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歌奏和伝  作者: 自由のメガネ
始まりの初夏
12/65

ー捌ー「深まる暗闇を照らす月光」

前より長くなりました。

少しグロめです。

それと、視点は友に戻ります。

〈キキィ!〉


 化け物の内の二匹が白夜を真正面から襲い掛かる。

白夜は二匹まとめて蹴飛ばす。


〈キッ〉


入れ替わりに右斜めから二匹、左斜めから一匹が飛び掛かる。

右の先に来た方の正面から掴み、左にぶん投げて左のにぶち当てる。

そして左手を握り締めて振り上げ、残りの右の化け物の顔面にめり込ませた。


飛び掛かるしか能が無いと思えば、三匹の相手をして前を見ている白夜の足元にこっそり近づいて左足に噛みつこうとする奴もいた。

「危ない!」僕が叫ぶ前に、嚙まれそうになっている足でそいつを蹴った。

吹っ飛ぶ直前、其の足に鋭い爪の跡を残して。


「ちっ…!」


傷を痛がる暇も苦言を言う暇も与えず、一匹と蹴り飛ばした二匹が真正面、右斜め、左斜めから同時に飛び掛かる。

白夜は右腕を大きく横に振り、三匹をはたき飛ばす。

其の腕にも新しい小さな傷が一か所、二か所。


また何時かに転がした化け物が、弾き飛ばした奴らとすれ違いに向かってくる。


 飛び掛かって噛むか引っ掻くかしかせず、人の急所ばかりを狙う動きは一匹の時と変わらない。

しかし、数の多さは白夜の息をつく間を与えず急激に白夜の体力を奪っていく。

荒い息の音は、後ろにいる僕の所まで聞こえていた。


単純で白夜が防ぎきっていた攻撃の繰り返しは、何時から小さな傷として腕や足に届くようになった。

其の程度で白夜は動きを鈍らせなかったが、時節小さい傷を上から抉られた彼は耐えられず声を漏らす。

漏れた声に化け物は笑う鳴き声を大きくする。

僕には化け物の鳴き声が、えものがしぬぞ、やっとたべられる、そう言っている気がして。


彼の背中を見て、何も出来てない自分が辛くて僕は立ち上がろうとした。

が、そうはならなかった。


「お前は何もすんじゃねぇっっ!」


絶えず響く化け物の鳴き声を押しのけた荒げた声に、立てた膝から力が抜ける。


〈キィ!〉


「くっ…」


白夜の腕から血が飛び散る。化け物の爪が右腕の肉を大きく抉った。

おそらく一番大きな傷だ。

弾き飛ばして下ろされた右腕からは重力に従って血が流れた。

あるだろう痛みを無視して襲い掛かる化け物を殴り飛ばすが、出た血は宙を舞い、白菊さんの制服や僕の頬に付着する。


僕の所為だった。僕が邪魔をしたから白夜の気が逸れて彼の傷を、大きな傷を増やした。


「…お前は白菊を守る事だけに集中してくれ。…生憎其処まで気が回せそうにねぇんだわ」


蹴飛ばしながら、余裕のない声で白夜は言葉を付け加える。

僕は立とうとする気力さえ失っていた。


 右腕の傷を皮切りに、彼の傷の増える速度は速くなった。

急所である心臓の辺りや首元は無事なようだけれど肩や腹部にも数度爪や牙が届き、白いシャツも赤が滲んでいる。

限界が見えてきた其の背中を僕は見ていた。


此れまで白夜は自分の後ろに化け物が来ないように立ち回っていた。

