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殺人鬼と元魔王候補  作者: 末吉
レシウス王国
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スラム

最近表現法の開拓をしてるので読みにくかったりそうかもしれなかったりすると思われます。

 謝罪を受けた次の日。

 武器屋に行ってナイフの状態を確認し、半分もできてないといわれたが契約を破棄する気もなかったのでそのままやってくれと言って店を出たところ。


「お師匠様~!!」


 エレナに見つかった。ご丁寧にルノア迄いる。

 ため息をついてから勉強について聞いてみたら視線を彷徨わせてから「きょ、今日は息抜きです!」と視線を合わせずに叫んだ。

 この時点で何となく察したのでこいつは底抜けにバカなのだろうかと疑いたくなりながらしょうがなく同行を許可する。


 わ~い! なんて両手を上げて喜んでる姿に勉強はどこに行ったんだろうかと人の心配をしていたところ、前方から怒声が聞こえた。


「待ちやがれこのクソガキ!」


 人ごみは勝手に割れていく。こちらに向かってくるのは果物を持った子供と恐らく商人だろう。怒声から察するに盗まれたか。

 盗む理由に恰好から見当がついた俺は、ついでに実地で学ばせようと思い立ち、わきを通り過ぎようとした子供の襟首をつかんで急停止させる。


「ぐえっ!!」


 首をいきなり絞められたことから悲鳴が上がる。追いかけてきたやつは俺の前で立ち止まり息を整えている。

 ちょうど良かったので、何か言われる前に追いかけてきたやつに声をかけた。


「ああすまない。金を渡すのを忘れていた」


 そういって空いてる手でマントから金が入った袋を取り出す。それから器用に袋を開けてとりあえずこれぐらいでいいかと思い金貨二枚ぐらい取り出し息を整えている店主に渡す。

 いきなり渡された店主は慌てて金を受け取り俺をしばらく見つめてきたが、やがて納得したのか「ちゃんと持たせてくれよ、ったく」とぼやいてから戻っていった。


「お師匠様、どうしたんですか?」


 ……今のやり取りで何がどうなったのか分からないとなると、この先心配しかないんだが。

 もはや態と言ってるのかと思いたくなる言動だが、今までの驚きぶりから分かっているので何も言わずじたばたしている子供を持ち上げたまま店と店の隙間に入ることにした。


「待ってくださいよお師匠様!」

「……ああ、コールも酷じゃの」


 そんな俺を見てエレナは慌てて、ルノアは察してついてきたらしい。すぐさま言わないのは勉強のためだと考えてるからだろうか。まぁこちらとしてはありがたいが。

 さて、エレナは耐えられるかなと思いながらつかんでいる子供に「家に案内しろ」と言った。



「……お師匠様、こ、怖いですね」


 大通りの店と店の間を歩いていると、雰囲気のせいかエレナがマントの裾をつかみながら怯えていた。ルノアはそんな彼女の肩に乗っている。

 ちらりと後ろを見た俺はすぐさま視線を戻し、果物をもって黙って先頭を歩いている子供を見る。

 外見なんて気にしていらないからだろうか破れていようが怪我していようが放置してるらしい。顔や腕に傷跡があるのはその名残だな。清潔性が皆無なのもらしいと言えばらしい。


 と、観察していたらついに子供が怒鳴った。


「放せよ!」


 大通りから離れているからか怒声はむなしく響く。声に反射的にエレナが怯えたが、俺は気にせずに「その果物の金は出したからしばらく付き合え」と単刀直入に用件を述べる。

 言われた方はまた黙り込んでしまう。が、俺はそれを肯定ととって「まずはそれを家に置いて来てからにするか。適当に進んでいるが、通り過ぎたわけではないな?」と確認する。


「…………まだだよ」


 先ほどから通っているのは貧困層――いわゆるスラム。犯罪者と追放者達が根城にしている場所。大通りから外れ日が当たっていようとも、鬱屈して、不気味で、不快な場所。周りには人の気配はあるが姿は見えず、住んでいるであろう家も立て付けの悪いものばかり。

