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殺人鬼と元魔王候補  作者: 末吉
レシウス王国
34/35

通達

どうもお久し振りです。いよいよこの国の滞在もわずかとなりました

 知り合いに会った事で何となくここに住む他の知り合いにあった五日目。

 彼らは変わりなく以前いた場所に居を構えており、やっていることも変わらなかった。

 ただ一様に、俺が来ると驚いていたが。まぁ当然だろう。柄にないからな。


 そして六日目。いよいよエレナの考えを聞く日だ。が、時間を指定してなかったのでやっちまったと思いいたる。

 まぁとりあえずシュラヌに声をかけて一緒に行動してもらうか。そう思った俺は隣の部屋の扉をノックする。


「なんじゃコール」


 扉を開けて不思議そうに聞いてきたので、「エレナに課した課題を今日聞くんだが、一緒に行動しないか?」と訊く。


「課題? なんでそんなものを?」


 意図が分からないからか難しい顔をして質問してきたので、「王様になった時に直面する問題を考えさせるようにしたんだよ。あいつ考えないからな」と説明する。

 何やってるんだろうな、俺。フードの中で自嘲していると、シュラヌが「……なぜそこまでやるんじゃ、お主は」と訊かれたので少し考えてから答える。


「……ついてきたからだし、今はパーティになってるからという部分もある。どこかで消えたのならする気もなかったしな」

「じゃろうな。短い付き合いじゃが、そういう性格なのは理解できた。が、存外面倒見がいいことには驚いたわい」

「……」


 言葉を失う。まぁ思い返せば一人旅以上に誰かと一緒にいる旅が多かった気がするんだが。それでもあまり面と向かって言われない言葉なだけに。

 黙ったままでいると、彼は「まぁ分かったわい。ところで、今から動くのか?」と訊いてきたので我に返ってから「ああ。まずはギルドへ行く」と予定を答える。


「ふむ。依頼でも受けるのか?」

「まさか。受け取るものがあるだけだ」

「そうか。分かった」


 という訳でシュラヌを連れてギルドへと来たわけなのだが……。

 総合受付に座っている職員に話しかけたら「お待ちしておりましたコール様」などと仰々しく呼ばれた。

 明らかに何かあるので警戒しながら「『群狼』からの謝罪の品を取りに来た。あるか?」と用件を述べたところ、「その前に少しよろしいでしょうか?」なんて言われた。

 絶対に厄介事だよなと思いながら黙っていると「ギルドマスターがお呼びです。三階へ案内したいのですが」と言われて頭を抱えたくなる。


いきなりトップからの呼び出しだ。心当たりが多すぎるから気が進まない。果たして知らぬ存ぜぬが通るかどうか。

 この旅を乗り切るには自分のことも考慮しないといけないなぁと今更な方針に思い至っていると「あの、聞いてますか?」と受付に座っている職員に声をかけられたので「分かった。一人連れていくが、それでいいのなら」と返事をする。


「おい待て。なぜわしも行かなくてはならぬ」

「ここで別れられても困るだろ。さっきの話を忘れたのか」

「……ふむ」


 かしこまりましたと了承され、そのまま移動が始まったのでついて行ったところ、シュラヌにそう言われたので今朝のことを言って詮索を封じる。

 こいつを待たせるとまた厄介事が付きまといそうな気がする。そんな思いを悟られぬように。


「しかしギルドマスターとは一体どんな存在なのだ? 一向にあったことはないが」

「俺もない。が、ルノアから話を聞いたらあいつと同じランクオーバーらしい」

「そうなのか。ランクオーバーとは割と人間の社会と密接してるのだな。面倒なことをしてる」

「そりゃお前からしたらそうだろうよ」

「着きました」


 階段を上りきった先にある部屋の前で立ち止まった職員がそう言ったので会話をやめて立ち止まる。

 コンコン、とノックをしてから「コール様をお連れしました」と部屋に呼び掛けたところ、明るいが警戒心を募らせる声で「分かりました。入ってきなさい」と返事があった。

 安心させるような声なのだろうが、俺みたいなやつからしたら信用ならない声だ。戦闘になったら確実に殺されるから武器などは握らないように、か。

 自分に言い聞かせて何とか自制していると職員が扉を開けたので大人しく入る。


 入った部屋の中は、とても質素なものだった。

 中央奥に執務用の机があり、そこに呼び出した当人――ギルドマスターがいる。その手前には対面するようにソファが置かれており、その間には机が配置されていた。

 壁の方には棚があるが、そもそもが小規模なので部屋の大きさとあまりにも釣り合いがとれていない。


 まるで広い部屋を更に広く見せてる感じだ――そんな感想を抱きながらソファの前まで歩いた俺は、後ろの様子を気にせずさっさと話を切り出すことにした。


「呼び出しとは一体?」

「まぁ少しは落ち着きましょうコールさん。話の聞かない冒険者は取り分が少ない、ですよ」

「俺は別にそこはどうでもいい。金は生活に必要だが、生活だけならあまり必要性がないと思ってるし」

「なるほど。冒険者というより遊牧民よりの考えですか……また珍しい人もいたものです」


 向こうのペースになったことに気付いた俺は話を進めてほしいと思ったが、今のやり取りで容易いことではないのが明白となったので、大人しくソファに座る。

 それを見た彼――ギルドマスターは笑顔で頷いてから「どうぞシュラヌさんも」と立ったままのシュラヌに対しても促す。

 俺と彼とのやり取りの間で職員はここにはいない。気配や魔力もこの階に俺達以外ない……と思う。過敏ではあるが、するりと抜ける奴なんて世の中存在するだろうし。

 シュラヌが座ったのを確認してから俺に視線を向け「ああ、ルノアがお世話になっていますし、ウェリテルがあなたを訪ねたようなので私も自己紹介をしますね。ランクオーバー、『伝達屋』、ディエート=シークと申します。以後お見知りおきを」としゃべり始めた。