しかし、一匹の化け物を彼は殴り飛ばしきれず、拳から零れた其れは白夜の後ろ斜めに飛んでいき、僕達から少し離れた場所に落ちて立ち上がり、僕は其れと目が合った。


〈キシャァァァア!!〉   「うわあぁぁ!」


直ぐさま飛び掛かってきて、僕は腕で顔を庇う。

僕の腕が噛まれるだろう前に白夜が正面に立ち、回し蹴り。

化け物は他の奴らの元に合流を果たした。


此れがまた、事態を悪くした。

化け物達はずっと白夜の向こうだけにいて、白夜だけを狙って飛び掛かっていたから彼はあまり動かずにすんでいた。

だがしかし白夜の立ち位置がズレた今、化け物が前からだけ襲い掛かってくるわけではない。


 一匹が横から首筋を狙う。

其れを白夜が対処した次には、白夜のいる場所とは反対から僕に襲い掛かる奴が来た。

白夜は化け物と僕の間を陣取り追い払う。

今度は前方から…と後ろ以外の全ての方向から化け物はやってこれるようになったのだ。

化け物は白夜の背後で隠れなくなった僕達も獲物の対象に入り、彼は此の対処にも追われるようになった。

此れこそ僕が如何にかするべき事だけれど、行動に移したら白夜はまた僕を止めるだろう。そしてまた傷が増えるだろう。

僕は握っていた白菊さんの手を跡がつきそうな程力を入れていた事に気づきもしなかった。









 体力も底近くなって相手を的確に狙う集中力も無くなってきた時、何時かは来ると分かっていた最悪はやって来た。

白夜の背後を化け物が飛び掛かる。

何度も繰り返した吹っ飛ばす行為。振り向き様に其の顔面に右の拳を突き入れた…筈だった。


「い゛っ!」


飛んでいく化け物の影はない。

化け物は白夜の手元にいた。振り切った拳を飲み込んで手首に歯を突き立てていた。

手の先を彼は驚愕を浮かべて見る。

予想し得る出来事にあって欲しくないと願っても、叶う筈なかった。

化け物の、其の目が笑う。



ボ キ リ ッ


「っがあぁぁぁぁぁぁあああああああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


固い物が砕ける音の傍で、痛みに耐え続けた白夜の声が轟く。

化け物と異なる低い声が化け物のと同じく鼓膜の許容を超え、どれ程の痛みかを突き付けてくる。


〈キィッ〉 〈キキキキ〉


無事な方の手で腕を握りしめ、動かぬ彼をチャンスと思った別の化け物が雪崩れ込む様に飛び掛かった。

一匹が右肩に噛みつき、

一匹が左腕に噛みつき、

一匹が…


「あ゛あぁあああぁぁあ゛あ!」


 右腕を放した左手で見ずに其の顔面を鷲掴み、力のままに放り投げられる。

痛みで始まった咆哮を上げ続けて、獣の如く強引に右肩の化け物をむしり取り、此れも投げる。

腕を嚙んだのは浅かったためか振り回せば簡単に飛んでいった。


最後に残った、手を喰う化け物。

噛みついたままの歯の間に手を入れ持ち上げる。

口から二つに避けるだろうところで化け物は流石に口を放した。

だが其れで許しはしないとばかりに、手に持った化け物を地面に地面に叩きつけ、


「がああ゛あ゛っ!」


 白夜は全体重を掛けて、其れを踏み潰した。

ゴムの様な体は耐えきれず潰された顔の部分は寧ろグミみたいに飛び散った。

