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歌奏和伝  作者: 自由のメガネ
始まりの初夏
10/65

ー陸ー「恐ろしい現実」

今回は少しばかりグロイ描写入りです。

 皿と箸がぶつかる高い音が盛り上がる談笑の声に隠れてあちらこちらから聞こえる。


見渡せば、白菊さんが膳の配達先のおじさん達と意気投合している様子やさえちゃんの仕事ぶりに鼻の下を長くして見る食事待ちの客がいる事がよく分かる。


此の店、名を大五郎茶屋といい、胸を張るに充分な評判がある有名店だそうで、茶屋としては大きめの間取りで店員が多数動き回ろうと肩のぶつからない広さがあった。

最近は既に白夜に返り討ちにされた男達の多大なる迷惑により入るには入れなかった客が戻ってきたようで、一人欠けた店員を賄うのに四人加わったところで足りている気分にはならなかった。


…で、


「食事をしていた筈なんだけどなぁ…」


僕達がバイト紛いの事をしている理由。其れは、白夜の元に合流した時まで話が戻る。



                  ※        ※



 夜明先導で人と人の間を抜けた僕が見たのは、飛んできた男同様ごつく柄の悪さが滲み出ている男達が一人残らず地面に倒れている光景。気絶している人が大多数で、意識がある人も腹部や他の部分を抑えるばかりで起き上がれそうにない。

其の光景を生み出したであろう、一人立っている白夜は顔を伏せ、手に付着した土を払っていた。


「白夜!」


 僕の後ろで白菊さんが彼の名前を呼んだ。

見た目何とも無かったとはいえ、転がる男達と喧嘩をしていたのだ。心配にでもなったのだと思う。

其れは僕もさえちゃんも同じだった。

夜明けは……していないだろう。信じているとも言っていたし。


 でも、心配は間もなく霧散し、次に持った感情は恐怖だ。

会った瞬間に感じた、やっとこさで慣れた白夜の目付きはまだ序の口だと思わせる、戦いの熱が冷めてない目が此方に向いた。

気を抜けば男達と同じ末路を辿る事を幻視して、僕は一歩下がり、後ろにいた白菊さんにぶつかって直ぐ謝った。

二人は何も感じてなさそうだったけど、起こった事の一部始終を見ていた周りの人達に至っては一歩どころか、一回り二回り近く後退していた。

其の目が夜明けを見てよりつりあがったあたり、放り込んだ恨みはしっかり持ってるらしい。


 彼のトゲトゲとした気配を吹き飛ばしたのは、元気な元気な小母ちゃんの声。


「いや~、あんた強いっさね。小母さん吃驚しちゃったよ」


僕達が白夜を壁にして見えなかった向こう側にいたからなのか、何も気にしないで白夜に話しかける小母ちゃん。

白夜もまさかこんな気軽に話しかけられるとは思っていなかったのか、口は動いても声は出ていないようだった。


 夜明の狙い通り、小母ちゃんは出来る限りのお礼がしたいと言った。

自分から口を挟んだつもりもない白夜は夜明けの思惑なんぞ関係なく断ったが、小母ちゃんもしぶとい。グイグイ押してくる。

横から口を出す場面でもなく、夜明も女の子二人も僕も助太刀しない事に白夜が困り果てた直後、其の音は鳴った。


グ~…


お腹の…空いた音である。出所は………僕。


周りの視線から眼を逸らしながらから笑いするのが精一杯だった。

しかし、白夜は此れ幸いと小母ちゃんに頼んだ。


「俺の連れに、腹一杯食わしてやってくれないか?」



                 ※        ※



「けれども此処は人気店。客足は戻っても従業員が減っててんやわんや。お礼とはいえ、自分は何もやっていないのにただ飯とはと申し訳なくなった白菊が、小母さんに手伝えないかと訊いてみるとバイトみたいにお金を出すってきたもんだ。勿論、乗らない訳が無いよ」


