索は[at]を抜かして行って下さい。

https://kotoba[at]kan.jp/makoto/makoto-1393

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