三日目
三日目。
ランクオーバーの一人に能力を見せて大人しく帰ってもらってからふて寝した俺は、いつもより早く目が覚めた。
「……」
のそりと体を起こす。周囲に誰の気配もない。壁の向こう側にシュラヌと他の客、下ではせわしなく働いてる複数人の気配を感じる。
ここまでは普通。が、自分の体調を確かめた時が異常だった。
倦怠感がないのだ。一切。あれを発動させた後だというのに。
基本的に、あれを発動した次の日は魔力がうまく使えない。経験して学んだからそれに間違いはないはずなのだが、今回はそう言った不調は感じられない。
何回使っても慣れることがないそれについに慣れたのかと思ったが、俺はそれを即座に否定した。それだけはあり得ないと自分の本能が気付いてるかのように。
「……どうしたんだ?」
ベッドから立ち上がってマントを着てフードをかぶり、首を傾げる。
しばらく考え込んだが分かりそうにないのでこれに関してはもう考えることをやめることにし、目が冴えてしまったので窓から屋根へ移動して景色を見る。
まだ日が昇りきっていない頃らしく、動く人の気配というのはそれほど多くはない。明かりがついている個所もそれほどない。あるとするなら大体娼婦とか言ったところだろう。興味が一切ないので近寄ったことないが。
「これなら行って帰ってこれそうだな。採取位」
そうと決まったら俺はもうやることを決めたので屋根から飛び降りた。
「ふぅ」
太陽が昇りきる前に依頼となる解毒薬となる薬草の収集を終えた俺は、襲い掛かってきた魔物たちの死体の中心に立ちながら息を吐く。
この依頼はずいぶん簡単な部類だ。何せ首都からそれほどかからない場所でも見つかるのだから。
これを受けた時のギルド職員の冷たい視線が思い出されるが、こちとらそんな視線程度で精神をやられるほどヤワじゃない。受ける奴らがいない依頼を受けて何が悪いのかと思うぐらいだ。
まぁ自分のランクより低い依頼受ける冒険者なんて基本いないがな。夢とか野望とか持ち合わせている奴らばかりだから。
そんなことを考えながら死体を供養するために地面を掘り起こして放り投げ、埋めてからギルドへ戻ることにした。
太陽が真上で燦々と輝いているころ。俺は首都に戻ってきた。寄り道せずに。
いつも通りに魔力で体を強化して来たが、いつも通りなので体に負担がかかっていない。
門番にギルドカードを見せて中に入ったその足でギルドへ向かう。
外の危険を忘れたかのような活気にあてられながら歩いていると、シュラヌが片手に城壁用みたいなレンガを四つ、計八個持ちながら歩ているのを目撃した。どうやら依頼らしい。
たぶんこっちに対する余裕はないだろうと思いながら俺は素通りしようと思ったが、ドラゴンの力を甘く見ていた。
彼は普通にこちらに視線を送り、顔色一つ変えずに「どうしたんじゃ?」とこちらに近づいてきながら話しかけてきたので他人の振りはできないなと思い「朝から依頼とは、まじめだな」と答える。
「ふむ。まぁCになったらやらぬわ。そこまでランクに拘りも無いし」
「で、この依頼は?」
「この体に慣れるために力仕事を探してたら見つけたんじゃ。あと一往復ぐらいで終わるかのぉ」
「そうか。頑張れ」
「……ところで、今日はどうしたんじゃ? どこか森へ行ってきたみたいじゃが」
「なんとなくやりたかっただけだ。依頼を」
そんな事より仕事に集中しろ。そうじゃな。
すれ違いざまにそんなやり取りをした俺達は、それぞれの目的地の方向へ歩きだした。
ギルドに到着し、依頼達成した報酬をもらった俺はこれから何をしようかとふらふら歩きながら考える。
明日もう一度武器屋に行かなければいけないから遠出ができない。かといって今から酒を飲むのもどうかと思うし、そもそも今飲みたいと思っていない。
