脇役令嬢、謹慎処分を受ける
別名、悪役令嬢動き出す
──マティが、謹慎処分となった。
あの日、もっとちゃんと止めていれば良かったと、後悔しても遅く。
(わたくしは、いつも後悔するのが遅すぎる)
「仕方ないじゃない。後悔って、あとでするものよ」
「!」
心を読んだかのような台詞が横から聞こえて、吃驚して振り返る。
そこには、苦笑を浮かべたサルヴィアがいて。
この子は、実は聡い子なのだと、そう思った。
「顔に出てる。わかりやすいよね、ローヴェ」
元来、感情がわかりにくいと言われがちな、敢えてそうしてきたはずなのに、そんな私を裏切って彼女は言う。
「むしろ、わかりにくいのはマティ」
あんなに感情的なとこ、初めて見た。
「いつも、一線引かれてる気がしてた。でも、ローヴェのためにあんなに必死でさ」
くす、と笑う少女。
確かに、と最近の親友を思い出す。
昔から冷静な彼女が、珍しいくらいに声を荒げていたな、と思い至る。
それが自分の為だと、自惚れなく思う。
「…それでも、謹慎処分だなんて」
「まぁ、わかっててやった気がしないでもない」
「っ、マティは、悪くないですわ」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
その場にいなかったわたし達にはわからないよ」
「サヴィ!?」
「だって、わざとこうなることがわかってて殿下に喧嘩売ったのなら、悪いのはマティだよ」
「…っ」
「でも、そうすることを選んだ」
どうしてだと思う?
見透かすような視線に、顔を背けたくなる。
「ローヴェのためだよ」
「!」
「そしてそれは、自分の為でもある。自分のエゴだもんね」
「……」
「それで?」
「え?」
「マティは行動したよね。結果がどうあれ、ローヴェのために」
ぐっと目を合わせようと近付くサルヴィアに、怯む。
「ローヴェは、なにもしないでいいの?
このまま、マティが戻ってきた時、今まで通り、できる?」
サルヴィアの台詞に、ハッと息を呑む。
できるわけがない。
きっと、優しい彼女は今まで通りに笑顔を向けてくれる。
(でも、わたくしは、)
そんな彼女に、なにを返す?
笑顔?感謝?
なにもしないで、彼女に向き合えるはずもない。
「わたくし、わたくしは…」
俯く私に、サルヴィアが溜め息を吐く。
「…マティの処分は仕方ないよね。殿下にだって守る威厳があるもん。でもさ、無期限の謹慎処分って、いつ戻れるかな?もしかしたら、もう戻ってこれないかもしれないね」
「──!」
「それを、期限有りにできる方を、わたし、一人だけ知ってるけどさ、」
ローヴェはどう?
顔を上げれば、仕方がない子を見るような笑み。
今度は、貴女が親友を助ける番じゃない?
と聞こえそうな表情。
(そうですわ)
まだ、私にもできることがある。
しなければいけないことが。
(マティ、貴女に、もう一度笑って会いたいから)
「──行ってきますわ!」
「がんばれー」
はしたなくも走り出した私に、軽いエールの声。
でも、今の私には、何よりのエール。
「!?」
上級生の階に行くために走っていた私は、下から上がってきた生徒にぶつかってしまった。
倒れそうになるのを、反射神経が優れているのか、咄嗟に助けられ、感謝の言葉を述べようとした私に、香る嗅ぎ慣れた仄かな香水の香り。
「ありが…?…ウェン?」
「っ、姉さん、」
顔を上げて確認すれば、やはり、それは弟のウェンスランで。
ばつが悪そうに顔を歪めた弟に、首を傾げる。
「ウェン、どうしましたの?わたくしにご用かしら」
「いや、」
言いづらそうに口ごもるウェンスランに、急いでる旨を伝えようとすれば、ちらりとこちらを窺いながら、口を開く。
「…マティが、謹慎処分になった、て」
「……そうですわ」
バッと顔を上げたウェンスランは、泣きそうに顔を歪ませて。
「僕の、せいだ」
「え?」
「僕が、姉さんを…彼女を、信じきれなかったから」
「…」
「あの時、もっとちゃんと、彼女を庇っていたら」
悔やむ姿に、先ほどまでの自分が重なる。
姉弟って、こんなとこまで似るのかしら。
「後悔、していますの?」
「……」
「ウェンは、アティオ様のことがお好きですの?」
「は!?ち、ちがうよ!僕は、ずっと、マティが好きだ!!」
はっきりと言える弟に、羨ましいとさえ思う。
それなら、と笑みを向ける。
「それを伝える相手は、わたくしではありませんわ」
「姉さん、」
「確かに、貴方は間違ってしまったかもしれない。ですが、それはまだ取り返しがつくのではありません?」
「!」
「マティは、待っていますわよ」
ハッと弾かれたように走り出す弟の姿に、私も頑張らなくては、と思った。
キッと、上階を見上げて、一歩、踏み出した。
マティ「あー…家にいるとひまd」
母「マティちゃん!一緒にお洋服、買いに行きましょう!」
マティ「(前言撤回)お母様。私、一応謹慎中でして」
父「マティアラ!今帰ったぞ!パパ急いで(仕事押し付けて)帰ってきた!ハグしよう!」
マティ「するかぁぁあ!しかもかっこの中聞こえてるから!ちゃんと仕事して!!」
母「マティちゃん、貴女の謹慎聞いて、お姉ちゃんが駆けつけてくれたわよ」
マティ「え!!??」