血は出ず、零れた目ん玉だった物はコロコロと転がり、残った体はピクリとも動かない。


傷の一つもつかないと思っていた化け物が死んだ瞬間だった。


されど一匹のみ。えぐく死んだ様子に吐き気を催す暇はなく、


「はぁ…はぁ…」


 焦点の合わぬ目で、死んだ仲間を気にする事も無くやってくる化け物を腕を振り回して追い払う。しかし、多くは捉えきれず、腕腹手を噛みつかれ引っ掻かれる。

簡単に離れない化け物を白夜は無理やり剝がした。

御陰で腕と肩は勿論の事、服の破れた間から肉も曝け出していた。


もう意識もはっきりしているようには動いていないというのに、彼は腕で僕達が前に出ないように制した。

僕に其の勇気はないというのに。

出された腕は噛まれた右腕で、腕の先で骨は砕けて離れ、皮で辛うじて繋がった右手が揺れていた。







トサッ


 白夜が崩れ落ちる音はやけに静かな音だった。

腕で振り払いきれなかった一匹が其の爪で彼の胸から腹にかけてを切り裂いた。

血の飛び方は静かな方だったけど、此の一撃で彼の足から力が抜け、膝が地に付き其のまま動かなかった。

立ち膝で顔を俯き垂れる彼は、糸の切れた操り人形か処刑を待つ罪人か。

処刑人たる化け物達は歓喜の雄叫びを上げながらこぞって口を開け、彼に向かって飛び掛かった。


片手を、届かぬ彼に伸ばした。



『秋風に 初雁が音ぞ 聞こえゆる

                   誰がたまづさを かけて来つらむ』


誰かの綺麗な声が響き渡る。


化け物の合間を縫い、此の場に合わぬ鳥の羽が舞う。


〈クァァ~~~〉何処からか間抜けな鳥の鳴き声が聞こえた時、



ズドドドドドドドッ!!



羽を中心に爆発が起きた。






 爆発は近かった僕や白夜を巻き込まない小規模のもので、三方向の爆風と砂ぼこりで目を瞑った。

足に何かが当たった。目を開け手に取れば、其れは化け物の手だった。


ザッザと歩く足音が聞こえ、砂ぼこりから足が見える。

誰かは僕の隣に立ち、僕は足元から目線を上げていった。

一度は松の木の下で出会った彼を幻視した。


「間に合った…かな?怪我はないかい?」


でも、違う。

あの人は小豆色の平安装束を着ていた。

隣に立つ男は、赤というより茶色近い黄色を混ぜた明るい緑の装束であり、髪は茶色く肩より少し上で切り揃え、頭に烏帽子は無かった。

大人の余裕溢れる微笑みではなく安心させるために笑いかける彼は、現代の大学生のお兄さんが平安装束を着ているような…しかし不思議と違和感は感じなかった。


 優男さんを見上げ呆けていると、砂ぼこりが晴れた。渦巻いた風に不自然に散らされて。

晴れる寸前、一匹の化け物が此方に跳んできた。

喰いにかかった風には見えず、何かから逃げているようだ。

其の逃亡も地面に着く前に終わった。

空中で化け物が動きを止めたかと思えば、頭から体にかけて線が入り、次の瞬間には二つに分かれ着地する事なく地面に落ちた。


晴れた先で、さっきまでいなかった男が一人。

背中しか見えないが、服装は昼間にも見かけた戦国か江戸か、歴史系のドラマでも見られる藍を基調とした侍の格好でスポーツマンの如く短い黒髪をしていて、白夜がどんなに殴っても元気だった化け物を二匹、同時に真横に切り裂いているところだった。

