隠してる能力
最近TRPGの動画に嵌っています。クトゥルフとか
……もう割り切るしかないな。割り切れていないが。
問題が山積みになっている現状に頭がパンクしそうだとこめかみを抑えながら、俺はルノアに「あいつをそろそろ第一王女のところへ戻してきてくれ」と頼む。「もちろんお前も」と付け足すことも忘れずに。
「なんじゃと!? う、うちも!?」
「むしろ当然だと思うんだが。見張り役一人もいないでこいつが勉強してるかどうかわからんだろ」
「確かにそうなんじゃが……」
「というより、お前が脱走させなければこんな面倒ごとにならずに済んだんだが」
「うっ……それは申し訳ないのじゃ」
「ははっはははっ。珍しいですねあの『魔神』が口喧嘩で押されてるなんて」
愉快そうに笑った彼をルノアはキッと睨んでからため息をつき、「分かったのじゃ」と言ってルノアと一緒に消えた。
残った俺達。
「あんたも帰ってくれればいいんだが」
「でしたら一度その能力を見せてくれれば。そしたら『伝達屋』に返事をして帰りますよ」
「……」
痛いところをついてくる。
それを隠しているのは必要に駆られないから。大抵のことは自分の技術とかで何とかなってしまうので、わざわざ晒す必要性がない。
それを説明しないのは、それを知られたくないから。
そしてそれは――
と、そこまで考えてから俺は観念することにした。
「……分かった」
「見せてくれるんですか?」
「説明はする。が、実証はしない」
「つまり、説明を鵜呑みにして帰れ、と? この私に?」
信じられないという表情をするウェリテル。『研狂者』という二つ名であるがゆえに、実際に見ないと信じないのだろう。いかにもと言った思考だ。
しょうがないので、俺は少し踏み込んで脅すことにした。
「……あんたを実験体にしてもいいのなら、今すぐ見せてもいいが」
「……見せてくれるんですか? 良いですよそれぐらい」
俺の言葉が予想外過ぎたのかキョトンとした顔ですぐさま頷いたウェリテル。ランクオーバーである自分を実験体にする理由が分からないのだろう。
まぁ都合がいいか。そう思いながら俺は静かにそれを発動させ、その場から動かずに彼の右肩を切り取る。
「!?」
一瞬のこと、かつ何をやられたかわからないのか驚いて自身の右手や右肩を動かそうと躍起になっているようだが、だらんとその部分から力が抜けたかのように動くことはない。
右肩と体はつながっている。ただ、動かせないだけ。
やがて諦めたのか俺の方を見て、「一体何をしたんです?」と質問してきたので正直にそれの説明をした。
「右肩から右手迄の魔力のつながりを奪った。これが、あんたが見たがっていた能力だ」
「……なるほど。だからあなたは言ったんですね。『私を実験体にしていいか』と」
「ああ」
「……不可視で不可避。そして恐らく、それがあなたの意志一つで他人の命を握れるほどに把握している……なるほど。あの『魔神』がああして手紙を出すわけですね」
「分かってくれたか」
「ええ……それをおいそれと発動させないのは経験からくる心理的ストッパー、もしくは余裕、でしょうか」
「……すごいな」
俺が本気で驚いていると「私の能力を一応教えましょう。『体験した万物を解明し、使用する人物を把握する』です」と右手をプラプラとさせながら解説してくれた。
「いつもならすべて理解できるのですが、不思議ですね。能力とそれを使用しない理由ぐらいしかわかりませんでした」
「…………」
内心で俺は安堵した。説明を聞きながらこのままこいつを殺そうと焦ったが、そこまでする必要がないことに。
もう説明も終わったからいいか。そう考えた俺は奪った右手の魔力を返す。
「! ……ああ、返すこともできるんですね。便利な能力ですね」
突然右手が動くようになったことに最小限の驚きで終わらすウェリテル。ランクオーバーの適応力は相変わらず凄まじいな。
ルノアが目撃した時も随分あっさりしてたなと当時を振り返っていると、「これは、『魔神』の言う通りですね」と呟く声が聞こえた。
「さて、もうこれ以上はないぞ。さっさと消えてくれ」
呟く声を無視して話を進めたところ、我に返ったのか「ああすいません」と言ってから「ではまた会いましょう」と不吉な言葉を残して目の前で消えた。
問題が一つなくなったのは良かったが、なんだか今日は外へ出る気が無くなったのでこのままベッドでふて寝した。




