07話 徹夜は美容の天敵ですよ?
現実世界に戻ると、なぜこうも酔ったように体の自由がきかないのだろうか。仮想世界と大差なさそうなものですがね。
違和感が無くなるまで、しばらく体を動かして具合を確かめる。そして大方思い通りに動くようになったところで、首輪状に形成されたゲームのハードを取り外す。
こっちではもう昼か。二人がござるさん遊びに夢中になっていなかったら、昼前には終わった筈なんだけど。ま、今更言っても無意味なんですが。
寝転んでいたベッドから起き上がり、昼食の為にリビングへと向かう。
「おはようー……誰もいない」
まだ二人は仮想世界の中ですか……。昼食を作っておけということかな? 料理は得意じゃないのは、二人とも知っている筈なのに……。
しょうがないとばかりに冷蔵庫を覗くが、見事になにもない。魔法使いじゃないから、ここから何か作れと言われても無理ですね。
そう決めて、部屋着を着替える為に自室に戻る。適当に服を見繕い部屋から出た所で、左隣の部屋──天姉の部屋から、下着姿にうさぎの耳のような装飾の付いた、白色のパーカーを羽織っただけの、部屋の主様が出てきた。
「れんれん~……おはよぉ」
眠そうに目蓋をこする度に、ゲーム内と同じように長く伸びた髪が、羽織った服の中で揺れる。またもゲーム同じく、華奢な体つきと豊かな双丘が象られており、その無防備な状態のままに挨拶をこなす天姉は扇情的であった。
「天姉──いい加減その格好何とかならないんですか? 毎朝毎朝、心臓に悪いです」
実の姉ならともかく──それでもおかしいですが、義理なのだから恥じらいを持った行動をしてほしいものです。僕の理性が崩壊寸前なので是非とも聞き入れて頂きたい。
「んん……眠ぃ」
大きな欠伸と伸びをして、二度寝しようと自室に戻ろうとする義姉。だがそうはさせまいと、手首を取り──
「今から寝たら、天姉は夕方まで寝てしまうので起きてください。一体、何時まで起きていたらそうなるんです?」
「ん……寝てない」
まさかの二度寝ではなく、そもそも寝てすらいなかったとは。それで朝早くからゲームを強要してきたんですね。
「寝ないと肌に悪いと聞きますが? その綺麗な肌を保ちたいのなら、早寝早起きをオススメします」
「……そうするぅ」
それとなく褒めつつ提案する事で、気をよくした天姉はしばらくはその通りに動いてくれます。全て僕の狙い通りです。
「僕が帰ってくる前までには、ちゃんと服を着ておいて下さいね? あ、昼食は何がいいですか?」
「……れんれんの手作りの料理」
「コンビニ弁当買ってこようと思っているので、却下します。それに僕自身、レパートリーの少なさには胸を張れる程の自信がありますので、大体いつもと同じ物しか出せないです」
「……眠いから、何でもぉ」
「いや、理由になってないですから。適当に決めちゃいますよ?」
「おねがぁい……」
相当眠いようで、廊下に倒れ込んでまで寝始めた。こうなっては意地でも動かないでしょう。仕方が無いので、自室から毛布を引っ張ってきて、被せて放置の方向で行きましょう。
さて、そうなると気になるのはこちらも義理である、妹様のまや。一応、部屋をノックして声掛けしてみるが、反応無し。
うーん……。起きない事を理由に、天姉と同じ弁当としましょう。文句は起きなかったあなたがいけないのです、と。
そそくさと玄関から出て、コンビニへ向かうとしましょう。
「待って……蓮にぃ」
いざ行かんと意気込んでおりましたのに、水を差されてしまいました。丁度良く、とても嫌なタイミングで起きてこられましたるは妹様。観念して、弁当の種類を聞いてしまいましょう。
そう諦めて振り返るが、
「あなたもですか。何ですか二人揃って僕を社会的に殺したいんですか?」
「? ……なにがぁ?」
天姉と似たようなパーカーを下着の上から羽織った姿で挨拶を行ってきました。違いと言えば、黒色に装飾は猫の耳──黒猫をイメージしたパーカーだという事でしょうか。後は育つ途中という訳で膨らみの方はお察し──いや、今はそれどころではなく。
「服装です、服装。兄弟姉妹とはいえ義理なんですから、もっとちゃんとした──」
「ちゃんとした……? それはこういう格好の事?」
寝ぼけたように、惚けたような口調ながら、まやはパーカーを脱ぎだし、肩の素肌を露わにする大胆な行動に──。
彼女の行いを認識した所で、理性を守るために視線を逸らす。育っていないといっても、女の子らしい体つきな訳で……。
「──なにやっているんですか」
もう、彼女が何を考えているのか、僕には分かりません。父さん母さん、しつけはちゃんとして下さい。万年、新婚旅行に行っている場合じゃないですよ?
「そ、それより! 昼食、お弁当買ってきますが、なにがいいです?」
「んむぅ……? じゃあ、蓮にぃの、手作りなら──」
「それは却下済みです。なんでもいいですか?」
「……しょうがない」
「分かりました。買ってくるまでに身だしなみ整えて、あと天姉も起こしておいて下さい」
「……はぁい」
二人して眠そうな所を見る限り、昨日は遅くまで二人で遊んでいたのでしょう。よく起きていられるものですねと、半ば感心しながら家を後にした。