脇役令嬢、嫉妬を煽る
別名、王妃候補は未来をみてる
一部、気まずい空気の流れる中、お茶会は再開した。
殿下が現れてから、ずっと下を向いているローヴェ。
そんなローヴェを頑なに視界に入れないようにそっぽを向いているツンデレ。もとい、シグナゼル殿下。
意地っ張りな二人に、嘆息。
(勝手にすればいい)
ちらりと呆れた眼差しを向けてから、隣に座る兄、ジェイスに目配せする。
それに気付き、にこりと赤くなりそうな笑みを向けてくるジェイス。
妹までタラシこんでどうする。
怒ったような瞳を向ければ、ゴメン、と言うかのような苦笑いが返ってきた。
「──ローヴェ嬢、お茶のおかわりはいかがかな?」
「えっ、は、はい。いただきますわ」
急にかけられた声に吃驚して顔を上げるローヴェ。
その声に、ちらり、目を向ける殿下。
気になるなら意地を張らなければいいのに。
「そういえば、この間の試験もトップだったそうだね。
うちのマティがいつも悔しがっているよ」
「に、兄様、」
「マティも頑張っているようだが、ローヴェ嬢はその倍以上頑張っているから、と聞く」
「そ、そんな…わたくしなど、ひとの倍努力しなければ。すぐにマティに追い付かれてしまいますわ」
「ローヴェ嬢は偉いね」
「っ、そ、そんなことは…」
真っ赤になって俯くローヴェの、なんと可愛らしいことか。
そう感じたのは、きっと私だけじゃない。
がたん、
案の定、彼女の仕草に見とれていた人物が、ハッと立ち上がる。
「殿下?いかがなさいました?」
「っ、」
不思議そうに尋ねれば、眉を寄せ、厳しい表情を向ける。
そしてそのまま、ローヴェに厳しい眼差しを向けた。
「俺が相手にしないとすぐに他の男にうつるか」
「!」
「なんて女だ。誰にでも尻尾を振るような、簡単な女だったとはな」
「っ、」
きゅ、と唇を噛み締めるローヴェに、さすがに言い過ぎだと立ち上がるキルクス。
私も、聞くに絶えない暴言に、ぎり、と殿下を睨むように見た。
「このまま、婚約解消でもしてやろうか。そうしたら、好きな男に言い寄れるだろう」
「っ!!」
我慢できなかった。
いい加減、その口を無理やりにでも塞いでやろうと立ち上がる私を、ジェイスが止めようとする。
より早く。
パンッ
乾いた音が、響いた。
目を見開く私達の前で、呆然と頬を押さえる殿下と。
その頬を張ったであろう手を、震えるもう一方の手で押さえる──ローヴェの姿。
目に涙を溜めたローヴェは、キッ、と殿下を見やった。
「最低ですわ!…どんなことを言われても、冷たくされても、耐えてきました。殿下の、傍に居たかったから!
でも、そんなわたくしの想いを知っていながら、そんな風に…っ、例え、殿下に気持ちなどなくとも、自分を慕うものにそのようなことを仰る殿下に、人の上に立つ資格はありませんわ!」
国王陛下と慕うもの達に、なんて声をかけるつもりかと、
言外に叱責するローヴェの、悲痛な叫びに。
苦しくなる。
殿下も、失言だったと気付いたのだろう、顔を歪める。
しかし、声を発する前に、ローヴェは背を向けて。
「帰りますわ。…マティ、ごめんなさい」
「ろ、」
呼び止める間もなく、ローヴェは庭園から走り去り。
あわあわと様子を伺う使用人。固まったままのサルヴィア。あちゃあ、と嘆息するキルクス。やれやれと誰に向けたか苦笑を浮かべるジェイス。
そして。
何もできなかったと、悔やむ私と似たような表情を浮かべる殿下が残されて。
その日のお茶会は、苦い記憶を残すだけと、なってしまった。
ただ、殿下を嫉妬させて。自覚させて。
君に、早く幸せになってほしかった。
それだけだったのに。
「ごめんなさい、…ローヴェ」
私は、自分のエゴで結局君を、傷つけた。
呟きに、ぽん、と頭に置かれた優しい掌に、泣きそうになった。
マティ「キルクス兄様…」
キル「ん?なんだ?」
マティ「殿下は、ローヴェのことが嫌いなのですか?」
キル「あー…あのな、マティ。シグは、好きな娘ほどいじめてしまうタイプなんだな」
マティ「………キルクス兄様と同じタイプですね」
キル「お!?お、おぉ…そうかな?」
マティ「ふふ、そうです」
キル「っ、可愛い!でも、マティのことは苛めてないだろ!?」
マティ「…………………そういえば、むかし、」
キル「!あ、おれ兄貴に呼ばれてた!じゃあな!マティ、チュッ」
マティ「!なっ、…にげられた」




