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船降る星のストラグル  作者: あたりけんぽ
第二部 戦闘継続、二百年目

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42/63

自立:あたしたちと『違う』トコ

《隊長!》


 部下の通信を受けて、マーティンは(やぶ)の中を突っ切った。

 まだ隠れている残存勢力がいないか、森を捜索しているのである。


 長年、自然そのままの森は行軍困難な場所と化している。しかしながら、辺境警備隊はロボットの足跡を辿り、通り道をいくつか発見していた。

 部下が新たに見つけたのは、岸壁の洞窟だ。足跡が中へと続いている。


 マーティンは部下に命じ、地面を走るドローン〈アルマジロ〉に偵察させた。

 内部はさほど広くない。大きな図体のロボットが基地にするには、いささか狭すぎる空間だった。

 熱源探知も行ったが、ロボットらしき反応は皆無だった。


 マーティンはフェイスマスクを展開する。分化現象で獲得した嗅覚でも、生い茂る植物、湿った土、動物の糞、古びたオイルの臭いしか感じられなかった。

 それでも、マシンガンをいつでも撃てるように構え直す。

 用心に越したことはない。相手は、ただでさえ漂着船をダシに敵を誘い込む頭脳を持ち合わせているのだから。


「行くぞ」


 部下を連れて、洞窟内に足を踏み入れる。

 先行する〈アルマジロ〉はすでに行き止まりに辿り着いていた。奥行きはない。


 奇妙なことに、壁には〈スティンガー〉がいくつも立てかけられていた。

 まるで、古い遺跡の石柱だ。

 洞窟の壁にも奇妙な模様が彫られている。


 太古の文明に迷い込んだような気分にさせられた後で、マーティンは戦慄する。

 ミダス体とは何度も戦闘し、死線を潜り抜けてきた。これだけの数を投入した戦場は、それ以上の地獄に違いない。


 薄ら寒いものを感じながら進むと――


「なんですかね、これ……」


 洞窟の最奥に築かれていたのは、天井に届くほどのガラクタの山であった。

 見覚えのある赤錆びた装甲、機械製の手足が目につく。恐らくは、動かなくなったロボットたちの成れの果てだろう。


 部品の多くはまだ動く者に移植されたのか。そうとしか考えられない。ロボットたちは自分自身でメンテナンスを行い、今まで生き長らえてきたのだ。

 壁の模様は、人体解剖図ならぬ、ロボット解体図か。情報共有能力を持たない人工知能が、外部に記録を残そうと閃いたものだろう。


 ガラクタの山の左右に、一対のロボットが座っている。

 マシンガンで軽く小突くと、あっさりと軽い音を立てて倒れた。中身が取り除かれた遺骸を安置していたのだ。


 マーティンの印象はより強固になった。

 ここは、信仰心など持たないはずのロボットたちが作り上げた祭壇なのだ。


 部下の一人が腕の通信機能を立ち上げる。


「調査隊を呼んでも?」

「……ああ。とりあえず、このガラクタだけ調べるぞ。後で文句を言われないよう、撮影はしておけ」

「了解」


 辺境警備隊の兵士も、発掘調査隊の仕事ぶりは間近で見てきている。

 パワードアーマーに搭載されたカメラで、ガラクタを様々な角度から撮影する。その後に山を崩し始めた。


 数人がかりの作業に、マーティンも加わる。

 やがて、その中から機械部品とは異なる、衣服のような物が出てきた。


「……ロボットが服なんて着ねえよなあ」

「何を見つけたんで?」


 マーティンは部下に顎をしゃくってみせた。お前もここを掘ってみろ、という意味だ。

 ガラクタを取り除くにつれ、部下たちの呻き声が大きくなる。


 埋まっていたのは、膨らみのある気密服だ。


 ヘルメットのひび割れたシールドから中を覗くと、黒い何かが蠢いていた。

 虫だ。

 空気の流れに反応して服の奥へと逃げ込んでいく。


 すると今度は下から、白い硬質の何かが現れた。

 人骨である。


 部下の一人が撮影を続けながら呟いた。


「見つかっていない船員、ですかね。なんでこんなところに……」

「墓だな。仲間たちと一緒に弔ったんだろう」

