ああもう
お久し振りです。アイドルッ!が完結したのでボチボチ書いていきます。
コールがその場を消えるように立ち去ったとき。
エレナは消えた方向に向かって「ちょっとお師匠様ー!?」と叫んだが、姿が見えないので「まったく。お師匠様にも困ったものですね、ルノアちゃん」とルノアに話しかける。
その時、呆然と立ち尽くして彼女は涙を流していた。
当然、エレナはそれを見て驚く。
「ど、どうしたんですかルノアちゃん!?」
「う……うぅ、うわぁぁぁん! ごめん、ごめんなのじゃコール!!」
まるで子供のように泣き叫ぶルノアに、エレナは慌てる。
「え、えっと、ど、どうしたんですか!? 大丈夫ですか!?」
「ふむ。わしらにも感情がまだあるとはのぅ。嬉しいやら悲しいやら」
「ど、どうしたらいいんですか!? な、泣き止んでくださいよルノアちゃん!!」
「うわぁぁぁん!!」
涙を流しながら泣き叫び続ける彼女に対し、何もできないエレナは司会を彷徨わせるだけ。そしてウェリテルは冷静に観察していた。
「だから、だからぁぁぁ!!」
「あわわわわ……!」
「なんというか阿鼻叫喚じゃのぉ」
もはや場はカオスと化していた。
「ハァ……」
全力で駆け出したおかげで疲れた俺は木に寄りかかって休憩中。誰も追ってくる気配がないので息を吐いて空を見上げる。
だんだん天気が荒れてきている気がする。雲の流れが速くなっていき、黒くなってきた。
「…………」
前にもこんな光景を見た気がするな。一体どこだろうか?
天候が急変した光景のデジャブの理由を考え始めてみたところ、雨が降り出してきた。
「……」
雨宿りのような形になった休憩。まぁ疲れたので正しいのだろうが。
そんなことを思いながらぼんやりと空を眺め、だんだん雲が渦を巻いているのが見えてきた。
それに伴い俺の記憶もだんだん鮮明になっていく。
あーあの時は確か依頼を受けて少し経った頃だった。
あまりにわがままが過ぎるもんだから一度寝ている間にさっさと行った時だ。
俺はルノアが自己申告でランクオーバーだと言っていたことに半信半疑だったが、その時に起こった光景で信じるしかなかった。
「……またか」
思わずため息が出る。まぁた面倒ごとになってきたし。
段々空気が震え、地面が揺れだしてきた。
向こうで何もやってなさそうなので、俺は立ち上がって戻ることにした。
……なんで自業自得なのにいかなくちゃいけないんだろうと思いながら。
とりあえず戻ってきたときにはルノアがエレナに頭を撫でられており、天変地異の前触れが収まりつつあった。
何とかなったなと無駄足を踏んだ俺はフードの中で髪を搔きながら背を向けて歩き出そうとしたところ。
コートの端をつかまれたので沈黙のまま振り返る。
俺に気付いていたのかルノアが潤んだ瞳でこちらを見ながらつかんでいた。
「……」
「……コ」
「お師匠様! 一体どこに行っていたんですか!? ルノアちゃんを泣かせて放置するなんて魔族よりひどいですよ!!」
「「…………」」
エレナが空気を読まずに叫んだので俺たちは沈黙。ただ一人傍観しているウェリテルは「ふむ……?」と首を傾げたのが分かった。
とりあえず俺はエレナからルノアを引きはがして地面に座らせ視線を合わせないようにしている彼女に聞こえるようにつぶやく。
「……堪え性どこやった」
「……こーるといっしょにどこかいったんじゃ」
幼児退行が極まっているのかまた面倒な口調に。最悪だ。
前より悪化している気がするなとため息をついた俺は目をつむって頭を突き出している彼女の要望に応えるようになでながら、空いている手でマントからロングソードを取り出してエレナの背後に投げつける。
「ぐわぁっ!」
「え? あ……」
振り返ったエレナだが、突き刺さった個所から血が飛び散ったのが見えたらしくそのまま失神。
俺は立ち上がってロングソードを持ち上げ、死体を地面に叩き付ける。
「戻ったか、ルノア」
「……う、うむ。ところで、魔族かの?」
「さぁな」
地面に縫い付けられた状態の死体からロングソードを抜いた俺に我に返ったルノアが質問してきたが、どうでもいいのでそのまま放置し「ところで、ここはどこだ?」と質問する。
「ここかの? うちらが通ってきた方の平原じゃぞ? このまま北へ移動すれば戻れる」
「そうか……」
ひとまずの確認はできたので、俺はこの死体を地面に埋めるために穴を掘って投げ入れ土をかぶせる。
「よし」
「相変わらず手馴れておるの」
「……おお、魔族か今のは。透過魔法とは久し振りに見たのぉ」
リアクションが遅れているウェリテルのつぶやきに少し引っかかったが、そんなことよりどうして魔族がこんな場所で、しかもエレナにピンポイントで来たのかが謎である。
私兵あたりが来たにしても場所が特定されているなんて滅茶苦茶だ。ルノアによって来れたというのに。
偶然かもしれないが、嫌な予感というものはあるので。
「ルノア」
「なんじゃ?」
「戻るか」
「う、うむそうじゃの」
こうして俺達は部屋の中に戻った。




