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船降る星のストラグル  作者: あたりけんぽ
第一部 来し方より訪れし者たち
9/63

漂着:勢い余って世界を滅ぼすなんて

 いつの間に接近されたのだろう。

 イナミが振り返ると、奇妙な人型軟体生物が立っていた。


 全身は白いエナメル質の肌に覆われ、腕がゴムチューブのように揺れている。

 赤い目はカメラレンズのように無機質だ。

 口はだらしなく開いている。歯も舌もないので、唾液が糸を引いて垂れていた。


 それが一体だけではなく、同じ姿形をした者が、続々と瓦礫の陰から現れた。


 イナミは本能的に危険を察知し、頭部外骨格を纏ったまま話しかける。


「なんだ、お前たちは。人間……ではなさそうだが」


 軟体生物たちは互いに視線を交わすことなく同時に、口から『せらせら』と甲高い笑い声を洩らした。

 その音の周波数には一定の規則性があることに、イナミはすぐ気づく。


「音響通信だと?」


 軟体生物はまたもや一斉に笑い声を止め――イナミへと飛びかかってきた。


 敵と認識。バッグをその場に落とし、身構える。

 クレーターを背にしているので正面の一体を迎え撃つしかない。放電で麻痺させ、その隙に包囲を突破しよう、と作戦をまとめた。


 だが、こちらが触れるよりも先に、顔面を鷲掴みにされる。距離はまだあったが、軟体生物が腕を伸ばしたのだ。

 イナミは引っこ抜かれるように振り回され、背中から地面に勢いよく叩きつけられた。


 痩せ細った外見からは想像できない膂力(りょりょく)である。


 倒れたところに、他の軟体生物たちが押し寄せてきた。ヘビのような腕が手足に巻きついてきて、あっという間に身動き取れなくなってしまう。


 強引に立たされたイナミは、この窮地を脱するため、全身から生体電流を放った。

 密着していた軟体生物の白い肌が黒く焼け(ただ)れていく――


 が、一気に殲滅することはできなかった。次から次へと新手に巻きつかれてしまい、イナミの生体エネルギーが先に尽きた。非常糧食による補給分が台無しだ。


「くっ……」


 多勢に無勢。しかも、軟体生物はイナミに匹敵する身体能力を有している。

 こんなのが地上にいるなんて――


 再び、激しい眩暈に襲われ、イナミは頭を振った。

 幻覚まで現れ始めたようだ。こちらの足掻く様を観察していた個体の姿が、見覚えのあるものに変わっていく。


 白い表皮に陰影が浮かび上がり、人の顔や毛髪、身体が形成されていく。

 女性的な膨らみの上に、全身を覆う分厚い衣服が浮かび上がった。――気密服だ。


 いや、いくらなんでも、おかしい。

 イナミは懸命に目を凝らした。

 幻覚などではない。現実に、軟体生物が変化している。


 最後に色がついたとき、イナミの目の前には、黒髪の女性が立っていた。


「か、カザネ……!?」


 死んだはずのカザネ・ミカナギ。

 彼女は生前には見たことのない薄ら笑いを浮かべた。


「久しぶりね、イナミ」


 声まで同じだ。

 呆然としているイナミに、軟体生物たちが『せらせら』と笑う。


「まだ分からないの? あなたたちが亜空間から抜け出せたのなら、〈ザトウ号〉も抜け出せて不思議はないでしょう?」


〈ザトウ号〉の存在とその末路を知っている。

 ということは、イナミに纏わりついている軟体生物たちは――


「まさか、実験体か!?」


 正解だったようだ。奇妙なことに安定状態に見える変異体は、不快そうな表情を浮かべた。


「実験体なのはあなたも同じでしょうに」


 やはり、イナミたちは確かに一度、亜空間に呑み込まれたのだ。


 そもそも『閉じられた亜空間からは脱出できない』という言説は証明されていない。

 それを皮肉にも、イナミたちが『脱出できる』と実証してしまった。


 エネルギー波は、亜空間内にトンネルを作り出し、想定されていない座標に出口を作り出してしまったのである。


 数多(あまた)の犠牲を出して封印された変異体が、地上に降り立っている。

 その事実に打ちのめされながらも、イナミは険しい声で問い質した。


「なぜカザネの姿をしている」


 変異体はなんてことないという態度で話す。


「船員たちの身体を使()()()自己複製を繰り返すうちに、気づいたのよ。脳に刻まれた記憶や人格をデータとして抽出できる、とね。その意味が分かるかしら?」


 イナミが黙っていると、変異体はあからさまに溜息をついた。


「記憶や人格を集積すれば、膨大な情報ネットワークになる。遺伝子貯蔵庫(ジーンバンク)ならぬ精神貯蔵庫(マインドバンク)といったところね。模倣(エミュレート)だって可能よ。今、こうして話しているように」