「なんですって? ロボットがこんなことを?」

「まったく、『なんでこんな』ばかりだな。俺だって確かなことは分からねえよ。ただの想像だ」


 部下たちの表情はクローズヘルムに隠されて分からない。が、甲冑の動きからは『本気で言っているのだろうか』という戸惑いが垣間見えた。


「隊長、アレですか。ロマンチストですか。夜空に想いとか馳せちゃう系ですか」

「うるせえ。調査隊はまだか。お前、案内してこい」

「りょ、了解」


 茶化した部下がそそくさと洞窟を後にする。

 さすがに潜伏したロボットはいないようだ。

 マーティンは作業から離れ、『祭壇』をじっと眺めた。


   〇


《救援部隊を派遣。状況の詳細報告を求む》


 戦闘終了から一時間後に受信した、都市本部からのメッセージだった。

〈ケストレル〉の残骸から回収された無線機でやり取りをしたところ、こちらにいる全員がひとまず帰還することが決定した。


 滞在期間、二日。

 あまりに短い任務となったが、調査員たちは無事に帰れることを安堵していた。


 発掘調査隊は原型を留めているロボットの数体を〈アグリゲート〉に持ち帰るつもりのようだった。


「ロボットを解析するのに、ラボの工場が一番ですから」


 そう言った女性は、昨夜の食事でイナミの隣に座った調査員だった。


「こんな状況じゃなかったら、もっと親睦を深められたのに、残念です」


 彼女が言っているのは、個人間の、という意味だった。しかしイナミは、それを勘違いして受け取った。


「また任務でそちらと連携することもあるだろう。そのときはよろしく頼む」

「……あら、クールドライ」

「ん? ああ、もし物を運ぶのに人手が必要なら、遠慮なく呼んでくれ」

「あ、ありがとうございます」


 イナミは軽く礼をしてから、その場を後にした。

 ルセリアとエメテルが、破壊された〈ケストレル〉を眺めている。黒ずんだ残骸には、白い粉末状の消炎剤が付着していた。


「バスケトは無事なのか?」

「ええ」


 答えたのはルセリアである。


「バスケトに『本体』なんてないからね。エメのデバイスにだって『いる』わ。だから、〈ケストレル〉が破壊されたところでどうってことないのよ」

「あ・り・ま・す」


 屈んで膝を抱えていたエメテルが、恨めしげに口を尖らせた。


「フライトデータと気象観測データがおじゃんですよう」


 イナミが「おじゃん?」と訊き返すと、ルセリアが小声で「ダメになったってこと」と教えてくれた。


「なら、帰りに同じ作業をやればいい」

「データ取りは一期一会なんですってば。それに、うう……行き帰りで比較するの、楽しみだったんですよう」

「なるほど」


〈ザトウ号〉の研究員、カザネ・ミカナギたちが自己組成型(アセンブラー)ナノマシンを改良すべく、日々、イナミの生体データと睨めっこしていたことを思い出す。

 同じ作業をやればいい、というのは、いささか無神経な発言だったようだ。


「すまない。軽い気持ちで言った」

「あ、いえ、イナミさんが謝ることじゃないですよ。ロボットが悪いんです、ロボットが。それに被害はデータだけじゃないんです」


 と、エメテルが沈痛な面持ちで言ったので、


「なに?」


 イナミは真剣に訊き返した。

 訊き返して、しまった。


「帰りのおやつに楽しみにしてた『塩辛アンド栗饅頭』味が丸焦げに……!」


 きょとんとするイナミに、ルセリアが溜息交じりに言う。


「気にしなくていいわよ」

「気にしてください! みなさんにもお裾分けするつもりだったのに!」

「なら、燃え尽きてよかったわ。ホント、ほっとした」

「し、辛辣ですねっ!?」


 ルセリアは抗議するエメテルを無視して、表情を硬くする。


「それはさておき踏んだり蹴ったりだわ。レポートがすかすかになるわね、これ」

「監視任務としては全く働いていないな」


 ううむ、と唸る二人に、エメテルがぼやいた。


「……それどころじゃなくなっちゃいましたからねえ。お二人は何か気づいたこととかあります?」


 ルセリアは力なくかぶりを振った。


「特に。調査活動の経過はちゃんと共有スペースに上げられてる。それもびっくりするくらい事細やかに、ね」

