結局
お久し振りです。詰まったのでこちらを更新しました。
俺の方は完全に終わったので宿に戻ると、エレナが頬を膨らませて居座っていた。
「どうした」
「……」
俺の問いかけにプイッと顔を無言でそむける。
それを見た俺は「じゃぁな」と宿を出ようとしたところ、「待ってください!!」と叫ばれた。
「なんだ」
「そこは謝罪の一つでもするのが普通だと思います!!」
「生憎俺は普通の感性を持ち合わせていないので謝る気はない」
「さすがお師匠様ですね! ちっともぶれる気配がありません!!」
「で、居座ってる理由は?」
さっさと解放させて勉強に集中させたいので俺がそう言うと、エレナは「さっきの話の続きです!」と胸を張ってこたえる。その際胸が強調されているがどうでもいいのであくびをしながら「あっそう」と短く答える。
「なら戻って勉強にあてた方が時間的にはいいんじゃないか? 一週間すればここを出て次へ向かうぞ」
「早くないですか!? もうちょっとこう……観光とか、そういうので勉強すればいいんじゃないんですか!?」
「やるなら一人でやってくれ。観光なんて興味がない。ただグルグルと彷徨ってるだけで目的なんて俺にはないから」
そう言うと、彼女はなぜか悲しそうな顔をこちらに向けてきた。
「お師匠様……」
「なんだ」
「どうしてすぐにそんなこと言うんですか」
「というより、俺は案内するだけだ。あとはお前が勝手に学べと前に言った気がするんだが」
「そうじゃなくてですね。目的なく彷徨い続けるだけとか、そういったことを平然と言わないでくださいってことです」
「なぜだ?」
「え?」
不思議に思われたので首を傾げてから、俺は質問した。
「人間だれしもが夢をもって生きていると思っているのか? 観光に興味が持てなくても旅をする人間がいてはおかしいのか? フラフラと回りながらこれからのことを考えないやつがいないと思ってるのか?」
「お師匠様……? えっと……?」
エレナが疑問符を浮かべて首を傾げだしたのでだいぶ脇道にそれたなと思いながら修正する気もせず、「お前がどう思おうが勝手だが、それを押し付けるな」と言っておく。
言葉を受けて沈黙したエレナを見てギルドに行けばきっと話が流れてるかもしれないなと思い至ったので放置することにした。
「って、ちょっと待ってください!!」
ガシッ! フードの端をつかんできた。
振りほどこうと思ったが面倒だったので「さっさと話せ。貴重な時間をつぶすな」と聞く態勢に入る。
「って、潰すことになった原因はお師匠様じゃないですか!」
「悪かったな。で、話は?」
淡々と進めていくと折れたのかエレナはがっくりと肩を落としてから呟いた。
「……お願いがあるそうです。王様が」
「そうか。で?」
「『娘を頼む』だそうです」
「そうか」
「……」
「……」
「……」
「終わりか?」
「あ、はい」
エレナの要件終了。
このまま動く気配がなさそうなので、俺はエレナに言った。
「さっさと戻れ」
「あ、はい……お師匠様、あの」
「なんだ」
躊躇いながら呼んだので返事すると、「一緒に来て、くれませんか?」と上目遣いで聞いてきた。
「嫌だ」
「即答ですね! 分かっていましたけど!!」
「お前の都合に付き合わされる理由が俺にはない」
「酷い!!」
酷いといわれる意味が分からないので素直に首を傾げた俺は追い払うように手首をスナップさせる。
「ほらさっさと行け」
「…………」
押し黙る。何かを我慢するかのように裾を握りしめる。
? と首を傾げると、エレナは涙をためていた。
「う」
「泣くなら外で勝手にやれ」
もう面倒になったので、窓を開けてエレナを放り投げ、泣きわめく声が聞こえながらも無視してカギをかけて部屋を出た。
というわけで、夕方になったが暇なのでギルドに来てみた。