「…君の、思った通りに進んだみたいだね」


「さてはて、如何だろう?」


 配膳を運び終えて、客の入れない調理場の暖簾をくぐれば、夜明が先に休憩していた。

忙しいのにやけにのんびりとしているなという風に見ているのが伝わったのか、彼は肩を窄めて、


「ピークに比べて、人も減ったと思うよ。丁度料理も出来ていないから、休む以外の選択肢は「おい、此れ運んでくれ」さぁ仕事だ」


一人料理を作る店主の小父さんの手伝いをしていた白夜が皿を運んで、僕の持っていたおぼんに異なる甘味が乗る小皿を幾つか置いていく。


「全部、戸口傍の卓の締めだ。頼む。……で、こっちが夜明な」


僕のに置き終わると、今度は夜明に置いたままだったお盆を持たせ、僕と違って重箱の一段の様な枡形を二つ。そして箱の縁を利用して上にお盆を置き、また同じものを二つ。そして其の箱の縁も使って…


「やっぱり僕だけ多いね!こんなまざまざ違い見せつけられるとイジメにしか見えないよ!?」


乗せ終えた白夜は満足感を露わにする。両手の上に五段分積み重なり、顔の見えない夜明は叫んだ。

やはり重いのか、全体的にガタガタ震えている。

落とさないかが心配だ。


「宴会みたいに騒いでる卓に全部な。でかい注文は以上だ。俺を変な事に放り込んだのをこれでチャラにしてやるんだから、文句言うんじゃねぇぞ」


キッと睨みまれ、「は~ぃ」と緩く返事をしてよろけながら夜明は調理場を後に。

暖簾際ですれ違った小母ちゃんも五段重ねを持った姿には驚いていた。


「あの子、如何したんだい…?あ、白夜ちゃん右手前の卓と其の横の卓で焼き鳥三本ずつ、左二つ目の卓で味噌田楽お願いして良いかい?友ちゃんも助かったさね。もう殆どの客が帰るか宵を楽しむかしかしないから、のんびりで良いさ」


「は、はい」


「了解っす。だそうっすよ、おっさん」


 小父さんが焼き鳥を焼いたのを見てた白夜が味噌田楽に取り掛かるのを見て届け、僕も暖簾を潜り所定の場所へ。時間はそう掛からなかった。

戸口傍の卓だと外の景色も目に入る。


 横引の戸を開けると、大通りは日が出ていた時と様変わりして、人も微かにしか通らぬ静かな空間と化していた。肌に触れる温度も心成しか下がった気がする。

道の両端の木造の行燈が近場を、月は半月以上地上を照らしているから、時代劇で見られる提灯をもって歩かなければいけない程ではない。

通りを吹き抜ける風と、何処からか聞こえる金属と木が擦れた様な、キィ…キィ……という音が不気味に思えて戸を閉めようとした僕を、


「きゃあっ!」 ガっシャーン


 誰かが押しのけて外に出た。

中では尻餅をつく女性、小母ちゃんの娘さんと散らばる皿や小鉢、集まる客。

誰かが叫んだ。


「た…ただ飯屋だー!」


男の行く方向では、忙しなく離れ去る姿が辛うじて見える。

まだ、追いつける。僕は追いかけるために走り出した。

後ろからも揃わない足音が聞こえる。少し振り返れば、夜明に白菊さん、さえちゃん。

店の前で小母ちゃんが何かを叫んでいるようだったけれど、誰一人立ち止まらなかった。


きっと、僕達は止まるべきだった。小母ちゃんの言う事を聞いていれば良かった。

僕達はまだ何も知らなかった。



                 ※         ※


…。


……。


………。


 男の走る音、息切れが聞こえる。

年の若さか、服の動きやすさか。走る男と僕達の差は間違いなく狭くなっていた。



追いかけられている事に気づいた男は、其れでも往生際悪く大通りから小道に入り、右へ左へ曲がって僕達を巻こうとする。

周りはほんとに人がいなくなり、店もなく塀が連なる辺り居住区なのだろう。


今もまだ、金属と木の擦れる音が耳に付く。











男は数メートル先でまた曲がり、姿が見えない。


あそこを曲がった先で男をとっ捕まえる事が出来そうだ。僕は意を決して三人より先に角を曲がった。












パシュッ


アルミ缶のプルタブを開けた時の音。僕が聞いたのはそんな軽い音。

僕が見たのは、首から勢いよく液体を噴出させて力なく崩れ落ちる男の姿だった。


「………え?」

















なんで男は倒れてる?何で男は動かない?広がる水溜まりの色は何色だ?鼻を掠める此の鉄の臭いは何だ?グチュグチュと耳に響く音はなんだ?