「私、戦闘中もそれとなく注意を払ってたんです。でも、非戦闘員は全員、船橋(せんきょう)で怪我人の応急処置にかかりきりでした」


 イナミは、救援の〈ケストレル〉に搬入する予定のコンテナを見やった。


「〈スティンガー〉はそこにある。追跡装置も装着済みだ。むしろ気になるのは、ロボットのほうだ。あれを回収して調べるつもりのようだが――」


 ルセリアは慎重ながらも否定する。


「あのデカブツをくすねようってのは無理なんじゃない? 密造するのだって大変そうよ。工場を押さえないといけないでしょ。そもそもボディとAIの両方とも、盗みたくなるほど高度って感じじゃなさそうだし」

「それもそうだ」


 では、〈スティンガー〉の監視を続けておけば、これ以上は何事もなく済むのか。

 と、イナミが考え込んだところに――


 一人であちこち歩き回っていたクオノが戻ってきた。


「ギアーゴがいない」

「確か、ラボに送るリストに入っていたはずだ。もうコンテナに詰められたんじゃないのか」

「そう……なのかな」


 クオノは少し眉を下げて呟いた。


「お別れ、まだ言っていない」


 どうやら、あのお喋りなサポートロボットに、少なからず愛着を覚えたらしい。

 それを察したエメテルが「じゃあ」と手のひらを打ち合わせた。


「発掘調査隊の方に会えないか、お願いしてみましょうよ」

「でも、撤収準備の邪魔になるんじゃ――」

「ルーシーさん流に行きましょう。『知ったこっちゃない』……です!」


 ルセリアは「え?」と顔をしかめた。


「そんなこと言った覚えないわよ」


 エメテルとクオノは、同時にきょとんと言い返す。


「あれ、結構聞きますけど」

「うん。七賢人としては、それで困るときがある」


 このやり取りを傍で聞いていたイナミは、思わず苦笑いを浮かべてしまった。


「スケジュールに影響が出るほどでもないだろう。訊いてみるだけ訊いてみるといいんじゃないか」

「ですです。さ、行きましょ、クオノさん」


 エメテルはクオノの手を引いて、コンテナを運搬機械で運んでいる調査員たちのもとへと向かった。

 二人を見送ったイナミは、まだ納得していなさそうなルセリアに声をかけた。


「知らない間に、ずいぶん仲がよくなったようだな」

「一緒にいたみたいね。いいコンビだと思う」

「……ジヴァジーンはただ単に、そのためにクオノを同行させたのかもな」

「親心ってヤツ?」


 二人は自然と微笑み合いながら、どちらからともなく、漂着船のほうに視線を向けた。

 ルセリアがぼんやりと呟く。


「マーティンの言ったことじゃないけど、なんだか幽霊と戦ってたみたい」

「俺としては、肩身が狭い」

「え、なんで?」

「〈ハイブ号〉の船員は、ただ兵器を他人に奪われまいとした。ロボットたちは、ただ命令に従って自分の身を守ろうとした。それが俺に似ている」

「……周りの迷惑なんてこれっぽっちも考えやしないって話?」

「そこまでストレートに言われると、少し、へこむ」


 ルセリアはからかうような笑みを浮かべた。


「客観的に見れるんなら、それって結局、違うってことでしょ」

「そう……なのか?」

「そーよ。あたしから見ても、あんた、初めて会ったときから変わったと思うわよ」

「いい方向に、だといいんだがな」

「さ、どうかしら」


 二人はふっと肩の力を抜きつつも、同時に人の近づく気配を感じて振り向いた。


 太った男性調査員が軽く両手を持ち上げる。


「あ、あー……ごめん、お邪魔するよ。ちょっと訊きたいんだけど」


 ルセリアは「うん?」と首を傾げる。


「別にお邪魔ってワケじゃないけど。暇だったし。どうしたの?」

「主任を探しているんだけど、見ていないかな」

「見てない……わね。イナミは?」


 尋ねられて、イナミはかぶりを振った。


「何かあったのか?」

「警備隊がロボットの『墓』を見つけたそうなんだ」

「……墓?」

「スクラップで作った山だよ。パーツを交換し合った跡らしくてね。一緒に漂着船の船員も葬られていたみたいなんだ。あ、『葬られていた』というのは警備隊の印象だから、実際に見てみないと分からないんだけど」

