少し話をしてみる
「……」
疲れが取れたからか目が勝手に覚めた。
普通に体を動かしてみようかと体を起こした時、何の警戒心もなく俺の足を枕にして寝ているエレナの姿が。
周囲を見渡す。完全な平原。大陸の半分近くが森と平原なのだから当たり前で、今は夜。
相当警戒心無いなこいつと思いながら先ほど見かけたものを今度は凝視してみる。
赤い鱗。巨大な体躯。蛇みたいな顔立ちに生える二本の角。体躯に比例して巨大な尾。
どこから見ても間違いなくドラゴン。しかも、気性が荒く火山などに生息していると言われているレッドドラゴン。
……。
俺の思考はフリーズした。
が、それを戻したのは俺の視線を感じて目を開けたレッドドラゴンの方だった。
『起きたか』
「!」
直接頭に語りかけてきたので驚くが、警戒も何もエレナを起こすのが忍びなかったので体が硬直するだけ。
ドラゴンって喋れるのかよ……と新たに知った事実を覚えていると、『そう固くなるな。魔王の娘の師匠を食おうなど、とてもじゃないが出来ん』と語りかけてきた。
頭の中で会話なんて面倒だったので、俺は言葉で返事をすることにした。
「どうしてあんたはこいつの事を知ってるんだ?」
色々訊きたかったが、この質問でそれが分かる。そう確信を持った質問。
それに対しあちらは意図を読んだのか俺の質問にすべて答えてくれた。
『魔界にいなくとも時折こちらに流れてくる魔族たちの話を聞けば分かる。それに、魔王とは旧知の間柄でな。人間界での戦争ではよく二人して先陣切って暴れ回っては親父たちに怒られた』
「いや、回想はどうでもいいんだが」
『すまん。この娘との出会いは丁度最果ての街――魔界につながっているゲートがあるエリシュラで買い物をした帰り道だ。空を飛んでいたら右往左往している女の姿があったので降りたら「お師匠様を探すのを手伝ってくれませんか!?」と懇願されてな。帰り道の途中だからいいかと思い乗せたら衝撃が走った。まるで魔王を乗せた時のような錯覚に陥ってな』
「で、質問したら頷かれて現状に至ると」
『まぁそうなる』
……。ドラゴンと会話してる時点で相当だが、こいつが魔王の娘だというのは紛れもない事実だという認識が出来てしまった。
互いに沈黙していると、『そう言えばどうしてお前はこの娘の師匠になったんだ?』と質問された。
特に答えることに問題がないため、正直に答えた。
「俺の殺しの技術を学びたいからか向こうが勝手に言い出した。今はその上に王様になりたいとのことで国を巡るために旅を始めたところだ」
『……なぜ殺しの技術を? 確かに力は強大だと分かるが』
「おそらく使い方を教えなかったんだろう。強大過ぎる力は恐れと共にさまざまな弊害をもたらすからな。……それに」
『ん?』
「良くも悪くも純粋に育ってる。おまけにあの容姿だ。祭り上げられたして傀儡になる可能性があるから無理に教えられなかったのだろう」
『……確かに。ここまで純粋だというのは魔族では逆に新鮮だ』
「ほっとくとどこまでも突っ走りそうだったからな。面倒ながらもやる事にした」
『そうか。珍しい奴もいたものだ』
そう言うと首を持ち上げて顔をこちらに向け、『そう言えば、お前はどうしてフードを被っている?』と何時か聞かれるだろうと思った質問をされたので黙ってフードを脱いだ。
『……なっ』
驚くドラゴン。
まぁそれもそうだろうと思いながらフードを被りつつ「このせいで色々と問題が起こった。以来、人前では滅多に顔を出さない様にしている」と答えた。
『なるほど。それは確かに普通にだせないな』
「ああ。なるべくはな。あとはこのフードのお蔭で気配が薄くなっているから」
『確かに。そのフードのお蔭か気配が薄い。話していないとあまりわからない』
だからか普通に殺した時の驚かれようがすごいんだよなと思っていると、『ところで』と話を切り出された。
「なんだ?」
『私も旅に同行していいだろうか』
「なぜだ?」
『なんとなくだ。強いて挙げるなら、この娘の行く末が見てみたくなった』
「……なるほど」
どうやら、すでに何か感じ取ったものが在るようだ。
まぁ近くにいたからなと考えた俺は「別にいいんじゃないか? 人型になれば」とあっさり答えた。
『随分あっさりだな』
「そちらの都合だからな。ついてくるならついてくればいい。俺にはそうとしか言えない」
『珍しい考え方だな。人とは群れぬと生きていけない人間だと思ったが』
「どこかしらで人はつながっているしつながりを求めている。それを理解しているのであれば来る者拒まず去る者追わずの精神で生きていける」
『……まぁ良い。この娘がどうなるかというのをこのシュラヌ、しかと見届けよう』
そう言うや否やレッドドラゴン――シュラヌというらしい――の全身が輝き始め、光が収まった時には人型になっていた。しかも旅商人を装っているのかデカいリュックを背負って。
「……随分若作りをしてるな」
真っ先に思い付いた感想を口にすると、見た目俺と同い年の好青年に見えるシュラヌは「否定はせんよ」と飄々とした口調で返して来た。
「戦争って一体何百年前だよ」
「人間の暦で言うならざっと千は越えておるはず。あまりに昔の事じゃが……エルフのやつらなら覚えておるじゃろ」
「ああそう。……で、本当についてくるようだな」
「世話になるぞ」
こうして予期せぬ形で最強種が旅のお供に加わることになったのだが……
「不寝番は誰がする?」
「交互でよかろう。もっとも、そこらで悪さをする魔物は近寄ってこんだろうが」
「……まぁこいつにやらせたら絶対途中で寝るだろうからそれでいいか」
「むしろ起こさずに撃退するよう心掛けるか」
……ただ孫を見るような感じになってるのは気のせいだろうか?
多少は酔っています