クリスマスイブのプロポーズ~番外編
高校2年生の祐次は、学校では尊敬する先輩の吉岡揚羽の前ではやんちゃ坊主の本性を見せているが、普段はそっけなく、クラスメイトの前でもさほど話しはしないのだが……。
「どわ~! 何やってるんだぁぁ! 苺!」
部活のない日曜日の朝、存分に寝坊と思っていたのだが、ペチペチと小さい手が頬を叩いたのだ。
目を覚ました祐次の顔を覗き込んでいる隣家のあどけない赤ん坊に、びっくりするのは仕方はないと思う。
「どどど、どうしてここにいるんだって……哲哉兄ちゃんと、苺花姉ちゃんは?」
「だう〜!」
体を起こすと、連れてきたらしい妹の葵衣がクスクス笑っている。
「おはよう、お兄ちゃん。下で哲哉お兄ちゃんたちが待っているわよ?」
「葵衣~! お前かよ! 何考えてんだ! 俺が、折角日曜日の~!」
「あら、いいの? 祐也お兄ちゃんたちも来てるけど……」
「何だって!おい、葵衣、苺連れて先に降りてろ!」
「はいはい。苺ちゃん、お姉ちゃんと行こうね?」
部屋を出ていく妹たちを見送り、慌てて服を着替えて降りていくと、隣家の哲哉と苺花、そして両親だけでなく、
「おはよう、祐次。学校楽しいか?」
ニッコリと笑う従兄一家……。
「うわぁ! 兄ちゃんたち、本当に来てたの?」
「あれ? 叔母さんたちには前にいっておいたんだけど、聞いてないのか? 哲哉にも言っておいたけど、哲哉は忙しいもんな……」
従兄の祐也と哲哉はちなみに、年は違うが友人同士である。
哲哉が大学一年の時に、夏の間バイト兼ボランティアに行ったのが祐也の住む地域で、それ以来定期的に連絡を取り合い、行事があるなしにも関わらず遊びに行くようになっていた。
苺花も実際、哲哉に誘われ時々出掛けていったり、祐也の先輩の家である一条家に滞在し、地域のおば様たちと料理を作ったり、畑の草抜きをしながらのんびりとおしゃべりしたりしていた。
「哲哉兄ちゃんたちからは知らないけど、母さんたちは何にも言ってくれなかった!」
わーい‼
と喜んで駆け寄ってくる甥っ子たちを、順番に抱き上げながら両親……特に母を睨む。
「あらぁ……言ってないんじゃなくて、聞いていないんでしょう? 祐次が」
「言うか、母さんは面白がってるんだろ!」
むっかー!
と言った顔で、言い返す。
「昨日から言ってくれてたら! これでも……」
「と言うか、お兄ちゃん、逃げちゃうか、黙ってるかだと思う」
「葵衣!」
逃げる理由を考えていた祐次は妹を睨む。
「あ、もしかして……ゴメンね? 私が苺を預けてしまうから……」
苺花がしゅんとする横で、
「祐次くん……ゴメンね?」
「だぁぁ! 苺花姉ちゃんも蛍姉さんも、そう言うんじゃないから! 逃げるのは、母さんと葵衣が買い物に強引につれ回すからだ~! 俺にどうやったら水着とか選ばせるんだ! そういう時に限って親父は逃げるし! 俺に服とか選ばせるな~!」
「だって、祐次、言いながら選んでくれるし」
「荷物もってくれるし……」
「俺は荷物持ちじゃない!」
訴える祐次である。
が、世話好きな性格はすでに甥の穐斗たちと空いているソファに座り、おもちゃや絵本とを手に取っているところから良く解る。
「全く……穐斗? 結愛だっこしてるから横な~? 杏樹も次。喧嘩しない~! 兄ちゃんは一人だぞ?」
「あ、そーだ! パパ~? 穐斗、苺ちゃんのお嫁さんになる~!」
のんびりとした口調で、様々な面で爆弾を投下する穐斗に、特に父親の祐也が頭を抱え、大人たちがクスクス笑う。
妻に瓜二つの穐斗に、祐也は、
「穐斗? 穐斗は男の子だから、苺ちゃんにお嫁さんになってねって言うんだよ? 穐斗がお嫁さんじゃないんだよ?」
「そうなの? じゃぁ、なってねって言う~!」
「えぇぇ! 祐也さん! 苺、まだ赤ん坊です! それに、嫁に出すって早すぎる!」
「わー、お婿さんだ~! いやぁ……私みたいに行き遅れより、良いかも」
苺花の一言に、
「行き遅れ? 姉ちゃん、若いじゃん!」
祐次は何故か後向きか、ズレズレの苺花に突っ込む。
「それに、母さんが言ってるように、もっとパステル系の服の方がいいって! 蛍姉さんも、もっと可愛い格好がいいって!本当に俺の学校……進学校だけど、何で、俺より馬鹿は多いのさ! 寒いのにミニスカートとか、化粧とか常識ねぇ! サムイボ出る位寒い日に、足出すな! 休憩時間中に鏡覗くな! 電車の中で化粧しましたって誉められるか! 眉の形がずれとるわ! ボケ~!」
「……てっちゃん、どうしよう。私よりも女子力高いよ?」
「いや、苺花。女子力じゃなく、常識力……と思うぞ?」
哲哉は苦笑する。
「それにね? パステル系……似合うと思う? この間、勧めてくれたのピンク色だったんだよ?」
「それは是非、俺は見てみたい」
「ほら、祐次も言ってるから、蛍も今度選びに行こうな?」
「えぇぇ? 充分だと思うんだけど? あ、穐斗と杏樹と結愛に可愛い格好!」
