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殺人鬼と元魔王候補  作者: 末吉
レシウス王国
14/35

ギルドに来た

「ハァ…ハァ…ハァ……着いた、わよ」

「本当、ですか…」

「着いたな」


 張り合ったせいからか息も絶え絶えな二人の後ろから普通に来た俺とルノア、シュラヌは町の入り口で立ち止まる。


「大丈夫かお前達」

「「…………」」


 二人とも返事をせず呼吸を整える事だけに集中している。

 まぁ無理もないだろう。何せ二人とも我先にと速度を上げていくのだから。そのせいで最後の方では速度が落ちていき、俺達が普通に魔力を使わずに走っても追いつけるぐらいに落ちた。


 というか、第一王女が何気に魔法でも使ったのか走力強化してたのに驚いたんだが。駆け出した時魔力使ってなかったよな?


 そんな疑問を浮かべたが別に俺自身で解決したところで有用なものはないのですぐに考えるのをやめ、「歩きながら息を整えろ」と二人を追い越して先導することにした。


 ここラルテミア領はそれなりに発展した街である。ギルドが設置される要因の一つを満たしているらしいのでそれなりは文句を言われるだろうが、俺から見たらそれなりである。

 大通りが一つあり、そこから細い道がばらばらと分かれ店などが点在し、大通りには宿や冒険者たちが必要としている店がどんと構えている。お目当てのギルドは、もうちょっと先にある。


 そこまで遠くないから大丈夫だろうと人ごみを普通に歩いていると、「コールよ。後ろに人だかりができておるぞ」と言われたために振り向く。

 すると、本当に人だかりができていた。

 おそらくエレナや第一王女あたりが原因なのだろうと思いながら、俺は面倒なのでさっさと行くことにした。


「って、置いてくのか三人を」

「シュラヌがいるから何とかなるだろ。それよりギルドに行ってお前の依頼を達成したことを報告しないと」

「どこまで行ってもお主はお主じゃのぉ……」


 ため息交じりに言われたその言葉を無視し、俺は人の合間を縫ってギルドの建物の前へたどり着き、そのまま中へ入った。


 ところ、人が飛んできたので迷わず首辺りを殴って横薙ぎに吹き飛ばす。

 ドガシャーン! と盛大に音を立てた誰かの事を気にせず、俺は普通にギルドの受付へ向かう。


『お、おいあいつって……』

『ん? お前あいつの事知ってるのか?』

『知ってるも何も「神出鬼没のコール」だろ! 肩にあの人乗せてるし!!』

『神出鬼没のコール……!? エスキア王女暗殺阻止依頼をたまたま遭遇して解決して以来至る所で重鎮に関わることを解決してたというあいつか!?』

『ああ。ふらっと現れたと思ったらいつの間にか別なところで話を聞く……そんなあいつが久々にギルドに来たってことは……』

『何かとんでもない依頼を達成したってことかもな』


 …………。


「Cランクなのに二つ名持ちとは。まったくお主は…」

「言葉を返すが、ランクオーバーのお前が俺の事を呆れる理由はないだろ」

「何を言っておる。うちはなるべくしてなったのじゃ。お主とは違うわ!」


 そんなやり取りをしながら受付に着いた俺は、マントの中からギルドカードと三年前から持っていた依頼書を取り出して受付のテーブルに置く。

 それを見た受付嬢は書類を確認してから次いで俺の肩を見て、言った。


「ここにご本人がいらっしゃるようですが?」

「うちならちゃんと送ってもらったぞ? ただ無性に旅をしたくてついてきてしまったのじゃ」


 そう言うと受付嬢は「少々お待ちください」と言って立ち上がり、奥の方へ行ってしまった。


「また面倒なことになっただろ」

「それはすまぬ」

「本気で言ってないだろ絶対」

「おい」


 呼びかけられたので思わず誰に言っているのだろうかと視線を彷徨わせる。そしたら、「そこのフード被ったお前だよお前!」と先程吹っ飛んできた男が俺の事を指さしてきた。身体はボロボロのようだが。