彼の持つ刃物の大きさに僕は驚く。

形は日本刀みたいだけど、長さは隣の優男さんよりも背の高そうな其の男の身長と同じか其れ以上、幅も普通の刀の二倍か三倍で太刀とも言い難い。

ファンタジーの大剣を切るのに特化させて片刃にしたともいえる刃物。だが、日本刀といってしかるべき物だった。

日本刀であれ大剣であれ、見ただけで重いと分かる刃物を軽々と男は向こう側へぶん投げた。

刃物は向こう側に一匹、こっそり逃げようとした化け物に向かって飛んでいき、化け物の頭を巻き込んで地面に刺さった。


道を我が物顔に占領して白夜を苦しめた化け物は一匹残らず動かなくなった。

其れは二人の男がやってきて直ぐの事だった。





〈グァァ〉


 気の抜ける鳴き声を発しながら一羽の鳥が空から降りて来る。

隣に立つ優男さんの腕にとまった鳥は、写真でしか見た事が無いがカモ科の雁と呼ばれる鳥であるのは良いんだけど、物凄いアホ面だった。


「お疲れ様、よくやったよ。ありがとう」


優男さんがそう言って頭を撫でると、雁は嬉しそうな声で鳴いた。


 ドサッという音が聞こえた。

見れば、立ち膝で停止していた白夜が地に伏している姿があった。


「白夜っ!!」


白菊さんをそっと地面に寝かせ、白夜の元に駆け寄る。

血はまだ止まっていないがか細く息はあって、ほっと息を吐く。

僕達の傍に寄る人影がもう一つ。

大きな刀を扱っていた男は調子を確かめるように首を鳴らしながら傍に来た。


「…彼の身は、生きているのか?」


事無さげに白夜を死んだ風な態度で、僕は男に怒りを覚え、言葉を荒げる。


「生きてますよっ」


だが男は「そうか」一言いうだけで、すまし顔の一つも変えなかった。

優男さんは、彼の返答に苦笑した。




 時間の経たない内に、「お~い」という遠くからの呼び声と複数の足音が城の見える方とは反対から聞こえてきて、夜に目立たぬ黒い侍姿の男達が現れ、一番前にいた二人より年上であろう、上に跳ねた黒髪の男が二人に話しかけた。


玉梓(たまづさ)春人(はるひと)じゃねぇか。あんた等が鬼を退治したのか?」


優男さんは肯定し、続けて何かを言おうとしたようだが、すまし顔男が口を挟んだ事で声にならなかった。


「向こうで一人、血を噴出して死んでいる。其処の死にかけはまだ息があるようで、死者は此の場において一人だ」


すまし顔男の言葉の羅列に黒装いの男は了承の意を示し、後ろに立つ男達に指示を出した。

指示を聞いた男達は、数人が走り去り、残りも目に見える範囲で動き出す。

全員が行動に移すのを見守った後、黒装いの男は向き直った。


「んで、何か言いたそうな顔してんな、春人。まだ何かあるのか?」


「…十五の。此れは怠慢か?城近くまで鬼の侵入を許し、挙句の果てに長く来ないときた。

夜は其の身達の領域だろう。其処に此の身を介入させた事、其れは其の身達の力不足に他ならない。…其処の死にかけが多少腕が立たなければ死体が三、増えていた」


淡々と言われるおそらくもっと短いだろう予想をしていた言葉に、黒装いの男は決まり悪そうに眼を逸らし髪をいじる。


「っても、今日は変だろ。鬼の叫び声で他の隊の奴らが自分の縄張りから出て助太刀の一つされなけりゃ、俺んとこも燈んとこも手一杯になる量が外回りに襲来して来たんだぜ?中に入んのが十以内に収まった事だけでも褒めてくれよ」


「其の辺の話は明日、場を設けて話す事にしよう。他の隊も言いたい事があるだろうしね。藤姫様には私から話を通すよ。印南(いなみ)さんには悪いけど、各隊長には十五の隊から通達を頼みたい」


優男さんが間に入り話をまとめると、頼み事をされた黒装いの男は渋る事無く彼の意見を飲み、すまし顔男も黙って頷いた。


「後に、十五の隊全員を連れて五の道場に来い。此の身が相手をする」


「げっ…昼ぐらい寝させてくれよ。明日の夜寝不足で不調とか勘弁だからな」


「問題ない。俺の隊から代わりをやろう」


「あんた、自分の言った事を振り返ってみようか」


黒装いの男の言葉を聞き流してすまし顔男は膝をつき、地に伏したままの白夜を持ち上げて自分の肩に乗せ俵担ぎにした。

其の動きは雑で、起きない白夜が死んでいるんじゃないかと心配になった。

丁度よく乗る位置にずらした彼は、白夜を担いだまま城の方に歩き出した。


「此の身は城に戻る。十五の、後は任せた」


「は?あれどうすんだよ」


「頼んだ」


「はぁぁ!?年上の扱い荒いぞ!?少しぐらい気遣い見せやがれっ!」


「え…あの…」


「彼は城で預かるよ。悪いようにはしないさ」


 すまし顔男が夜の暗がりで姿を隠してゆく。

引き留めようとした僕を優男さんが制する。

彼は其の手で僕の腕を脇から持ち上げ、立ち上がるよう促したので僕は其れに従った。

地べたに座りっぱなしだった足は若干笑っていて、ふらついた僕を優男さんは支えた。


「あなたは僕が送り届けよう。今夜は鬼が多い。短い道のりだろうと襲われないとは限らないからね」


優男さんは白菊さんを俵担ぎではなく普通におんぶをし此の場所から背を向け、僕達の飛び出してきた大五郎茶屋の名前を出すと「ああ、あそこね」と迷わず歩き出した。

そういえば、彼の腕にいた雁は何処に…?

