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殺人鬼と元魔王候補  作者: 末吉
レシウス王国
21/35

集い

ランクオーバー集合です。(ただし全員集合とは言ってない)

 同時刻。具体的にはルノアたちが寝静まったころ。


 雲を見下ろせる山の平坦な場所に八人の人間が存在していた。

 全員の格好がこの山の山頂付近だとは思わせないほどの薄着であるにも拘らず、彼らは顔色一つ変えずに各々立ったり座ったりしていた。


 その中の一人、赤い髪を逆立たせ、つんつん頭にしている少年がけだるそうに口を開いた。


「何の用だよ『伝達屋』。一体俺達集めやがって」


 それにつけ足すようにウサギの人形を抱えた少年も訊ねる。


「ルノアお姉様はどこ?」


 その二つの質問を受けた道化の仮面をつけた男――郵便屋は「今回はその『魔神』からの伝言ですよ。自分の依頼が達成されたら読んでもらいたいとのことで」と言って懐から封筒を一つ取り出す。


「っつーことはあいつ、故郷に帰れたのか。よくもまぁ面倒なことしたな」

「えぇ帰りましたよ。少しだけ滞在した模様ですが」

「あ? 『故郷に帰って余生を過ごすんじゃようちは』と言ってただろ」

「あら珍しい」

「確かに。あの頑固者がさらっと考えを変えるとは。何かあったんでしょうね」

「フェッフェッフェ。気づいてしまったんじゃろ。わしらに元の居場所なんてないと」

「あぁルノアお姉様! 再び自らを(なげう)って旅をする覚悟をしたのですね! 僕に声をかけてくださればどこへなりとも参じましたのに!!」

「……手紙は、なんて?」


 (そら)を見上げながらつぶやく少女の声を聴いた彼はきれいに封筒を開け、中から手紙を取り出して読み上げた。


「えー『よう元気かみんな。この手紙を読んでいるということはうちは故郷に帰れたということじゃな。『呪神』は泣くでない』」

「な、泣いてなんていません!」

「『さて。こんな報告を書くためにわざわざうちはみんなにこの手紙を書いたわけではない。うちがこの手紙でみんなに提案がある』」

「提案じゃと? あの女がそんなことするなんて災いの前触れではないか」

「『研狂者』。その言葉を今すぐ撤回して。ルノアお姉様は災いになど関わり合いになりません!」

「それで? 提案とは何ですか?」

「あーはい。『冒険者コールを我らがランクオーバーに迎え入れるというものじゃ』ということです。これで終わりとなります」

『はぁ!?』

「私は賛成します!! ルノアお姉様が推薦したというのなら間違いありません!!」


 伝達屋が読み上げたルノアの手紙の「提案」に驚く一同。しかし、『呪神』はすぐさま肯定した。

 そこに追い打ちをかけるように郵便屋も「実は私も『魔神』の提案なくてもいずれは推そうと思っていましたので」と暗に賛成を示す。


 それに赤髪の男はかみついた。


「はぁ!? 『天啓』が俺達以外にいないって言っただろ!? ランクオーバーは十人だけじゃないのかよ!」

「ギルド規定によれば、ギルド()が認めればランクオーバーになれますよ? もっとも、それは推薦としての認定ですので、皆さんが賛成しなければ撤回されますが」

「……私は、『あの時』から二百年までの間に存在しないといった。そしてもう、二百年は過ぎている」

「だとしてもだ! 俺達と同じステージに立つなんてありえないって結論に達しただろ!!」

「伝達屋。そやつの情報は当然持っておるだろ?」


 子供のように騒ぎ立てる彼を尻目に白衣を着た長身で白髪の男性――『研狂者』が質問すると、「ええ」とうなずいてから郵便屋がすらすらと答えた。


「冒険者コール。ランクはCですが、実力的にはAランクですね。本人がかたくなにランクアップを拒んでおりますのでそのままとなっております。基本はソロ。討伐系や捕縛系が主ですが、採取や護衛などもさらりとこなします。具体的な功績としましては、ブラックドラゴンの討伐、エスキア王女暗殺阻止、ローズダラー盗賊団の捕縛、ミニア博士の救出……等々どれもこれも全て一人で完遂しております。殺人衝動でもあるのか民間人だろうが殺すことを考慮しても、ある程度の常識や良識があるようです」

「殺人衝動って……『戦闘狂』より酷くないかしら?」

「私とは正反対の人のようですね」


 説明を聞いて感想を漏らす二人に、赤髪の男――『戦闘狂』は「俺は絶対に反対だ!」と叫ぶ。


「『魔神』がいくら推薦しようが、そんな奴認められるわけがない!」

「俺は別にいいけど。新しいランクオーバーが現れるのは」

「『快楽者』は黙ってろ! 似たような存在だからって嬉しそうにするんじゃねぇ!!」

「ま、これで四対一になるんだ。この場にいる他の奴らが賛成したら認定だぞ」


 そういわれると四人は「保留」と声を揃えた。


「どうでもいいが、会った時に見定めよう。生きていたらの話じゃがな」

「冒険者であればいずれ会う機会があると思いますので、その時にお茶でもしながら結論を出します」

「風俗に来れば会うでしょ? その時に考えるわ」

「……」

「どうしました『天啓』さん?」


 理由も述べず、ただ一人沈黙した少女に伝達屋が声をかけたところ、我に返った少女が「……似たような理由」と短く返す。


「では賛成四、反対一、保留四、無効一というわけで本日は解散しましょう」


 伝達屋がそう言って手を鳴らしたところ、その場に一人を除きもともとそこに存在しなかった気にさせるほど綺麗にいなくなった。


 残った一人――『研狂者』は空を見上げてつぶやいた。


「ふむ。天啓の先の時代に生まれし異端児か……直接会いに行くのも楽しそうじゃ」

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