時間が惜しい
とりあえずめどが立ちましたので更新。皮肉にも震災五年目という節目ですが。
シュラヌと一緒にさっさと風呂に入ることになった俺。
特に何もなかったためホッとしながら風呂から上がり、夕食を全員で食べて部屋に戻って寝た。
で、次の日。
依頼をやらせようかと思ったが時間がなくなりそうだと判断したため、さっさと宿を引き払って首都へ向かうことにした。
「じゃ、行くぞ」
「……いくらなんでも早くない? まだ日が出たばかりよ?」
「置いて行くからそのつもりで」
「ちょっと!」
第一王女の言葉を切り捨てた俺は、フラフラなエレナの前でパンと手を打つ。
「わっ! な、なんですか!!」
「眠ってたぞ」
「す、すいません!」
「……さぁ行くか」
「早い気もするが、別にいいか」
「そうじゃの」
そうして俺達は出発することにした。
が。
「………うぅ」
「のぉコール。いくらなんでも速過ぎたのではないか? エレナがもう寝てしまうぞ」
街を出て数十分しか歩いていないというのにエレナが限界らしい。シュラヌがそう言ってきたので、マントから水が入った竹筒を取り出して後ろに投げる。
「顔にでもかけとけ」
「随分と容赦ない起こし方じゃの」
「こんな強行軍ぐらい冒険者になったらあるんだ。今のうちに慣れないと旅なんてすぐ終わる」
「……それは追われてた時とかではないか?」
「依頼の指定時間が朝とか結構あるからな。早目に起きるという習慣は結構必要だ」
「……でも、普通は眠いわよ。ふぁ~~あ」
俺とシュラヌの会話に第一王女が混ざって欠伸をする。
その文句を沈黙でかわし、そのまま歩き続ける。
というかお前がいなければ普通に出発して問題なかったんだがなと思ったが口に出さないでおく。
なんというか、喧嘩もやり取りも面倒なのだ。ただ自分でやりたいことをやりたいだけなのにこうして集団でいるから仕方なく、と言った部分が強い。
一人でいることの気楽さに慣れてしまった弊害かなとため息をついていると、「どうしたんですかお師匠様?」と濡れたままの顔のエレナが隣に来て首を傾げた。
「顔を拭け」
タオルをマントから取り出してしょうがなく渡す。
「ありがとうございます」と素直に受け取ったエレナは顔を拭く。
「それは返さなくていいからな」
「あ、分かりました」
随分あっさりともらったのでまぁいいかと思い直す。どうせあまり使わない代物だからな。
そのまま歩いていると、目の前に赤い狼の集団が現れた。
「……こいつらこの集団のヤバさ分かってないだろ」
その一言で、俺達の蹂躙が始まり、終わった。
「やっぱり強いですねお師匠様」
「……なんでこんな早いのに活発に動けるのよ」
「さぁ進むぞ」
「「おおーー」」
げんなりしている暇なんてないからな。
その後は特に障害が起こったわけでなく、とても快適に、そして順調に進んでいき――
「なんとかたどり着けたな」
「そうじゃの。色々な領を通り過ぎたが色々と面白い発見もあった。一週間と短い期間であったがな」
「そうでもせんと追いつかれる」
「まぁ分からなくもないがな……」
色々あった一週間も水に流すように眼前に広がる首都の街並み―とはいっても入口から見える範囲――を一度見てからチラリと後ろを見る。
「まだまだ修行が足らんぞ。今までやったことを丁寧にやれば簡単にできるものじゃぞ」
「そうは言いましても……」
「結構難しいわよこれ」
眉間にしわを寄せながら手に持っている木の枝を浮かそうとしている二人を見ながらルノアに「もう今日はいいんじゃないか?」と進言する。
「さっさと王女届けて王になるための勉強をさせなければいけないんだから」
「そうはいっても魔法というのは日々の修練ですんなり行使できるんじゃぞ……まぁ根を詰めてもいいことはないし。今日はこれぐらいにして、首都へ入った方が良いかもしれん」
「だそうだ」
そういうと二人は気を抜いたので、俺は適当に落ちていた枝を拾い掌に載せて軽く「ふん」と言う。
それだけで枝が二つに割れた。
だから俺はその枝を握り潰して地面に捨て背を向けて「さっさと行くぞ」と号令をかけた。
「まぁ、コールは常日頃から魔力を手足のように使っておるからの。お主らもあのレベルまでたどり着けたら教えることはないわ」
「……なんなのよあいつ」
「さすがお師匠様です!」
そんなこと言ってないでさっさと入れ。