 仕方がないので「なんだ」と答えると、「テメェよくもぶっ飛ばしやがったな!?」と言いがかりをつけてきた。


「お前が飛んできたんだろ。危なかったから横に薙いだ。人がいない方へ吹っ飛ばしたのだからありがたく思え」

「テ、テメェ……! この俺を怒らすってのか…?」

「勝手にお前が怒ってるだけだろ」

「! テメェ!!」


 そう言って思いっきり突っ込んできたので、掴みかかってきた寸前に顎を打ち抜いて体を浮かし、そのまま左で床に叩きつけるように鳩尾を殴った。

 殴られた筋肉ダルマの男はそのまま床に叩きつけられて少しバウンドし、そのまま動かなくなった。どうやら気を失ったようだ。

 まったく口ほどにもない。ルノアが肩に乗っていることも考慮してあまり体を動かさずに迎撃したが、たった二発で伸びるとは。弱すぎて話にならん。

 そんな風に思っていると、他のギルド職員が詰め寄ってきた。

 怒られるんだろうなとため息をつくと、みんな口をそろえて「さすがコールさん!」と言った。


 思っていた反応と違うので呆気にとられていると、詰め寄ってきたギルド職員(男女比3:7)は伸びた男を担ぎ上げて外に放り出してからすっきりした顔で業務に戻った。


「……どうやら嫌われていたようじゃの」

「そのようだ」


 ああいう奴も中にはいるからな、この世界。そんなことを思いながら待っていると、「お待たせいたしました」と受付嬢が戻ってきた。


「コールさんの依頼達成は正式なものとなりました。それとこのギルドカードですが、最近新しいものが配布されるようになったので更新する必要があります。つきましてはあちらの方でお願いします」


 そう言って右の方を指さしたので、俺は「分かった」と言ってからそちらに向かうことにした。


 ギルドは主に三階建てである。三階がその場所のギルド長の部屋及び遠くから来ている職員の部屋で、二階がAランクやBランクの受付、一階がそれ以下の受付となっている。階段は入ってすぐ左に曲がったところにある。


 ランクというのはギルドが定めた強さ表――というよりは、ただの階級。一番下がFで、一番上がルノアがいるランクオーバー。

 ランクオーバーとはもはや人間をやめた奴らの事。現在そんな奴らが十人近くいるらしい。

 ちなみにだが、ランクの上げ方は規定数依頼をこなす。ただし、DランクからCランクにあがるには討伐系の依頼を含めた規定数こなさなければならなず、ランクオーバーになるにはギルドに認められればなれるらしい。どうでもいいので俺はCランクから上がることはないが。


 なぜならBランクから二階になり、階段を上がらないといけないからだ。そんな面倒なこと誰がするか。


「あ、更新するかたですね? ギルドカードを提示してください」


 元気な声でそう言われたのでおとなしく渡す。それを受け取った受付嬢は「では確認します」と言って書かれていることを読み上げた。


「Cランク所属パーティなし男で年齢が十八のコールさんでよろしいですか?」

「ああ」

「では今回のギルドカード更新につきまして顔をお見せいただけませんでしょうか?」

「なぜ?」

「今回のギルドカードで新たに所持者の顔が追加されます。以前までカード交換が横行していましたのでその対策です」

「……」


 そう言われると断り辛いが、俺がフードを被っている理由が『顔を見せたくない』ためなのでジレンマが生じている。

 それを知っているルノアは「特別な事情があれば断っても良いのか?」と代わりに質問してくれた。


「その場合でもやはり一度顔を見せていただかなければ……」

「だ、そうじゃぞコール」

「困ったな」


 本気で困った。見せなくてはいけないという事実に。


「ちなみにうちは更新せずともいいんじゃろ?」

「え、はい。ランクオーバーの方々は更新しなくて大丈夫です」

「マジか」


 一瞬俺もランクオーバーになろうかと思ったが、そこまで人間やめてはいないので無理だなとすぐに否定してどうするか考える。

 と、勢いよくドアが開いたと思ったら「見つけましたよお師匠様ーー!!」と叫び声が上がった。


 が、俺は葛藤している最中だったのでそちらを見ないで考えていると、「話を聞いてるんですか!?」と言ってエレナは俺のフードを外した(・・・)


 その瞬間。俺の前にいた受付嬢が、顔を赤く染めてからいきなり倒れた。


「ん?」


 思考を中断し、目の前にいたはずの受付嬢が倒れた事実に原因を悟った俺はすぐさまフードを被ろうとするが、エレナが俺をゆすってくるせいで難しい。

 仕方がないので振り返ったところ、突如としてエレナはゆするのをやめてくれたのでフードを被ったが時すでに遅く。

 俺達のやり取りを見ていた他の奴らは完全に放心していた。


「相変らず凄まじいの、コール」

「黙ってろ」


 皮肉みたいな言い方をされたのでむきになって反論すると、黙っていたエレナが目を輝かせて素直に感想を言った。


「カッコいいですねお師匠様! 私びっくりしました!!」

「……」

「って、痛い痛いです! 無言で頭を握るのはやめてください!!」


 そう言われたので放してから、俺はため息をつく。


 俺の顔は大抵の女子が見れば卒倒ものの美形である。ぶっちゃけそのせいでいろいろ面倒なことに巻き込まれまくったり、色々変なことが発生したので自分の顔が嫌いだ。


 まぁそんなことを言うと『贅沢な悩みだな!』と言われるので黙っているが。

 ちなみに男子が放心する理由はショックが大きすぎるからだろうと推測する。フード被って顔を隠す理由なんて、大体が自分の顔が酷い有様だからとかだと勝手に想像していただろうから。