「それで、モーリスを探しているのか」

「こっちに来ていないなら、漂着船の中にいるのかなあ」


 イナミは、ルセリアのほうを向いた。彼女もこちらを見ていた。『どうする?』という無言の問いかけが両者間で成立していた。

 礼を言って立ち去ろうとした男性調査員を、イナミが肩を掴んで止める。


「俺たちも探そう。あんなことがあったばかりだしな」

「そうね。撤収前の点検がてら、適当にぶらぶらしてみるわ」


 男性調査員は「助かるよ」と朗らかに笑って、何気なく軽口を叩いた。


「帰る前のデートだね」

「あんですって?」


 ルセリアに威嚇され、男性調査員は慌てて去っていった。

 彼女は腕を組んで、逃げる背中をじっと睨む。


「まったくもう……」

「デートって、別に、俺たちはチームなのにな」


 なぜかルセリアの目がこちらに向けられた。

 イナミは「う……?」と呻いて固まってしまう。男性調査員が逃げるのも頷けるほど、琥珀色の瞳は恐ろしく冷たい輝きを宿していた。


 それが、彼女の徒労の溜息とともに、ふっと融和する。


「はいはい、さっさと行きましょ」

「ああ……」

「そうだ、エメたちにも言っとくわ」


 と、ルセリアが、この場においてはただの無線送受信機となっているリストデバイスを操作する。ネットワークステーションが破壊されているので、レスポンス性が落ちていた。


 横顔を盗み見た限り、何か怒らせたとか、そういう様子はなかった。

 彼女はすぐに顔を上げて、なんとはなしに疑問を口にする。


「ロボットのお墓って言ってたけど、なんでギアーゴは一緒じゃなかったのかしら。〈スティンガー〉も一機は残ってたし――ってあれ、ロボットって〈スティンガー〉とセットで船から発進するのよね。なんで〈スティンガー〉だけあそこに?」

「さあ、俺に訊かれても……いや、推測できないことはない」

「言ってみて」


「〈スティンガー〉の使用には制限がある。粒子になる芯やバッテリーが切れたら、ただの鈍器か盾にしかならない。だから、放置されていたんだろう」

「でも、仲間のほうは――さっき、パーツを交換し合って、って言ってたわよね」

「そう、貴重な資源だ。こっちは回収する価値があった」


「なるほどだけど……それだと、人間のお墓が作られてる理由にはならないんじゃない?」

「全く違う価値判断がなされたということだ。ギアーゴは人間とロボットを区別していた。それはロボットも同じだったんじゃないか? 戦闘用だから三原則ほどではないだろうが、なんらかの命令が刻まれていたんだろう」


「たとえば?」

「仲間は守る。敵は殺す」

「それって――」

「ああ。俺たちナノマシン体にも刻まれている命令だ。船を囮に使う以上、そこに人間を置いていけないと考えたか――考えようによっては、船が墜落する寸前に自分たちだけ救われた、という思考になるかもしれない」


「恩返し……ってこと? ギアーゴには恩がないってワケ? 管理してくれてたのに?」

「人間でなければ、同じロボットでもない。『違う』んだ」


 イナミも〈ザトウ号〉ではそうだった。

 実験体は、人間ではない。

 ただの熱源。

 人から『ゲスト』の権限を与えられて、初めてAIに知的生命体として認識される程度の存在に過ぎなかったのだ。


 イナミの言葉は、感情を押し殺したような硬い響きを持っていた。

 だが、ルセリアは、イナミに微笑を向けた。


「そこも、()()()()()と『違う』トコね」

「……ん?」

「え? 何、その反応」

「あ、いや……言われてみればそうだな、と思ったんだ」

「……や、何が『言われてみれば』なの?」

「分からないならそれでいい」


 と、イナミはごく自然に笑みを返す。


〈ザトウ号〉ではそうだった。

 が、今はそうではない。


 イナミ・ミカナギは特務部第九分室に所属する、一市民なのだった。

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