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殺人鬼と元魔王候補  作者: 末吉
レシウス王国
33/35

国の闇

私の考えなので参考程度にとどめてください

 扉の中は大して広くなく、礼拝堂は形として存在してるだけで椅子とかそれほど存在していない。

 神父は「こっちだ」と言って右奥の方へ向かっていくので、俺達もついて行く。


 案内された部屋は、普段から生活に使われているだろうと察せるところだった。何せ物が散らばっている。


「汚いですねお師匠様」


 何の遠慮もなくバッサリというエレナ。悪意も善意もなく、ただの感想だというのはもう理解できてるから何も言う気にならないでいると、神父が入り口から遠い席に座り「まぁテーブルと椅子があるからここを選んだだけだから」と答えた。

 俺は別に気にならないので返事をせずにカイを座らせる。残りの席は二つ。


「お前らも座ったらどうだ?」

「ああ」

「分かりました」


 そういってエレナは素直に座り、俺はルノアを空いてる椅子に座らせた。つまり俺は立ったまま。彼女は驚いているが、俺自身は気にしてないので「とりあえず自己紹介するか。こいつらは知らないだろ?」と提案する。


「相変わらずだなコール……といっても、スラムの子供に関しては少ないから覚えてる。この子はカイだろ?」

「え、なんで知ってるのさ!?」

「さぁ、なんでだろうな? あ、俺の名前はウィリー。見ての通り神父だ、よろしくな」

「あ、私エレナと言います。よろしくお願いします」

「うちはルノアじゃ」


 「ほうほう……別嬪さんとカワイ子ちゃんを連れてるとは、相変わらずコールの遭遇率はおかしいな!!」自己紹介を受けて俺にそう言ってきたので、肩をすくめるだけにとどめる。


「……で? わざわざこんな奥地にまで来て何がしたいんだよ? 相変わらず考えが読めないんだがコール」


 俺の反応を一頻り笑ってから、急に真顔になって質問してきた。その時にエレナがルノアに「そういえば、先程教えてくださろうとしていたことは何ですか?」と訊いていたので「見ての通り依頼だ。金にならん、下手すると金だけが消えていくな」と答える。

 まぁた変なことに巻き込まれたのかお前。俺の答えにそんな視線を送ってきたウィリーは、ついでカイに視線を向けて「そんでこの子は?」とまた俺に訊いてくる……連れてきたからだろう。


「そいつは”表”でやらかしたのを助けたついでに案内役にした」

「ん? そうなのか、カイ?」

「なんで当たり前のように名前を呼ぶのさ……そうだけど」

「そっか……運が良かったな、カイ」

「……うん」

「ええ!? なんでなんですか!?」

「「??」」


 俺の説明で納得したのか子供に温かい目を向け、彼はそれを俯きながら受けていたところ。突如としてエレナが驚いたので何事かと彼女を見る。

 すると彼女は立ち上がってルノアを見ており、その表情はどこか怒っていた。対するルノアの方はどこか困った様子。おそらくこの場所についての説明を彼女なりに正しくしたのだろうが、エレナがそれに思わず驚いたのだろう。