「要するに、『寄せ集め』を作ったのか」

「『思念体』、と呼んでほしいものね」


 目の前の変異体は、その思念体とやらに保存されているカザネの人格を、再現しているに過ぎないらしい。


「なるほど――だが、質問の答えではない」

「答えているわ」


 イナミは自由の利かない手を軋むほど強く握り締めた。


「カザネの身体に手を出したんだな?」

「少し誤解しているようね。彼女は()()()の一部となって生き続けているのよ」


 そう言って、変異体は微笑んだ。カザネそっくりに。


「死後経過で記憶はかなり欠落していたけれど、あなたのことを知るには十分だった。それにクオノのこともね。なかなか興味深い能力だわ」


 全身から血の気が引く。

 思念体というネットワークを形成した変異体が、高度なハッキング能力を持つクオノを支配しようとしている。

 大惨事が起きるのは確実だ。


「……〈ザトウ号〉の船員はほとんど死んだはずだ」

「残りも片づけたわ」

「だったら! これ以上、何をしようって言うんだ!」


 イナミは拘束を振り解こうとしたが、より強い力で押さえつけられた。

 変異体は微笑を絶やさず、聞き分けのない子供を諭すように話す。


「新しい世界を作るの」

「……世界?」

「ええ。肉体は思念体の決断を実行するための器であればいい。……あなたもそこの残骸は見たわね?」


 市街地を壊滅させた大型船のことだ。

 イナミの無言は肯定として相手に伝わった。


「ヒト同士で滅ぼし合った結果よ」

「戦争か? そんな話、聞いたことがない」

「私たちが生まれた時代には、ね」


 変異体は空を仰いで、息を吐いた。


「あなた、()()()もの間、亜空間に閉じ込められていたのよ」

「何を言っている。通過は一瞬だった」

「当然でしょう、亜空間とはそういうものだから」


 イナミとてそれは知っている。亜空間内に時間という概念はない。だから、通常空間に戻っても一瞬としか感じないのだと。

 だとしたら、不可解な点が、ひとつある。


「お前は本当に変異体なのか? 俺が遭遇したヤツらとは違いすぎる。それに、船員たちの脳情報を集めたと言っていたが、そんな時間はなかったはずだ」


 変異体は冷ややかに笑った。


「あの不完全な潜航は、私たちを異なる座標に浮上させただけではない。異なる時間と異なる座標に浮上させたのよ」


 亜空間航行は、三次元空間を移動する技術ではない。

 座標と時間。

 その片方が滅茶苦茶だとしたら、もう片方も――


 変異体はクレーターに顔を向けた。かつての凶暴な生物兵器だった頃とは正反対に、知性を宿した目で底に眠る残骸を眺める。


「戦争末期、私たちは地上に降り注ぐ人工物の雨を見届けたわ」


 雨。

 地上の至るところに、質量という破壊力を持つ物体が衝突したというのか。この市街地のような光景が広がっているというのか。


「ヒトは愚かね。自分とは違う者を排除しようとし、勢い余って世界を滅ぼすなんて」

「お前たちが〈ザトウ号〉でやったことも、同じじゃないか!」

「失敗作の烙印を押されたから、優れていることを証明しただけよ。今なら、彼らだって私たちを認めざるを得ないでしょうね」

「見境なしに人を殺戮するのが、優秀であるはずがない!」

「命令されれば、殺戮してもいいと言うの?」


 イナミは反論に詰まってしまった。『それが兵器の務めだ』と、なぜか言えなかった。

 変異体が笑みを(いびつ)なものに変化させる。


「大体、『殺戮』というのも短絡的な発想ね。私たちは人類を解放しているのよ」

「……何言って――」

「全ての意志が思念体に統一されれば、こんな過ちを二度と犯すことはない。後には永遠の安寧が待っている」

