面倒が嫌なのは誰もが同じか
さっさと城を出た俺は絡んできたやつを路地裏で悲鳴をあげさせずに殺してすっきり、処分をぬかりなく行ってから宿に泊まることにした。
ここにあいつらが泊まるかどうか知らないが、二部屋とっておき金を払って部屋に入る。
質素なベッドに身を預けてから地図を取り出してこれからの予定を考える。
とりあえず一週間を目安とし、そこから北上する形で次の国へ向かうとするが――
「森を迂回するか突っ切るか。迂回すれば海辺の都市へ行けるが、そこから余計に時間がかかる。かといって森を突っ切った場合その森に棲むといわれているランクオーバーと遭遇するかもしれない。風の噂だと人の話に耳を貸さないらしいし、向かってくるものすべて殺すとか。ルノアから聞いた話だと暴走状態に陥っているといってたな……」
その森についてのことを思い出した俺は、不意に暴走状態という言葉で思考を止める。そして、自分のことを思い返して推察する。
もしかすると俺が抱えているものもランクオーバーになりうるものなのだろうか、と。
ルノア曰く。
そもそも、ランクオーバーというのはこの世の理から意図的に外れた者たちを指す言葉だという。
数は十。それぞれがそれぞれ人の身では到達しえない能力をふるい、なおかつ死ぬことも老いるができないという人間やめました状態である。
また、その能力にちなんだ呼び名を自ら好んで使い、ギルドを創設したのもランクオーバーの一人だという。確か、『伝達屋』と言っていた。自分は『魔神』らしい。
――って、脇道に思考がそれたな。
思い出した話の区切りがついたので片隅に放り投げ、再びルートを考えようとしたところ。
「ふむ。ならば海へ行ってから森を突っ切ればよかろう」
「海ですか! 私、行ってみたいですお師匠様!!」
「ならそれで決まりではないか、コール」
「……」
…………。
地図を折りたたんでマントの中にしまい、改めて周りにいる人物たちの顔を見渡す。
テンションをあげているエレナに頷くシュラヌ、そしてにやりと笑うルノア。
どうやって入ったのだろうかなんてルノアがいる以上無意味な質問をするだけの体力が余っているわけではないので、別にいいかと思い「隣の部屋も借りてるから、そっちへ行ってくれ。カギは机の上に置いてある」と言っておいて毛布をかぶる。
「うちらはサラスの部屋に泊まるからシュラヌだけじゃな」
「はい! 王様に許可をもらいました!!」
「うむ。ではカギは借りていくぞ」
各々勝手に言って行動したので、まぁいいやと思いながら俺はそのまま目をつむって眠りについた。
コールが眠りにつき、シュラヌが隣の部屋で静かに過ごしていたころ。
女子三人はサラスの部屋に集まり、ベッドの上で各々寝間着に着替えてしゃべっていた。
「こういうベッドも久し振りです。あーふかふかです」
「……そういえばエレナって魔族らしいけど、結構いい身分なのかしら?」
「えっ!? あ、そのー」
「どうしたのよ慌てて」
「別に言っても構わないと思うぞい? 旅をしてきた仲間じゃし、それにうちがこの部屋に魔法をかけたから盗聴の心配もないしの」
「そうなんですか! あ、でも……」
「何よ?」
「お師匠様に『むやみやたらに正体を明かしたら置いてく』って言われまして……」
「……なんか一気に聞きたくなくなったわね」
「魔王候補から外された三女ってだけじゃろ。第一王女の前ではかすむと思うぞい?」
「な、なんでバラしちゃうんですかルノアちゃん!!」
「えぇぇ!! ま、魔王の娘!? ……本当に?」
ルノアの裏切りにあったエレナはお師匠様にバレたらどうしようと本気で心配しながら小さく「はい」と呟いた。
それを聞いたサラスは、何となくエレナが旅をしている理由を察した。
ああ、家出ね。と。
コールとの会話を聞いていれば勘違いだと分かるが、彼女は気付かないまま自らも考えていた時期と重ねていた。
その勘違いのまま、話は進む。
「どう? ここまで来て帰りたいって思えてきたんじゃない?」
「いいえ! それだけは絶対にありません!! お師匠様が連れて行ってくれるのですからあの頃よりとても楽しいです!!」
「どんな生活送ってきたのよ……」
ホームシックにかかったんじゃないかと思ったのに全力で否定されたので思わずつぶやく。
それを聞いたエレナは少し考えてから語った。
「そうですね……私、お部屋から出してもらえなかったんですよね。お兄様やお姉さまたちが遊びに来たり、お母さんが来るぐらいで」
「え?」
「だから私、初めてお母さんに外に出してもらった時の景色を見て思わず感動しました。その少し後にお師匠様とも出逢えましたし」
照れながらも嬉しそうにしゃべったエレナ。それを見たルノアはなんとなく、彼女がここまで純粋に育った理由を察することができ、また魔力が不安定に出ている理由も理解した。
理解したが、言葉にすることはせずコールもまた大変な奴とかかわったのぉと思いながら、何かに気付いたのか眉がピクンと跳ね上がる。
それは自分の魔力。それも、今の体になってから使ったもの。
確か封をした時破損しないように魔法をかけたやつじゃったな……。そんなことを感知して思い出した彼女。
自分が使った魔法が破られたらわかる彼女。それがランクオーバーであるルノアの能力の一つである。
そして芋づる方式にどうしてそんな魔法を、誰に渡すために使ったのかを思い出したルノアは、不意に笑みを浮かべた。
それに気づいたサラスが「えっと、どうかしたんですかいきなり笑って」と聞いてきたので、「なんでもないぞい」と答えてから「明日も早いかもしれぬからの。さっさと寝るぞいうちは」と言って布団に潜り込んだ。
それを見た二人は顔を見合わせてからルノアを挟むように布団にもぐり、疲れがたまっていたのか時間をおかずに寝た。
一人起きていたルノアは布団に潜り込んだまま、はてさてどうなるかのぉと思い出した件の予想をしようとして眠りについた。