「では話を始めましょうか。コールさんの方も色々あるようですし、何より警戒されているようですしね」


 まるで気にしてないような口調で言ってから一拍置いて、「ギルドマスター権限でコール、あなたを勝手ながら本日付でAランクに昇格です」と爆弾を投下した。


「…………は?」


 ド級の要件に俺の思考は理解することを拒んでフリーズし、搾り出てきたのはそれだった。

 一方で、話を聞いていたシュラヌは大して驚いている様子はなく、ディエートに話しかけた。


「わしはまだ冒険者登録をしてから日が浅いから済まぬが、ランクアップとは規定依頼をこなした上でギルド内での話し合いで決まるのではないのか?」

「ええもちろん。そして、ランクアップしたいという冒険者たちがこぞって申請するので形骸化されていますが、ランクアップは基本的に自由意志なのです。コールさんはその代表で、実力はAランクでギルド内でもAランクになってほしいと思われているのに申請してませんので、ここまで保留されていたのです」


 事情を説明された俺は何とか飲み込んで、話に混ざることにした。


「ならそのままでいいだろ。なんで今更、しかも今日突然に決まった」

「前々から話は挙がっていたんです。ですが、縛るほどでもないと思い流していました。実際私もAランクになっても問題ないと思っていましたが」


 そんな話を聞いて、ふいに思い至った単語を口にした。


「ランクオーバー」

「その通りです。同胞『魔神』からの手紙に記されていた内容を現実にするとして、流石にCランクからというのもまずいと判断した結果です」

「……そうか」


 果たしてそれだけなのだろうかと話の裏を考えようとしたところ「いい加減多方向からの声の応対に面倒になったのもあります。同じ冒険者からだったり、色々な国のお偉いさんからだったり、著名な方々からだったり」と非難されているのだかわからない愚痴を聞かされた。

 知ったことではないと思ったが、決まった話を更に拗らせる必要もないだろうと考え「分かった」と短く了承する。


 俺がすぐに了承するとは思わなかったのか彼は瞬きを数回してから「では更新手続きを行ってください。御足労をかけますが」と話を終わりにした。


 「ああ」そう言って俺が立ち上がったところ、「コールさんの意見を採用して、Bランク以上の依頼を受ける際にだけ二階で、それ以外の些事は一階で出来るようにしておきました。それと、Aランクになったことで専門の職員が付きますよ」と言われたのでフードの中で首を傾げる。


「専門の職員?」

「ええ。あ、書類を渡していませんでしたね。Aランクになった人たちの中でパーティのリーダーにはそのギルド専門に職員をつけることを選択してもらっているんです。ですが専門と言っても同行するわけじゃありません。パーティ内で個別に受ける依頼などの処理をしてくれるといった程度です。規模が大きければ職員は増えていきますけどね」


 リーダーが情報を開示してほしいというならだれがどんな依頼を受けたかというのを開示するぐらいなら問題ありません。

 メリットらしきものを言ってから彼は目の前に書類を飛ばしてきた。

 俺はその書類を手に取ってからパラパラとめくる。どうやら、渡された書類は職員名簿らしい。自由に選べってことなのだろう。

 話を聞いてる最中にいらないと思ったが、メリットを聞いてから不意に彼女を思い出して書類を捲りながら少し真剣に考える。


 エレナの奴が変な依頼を受けて自分の能力で対処できなかったら……それはもう完全に自業自得なのだが、こちらに面倒ごとが回ってくることはまず確定。

 それを先回りに潰せるならいいものだろうかとリスクと天秤にかけてみたが、不意に疑問に思ったことを聞いてみた。


「なぁ」

「なんでしょうか」

「パーティが解散となった場合、専門の職員はいなくなるよな」

「ええ」

「ならそのあとにもう一度――少し時間をおいて俺が別のメンバーでパーティを組んだ場合はどうなる?」

「やはり珍しいですね……その場合は規定に載せていませんので何とも」

「ふむ」


 肩をすくめての回答に俺は書類に視線を移して考え……「必要になったら連絡する。それは可能か?」と保留することにした。

 それに対し彼は仮面で分かりにくいが真剣な雰囲気を醸し出しながらしばらく考え……「まぁいいでしょう」と頷いた。

 それが訊けたのでもう聞きたいことはないと結論付けて書類をテーブルに置いて「じゃぁ手続きしてくる」と言って部屋を出た。




「のぉ。もう少しごねるかと思ったんだが、どうしてじゃ?」

「組織のトップに言われて拒否なんて無駄だと思ったからだ。それに……」

「それに?」

「ああいうのは、言った時に覆らないようにしてるはずだ」

「ふむ。その警戒心は見上げたものじゃの」

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