「それが、お前たちの『新しい世界』か」

「ええ。同じ実験体のよしみよ。あなたも私たちと生きましょう。ね?」


 ヒビに染み入る甘美な響きに、イナミは脳髄を引きずり出されるような寒気に襲われた。


 カザネは死の間際に『あなたには生き延びてほしいの』と言い残した。

 変異体は同じ声で『私たちと生きましょう』と囁く。


 自らの命を犠牲にしてでも希望を託すために行動した彼女が、変異体に同化したことでヒトは愚かと見限るのだろうか。信じていた研究を、間違いだったと認めたのだろうか。


 ――いいや、俺は騙されない。


 目の前に立つ者は、カザネの姿をしているが、所詮は全くの別物だ。紡ぐ言葉も、思念体とやらに歪められたものでしかない。

 それは死者の冒涜だ。


「お前たちは――カザネを殺したんだ。そのことをなかったことにするつもりか」


 今度は変異体が首を傾げる番だった。やはり理解できていないのだ。


「俺はお前たちを認めない。同じ実験体だって? 一緒にするな。お前たちは俺の敵だ」


 変異体が表情をすっと消し、イナミに迫ってくる。


「……それで、クオノはどこ? 別々に脱出したところは見たけれど」


 あの巨体から情報を得たのだろう。

 反射的に言い返そうとしてしまうが、ここで奇跡的に、かろうじて残っていた冷静さが機能した。


 イナミはてっきり、変異体がすでにクオノを回収しているとばかり思い込んでいた。


 だが、変異体はまだ回収できていない。

 だから、こちらが何か知っていると考えて、襲いかかってきたのだ。


 今頃は、脱出ポッドにも変異体の群れが押し寄せているところだろう。同型ポッドの位置を探り出すのに利用できるはずだ。


 イナミが気づくと同時に、変異体もぼそりと呟いた。


「……そう。ヒトの生き残りが隠しているようね」


 目の前の変異体がカザネの姿を崩し、元の軟体生物の姿に戻る。鞭のようにしならせた腕をイナミの首に巻きつかせた。


「あなたは拒否したけれど、別にどうでもいいのよ。一つになるのは決定事項だから」


 言うや否や、変異体たちの腕がイナミを締め上げる。


「ぐ、う……!?」


 もはや余力はなかった。

 外骨格の節々が軋みを上げる。装甲が砕かれ、肉体が細切れになるのも時間の問題だ。さらには呼吸孔が塞がれて息ができない。

 そんな状態にあっても、遠のく意識の中ではもがいているつもりだった。


 似た感覚を知っている。

 ほんの数時間前のことだ。


 変異体と死闘を繰り広げた。

 船から飛び出した。

 もう一機のポッドを救おうとした。

 どうにもならなかった。

 ただ絶叫する以外には――


 その感覚が蘇ったとき、指先が膜のようなものに『触れた』。

 異常な熱が脳に発生する。途端、神経回路が溶接されたかのごとく、五感がでたらめに機能し出した。


 目で音を視て、舌で光景を味わい、肌で味に触れ、鼻で触れる物を嗅ぎ、耳で匂いを聞く。


 混線した五感が頭に渦巻く。その竜巻の目に、膨れ上がる未知の感覚があった。

 イナミはそれに『触れた』のだった。


「――かはっ」


 急に呼吸ができるようになって、思わず咳き込む。


 気がつくと、変異体の拘束から脱していた。

 それどころか、いつの間にか変異体たちの遥か後方に移動しているではないか。

 変異体たちが力を緩めたわけではなさそうだ。『せらせら』と音響通信を交わしながら、イナミがどこに消えたのかを探している。


 何が起きたのだろうか。

 端的には、瞬間的に空間を移動したことになる。まるで亜空間を通ったように。


 ――()()()()()()()()()()、だって?