エレナとのやり取りで時間がつぶれたが、それでも暇な時間というのは苦痛である。俺にとっては。
簡単な依頼でもあるだろうかと思いながらギルドに入った俺は、すぐさまできている人ごみに紛れ掲示板の方へ移動する。
しかしなんでこんなに混んでいるのだろうかと思いながら依頼を見ていくが、特にやりたいと思う依頼が見当たらない。現在なら討伐系の依頼をやってストレス発散したいのだが、Dランク以下しかないので思わずため息が出る。
ならばということで採取系を見てみたが、とても一日二日で終わりそうにないものだったので却下。
その他も見てみたがどれもピンと来なかったので思わず考え込む。
残り滞在日数が六日。四日目には武器屋の方へ行くのでその日にはここにいないといけない。エレナの勉強は自分でやってもらいたいので放置は確定として、七日目にもここにいなければならないので実質連続で動けるのが二日目と三日目、五日目と六日目だけ。
一つの依頼を最短で終わらせるとしても遠いとその分時間がかかるからな……と依頼書をぼんやり眺めながらこれからのことを考えていると、「コール。丁度いいところに来てくれた。ちょっと助けてくれ」という声とともに腕を引っ張られる。
思考を放棄することにして腕を引っ張るシュラヌに対し文句を言おうとしたところ――目の前にやたら態度がでかく、それなりに使える防具を身につけた男が立っていた。
とりあえず状況説明を求める。
「いったい何があった?」
「ふむ。とりあえず主に言われた通り適当に依頼を見繕ってつい先ほど終わらせて報酬とランクアップをしたのだがな? 解決した依頼の一つがどうやらそこの小僧が受けていたものらしく、『自分が受けていたものを解決するなんてルール違反だ!』と依頼書を叩き付けてきたんじゃ。職員の方に聞いて確かめても有効なのはわし。だというのに引き下がらんで困っとる」
「そうか。ちなみにランクはどこまで行った?」
「Dじゃな」
結構ハイペースだなという感想は置いといて、俺は今にもつかみかかってこようとする奴に声をかけた。
「おいお前」
「部外者は黙ってろ!」
取り付く島もない。
仕方ないのでギルド職員に声をかけた。
「なあ」
「はいなんでしょう?」
「これをどうにかするのもあんたたちの仕事の一つでは?」
「先ほどから説明しているのですが聞く耳を持ってくれないのです」
そこでシュンとする職員。
随分性質の悪い奴がいたものだと思っていると、そいつが俺に声をかけてきた。
「おいそこのお前!」
「なんだ?」
「さっきからそこの奴の味方してるみたいだけど、いったい何者なんだよ!!」
「こいつの所属するパーティのリーダーだが?」
そういいながら今まで職員に向けていた体を視線に殺意を込めてそいつに向ける。
一瞬たじろぎながらも「そ、それならテメェが払え!!」と虚勢を張ったので、俺の殺意が爆発した。
「ああ」
そういって一歩で距離を詰め、
「払ってやるよ」
そういって兜と鎧の間の無防備な首元をつかみ、
「お前の体でな」
ぎりぎりと締め上げながら吐き捨てる。
周囲がざわめくのがわかる。だが俺には関係がない。
ここまでふざけたやつがいると我慢する気にもならない。だから俺は今までのストレスをここで発散するためにためらいなく行う。
首を締めあげられたそいつは最初じたばたと抵抗する意志を見せたが、だんだんと抵抗する力がなくなってきたのか腕が動かなくなっていく。
それを見て多少すっきりした俺は床にたたきつけて酸素を吐かせ、首元を押さえながらうずくまってゲホゲホやっているそいつに「一度受けた依頼を決められた期限内に達成し、報告しなければ再度張り出される。そんなこともわからないで冒険者なんてやるなクズ」と吐き捨ててギルドを出ることにした。
……もう夕飯食べて寝よう。明日からは明日考えよう。




