脇役令嬢、真相に迫る
別名、ヒロイン正体を表す
謹慎が解けた数日後、王家主催のパーティーが開かれた。
それは、以前から予定された殿下の誕生日のパーティーだったが、それと同時に、殿下が正式な王位継承者となること、そして。
正式な婚約者を御披露目するパーティーでもあった。
この日の為に挙って殿下に取り入ろうとした者達もいたが、ローヴェと殿下が漸くくっついた後には、二人の目にはお互いしか映っていなかったので、意味なく終わったらしい。
まったく、人騒がせな二人である。
このパーティーには、五爵家が招かれていたので、勿論私達、ビーミリア家も一家揃っての出席となった。
隣に並ぶ侯爵家のサルヴィアも言わずもがな。
(だけど、)
ちらり、遠目に映る少女に、怪訝な瞳を向ける。
彼女は、平民の出ではなかっただろうか。
誰か、爵位ある者の招待か。殿下が呼んだのだろうか。
疑問が頭を埋める私に、隣に立ったサルヴィアが静かに答えた。
「あの子、最近男爵家に養女として入ったらしいよ」
「(心読まれた)ハントなんていたかしら?」
「ジョウェリー男爵家の家名がハントなのよ」
「ああ。何だか聞いたような…あまり社交場に顔を出したことがなかったわよね?」
「うん。それがどういうわけか、遠い親戚のアティオを養女にしたって話」
「ふぅん…」
成る程、と再度目を向ける。
確かに、彼女の側に見覚えのないしかしそこまで年嵩のいっていない男性が立っている。
その興味の無さそうな表情を見るに、アティオが連れてくるように頼んだのだろうか。
こう言った場は、家長が招待を受ける。
招待を受けた家長が来なくては、殿下の友人であろうと入るのは難しい。
ただ、気になるのは、彼女のそのほの暗い瞳だ。
「……やばいかな」
ぽつり、横から聞こえた呟きに、聞き返そうとした声は、歓声によってかき消された。
王家の登場である。
視線の先には、歓声に包まれ、笑顔を向ける王家──その中心、嬉しそうに手を挙げるシグナゼル殿下。
どうか、何も起こらないでほしいと思う。
一番近い距離、公爵家の席から殿下をこれまた嬉しそうな表情で見つめる親友の表情を、曇らせることがないようにと。
しかし、それは叶わぬ願いだと知る。
一番遠い距離から、それを睨む一人の少女の存在に、気づいてしまったから。
王家の登場、そして皆に対する国王からの言葉が終わり、次いで少しの間があって。
会場の準備が整い次第、立食とこのパーティーの第二の目玉、王位継承者と婚約発表である。
その間に、婚約者であるローヴェは控え室に呼ばれ、殿下と一緒に出てくる。
国王と王妃も一緒に下がるが、登場は先だ。
私達客人は、各々歓談に興じるのだが…。
(あの子、どこへ…?)