 とにかく難は逃れた。イナミはこの機に走り去ろうとする。

 それなのに、左腕が何かに引っかかって動かない。


 苛立ちながら視線を落としたイナミは、動揺から体表面のパルス光を激しく乱す。

 なんの変哲もない鉄筋が外骨格を貫通していたのだ。


 強引に腕を引き抜くと、血が噴き出した。鉄筋のある空間にイナミが移動したから、こうなったのだろうか。


『液体金属』による再生が終わるよりも先に、変異体がこちらに気づいて振り向いた。

 と同時に――


 がん、と鉄をハンマーで叩くような爆発音が廃都市に響く。


 変異体の頭が吹き飛んだ。

 奇襲を受け、群れは音のしたほうへと顔を向ける。


 イナミは、瓦礫に隠れながらも顔を覗かせ、土煙の中から彼らの姿を見つけた。


 薄汚れた重装甲スーツを着込んだ兵士が、背中から展開された補助腕で大型ライフルを構えている。

 その横には、マシンガンを携行した十数人の兵士が並んでいた。


 他と形状の異なるフルフェイスマスクの兵士が、右腕を掲げ、振り下ろす。


「ミダス体を始末しろ!」


 大声で発せられた号令を受け、マシンガンが一斉に火を噴いた。


 実験体たちは見る見る穴だらけとなり、地面へ崩れ落ちた。

 それでもなお、ナノマシンのアメーバは互いに結合し、個体数を減らしながらも元の人型へ戻ろうとする。


 そこへ槍のような武器を構えた兵士たちが突撃した。

 細胞群に突き刺さった穂先から青い火花が激しく迸る。ディスチャージャーだ。


 戦闘はあっという間に終わった。

 まずは銃撃で動きを止め、放電でとどめを刺す。

 その流れるような連携から、彼らが変異体との戦いに慣れた精鋭だと分かった。


 ――『ミダス体』、と呼んでいたようだが。


 イナミは逡巡しながらも、外骨格を解除した。

 変異体が、クオノは『ヒトの生き残りが隠している』と言っていたのを思い出したのである。

 彼らに接触して情報を得るべきだろう。

 呼吸を整えてから、瓦礫越しに大声を出した。


「撃たないでくれ! 俺は変異体じゃない!」


 兵士たちから動揺の声が上がった。

 イナミは両手を上げ、慎重に物陰から出る。


 一見すると徒手空拳の青年にも、兵士たちは容赦なくディスチャージャーを向けた。

 例の号令を出した兵士が、フェイスガードを展開する。頬が毛むくじゃらで、片目に義眼を移植した男だった。


「ミダス体どもの浅知恵かァ? 潜伏させようったってそうはいかねェぞ」

「違う! 俺は〈ザトウ号〉の船員だ! ポッドで不時着――」


 と、そこまで言いかけて、ふと考えた。


 自分の身体に埋め込まれているのは軍事技術だ。ここが変異体の言うとおり二百年後の世界であっても、機密は守るべきだろう。

 もっといえば、彼らが味方かどうかは、まだ分からないのだ。


 男が『船員』という言葉を聞いて、怪訝そうな表情を浮かべている。

 イナミは慌てて言い直した。


「不時着したポッドを見て、ここまで来たんだ。あれはどうなったんだ?」

「ポッドだァ? あの漂着物が妙な信号を出していたせいで、ミダス体どもが集まってきやがったんだ。オレたちが来る前に持っていかれちまったよ」


 なるほど、とイナミは内心で頷いた。

 変異体は救難信号を受け取った。ならば同様に、クオノのポッドからも受け取ったに違いない。それでクオノが不時着したことを知ったのだ。


 男は「で?」と顎をしゃくった。


「この(おか)のど真ん中で、船員たァどういう意味だ」


