依頼
翌日。
俺とシュラヌだけの起床となった宿屋では、つつがなく朝食を済ませてから本日の予定を話し合うことにした。
「どうするんだコールよ。エレナ達と合流するのか?」
「別にいいだろ。あいつには自分で学ぶという行為を習慣づけることが必要だからな」
「でも、追われている身じゃろ?」
「ルノアがいるのだからたいていは問題ない」
「……それもそうかの」
それに、第一王女と一緒に行動したほうが安全に勉強できる。わざわざ危ない橋の中で世の中を勉強しなくてもいい。俺が面倒だ。
そう思いながら「俺達のこれからの予定だが」と切り出す。
「なんじゃ?」
「シュラヌにはギルドへ行って依頼を受けてランクを上げてくることをお薦めする。俺はその間日用品を買いそろえておく」
「ふむそうか。だが、わしがランクを上げる必要はあるのか?」
「ああ。ランク制限で最初は受けられる依頼が簡単なものばかり。そういうのは意外と受けてもらえていないから、受ければ魔族だろうが信用できる人だと思われるぞ」
「なるほど……」
神妙にうなずくシュラヌ。それを見て「まぁあくまで自分で考えて行動してくれ。騒ぎにならなければどこにいようが何をしようがいい」と言っておく。
「そうか。ではわしもおぬしがどこで何をしていようが気にすることはせん」
「する気もないくせによく言う」
「一応、エレナの師匠だからの」
「そうか」
「お師匠様ー!!」
話が終わったらちょうどエレナが来た。
解散しようと思い立ち上がろうとしたところに来たので中途半端になったが、そのまま立つことにして「何か用か? 第一王女と一緒にいればいいのに」と呟く。
「お師匠様に依頼があるから呼びに来たんです! ルノアちゃんに頼んで!!」
「断る」
「え!?」
俺が拒否することに驚いたエレナに対し、俺は通り過ぎながら説明した。
「ギルド規定でな、直接指名をされてもいいランクはBから。それはパーティだろうが個人だろうが変わらない。その決まりを守れないやつの依頼を聞く気はないし、だったらギルドに話を通しておけばいい。それでも俺は受ける気ないがな」
「え、ちょっと! お師匠さ」
制止を呼びかけた声を無視し、俺はそのまま宿を出て買い物へ向かった。
「……ふむ」
「ん? お客さんかい? 何も買う気がないなら他所いきな」
日用品を適当に買いだめした俺は、気になるものがあったので武器屋の前で足を止める。
辛辣な言葉を吐かれたが大して気にならないのでそのまま店に入り、いかつい男性が片肘つけて座っている場所まで移動する。
「ここで武器の手入れはしてもらえるのだろうか」
「!? あ、あんたいつの間に……」
突如として目の前に現れたことに驚いたらしいが気にしない俺が再度質問すると、「あ、ああ」と肯定したのでマントからナイフ百本ぐらいを取り出して「これ全部手入れしてもらいたい」と頼む。
「は? いまあんたどっから……っていうか、この武器全部手入れしてもらいたいだと!? 馬鹿言うんじゃねぇ。こんな量の手入れなんてやったら一ヵ月丸々籠らなきゃいけねぇ!!」
「いや、刃毀れしてるものや錆びてるものだけやってもらえばいい。多分、それほど数は多くないはずだ」
「それでも調べるのに時間がかかる。店じまいにして今からやっても二週間はかかるぞ」
どういう計算なのかわからないが、そう言ってるのならそれぐらいかかるのだろう。
しかし滞在期間が一週間ぐらいしかないからなと思った俺は、少し考えてから「……四日以内に五十出来たらそのまま一週間でできるところまでやってほしい。出来なかったとしても報酬は払う」と言ってマントの中から袋を取り出し、その中から大陸共通通貨の中で二番目に価値のある金貨を四枚ほど目の前に置いておく。
「前払いだ」
「……あんた、いったい何者だ?」
「しがない冒険者だ。ただ気の向くままに旅をする、な」
「…………分かった。その話受けてやる。ただし、四日後には一度あんたが来い。そしてあんたが判断しろ」
「そのつもりだ……ところで店主。一つ聞きたいことがある」
「あ? なんだ」
質問に答えてくれるようなので、俺はいったん店を出てそれを手にとり、そのまま店に入って店主に見せながら「これなんだが……店主が打ったのか?」と質問する。
しかしながら、返ってきた答えは「いいや」だった。
「そりゃどっかの冒険者が持ってきたやつだ。一目見て業物だというのは分かったが、持ってきた野郎も俺も使えねぇっていう曰くつき……『選定の武器』だ。形状からわかるのは小太刀っていう、俺も話に聞いただけなんだが島国の中で使われる武器ぐらいであとはさっぱり」
持ってきたやつも『ダンジョンを探していたら見つけた』とか言ってたしな。そう付け加えた店主に対し礼を言った俺は、話を聞いていたにも関わらず「くれ」と言った。
「は? いや、別にいいけどよ。使えない武器買ったところで無用の長物だぜ?」
「いくらだ?」
「あーそうだな……売れると思わなかったから値段考えてなかった……言い値で売ってやる」
「いいのか?」
「ああ。それぐらいはサービスだ」
「分かった」
ずいぶん優しい店主だと思いながら俺は金貨を三枚と銀貨を六十枚ぐらいおく。
「今出せるのがこれくらいしかない」
「いや、それでいい。買ったということはあんたはそれに何かを見出してるってことだ。その分の金だと思っておくよ」
「助かる。では四日後」
「おう。ちゃんと来いよ」
そう言われながら俺は店を出た。