伯爵やら子爵やらが、息子自慢だか何だかわからない話をしてくるのを、父や兄弟が笑みを貼り付けて対応している。
それをぼんやりと見ていた私の視界に、会場を抜け出すアティオの姿が映った。
ざわり、何故か胸騒ぎを感じた私は、彼女のあとを追うことにした。
「──アティオ様?」
追いかけた先、彼女が入っていったのは、殿下達がいるのとは別の、人気のない控え室。
キョロキョロと周囲を見ながら歩いていたから、迷っているのかと思えば。
こんな所に何の用があるというのか。
迷ったにしては、先程の会場から少し離れた程度。
お手洗いはもう少し先。
暗い部屋で、そうっと声を掛ければ。
びくり、部屋の中央の気配が揺れた。
あまり、広くはない部屋のようだ。
「アティオ様、迷われたのですか?」
先程よりしっかりと、声を掛ける。
やけにシンとした空気が、背中を冷やす。
「………マティアラ様、」
静かな声。
しかし、漸く声が聞こえたことに、少しの安堵。
少し、近付く。
「アティオ様、もうすぐ殿下達がおみえになりますよ?」
近付いた私に、キラリ、なにかが反射した。
「近付かないで!」
「!?」
シャ、と何か、冷たいものがかする。
チリッとした痛みが、手の甲に広がった。
「な、なにを…」
暗闇に慣れ始めた視界に、光るのは銀色。
そして、ギラギラと光る、暗い瞳。
「アティオ、さま?」
「なんでなんでなんでなんで!なんで、わたしじゃないのよ!!」
叫んだアティオに呆然とする。
「わたしはヒロインなのよ!?殿下が選ぶのは、わたしだったはずなのに!」
「ひろいん、て」
なんだろう、何か、この子は…“ちがう”。
「キルクス様だって、わたしを殿下と取り合う役でしょ!」
「キルクス、にいさま?」
「ウェンスランだって、姉を憎んで、わたしに依存しないとおかしいのに!」
半狂乱になって叫ぶアティオの言葉は、半分も理解できない。
いったい、その妄想は誰の話だ。
訝しげに見る私のことなど気にもしていないのか、彼女は続ける。
「それなのに!おかしいわよ!
殿下は悪役のあの女の話しかしないし、嫌がらせされたって言っても、証拠とかを探すって!わたしが言っているのに!信じないなんて…っ」
「……」
悪役とは、ローヴェのことだろうか。
彼女がそんな卑怯な真似、するはずがない。
殿下は、信じていたのだ。心のなかでは。
「証拠なんて、探されても困るのよ!悪役なんだから、あの女もなんで、何もしてこないのよ!」
おかげで、わたしが、
そうブツブツ呟くのが聞こえた。
(まさか、)
「まさか、あなた、自分で…?」
嫌な予想を肯定するかのように、目の前の顔が歪んだ。
「そうよ。わたしがやったの。だって、あの女が何もしてこないから。
物語通りにやってあげたんだから、感謝してほしいくらいだわ」
「…な…」
目の前の人物は、何を言っているのだろう。
理解できない、と言いたげに見やれば、まだ鬱憤が晴れないのか、尚も愚痴り出す。
「それなのに、ウェンスランまでわたしの話を疑い出すし」
「っ、」
「なーにが、マティも姉さんも、そんなことするような人じゃない、よ!
わたしがコンプレックスも受け入れてあげようって言うのに!あの女と仲違いしてもいないし、見た目がコンプレックスじゃないわけ!?」
目を見開く。
何故、それを知っているのか。
彼の、小さい頃のコンプレックス。
(だけど、いまは)
受け入れている、個性だ。
今更、それを蒸し返して刺激したのだろうか。
(彼を、くるしめないでよ)
呆然と話を聞くだけだった心に、彼女に対する怒りが湧く。
「キルクス様は、妹のことばっかり!わたしが迫っても、興味のかけらもないようにして!攻略対象のくせにムカつくのよ!」
この話は、少し気まずい。
それは、私のことだろう。
ビーミリア家のシスコン具合は皆の知るところだ。
「せっかく、ヒロインになったのに、引きこもりの親戚に取り入って養女になって!貧乏生活からおさらばして、今度は逆ハーレムで王妃になるはずだったのに!」
ヒロイン、悪役、攻略対象、逆ハーレム。
漸く、わかった。
違和感の正体。
(このこは、)
「あなた、“だれ”なの…?」
(アティオ・ハントを演じてるだけの、だれかだ)
昔のわたしと、おなじなんだ。
ルチア「あら?マティは?」
キル「あ?いねェ!」
サヴィ「!皆さん、ついてきてください!」
ジェイ「え?サルヴィア嬢、」
サヴィ「マティの貞操の危機ですよ!」
三人「なにぃ!?」
ウェン「僕もいく!」
サヴィ「え、いつの間に…」