 イナミはクレーターの残骸から閃いて、口から出任せを言った。


「俺たちは船の残骸に住んでいた。だから、『船員』だ」

「ああ」

「だが、あの変異体に全員殺されて――俺はここまで逃げ延びてきたんだ」


 嘘は言っていない。

 死体の山を実際に見てきた経験が、イナミの目に真実味を持たせた。


 男は「ふむ」と唸ると、焼き尽くされた変異体の塵を見やる。


「もう一人いただろォよ。誰かが喰われてたのが見えたんだがなァ」

「気のせいだろう。俺一人しかいない」

「そいつはよかった」


 男はにっと笑うと、部下からディスチャージャーを取り上げる。


「おめェの話は分かったよ」

「そうか、……助かった」

「だが、念のために確かめさせてくれや」


 男は笑みを浮かべたまま、ディスチャージャーをイナミの腹に押し当てた。

 強烈な電流を受け、イナミはその場に崩れ落ちる。放電はすぐに止んだが、手足の痙攣は治まらない。

 男の悪びれない声が聞こえた。


「ミダス体なら正体を現すと思ったんだが……おめェは人間らしいな。はっはっは」


 接触は間違いだったかもしれない。

 その下卑た笑い声を耳にしながら、イナミは気を失った。


   〇


 はっと飛び起きた拍子に、寝台がぎしりと軋む。

 手のひらで台の肌触りや形を確かめる――いや、これは寝台ではない。手術台だ。


 真っ白な部屋で、手術台の他には何もない。

 どこかの隔離室だろうか。


 ふと、今まで見ていたのは夢だったのではないか、と期待を抱く。


 当然そんなはずはなく、イナミは自分の恰好に「ああ」と呻いた。〈ザトウ号〉では使われていない、赤い検査衣を着せられていたのである。


 床に足を下ろすと、ひやりと冷たい感触が背筋まで上ってくる。


 部屋は走り回れるほど広く、ドーム型になっている。

 天井にはスプリンクラーが見えた。ここが隔離室なら、閉じ込めた生物を処分するための薬品噴出機だろう。

 監視窓はない。出入口も一目では分からないように隠されている。

 カメラ、マイク、スピーカーはどこにあるのか――


 イナミがうろうろと歩き回っていると、部屋の全方位から男の低い声が聞こえた。


《目覚めたかね》

「ここはどこ……だ?」


 何気なく振り返った先に、大男のホログラムが投影されていた。


 気密服とは全く異なる、ゆったりとした白い衣服で全身を覆い、さらには仮面で顔を隠している。その得体の知れなさに、イナミは戸惑った。


 傍らにはもう一人、同じ恰好をした者が立っていた。こちらは小柄だ。


 大男のほうが身体を揺すった。


《我が名はドゥーベ。〈アグリゲート〉を導く七賢人がひとり》

「アグリ……七……なんだ?」


 イナミの問いを無視するように、小柄な白ずくめのほうが、女性の声を発する。


《私はベネトナシュ。あなたの身体は検査済み。だから、隔離措置を取っている》


 イナミは拳を握り締める。何が『機密』だ。つくづく自分の間抜けぶりに腹が立った。


「……なぜ俺を殺さない」


 答えたのはドゥーベのほうだった。


《汝の持つ技術には価値があると、我々は考えておる。〈アグリゲート〉の民が触れるには、まだ早すぎるものだがな》

「何を言って――」

《来訪者よ、取引だ》


 男から持ちかけられた提案に、イナミは思わず目を見開く。

 これが、事故発生から二十四時間以内に起きた出来事の全てだった。

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