 となると次は……。

 そう思って彼女のへ体を向けると、彼女も俺へ体を向けていた……だよな。


「お師匠様!」

「……なんだ」

「なんでこんな場所があって、ここに住む人たちが悪いなんておかしい話があるんですか!!?」


 彼女の言葉に俺も学はないんだがな……と内心で溜息をついてから依頼人である彼女に応えることにした。


「ルノアからどんな話を聞いた」

「スラムという、国に住むことは認めているけれど町の人たちみたいな生活をさせてもらえない人たちの住んでいる場所、と」

「そうだな。概ね正しいんじゃないか」

「なんでそんな冷静なんですかお師匠様! いつも通りですけれど!!」

「それでお前は何に怒っているんだ? そういった場所があることにか? それとも、そういった場所を放置している国にか?」

「それは……両方です!!」

「へぇ」「……え?」


 力強く俺が提示した理由すべてに対して怒っているといった途端、ウィリーは何やら感心した様子で、カイの方は目を丸くしながらルノアを見ていた。

 彼女は続ける。


「同じ国に住んでいるのにどうして互いに助け合えないんですか!? 国とは、民を守る存在じゃないんですか!!?」


 彼女の悲痛な叫びにも似た主張を黙って受け止めて吟味し、静かにそれらに対する反論という『回答』を口にした。


「……まず最初の反論だが、お前は国がどうのように機能しているのかを知っているんだろ?」

「当たり前です! 国を国として運営するには国民から税金と呼ばれるお金を集めるんですよね!」

「まぁざっくりいえばそうだな。それで話を戻すが、ここまで来てここに住んでいる奴らはお金を持っていたように見えるか?」

「…………え?」


 突如として言葉に詰まった。これは多分、頭に血が上った怒り方なのだろう。そう察することができるぐらいには分かり易い答えだった。


 だが俺は遠慮しない。


「実際に見てわかっただろう。ここに住む奴らには金がない。出てきて盗みをやるんだ、それはもう分かり易いだろ」

「……っ。で、でも! お金がないのなら稼げばいいんじゃないんですか!?」

「現在無収入のお前が言える言葉じゃないが、そうだな」

「うっ」

「だが、町の奴らはこいつらを雇うとしても、町の奴らと同じ額を払わんぞ」

「……どうしてですか」


 少し溜めてから、現状を言い表すに的確だろう言葉を呟いた。


「差別」

「え?」

「差別しているからだ。だから互いに助け合うなんて発想はない。むしろ、町の奴らはこいつらをタダ同然で使い潰すことに何ら罪悪感を感じないだろう……奴隷のように」

「……差別」

「国からしても金を払わん奴らを助ける気なんて起こらないだろう。なにせ助けたとして、国が潤う訳じゃないんだから」

「…………」

「と、いうのが、世間的な話だな。確か」


 実情を知ってるわけではないので俺はあいまいな返答をする。俺自身がどうでもいい方なので無理やり聞かされた話をしているし。多少主観が混ざっているが。


 しかし納得したのだろうかと思っていると、彼女は沈黙を破った。


「……それなら、国を挙げて雇用を作り出せばいいんじゃ?」

「雇用の創出をするにしても、そもそもスラムに住む半分は犯罪者だ。ここではそれなりにルールがあって共存しているらしいが、町に住むのもやばい奴が住み込んでるのに全体にやるのか?」

「…………」


 完全沈黙。どうやら彼女の頭ではここまでらしい。というより、逆にここまで言えたのならすごい、か。

 けれどこういう問題は自分の中である程度の考えを持ってもらわなければ「王」になれないのではないかと思う俺は、先程までを鑑みて一つの結論を出した。


「よしエレナ。この国から出る前に一つ課題をやってもらう」

「え? 課題ですか?」

「そうだ。ただ旅をするだけじゃ意味がないだろ? お前の目的のためにも」

「……そうなんですか?」

「……。だから、寄る場所寄る場所で課題をこなした方が良いと思った。とはいっても、俺もそれほど学はない。お前自身が学ぶ以上、俺には関係ないが正直今のままだとお前の頭がお花畑過ぎてみ放したくなる」

「酷くないですか!? 流石に私其処までおバカじゃないですよね!!」

「だと思うなら考えろ。今回は俺がお題を出してやる。期限は明後日まで内容は『スラムの存在は有りか無しか』だ。第一王女にでも話を聞いたりして自分の考えを言えるようになれ」

「そんなの、無しに決まってます!」

「じゃぁその根拠を考えろ。なんで無しなのか。なしにすることで国にとってどういうメリットがあるのかそういうことを考えてパーティ内で言ってくれ」

「……え、えぇぇ!? そ、それを明後日までですか!? 無、無理です!」

「無理ならお前の覚悟はそれまでということでもう終わるか」


 お決まりのその言葉を言うと、彼女は押し黙った。むしろ俺からしたらだいぶ突き放してるのにどうしてこのままついてきてるのだろうかという疑問を抱くレベルだし。

 そんな身内にしかわからない話をしていると、ウィリーが「あーちょっといいかコール?」と話に混ざってきた。


「なんだ?」

「お前が依頼依頼って言ってるみたいだから深くは聞かないと思ったんだが、一体どういう旅してるんだ?」

「まぁそれは言っても問題ない。こいつが王様になりたいというから学ばせるために国を見せるために旅を始めた」

「はぁ~面白い奴もいるんだな。今の世の中」

「してコールよ。となると明後日にはここを立つのかの?」

「いや三日後だ」

「ふむ。それなら分かったわい。言っておこう」

「助かる」


 ここでこれからの予定をルノアと話していたところ、エレナが顔を上げて何やら複雑な表情をしながら「……分かり、ました」と小さい声で了承した。


 これで少しは考える力をつけてくればいいか。というかなんでこんな理不尽なこと言ってるのに見限らないんだろうか。


 そんなことを思いながら、参考になるだろうと考え、しばらくウィリー達と会話をしてエレナに判断材料を増やした。帰る頃には真剣な表情で首をひねっていたので第一王女のところへ戻ったら変な論争しそうだなと思いながら宿に戻って寝た。




「のぅエレナ」

「……は、はい! 何でしょうかルノアちゃん!!」


 スラムから戻ってきてコールと別れた彼女達は、普通に城へと戻り、あてがわれた客室にいた。

 夕食まで時間があるらしいので各々自由に過ごしていたようだが、不意に思いついたのかエレナに話しかけた。が、声をかけられた本人は少し間をおいて返事をした。

 それが先程から続いていることだと分かっているルノアは、「なぜコールのあんな発言に素直に従っておるんじゃ? 無理なら無理とはっきり言えばよかろうて」と以前から疑問に思っていたことを聞いた。