 ある意味じゃひどい有様だよななんて思いながらなかなか起きてこない受付嬢を確かめに覗き込んだところ、ばっちりと視線が合った。

 と思ったら彼女は慌てて奥の方へ行ってしまった。


 また待ちぼうけくらうのか……なんて肩を落としていると、「そういえばお師匠様。ここがギルドなんですね?」とエレナが質問してきた。


「ああそうだ」

「それじゃぁ、私も冒険者ですね!」

「登録せんと無理だバカ」


 胸を張ってそう言うので小突いてそう言った俺はため息をついてからマントの中からお金が入った袋を取り出してエレナに渡す。


「? なんですかこれは?」

「金が入ってる。そこの階段近くが登録所だからシュラヌ達と行ってこい」

「登録、ですか?」

「ああ」


 そう言って俺はテーブルに置かれている自分のギルドカードをエレナに見せながら説明した。


「冒険者ってのははっきり言うと身分がないに等しい。だからギルドがその身分を保証しますという証であるこのカードが必要なんだ。それにも金はかかる。三人まとめてそこから出していいぞ」

「え、本当ですか!? 今まで私の事をないがしろにしてきたお師匠様が優しくしてくれたんですか!?」

「いいからさっさと行って来い。分からなければギルド職員に聞くかルノアに説明してもらえ」

「はい! 頑張って登録してきます!!」

「やれやれ。うちも行かなくてはいかんのかの」

「当たり前だ。何が起こってもお前なら大丈夫だろ」

「まぁ信頼されたと受け取るぞい」


 そう言ってルノアはシュラヌ達のところに走ったエレナを追いかけていく。その光景を見た俺はそういえばあれって今の全財産だったっけと思い出したがどうでもよかったのでテーブルにギルドカードを置いて職員が働いている場を眺めることに。


 暇なのだから仕方がない。待っている間何もすることがないのだからどうしようもない。

 そういえばシュラヌやエレナって人間じゃないけど冒険者として登録できるのだろうかと疑問に思った時、ドダダダダ! と先程消えた受付嬢が音を立てて戻ってきた。

 だいぶ息が荒く、頬が若干上気している彼女に何と声をかけようと思っていると、向こうが上ずった声で話しかけてきた。


「ギ、ギルド長に相談しましたところ顔見せは大丈夫だそうです。……わ、私もコールさんの顔を他者に見せるのは反対ですので……」

「そうか」


 後半は聞かなかったことにしよう。こういう事があるから顔を迂闊に見せられないのだ。

 まったく困ったものだと思いながら続く更新手続きをささっと終わらせてから報酬を受け取るために真ん中に戻ってきた。(更新時はギルドカードを更新した後でないと報酬は受け取れない決まりがある)


「報酬をくれ」

「どの依頼の報酬ですかコールさん?」

「ルノアの依頼だが?」


 何を言っているんだと思いながらフードの中で首を傾げて言うと、表情を出さない受付嬢は「コールさん。この際なのではっきり言います」といきなり言われた。


「ん?」

「あなた宛に届いている報酬の数々のどれも受け取らないというのはギルドにとっても面倒なんです。いくら受理されてないからといっても全部緊急(・・・・)。解決したものが報酬を受け取るのが暗黙のルールだというのに受け取らないとはどういう了見ですか」

「そんなのあったか?」


 まるで記憶にない俺は本気で首を傾げる。唯一あった記憶も確か別な奴が解決したことになっていたはずなのだから断ったというもの。

 その態度が琴線に触れたのか、彼女はスラスラと言ってきた。


「エスキア王女暗殺阻止に始まりミニア博士救出、国家転覆を謀っていたリーダーの討伐、ローズダラー盗賊団の討伐、エルフ族族長の娘の救出、ブラックドラゴンの撃退……他にも十数件の報告があります。それをあなたが『いらない』で片づけているから報酬を出した方々が受け取ったかどうか聞いてくるんですよ? 少しはこちらの都合を考えてください」

「…………ああ。そういえばあったな」

「思い出しましたか。それならそれらの報酬まとめて受け取ってください」

「ギルドに預けといてくれ」

「……はぁ。ではそれらの報酬はギルドが管理している『銀行』に渡しておきます」


 渋々と言った感じで納得してくれた。ちゃんと受取ってほしいのが本心だろうが、それでも『本人が受け取った』という意志があったのだから良しとしたのだろう。

 ルノアから渡されたと思われる報酬を取り出した彼女は「すみませんがもう一ついいですか?」と前置きしてからこう言った。


「ランクアップ申請は何時されるので?」

「いや、する気ないから」

「なぜですか?」

「二階まで行くのが面倒だから」

「……」


 話が終わったので、俺は踵を返して依頼が貼られている掲示板へ向かった。

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