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殺人鬼と元魔王候補  作者: 末吉
レシウス王国
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スラム内の教会

 その子供は果物を家に置いてから「ちょっと行ってくるね」と言って出てきた。

 ちらっと視線を向けると母親はボロボロの布団に、あまりよくない顔色で寝ていた。おそらく病気なのだろう。


「待たせたねおじさんたち」

「大丈夫なのか?」

「大丈夫。ここに住んでる奴で家まで押し入るバカはいないから」

「そうか」


 そういう分別はあるのかここでは。ある意味では良い場所なのだろう。まぁそれだけ、なのかもしれないが。


「ところで、場所は知ってるのか?」

「城の近くで建物を建ててる人がいたらしいから、多分その人じゃない? でも、なんでこんな場所に教会の神父がいるんだか」


 訳が分からないといった表情を俺に見せてきたが、答える気のない俺は「しかし、この空間で方角が分かるな」と話題を逸らす。


「伊達に生まれた頃から住んでないよ。それに、こっちに間違ってきたやつらの身包みはぐ時に走り回ったから覚えてるし」

「そんなもの持ってたところでどうするんだ? まとめ役でもいるのか?」

「そんなところ。あ、礼は言ってなかったね。ありがとう。俺はカイ」


 そう言うと子供――カイは唇の端を吊り上げて笑った。

 何か企んでるのかなどと疑っておきながら「死にたくないなら素直に案内しろよ。どうせ誰も助けない」と忠告しておく。

 するとカイは「恩人を嵌めるような汚い真似、する訳ないじゃん。こんなところにいてもさ」と真顔で返してきたのでひとまず信用することに。

 その間もエレナは腕を組んで悩んでいるらしく、うんうん唸っていた。


「なんでこのお姉さん考え込んでるの?」

「悩みのある年頃なんだろ」


 敢えておじさんの印象を変えない表現で俺は代わりに応える。周りには出歩いてる姿はない。様子をうかがっているのだろう。完全な余所者だしな。

 しかし少し物事を関連付けて考えればすぐに出るはずなんだが、いつまでこいつは考えるだけに時間を費やしているのだろうか。……いや、ひょっとすると知識をつなげて想像・展開・推測することを知らないのだろうか? その可能性がありそうで怖いな。だとしても俺が言わなければいけない理由はないが。

 となると今度は期日を決めて考えさせないといけないのかと内心でげんなりした俺は、世話のかかる子供を持つ親の心境はこんな感じなんだろうかと柄にもないことを考えつつ歩いていると、彼女の肩に乗っていたルノアが我慢の限界だったのか「いつまで悩んでおるんじゃ!」とエレナを殴ったらしい。


「い、痛いですよルノアちゃん!!」

「考えてわからぬのなら素直に『分かりませんでした!』ぐらい言えばよかろう!!」

「で、でも! 『少しは自分で考えろ』『何でもかんでもすぐ聞くな』って言ってたじゃないですか!!」

「考えた結果、自分じゃわからなかったらそれでいいんじゃよ全く!」

「そうなんですか!?」


 そんなことだろうと思った俺は何も言わずに内心で呆れる。ルノアもまさかと思っていた自体が当たってしまったのか何とも言えないようだ。

 ここまで思慮が足りないとなると、勉強以前なのではないかと疑問が浮かんだが、もう走り出したところなので止めるのには忍びない。だからもう、これは並行して自分で身に着けていかなければならないのだろう。そうしなければ思慮の浅い愚王へ向かうかもしれん。というか、流石にバカ過ぎて目も当てられん。


 カイを見ると「……あのお姉ちゃん、頭大丈夫?」と心配していた。

 スラムの子供でさえ心配するほどの頭脳が大丈夫なわけがない――とっさにそう言いたかったのをやめて「そんなことより後どのくらい掛かるんだ」と話題を変える。


「分からないよ。その方角に向かった事しか」

「ならしらみつぶしという訳か」

「最初にそこにいなかったらね。あと少しで到着するよ」

「そうか」


 返答はあくまで簡素に素っ気なく。いつも通り他者に壁の印象を植え付け、自ら距離を取る。余計な詮索をさせない方法。

 現にカイも少し黙った。

 俺から話しかける理由は――一応あるが、まぁあの状況で何となく察せたしどうでもいい気持が勝ったので自ら問うことはしない。都合もよかったしな。


 そこからルノアが根負けしたかのようにエレナにこの場所の説明を始めた頃に目的の場所に到着した。


 そこには、ただ広い土地しかなかった。


 ――少なくとも、俺には(・・・)


「こんなところに教会(・・)なんて本当にあったんだ!」


 カイが驚きで声を上げる。その声で、目的地に到着したことを理解した。

 まぁあいつのことだからな……そんなことを思いながら俺はカイに「ついでだ、このまま懺悔もしていけ」と言いながら子供の背中を押しながら先へ進んでいく。


「ちょ、ちょっとおじさん!?」

「あ、お師匠様!? どこ向かっているんですか!?」

「む、どうやら結界の様じゃぞエレナ。進もうではないか」

「え、あはい! 待ってください!」



 体感的に薄い結界を超えた先。そこにあったのは、カイの言う通り教会だった。それほど大きくなく、けれど点在しているそれらと遜色のない建築物が、そこにあった。あいつ一人で作ったのだろうか。なんて柄にもなく思う。


「うわー広いですねお師匠様。でもなんでこれが見えなかったんですか?」

「え、おじさんたち見えなかったの?」

「え、あなたには見えていたんですか?」

「っ、そ、そうだよ!」


 エレナの方を振り向いたカイが突如として視線を俯かせて上ずった声でしゃべる。おそらく、彼女の胸とかそういったものに目がいったのだろう。今まで俺の姿ばかりで彼女の姿は見てないからな、多分。

 仕方がないので俺は説明した。


「ここの主が少々面倒でな、子供の遊び場を作るという目的のために神父になったからか、子供以外に見つけられない仕様の結界を張っている」

「なんで知っておるんじゃコール?」

「知り合いだからな」

「え、おじさん知り合いなの?」


 カイがそう言った瞬間。

 教会の奥の方からガタンと音が響いた。

 それからすぐに扉は開く。外に開く仕様だったのか、そのまま彼は出てきた。

 身長は170位で神父としての正装をしており、顔から肌の色が焦げた茶色だと分かる。髪は短く切りそろえられており、髭はそれなりに生えている。

 彼は俺達に近づいてきたうえでカイのことを見てから俺の姿を確認し、「おおコール! 珍しいことでもあるのかここに来るとは」と首を傾げられた。

 それなりに自覚をしている。わざわざこんなところに着た挙句旧知の人を訪ねるとは。


「……ついでだ。こいつに貸した」

「益々珍しい。人の生き方に干渉すること自体を避けていたお前が、今はこれか。旅をして少しずつ変わったのか」

「……だろうな」

「お師匠様、この人は誰ですか?」


 話しているとエレナが俺のマントを引っ張りながらそう訊いてきた。神父は俺の後ろを見てから「ま、話は中でしよう。それとようこそ、スラムの住人の君。主は君達にも寛容だ」と言って教会の中へ戻っていったので、俺達もついて行った。

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