女神が来たりてプロローグ
祖父を追うようにして祖母が亡くなってから、二週間が経った。
バイトもしばらく休みをもらっており、今は暇を持て余している状態だ。
コタツに入って携帯ゲーム機で遊んでいると不意に暗くなり、画面が見辛くなったので顔を上げるとパンツがあった。
白いパンツで小さなリボンがついている、女性用であろう。
「初めまして筧布里尚人さん」
パンツが言った。
「私は宇宙に散らばる三万世界を管理する女神ペペロンチーノ」
いや、パンツは喋らない。
「この度はあなたの家が魂の休息所に選ばれましたことを伝えにまいりました」
見上げると、整った女性の顔があった。
「宇宙三万世界には救世主達が生まれ世界を救うために戦っていますが、彼らも人の子」
光の環やら、肩から滝のように落ちる光の泡やら、とにかく見辛いが確かに女性の顔があった。
「時に傷付き倒れ絶望することもあるでしょう」
パンツ丸出しだというのに実に堂々とした態度だ。
「そこであなたには彼らを癒す休息所の管理者となっていただきたいのです」
痴女という奴であろうか?
「もちろん報酬はお支払いいたします」
いや、女神とか名乗っているのだ、宗教の勧誘ではないだろうか?
「尚人さんは時給1000円でアルバイトをされているそうですね」
この状況は実に不味い。
「失礼ながら調べさせて頂きました」
この家は俺の家なのだから、許可を得ずに入ってきたこの女は不法侵入である。
「管理者となって頂けるのであれば時給1050円お支払いいたしましょう」
しかし、下半身がパンツ一枚なのだ。
「どうでしょうか?」
これが不味い、警察が来たら俺に勝ち目は少ないだろう。
「仕方ありませんね、時給1080円ではどうでしょう?」
どれだけ正直に話そうが女性の言い分が一方的に通ってしまうのではないだろうか?
「・・・あまり欲張っても為にはなりませんよ」
ならば宗教の勧誘に応じるしかないのだろうか?
「救世主達の中には容姿に優れた女性もたくさんいます、お知り合いになってみたくありませんか?」
いや、こんな強引な勧誘をするぐらいだ、ろくな宗教ではあるまい。
「いまならポイントもお付けしますよ」
・・・パンツ眺めるのも飽きてきたな。
「ポイントを使えば救世主の能力を強化できます」
おお、パンツ眺めるのって飽きるものなのか・・・変なところでちょっぴり感動した。
「感謝されてモテモテですよ」
「えー、ペペチーさん?ちょっといいですか?」
「はいっ!何でしょう!いや、ペペチーじゃなくてペペロンチーノです」
「パンツ丸見えですが恥ずかしくはないのでしょうか?」
「えっ?えっ!きゃっ!」
ペペチーさんが自分の下半身を見ようとして、変なエフェクトが視界を遮っていることに気付き、エフェクトを消す。
そして、悲鳴を挙げると手で股間を隠すように覆いコタツの上にうずくまった。
「どうして?なんでなんで・・・すみませんが何か履くものを貸していただけないでしょうか」
女性用の服なんて婆ちゃんのしかないぞ。
「とってくるよ」
俺は婆ちゃんの部屋のタンスから農作業用の地味なももひきをとってきてペペチーさんに渡した。
「後ろ向いて下さい」
「はいよ」
充分に鑑賞させてもらったし、今更だと思う。
「どうぞ、振り向いて下さい履き終わりました」
振り向くとそこには、顔は美形で、白い布を何重にもした・・・厚みのあるトイレットペーパーを巻き付けただけのようにも見える服を着て、下半身にももひきを履いた女性がいた。
ももひきが短いせいか脛辺りまでしか隠せていない。
婆ちゃん足短かったからな。
「・・・ぷっ、ふふふ」
上半身と下半身のギャップが面白かったので笑った。
「な!笑わないで下さい、あなたが渡したんじゃないですか!それを笑うなんて失礼ですよ!もういいです、帰ります、管理者の件は強制的に引き受けて貰いますからね!拒否権は剥奪します!ほら、これ説明書です、明日から救世主達が訪れますからちゃんと読んで準備しておいて下さい!」
「あっ」
週刊少年誌サイズの本を放り投げると、ペペチーさんは忽然と姿を消した。
ももひきは返してもらえるんだろうか?婆ちゃんの形見なんだが。
そんなこんながあって、次の日から我が家に異世界人がやってくるようになり、説明書を読みながらの悪戦苦闘する毎日が始まるのであった。