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殺人鬼と元魔王候補  作者: 末吉
レシウス王国
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謝罪

「よっ」

「! あ、あなたは!!」


 人ごみの中、目の前に飛び降りてみたところ、そいつは一瞬動揺したようだが俺の正体に気付いたのかどこか安堵した様子だった。


「俺に何か用か?」


 間髪入れずに訊いてみる。すると「え、あ、あの……」としどろもどろになったので、まぁそうなるかとフードの中で頭を掻きながら「とりあえずどこかの店で話をしようか」と提案する。

 それに彼は渡りに船だと思ったのか笑顔で「そ、それじゃついてきてください!」と俺を通り過ぎて進んだので、大人しくついて行こうかと思案しながら見失わないように静かに動き出した。



 少し歩いてから彼は、外観が古めかしい建物の中に入ったようなので後に続く。

 中はバーになっているようで、昼間だというのに酒盛りでテンションを上げている連中が騒がしい。

 横にたたずんでいる彼に「どこに座るんだ?」と訊いたところ、彼はこちらを見て驚いて「こ、こっちです!!」と言って横の階段を指さした。


 個室かなんかで話すのかそりゃ。納得した俺は「早く済ませよう」と短く返事をして二階へ向かった。



 二階には扉が二つあった。上客かなんかのための秘密の部屋みたいな役割何だろう。

 どっちだろうかと思い立ち止まっていると、置いていった彼は俺を抜いて右手側の扉を開けて「こ、こちらです!!」と恐縮していた。

 いちいち怯えるなんてそれでも冒険者なんだろうかと思いながら、促されるまま中に入る。


 そこにいたのは『群狼』のリーダーだった。


「なんでお前がいる」


 思わずそう訊ねる。その質問に対し彼女はコップの中身を一気に飲み干して勢いよくテーブルに叩き付けてから「おーコールか! まぁ座れよな!!」と豪快に笑いながら着席を促してきたので大人しく座る。

 相変わらず服装が際どいなんて人ごとのように考えながら目の前に置かれている飲み物をどくかどうかの確認もせずに一口含む。……酒か。


 一人静かに置いてあった酒を飲んでいると、「なんだいコール。あんた、酒飲めたのかい」と目を丸くされた。

 俺は淡々と反論した。


「酒が飲めないといった覚えがないがな」

「でもあんた、祝賀会の時飲んでなかったろ」

「あの時はどうでもよかった。終わったならさっさと行こうと思ってたし」


そう。偶々巻き込まれたパーティーだったから飲もうと考えてなかっただけ。馴れ合いと言えば言葉は悪いが、終わったことに喜ぶ感性は俺にない。

しかし昼間から酒とは、あまりに自由過ぎるな。俺にない感覚だ。

体内で熱を持ち始め気分が幾ばくか高揚しているのを自覚しながら、向こうが探していた件を切り出す。


「謝罪なら俺を通さずに本人にしてくれ」

「……本当、相変わらずだなぁそういうところよ。まぁ確かに当人に謝るのが大切なんだけどよぉ……」


 そう言いながら頭をガシガシと掻いてから「パーティ同士のいざこざはリーダー同士で最初話をつけるんだよ。そういうのは聞かなかったのかい?」と訊かれたので素直に頷いた。

 「別にそこまで困ったことになってないし、やられたメンバーもあんな程度じゃ怒らないしな」と付け足すのも忘れずに。


 実際あんな言いがかり程度に腹を立てる様子もなかったから実害はないに等しいし。

 まだコップに残っていた酒を飲みながら考えていたところ、「……はぁ。そういうところあんたらしいよ、コール」とどこか羨まれた。

 そこまで変な応対をした気はしないんだが。

 何気なく漏らすと、向こうが更に頭を抱えだした。さきほどまでのテンションがどこかへ行ったようだ。

思わず心配するが、そろそろ進めないと時間の無駄だなと酒を飲み干してから思った俺は、話を戻す事にした。


「で、謝罪の件だが」

「……ああ、そうだったね」


 悪かったよ。うちのメンバーがちょっかいかけて。

 座ったままだったが、真剣な目をして謝ってきたので「ああ。分かった」と俺は席を立つ。


「って、ちょっと待ちなよコール!」

「どうした? 謝ってもらったのだからもう終わりだろ?」

「いや、確かにそうなんだけどよ……何かよ、ないか?」


 ……何か、か。おそらく証としての品を渡したいのだろう。正直シュラヌ自身が突っかかっていないので要らないし、そもそも俺が必要なものは自分で見て揃えるのでそんな気遣いは不要。

 などと言いたいが、なぜか沈黙している間に向こうが泣き出しそうになってきたのでフードの中で目頭を押さえて考える。


「……酒。俺が飲んでた酒を一樽くれ。それだけでいい」

「それだけでいいのかい?」

「生憎、物に執着はしてないんでね……ああ」


 これ以上問答するのが面倒になってきた俺は、最後に忠告することにした。


「うちのパーティ。ルノアは知ってるだろうが、他の連中もなかなか曲者ぞろいだ。あいつらの『守りたいもの』に触れるなら、死ぬことを考えてしてくれ。と、あんたから他の連中に言ってくれ。なぁにそこまで難しいことじゃない。ただ普通に接してくれと言ってるだけだ」

「……ああ。ところで、樽はどうする?」

「ギルドにでも渡しといてくれ。勝手に回収する。今日中にはできるだろ?」

「ああ分かった。……また会おうぜ、コール」

「縁があればな」


 今度こそ用が無くなったので、この部屋から出ていくことにした。


 ……シュラヌにでも渡すか、被害者あいつだし。

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