「穐斗に女の子の格好はやめてやれ……頼むから」
祐也の心の中では、
『お前の二の舞だぞ?』
と言いたいのだが、事情の知らない周囲の前で言い出せずしまっておくことにする。
「あ、そうだ、今年の夏、家は例年通りだけど、哲哉と苺花ちゃんはどうする?」
「あ、それが……」
哲哉と苺花は顔を見合わせる。
「実は二人目が……なので、調子がよければ……になりそうです」
「まぁ、おめでとう!」
「皆さんにご迷惑にならなければ……と思うのですが……」
「苺花お姉ちゃん、前と一緒」
葵衣はクスクス笑う。
「大丈夫よ~? 17にもなって彼女いない、お兄ちゃんがいるから」
「お前が言うな!」
「私は同年代好きじゃないもん! 子供っぽい。年上がいいの。あ、でも、お兄ちゃんの同級生もそう変わらないみたい」
「お前が言うな!」
突っ込む祐次である。
葵衣は、
「蛍お姉ちゃんは……」
「うーん?えっと、同級生の男に服を脱がされそうになったり……眼鏡とられそうになったり……」
「それって完全にセクハラと言うか、イジメじゃない!」
「ちょっと待て! 蛍! それは、お前の双子の兄の穐斗だろう? お前は高校通ってない!」
「あ、そうだった。あ、穐斗お兄ちゃんがそうだったみたい」
蛍の言う『穐斗お兄ちゃん』は、約15年前の世界を震撼させた事件の被害者である。
蛍と祐也の長男の穐斗の名前は、現在行方不明の彼から取っている。
ちなみに長女の杏樹も、穐斗のイングランドでの名前である。
蛍は戸籍上はイングランド国籍で国際結婚になり、手続きは面倒だったが実母の風遊の籍、清水家に養女に入った形になる。
しかも、義父は一つ上の祐也の先輩の醍醐である。
「と言うか、穐斗は小さかったから……うん」
「おじいちゃんとおばあちゃんが言うんだよ? 穐斗はママに似てるって」
「いや、似てないと困るから……似すぎても……」
祐也の苦悩は続く。
杏樹は3才違いだがしっかりしてきた、女の子だけにおしゃまな少女だが、穐斗は小学生になったと言うのにまだまだのんびりとしたおっとり息子である。
風遊や曾祖父母たちも、
「良う似とるわ」
と笑う程、蛍と『穐斗』に瓜二つである。
「はーい! 兄ちゃんたち! 俺も行く! 部活ない!」
「補習は?」
「そ、それは……多分大丈夫! だ、大学受験もそこそこ努力すれば大丈夫って言われたし!」
「じゃぁ、良いけど。迎えに来るぞ?」
「うん! 去年は無理だったから、今年は手伝いに行く! じいちゃんたちや醍醐兄ちゃんたちの手伝いしたい!」
祐次の言葉に、
「良いなぁ……補習なし。私は理数系ダメだったし……泳げないのに補習だった」
苺花は遠い目をする。
「それに、女の子だもん、あるのにさ。それでも出席してないって単位数足りないからって、プールに一回体育の授業を休むと、一時間ずつプールで泳げだよ?1学期だけだけど。でも、2学期、3学期は一時間延々とマラソン……どっちもどっち」
「……えーと、そ、それは……」
祐次は顔をひきつらせる。
「しかもね? 酷いんだよ! もし、時間がなかったらプールに行って、自腹でプールで泳ぐなり歩くなりして、足りなかった分を過ごして、その時間のかかれた紙を体育教師に提出だよ?てっちゃんに頼んで一緒に行って貰ったけど、私はバチャバチャはしっこでいて、てっちゃん泳いでるし……」
「俺は一応泳げるし……」
「いや、泳いでるのは良いけどと言うか、泳げない人間に、無理に泳がせるのは問題だと思う! 学校に浮き輪とか、何で流れるプールがないの? あっ! 祐也さんのうちの近くの川で泳ぐなら楽しいかも! 魚いるし! かにいるし! それなら泳ぐ!」
哲哉は額を押さえる。
年を重ねても、苺花は苺花である。
学校に流れるプール……あったら逆に怖い。
「苺花ちゃんらしいなぁ……」
笑い出す。
「でも、ぼ……穐斗お兄ちゃんも泳ぐの嫌いだって言ってた。プールは面白くないって」
「あ、やっぱり! 一緒の意見の人がいたよ! てっちゃん!」
「いや、自信満々に言われても、学校に流れるプールは無理だと思う。浮き輪にして貰え」
「もう卒業してる! 今更作ってって言わないよ~! それより、苺にビニールプールを買ってあげたいなぁって」
「それはいいな。庭に置いて……あ、大丈夫ですか?」
大角家の庭は、お隣さんに面している。
「大丈夫よ~? 多分祐次が邪魔するわ」
「何で俺が?」
杏樹がつまらなくなったと葵衣の元に走っていき、穐斗が甘えてくるのを抱き上げていた祐次が母親に突っ込む。
周囲は笑いだし、渋い顔をした祐次に、穐斗は、
「祐次お兄ちゃん、にらめっこ? 穐斗もする~!」
と頬を膨らませて見せる姿に、祐次はついつい吹き出したのだった。
誰も突っ込みはありませんでしたので、『現世と幻の間で……』と『図書館』シリーズの登場人物もちょろっと顔を出してます。
子供は娘で、苺ちゃんでした。
父親の哲哉がつけたと思われます。