「え?」


 まるで予想だにしない質問が来たのか目を見開く彼女。ルノアはそんな姿を見てそんな考えがなかったのかと推測した。

 ルノアは続けた。


「コールの言い分も確かにわかる。じゃが、何もあんな厳しい条件をそのまま呑む必要もなかったのではないか?」

「……そう、なんですか?」

「まぁ、少なくとももう少し期限は延ばせたんじゃないかの」


 言葉ではそういうが、ルノアはコールが期日を延ばしたことが行動を共にしてほとんどなかったのを思い返す。というより、彼自身の気まぐれで早まったりしたことの方が多かった気がすると思いなおす。

 エレナはというと、そのルノアの言葉を聞いてから少し考える。


 自分はどうしてお師匠様の言葉を素直に聞き入れているのだろうか、と。


 う~んと腕を組み首を傾げてどうしてなのかと自問自答を始めたところ、扉がノックされた。

 考えることに夢中になってノックに気付かないエレナに変わりルノアが返事をすると、夕食をお持ちしましたと言われたので部屋に入れる。


 客室の中で夕食をいただくというのも城の中でどうなのだろうかと思うだろうが、これはここに来るまでのエレナの様子を見てルノアが提案したこと。料理自体も大した品ではなく、軽食みたいな食事だった。

 食事を運んでくれたメイドの方々に礼を言ったルノアは、客室にあるテーブルに置かれた料理をソファに座りながら食べ始める。一方のエレナはいまだに考え続けているようだ。

 これはまだ長引きそうじゃなと怱々に思った彼女は、魔法でエレナの顔に風をぶつける。


「うわぷっ!」


 顔に何かが来たことによりエレナは考えることなどそっちのけで原因を探るように周囲を見渡す。しかし何が起こったのか分からない彼女は瞬きを数回してから首を傾げる。

 そこにルノアが「夕食が届いたぞ」と食べながら手招きしてきたので、彼女はお腹が空いたことに気付いてテーブルに近寄る。

 高そうなソファに座っているルノアの隣に座ってから夕食を食べ始めた彼女だったが、この状況に少し疑問を抱いた。


「あれ? なんでここで食べてるんですか?」

「ずっと考え込んでいたから一緒に食べるわけにはいかないと思ったんじゃよ」

「そうだったんですか……ありがとうございます」

「で、答えは出たかの?」


 自分の分を食べ終えたルノアがそう切り出すと、食べ始めたエレナは飲み込んでから「えっと、どの質問ですか?」と質問した。

 ううむこれはこれで厄介じゃな……反応を見てそう思ったルノアは「コールの話を素直に受け入れている理由についてじゃよ」と教えてあげた。


 ついさきほどまでそれを考えていた彼女は「あ」と声を上げてから難しい顔をする。

 お師匠様は確かに酷過ぎる言い方をする。だというのになんで私は素直に頷いてるのだろう、と。

 お腹が空いてるからか料理を食べながらどうしてなのかを考え――食べ終わった頃に彼女は漏らした。


「――胸が温かくなったから、です」

「? それはどういうことじゃ?」


 まさか自分と同じ(・・・・・)ことを考えているのかと警戒したルノアがさりげなく踏み込むと、彼女は語り始めた。


「ええと、こちらにお母様に連れてこられた初めてお師匠様にお会いした時、その鮮やかな手際に私は見惚れたんです。なんていうんでしょうか、胸の奥が高鳴ったといいますか、そんな感じで。そのあと私が勝手についてきたのにお師匠様は連れて行ってやると言ってくれて……嬉しかったんです。結構ひどいこと言われてますけど。それでも、私のことを心配してくれていると考えただけで嬉しくて。だから、私お師匠様に言われたことはできるだけ頑張って応えたいんです。そうでもしないと、優しくしてくれたお師匠様に顔向けできないと思っているので……こんな感じです。どうですか?」


 ちゃんと自分はルノアちゃんの欲しい答えを言えたのだろうかと不安になりながら確認するエレナ。そんな彼女をしり目にルノアはその独白を目を瞑って聞いていた。


(――なるほどのぉ。エレナもうちと同類か。じゃがそれには気付いておらぬようじゃ。それは嬉しいんじゃが、何とも言えぬなぁ)


 話を聞いた感想を思い浮かべて内心で溜息をつく。そしてここにいない話題の人物に呆れる。


(なんだってああも冷たい態度だというのに心に居座れるんじゃよコールよ。意図的にやってるのではないのが本当に厄介じゃな)

「あの、ルノアちゃん?」

「……ん。すまんすまん。ちゃんと言えたではないか。その調子でコールに言われたことを考えたらどうじゃ」


 考えていたことを誤魔化すように話題を逸らすと、自信がついたらしいエレナは「はい!頑張ります!!」とガッツポーズをする。

 笑顔で頷きながら応援しつつ、ルノアはこれでサラスまで同じ状況になったら面倒じゃのと関係ないことを考えていた。

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