 悲鳴や下卑た笑い、焦点の定まらない奴の壊れたような笑い声が木霊しているが、おそらく大通りの方に影響はない。

 そもそもこの国の城下町にあるここは別空間に存在している。距離感なんて当てにならない。

 これはこれで頭のいい回答案なんだろうが……なんて考えながら歩いていると、エレナが俺に質問してきた。


「お、お師匠様……こ、こは……どこ、ですか? すごい、不気味なんですけど」

「……おじさん。逃げも隠れもしないからそろそろ放してくれない? その代わり、家に着いたらこのことは内緒にしてね」

「…………ああ」


 少し考えた俺は子供の襟首を離す。

 すると両手で果物を持っていたというのにキレイに着地して「それじゃ、こっちだから」と歩き始めたので「ついて来いよエレナ、ルノア」と注意を促して後に続くことにした。



 基本的な話、この場所へ来るには細い路地を通ればいいだけ。間違って入ったら助けなんてほぼ来ないこの場所に、ルールや法なんて言ったものは存在しない。ただし、ここから出て盗みとかした場合、捕まってからここに戻されるのではなく、ただ奴隷として身売りされるか何かしらの刑罰を受けなければならない。


 この国におけるスラムはそんな位置らしい。他の国とは違うのが幸いだとあいつは言ってたな。

 そんなことを思い出しながら歩いていると、先頭を歩ている子供が「それにしても、珍しいねおじさん。ここにわざわざ来るなんて」と話しかけてきたので用件を言うなら今かなと思った俺は「ここに神父が住んでるはずだが、見たことは?」と訊ねる。


「神父? ……母さんがそれらしい人を見たって」

「ふむ」


となるとあいつ、教会造ってから出てないのか。普通に布教しているとは思わなかったが。

また歩き回らなければならないのか……。あいつ探すとなるとこっちも骨が折れるんだがなぁと探し人に対し愚痴を募らせていると、エレナが「あの! こ、ここはどこなんでしょうか……」と訊いてきたので短く「スラム」とだけ答えた。


「それって何ですか?」


 もはや驚きもしない根本的知識不足による直球質問に対しどう答えたものかと思ったが、子供の方が何やら機嫌を悪くした。理由は多分、エレナのバカな質問の所為だろう。

 あたりを見渡すだけで察すことができるだろうに……と彼女の考えの至らなさについて溜息をついていると、ルノアが「簡単に言うと、この国の助けを借りれない場所じゃよ」と差しさわりのない説明をした。


「なんでですか?」

「それはじゃの「ルノア。説明のし過ぎだ。エレナに少しは考えさせろ」


 少しは自分で考えてもらわないと駄目だと思った俺は反射的に注意する。そもそもそんな他者の心配をしてる時点で多少毒されているのだろうが、これからのことを考えると「甘やかす」ことは必要ないと考えたから。

 もちろんエレナから抗議の声が上がった。


「お師匠様、どうして説明を遮ったのですか?」

「一から十までお前が訊くからだ」

「だって分からないですし」

「分からないなら自分で考えろ。そして確認という形で説明してもらえ。いきなり答えを聞いたところでお前に身につくはずがない」

「なんでそんなこと言うんですかお師匠様! 相変わらずですけど!!」


 俺は足を止めてから「何度も言うが」と以前から言ってることを再度説明することにした。


「俺はお前についてくるなら勝手に学べと再三言ったが、ただ知識を増やせと言ってないからな? 最初に言ったろ。お前が王様になりたいなら、どういった王様を目指すべきなのか、国民に対する施策などどうすればいいのかを考えないなら王様なんて諦めろと……つまり、ただ知ってるだけじゃダメなんだよ。それを知ったうえで、お前自身が王様だったらどんなことをするのを考えられるようにしろという意味だ」

「え、えっと、あの、話が難しすぎますお師匠様!!」


 これも通じないならもう案内するだけ無駄な気がしてきたんだが。はてさて一体どうしたものだか。

 呆れてものが言えないので歩くことを再開して少ししたところで子供が立ち止まった。


「ちょっと待ってて」


 そう言うと器用に扉を開けて中に入る。「ただいま!」という声と併せて。


 さて。あいつは簡単に見つかるのだろうかと扉越しから聞こえる内部の会話を聞きながら思った。


 エレナは、腕を組んでうなっていた。

ようやく、王様の問題の一つを切り出せた。

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