男の首元で蠢くあれはなんだ?








「…も!…友!一体何が…!?」


 白菊さんの声で我に返る。

動かなくなった僕に声を掛けた彼女も見た風景に声をなくし、口を押さえる。

後から追いついた二人も目を見張る。


呆然と立っているしかない僕達を無視して、其れはひたすら吐き気を催すような音を立てて蠢き続けていた。

落ち着きを取り戻した頭で考えてやっと理解した。


 塀の陰に隠れて、姿形は把握出来ないけれど、其れは食事をしている。男の首元の肉を引きちぎり、捏ね繰り回すように咀嚼して。


不意に音が止んだ。僕は瞬きをせず、其れを見続けた。

月の光を反射して光る二つの丸いものはおそらく目だった。僕達をじっと見てから、身体もこっちに向ける。ピチャッピチャッという音と大きくなる目に其れが近づいてきている事を知り、近づくごとに僕達も下がった。

角の傍から道の真ん中まで来て、陰からそいつは出てきた。


目の位置からも予想したままに其れは僕の膝丈の身長であった。肌は青い気がする。二足歩行する体は歪で可笑しな所が尖っていたりもする。

頭の尖りが角みたいで、トカゲみたいな手足である、毛が無くてカエルの眼が這い出たような目を此方を向いている。




ずっと僕達から目をを放さないで、其れは顔の半分を占める大きな口を空の月と同じ形に曲げて、木と金属が擦れる音のような声で鳴いた。


〈キィ……♪〉




「逃げろっっっ!!!」


 弾ける風に夜明の声を合図に来た道を駆けだした。

夜明はさえちゃんの手を、僕は白菊さんの手を引いて、一刻も早くあいつから離れなければいけない。

離れなければ、僕達は其れに×××××。


〈キィ…キィ…キシャァァァ………♪♪〉


楽しそうに鳴いて付かず離れずの距離で、其れは僕達を追いかけて来た。逃げる様を見るのがよっぽど楽しいみたいだ。

追いかける為に走って、今は追われて走っている。息切れが激しくて苦しいのは体が限界だからか。

感情も相乗して呼吸を追い込む。


 後ろで大きな音がして、手が下に引っ張られる。見れば、白菊さんが倒れていた。

躓いたようだ。


「立って!早く!!」


余程此方が怯えて欲しいらしく、其れはスピードを緩めて近づいてくる。

油断している隙に走り去りたいところだったが、手を引っ張っても白菊さんは立ってくれなかった。

寧ろ僕を見上げ、目を揺らして言った。


「ねぇ…足に力が…入らない……」


事は悪い方向にしか進んでいかない。

何度も其れを視界に入れて、力の入っていない手を掴み、如何にかしてでも彼女を立たせようとした。

一人で逃げたいとは、思わなかった。

でも現実は非常だ。


〈キ……キシャァァァァァァァァァァァア!!〉


遂に其れは白菊さんに飛び掛かってきた。

僕は掴んでいた手を放し、其の手で彼女の背中を押して無理やり屈ませる。

僕は彼女の上から覆い被さって来るだろう痛みを想像して、目を瞑った。








〈キシュッ…!?〉 ボキョッ


 頭の上で柔らかい物に何かぶつかったみたいなねちっこい音がした。体に痛みは走らない。

続いて、傍に着地する音、少し遠くに落ちた音が聞こえる。

僕は目を開けて、傍にいる存在を見上げた。


「お前等、無事か?」


立っていたのは、一緒に追いかけてはいなかった筈の白夜だった。

話が進まない。


誤字脱字、文章的に可笑しな点は無いでしょうか?

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