脇役令嬢、生き方を決める
文章へたでごめんなさい。
乙女ゲーム。
彼氏いない歴イコール年齢だった前世の私が、恋をすることのできる瞬間がそれをプレイしている時だった。
という説明は、何だか悲しくなる。
哀しきかな、実際そういったジャンルのゲームをしたことはあったし、死ぬ間際には、逆ハーレムやら、悪役令嬢やらが出てくるような小説が流行っていた。
だからか、知識はあった。
この学園に入り、こんな状況になって改めて、真知の記憶に感謝した。
よくあるのは、知っている(プレイしたことがある)物語の登場人物に転生する、というものが王道だが、どう記憶を探っても、アティオというヒロインにもローヴェという悪役令嬢にも覚えがなく。
私は、それならば物語の道筋を気にせず生きようと決めた。
(そう、決めたのだ)
悪役令嬢だろう親友は、何故か我が儘高飛車何様な令嬢ではない。
目の前で生きてる、私の親友で。
バッドエンドコース行きなんて、絶対認めない。
(どうせなら、幸せになってほしいじゃないか)
この娘が、昔からずっと、ただ一人の為に努力してきたことを、知っているからこそ。
(君みたいなぽっと出ヒロインに、邪魔はさせないよ)
キラリ、光った私の瞳に、気付いた者はなく。
「──いい加減、授業も始まりますし」
はっきりさせましょう。
にっこり笑っていきなり眼前に出てきた脇役に、ヒロイン──アティオの目が見開いた。
想定外だとでも言うような表情。
(だろうね)
普通に考えて、脇役がでしゃばる場面じゃないものね。
「あ、あなたは?」
「はじめまして、アティオ様。わたくし、マティアラ・アディ・ビーミリアと申します。以後お見知りおきを」
にこり、貼り付けたような笑みを向ける。
「び、ビーミリア…侯爵様の?」
「はい。ビーミリア侯爵家、次女にございます」
「わ、わたしはサルヴィア・イブ・オーグロウです!」
「サルヴィア…」
横から何故か張り合うように声を上げた腐れ縁なサルヴィアに溜め息。
どうしてそこで出てくるんだお前は。
私の溜め息にビクッとなってまた引っ込むサルヴィア。
慌てて引っ込むくらいなら出なきゃいいのに。
嘆息しつつ、サルヴィアのことは置いておくことにした。
「アティオ様。
僭越ながら、ローヴェ様の代わりにご忠告申し上げます」
「アティオ様は、こちらのローヴェ様が、シグナゼル殿下の婚約者であることはご存知ですよね」
「周知の婚約者がいらっしゃる身の殿下に、下世話な噂が立っていることはご存知ですか」
「そういった噂が、殿下の為にならないということはわかりますね」
「その噂の原因が、正に貴女であることは、おわかりでいらっしゃいますか?」
口を挟ませず、言い切るとにこりと笑みを向ける。
そんな私に、口をパクパクと開閉するしかなかったアティオは、顔を真っ赤にして目付きを鋭くした。
「そ、そんな、ひどい…っ」
訂正。
顔をほんのり染めて、涙目で悲劇のヒロインを主張し出した。
(うーん、手強い)
怒りに染まってくれたらどんなに楽だったかと、嘆息。
しかし、こちらも引くわけにはいかない。
「ひどい?
ですが、本当のことですわ。立場ある殿下にあらぬ噂が立つことは、殿下の名誉に関わります」
「殿下とは、友人です…!
貴女達がそんな風だから、殿下は心許せる人がいないんです!」
アティオの言葉に、反応したのは私の後ろにいる、ローヴェだった。
きゅ、と唇を噛み締め、掌を握り締めるローヴェをちらりと見やり、
溜め息を吐き出し、アティオを見据えた。
「あくまで、友人とおっしゃるのですね?
特別な感情は、ないと」
「そ…」
「──そうだ」
一瞬の動揺を封じ込めて何か言い返そうとしたアティオの言葉を遮るように聞こえた声に、ぎくり、とその場にいた者全員が反応した。
(しまった…)
さくさくと、芝生を踏み近付く足音。
俯いて、少し震え出した親友を庇うように立ち、目の前に立った人物を見上げた。
そこにいたのは、
「──シグナゼル、殿下…」
渦中の人。
己を庇うように立つシグナゼルをキラキラと期待を込めた眼差しで見るアティオに、顔をしかめてしまう。
それをどう取ったのか、こちらを見下ろすシグナゼルは、とても冷ややかな視線を、婚約者であるローヴェに送る。
「っ、」
「何のつもりだ、ローヴェ」
ひゅ、と息を飲んだローヴェに、冷ややかな声がかかる。
咄嗟に口を開こうとした私を、黙ってろと言うかのように睨む視線に、ぐ、と詰まる。
(さすがの威圧感、)
泣きそうな、気配。
しかし、彼女は泣かないだろう。
(それが、彼女のプライドだから)
「──もう良い」
口を開かないローヴェに、聞こえるように溜め息をつき、シグナゼルは冷たく言い放つ。
「少し、お前を甘やかしていたようだ。暫く顔を見せるな」
「っ、殿下!」
「これ以上、失望させてくれるな」
呼び止める声に耳を貸すことなく、アティオを連れたって背を向けた婚約者に、うちひしがれる親友。
それに若干の罪悪感を感じつつ、見やった先には。
(!…あの女狐!)
こちらを振り返り、口許に笑みを浮かべたアティオの姿。
やはり、自分の感じた違和感は間違っていなかった。
「…ローヴェ、貴女は間違ってない」
ぎゅ、とローヴェの手を握る。
「貴女は今まで通り、殿下のことを想っていればいい」
(あの女は、私にまかせて)
「きっと、殿下にも伝わるから」
(バッドエンドなんて、くそくらえ)
この娘に悪役は向いてない。
(わたしが、)
私が、嫌われ役でも何でもやってやろうじゃないか。
(彼、にも、嫌われちゃうだろうか)
それは怖いなと、小さく息を吐いた。
サヴィ「どうして、マティは人前だとああなの?」
マティ「ああってなに、ああって」
サヴィ「ひっ、えっと、何か、丁寧と言うか、お嬢様みたいって言うか、怖いって言うか」
マティ「おい、怖いって何だ」
サヴィ「ひいっ、ごめんなさい、ごめんなさい」
マティ「うふふ、サルヴィアったら何を怖がっているの?」
サル「いやぁぁぁ!許してぇえ!」
ロー「?二人とも、何をしているの?」
マティ「あら、ローヴェ。何もないわ」
サル「ローヴェ!助けてぇー!」
ロー「??」