ギルドの受付の人の視線が冷たいのでしばらく依頼を受けるのも遠慮した方が良い気がするし。さてどうしようか。
人通りの多い道をぶつからないように縫って当てもなく歩いていると、近くで知ってる魔力を感じた。
ふと、足が止まる。
一体誰がいるのだろうかと思いながら見渡してみると、パーティーを申請した時に遭遇した群狼のメンバーだった。なぜそれが分かったのかというと、群狼みたいに大所帯になると共通したアクセサリーなどを身に着けるからだ。まぁそれがなくても魔力で識別すればなんとなくで分かるんだが。
誰かを探しているんだろうかと思ったが、声をかけるほど親しいわけではないのでスルー。
そういえば飯まだだったなと思った俺は、ふらふらと食堂を探しに彷徨い始めた。
食堂で適当に注文した料理を食べながら周囲の話に聞き耳を立てていると、こんな話が聞こえた。
「そういえば群狼に入りたての奴がトラブル起こしたんだってな」
「今じゃギルド内で一番のパーティ人数の? リーダーも大変だな」
「ギルドも人数制限つければいいのにな。たった一人のせいで幹部級の奴がここまで来なくちゃいけないんだし」
「それを言ったら群狼自体じゃねぇか? あそこ今何人いるんだよ。百?」
「百五十ぐらいだったはず……しかしトラブルに巻き込まれた側も大変だな。今頃どうしているのやら」
「そいつなら普通に依頼受けてたぞ。今じゃランクはDまで上がってる」
「早いな!?」
…………あーあの時のあいつ関係か。
盗み聞きで真相を知った俺は会いに行った方が良いかなと思いながら食べ進める。
すると、今度は別な方から気になる話が聞こえてきた。
「そういえばサラス様、しばらくしたら出かけるらしいわよ」
「あのおてんば姫ったら、一体何を考えてるのかしら?」
「それが自分から勉強したいから旅に出たいって言ったそうよ」
「あの飽き性のお姫様がねぇ……」
……改めて聞いてみると評判悪いなあいつ。
戻って来た時には国が乗っ取られていないだろうかといらぬ心配をしながら、食べ終えた俺はお金をテーブルに置いて「ごちそうさま」と近くの店員に言って店を出た。
店を出た俺はひとまず先程見かけたやつのことを探そうと思い、食堂の屋根の上に跳ぶ。
気配が薄いことを利用してこんな目立つ場所に音もなく来てみたが、見下ろして人を探そうという訳ではない。それだったらギルドへ向かった方が遭遇する確率が高い。
ではなぜ来たのかというと、こうして周囲に誰もいない方が魔力の判別がしやすいのだ。
魔力とは人のエネルギーによく譬えられるそうだ。ルノアの受け売りだからそのままだが、魔力の量が個人で違うのはその人々の生まれではなく魔法との接し方の違いらしい。そして、人は同一個体がほとんど存在しないのと同じように、内包している魔力にも違いがあるとのこと。よくわからないが、おそらく揺らいでいたり、体を覆うようになっていたり、体から常に抜けていたりするように見えるのがそういうことなのだろう。
先ほど見かけた魔力を思い出しながら目を閉じて自分の魔力を波のように周囲に放出する。
目をつむって反応をうかがう。数多の魔力を感じ取って判別しながら。
今度はもっと範囲を広くした方が良いのだろうかと思いながら先程見かけた魔力を探していると、数人俺に気付いたのが分かった。その中に見かけた魔力の奴もいた。
……ふむ。何事もなく来る奴から対処していけばいいか。
そう考えた俺はその場で待つことにした……が、不意に誰が来る可能性が高いかと予想した時に真っ先に思い付く魔力を持った奴を見つけたので、そいつ――エレナに追跡されたくないと思いその場から先程見つけた方へ移動した。
感想など、気になったことがあればよろしくお願いします。それでは