空を見上げて、背を向けていた黒い侍さん達があくせくと動き回る小路を見た。

羽音もしないし、後を付いてこない僕を首を傾げて呼ぶ優男さんも当たり前みたいな体なので、まぁいっかと彼の後を追った。



                  ※       ※



「状況はよく分かんないけれど、あなたにも彼女にも鬼のつけた傷がないって事は彼はお二人を守ったって事なんだね。

彼はよくやったよ。そしてあなたも。

守られている事は結構難しい事なんだ。

庇護者の傷つく姿に居ても立っても居られずに体が動いてしまう。

其の行動が状況を予想とは違う方向に動かし、結果庇護者に不利が働いてしまう。

下手したら其れが庇護者の死亡理由になるかもしれない。

…私も彼の傷は久し振りに酷いと思えるものだったよ。私だったらもしかしたら助けるつもりで手を出してしまうかもね。

だけど、あなたはじっと耐えた。だから彼は死なずにすんだ。あなたはちゃんと彼の役に立ったんだ。


君が彼を生かしたんだよ」


 帰路の途中、退屈…若しくは不安を紛らわすように話をしてくれた。

戸を開けると直ぐにさえちゃんと小母ちゃんに腹から突撃されて地面に倒れた。

お金を払わない客は放っておいていいから、もう外に飛び出さないでおくれ。涙の跡の残る顔で小母ちゃんは涙も鼻水もわんわんと流していた。

さえちゃんはやはり表情を変えなかったし、涙も流さなかった。抱き着く力は痛いくらいに強かった。

二人の後から夜明がやってきた。

夜明は安心したと肩から力を抜いていたが、表情は暗かった。

自分が何もしなかった事が後ろめたいと見える。何故分かる?と言われれば僕も同じ感情を持っているからだ。

僕は白夜の御陰で大丈夫、白夜も…大丈夫。と伝えると、彼は今までの…とは言えないもののやっと口元を笑って見せてくれた。


優男さんは白菊さんをおろした後、


「本日はもう遅いから。明日、日が昇って三十度辺りの頃にあなたとあなたの連れの方々を迎えに来るよ。其の時間までに店の前で待っていて欲しいな」


と残して、店に残っていた男達を家に送り届けに行くと引き連れて去っていった。



元は客が泊まるために開放していた店のスペース、其処を寝るために其のまま使わせて貰える事になった。掛け布団も借りて申し訳ない気持ちで一杯になったが、小母ちゃんはしょっちゅう客が泊まってくから慣れていると笑っていた。


 僕は日も跨いだ時間に外の長椅子に座り夜風にあたっていた。

空では憎らしい程輝く化け物…鬼の口とよく似た形の月があった。

眠れない原因ははっきりしない。

でも、七匹の化け物によって傷ついていく白夜の姿、其の光景が頭の中でずっとリピートするように巡っていくのだ。

優男さんは何もしなかったから大事には至らなかったと話した。僕も動かない事が正しいと分かっていた、

血を流す彼を見ていながら。



黄金に輝く松の木の下で、誰かと関わる勇気を貰った。

此の世界にて、誰かに存在を認めてもらえるチャンスを貰った。

だというのに、



「其の誰かを…守りたい……守れる力が欲しい………そう願う事は……傲慢なのかな………………?」



答えを出せずに僕は寝落ちし、翌日、僕は昨日あんな事があったのに何暢気に寝てんだいと言う小母ちゃんの声に起こされ、こっぴどく怒られるのだった。

出てきた男達は後にちゃんと紹介します。


【初出の短歌】

秋風に 初雁が音ぞ 聞こゆなる 誰が玉梓を かけて来つらむ


            『古今和歌集』 二百七首 紀友則


誤字脱字、文章的におかしな点はないでしょうか?

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