翌日
宿屋に戻って夕食をとってから普通に寝て。
朝起きたら隣でエレナがものすごくいい笑顔で寝ていたので、ベッドから蹴り落として窓から放り投げた。
「……ふぅ」
排除したことによる気持ちのいい朝だ。思わず息が漏れる。が、外から響く泣き声がうっとうしくてたまらない。
仕方ないので窓から降りた俺は、地面に座り込んで泣いているエレナの袖をつかみ、どこかで見ているだろうルノアに「ちょっと草原に飛ばしてくれ」と頼む。
案の定見ていたようで、すぐさま周囲に何もない草原に俺たち二人が降り立つことになった。
驚いて泣き止んだエレナは周囲を見渡してから俺を見つけ、「朝から何てことするんですか!?」と憤慨する。
「涙腺緩みすぎだバカ。迷惑考えろ」
「うっ……でも! 全面的にお師匠様が悪いんです!!」
と、言われたところできちんと促したし話も聞いたので特に悪かった点が思いつかない。
強いて挙げるなら無視したり放り投げたり蹴落としたりスルーしたぐらいだが、それぐらいいつものことなのでそれを注意されるのもどうかと思っている。
なので普通に首を傾げてやると、ショックを受けた表情を浮かべ何やら肩を落とした。
意味が分からん。
そう思いながらため息をついたところ、「ため息をつきたいのはこっちです!!」と言ってきた。
「なぜだ」
「お師匠様が私のことをないがしろにしすぎだからです! その上教えてやるといったのに一つも教えてもらっていません!! お師匠様失格です!!」
「……」
お師匠様失格……か。割と人間失格気味だから気にもならないな。
なんて思いながらも、俺は反論した。
「何度も言っているし、最初に言ったはずだが、俺は案内するだけ。そしてお前が勝手に勉強しろ、と。それを無視しているのが悪い」
「うっ」
「第一、俺には王様になるなんて殊勝な目的はない。あくまで、案内人としての責任を全うするだけだ」
「……教えてくれるって言ったじゃないですか」
あえてそこは流す。
頬を膨らませている彼女の姿を見ながら強情な奴だと思いつつ「……お前、血はダメなんだろうが。教えるにも教えられねぇよそれじゃぁ」と呟く。
「うっ」
「俺が教えられるのは毒殺とかの暗殺じゃねぇ。自分の手を汚して相手の血を流して殺す、殺しの基本だ。血も見れない奴に教えるもくそもあるか」
「ぐっ」
「大体、血を見ずに殺すにも一日二日でどうにかなるわけないだろ。魔法だったらともかく。魔法でいいならルノアに教えを請え」
「……」
見事に黙ってしまった。反論できる要素が何一つないことに気付いたらしい。
初歩的なことに気付かないなんてお前本当……なんて肩を落とした俺は「分かったな? さっさと帰るぞ」と言って背を向けるが、ついてきそうな気配がないので振り返る。
すると、彼女はそのまま動いていなかった。
「……」
「…………」
「……」
そのまましばらく様子を見ていると、後ろから殺気を感じたので振り返りながら右手に魔力をまとわせ思いっきり横に薙ぐ。
すると、少し離れたところにいたらしい何かが悲鳴を上げて真っ二つになっているのが見えた。
「あれは……?」
自分で殺したものが何だろうかと思いながら魔力で視力を強化してみてみると、どうやら俺達を見つけて突撃してこようとしたホーンホースの集団だった。
確認を終えた俺は痛くなった両目をつむってしばらくたちながら、動く気配のないエレナに言った。
「……とりあえず、王様になる勉強をしていけばいいだろ。二つの宝に執着すると取り逃がすっていうしな」
「…………え?」
「ん?」
ゆっくりと顔を上げて呆けた声を上げるエレナに首を傾げてやると、再び後ろから殺気を感じたので振り返ると、何やら巨大なゴーレムがそびえたっていた。
腕を振りかぶるのが見えたので体の向きを戻したと同時にエレナをわきに抱え全力でダッシュしたところ。
ズドォォン!! とという地響きとともに衝撃波、クレーター発生による礫が発生したのが全力で距離を取って振り返って見えた。
脇に抱えられていたエレナはというと、自分の状況も忘れて眼前の光景に目を奪われていた。
「な」
「ん?」
「なんですかあのおっきいゴーレム!? 本当にゴーレムなんですか!?」
「うるさい」
「いたっ」
耳元で叫ばれたので反射的に落とす。そして身軽になったので、マントの中から昨日買った小太刀と呼ばれていた武器を取り出し、鞘から抜く。
抜き出た刀身は白く輝いており、どこか優し気な印象と懐かしさを思い出させる。
一体なんでだろうと内心首を傾げながら自然と構えていると、そのゴーレムから声が聞こえた。
『フム『魔神』の魔力をたどって会いに来たが……さて、どちらがコールかの』
……ルノア、一体何持ち込んできた。




